- 著者
-
長谷川 英一
- 出版者
- 日本比較生理生化学会
- 雑誌
- 比較生理生化学 (ISSN:09163786)
- 巻号頁・発行日
- vol.25, no.4, pp.156-164, 2008 (Released:2009-07-09)
- 参考文献数
- 44
一生のうちに,川と海の間を往き来する魚を通し回遊魚(Diadromous fish)という。そのような魚種としてウナギ,アユ,サケ(シロサケ),ヨシノボリなどが挙げられる11)。淡水と海水という塩分濃度が著しく異なる水域を彼らは何故回遊するのであろうか。それを支える生体内でのメカニズムについては,内分泌系(ホルモン)や感覚神経系(嗅覚)の関与が解明されている30)。このようなメカニズムがこれらの魚に備わったのは,環境適応による種遺伝子の保存という進化論がその答えを与えてくれるであろう。 ダーウィンが「種の起源」を著し,生物の進化論が世に広まったのは1859年のことである。それからほぼ1世紀が経過した1958年に Wald43)は視覚の機序を司る化学物質である視物質(Visual pigment)からみた脊椎動物の進化を発表した。 生物はその進化とともに光を効率よく利用するために視覚器を発達させてきた。視覚は明暗と色彩に関わる感覚であり,また,これに基づく空間知覚にあずかる機能を持ち,生存のために重要な役割を担っている。視覚は網膜内にある光受容細胞である視細胞中の視物質が先ず光化学変化を起こすことに始まる。本稿ではこの重要な化学物質である視物質とその光化学変化量を制御する役割の網膜運動反応(retinomotor movement)7),そして視運動反応(optomotor reaction)26)を利用した行動生理学的実験などを紹介し,通し回遊魚の視覚のメカニズムとその資源生物学的意味について考える。