著者
生態系管理専門委員会 調査提言部会 西田 貴明 岩崎 雄一 大澤 隆文 小笠原 奨悟 鎌田 磨人 佐々木 章晴 高川 晋一 高村 典子 中村 太士 中静 透 西廣 淳 古田 尚也 松田 裕之 吉田 丈人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2211, (Released:2023-04-30)
参考文献数
93

近年、日本では、急速な人口減少が進む中、自然災害の頻発化、地域経済の停滞、新型コロナウィルス感染症の流行等、様々な社会課題が顕在化している。一方で、SDGs や生物多様性保全に対する社会的関心が高まり、企業経営や事業活動と自然資本の関わりに注目が集まっている。このような状況を受けて、グリーンインフラ、NbS(自然を活用した解決策)、Eco-DRR(生態系を活用した防災減災)、EbA(生態系を活用した気候変動適応)、地域循環共生圏等、自然の資源や機能を活用した社会課題解決に関する概念が幅広い行政計画において取り上げられている。本稿では、日本生態学会の生態系管理専門委員会の委員によりグリーンインフラ・NbS に関する国内外の動向や、これらの考え方を整理するとともに、自然の資源や機能を持続的・効果的に活用するためのポイントを生態学的な観点から議論した。さらに、地域計画や事業の立案・実施に関わる実務家や研究者に向けた「グリーンインフラ・NbS の推進において留意すべき 12 箇条」を提案した。基本原則:1)多様性と冗長性を重視しよう、2)地域性と歴史性を重視しよう。生態系の特性に関する留意点:3)生態系の空間スケールを踏まえよう、4)生態系の変化と動態を踏まえよう、5)生態系の連結性を踏まえよう、6)生態系の機能を踏まえよう、7)生態系サービスの連関を踏まえよう、8)生態系の不確実性を踏まえよう。管理や社会経済との関係に関する留意点:9)ガバナンスのあり方に留意しよう、10)地域経済・社会への波及に留意しよう、11)国際的な目標・関連計画との関係に留意しよう、12)教育・普及に留意しよう。
著者
大澤 剛士 天野 達也 大澤 隆文 高橋 康夫 櫻井 玄 西田 貴明 江成 広斗
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.135-149, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
54

生物多様性に関わる様々な課題は、今や生物学者だけのものではなく、人類全てに関連しうる社会的な課題となった。防災・減災、社会経済資本、資源の持続的利用といった、人間生活により身近な社会問題についても、生物多様性が極めて重要な役割を持つことが認識されるようになりつつある。これら社会情勢の変化を受け、生物多様性に関わる研究者には、これまで以上に政策とのつながりが求められている。しかし現状では、研究成果が実社会において活用されないという問題が、生物多様性に関係する研究者、行政をはじめとする実務者の双方に認識されている。これを“研究と実践の隔たり(Research-implementation gap)”と呼ぶ。そもそも、社会的課題の解決のために研究者の誰もが実施できる最も重要なことは、解決に必要な科学的知見を研究によって得て、論文の形で公表することである。そのためには、社会的に重要な課題を把握し、それに関する研究成果を適切なタイミングで社会に提供できなくてはならない。これらが容易になることは、研究と実践の隔たりを埋めることに貢献するだろう。そこで本稿は、そのための取り組みの先駆的な実例として「legislative scan」を紹介する。これは、イギリス生態学会が実施している、生態学者や保全生物学者にとって重要な法的、政策的課題を概観する取り組みである。さらにlegislative scanを参考に、生態学の研究者が関わりうる政策トピックの概要を紹介することで、研究者が能動的に研究と実践の隔たりを埋めていくためのヒントを提供する。具体的な政策トピックとして、「生物多様性条約(CBD)」、「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」、「地球温暖化適応(IPCCの主要課題)」、「グリーンインフラストラクチャー」、「鳥獣対策」について概要を紹介する。最後に、研究と実践の隔たりの解消に向けて、研究者及び研究者コミュニティが積極的に働きかける重要性と意義について議論する。