- 著者
-
酒井 邦嘉
- 出版者
- 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
- 雑誌
- 高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
- 巻号頁・発行日
- vol.25, no.2, pp.153-164, 2005 (Released:2006-07-14)
- 参考文献数
- 13
本総説では, 人間の脳における言語処理にかかわる以下の3点の基本的問題について議論し, 言語の脳マッピング研究における最近の進歩について概説する。第1に, 文理解の神経基盤がその機能に特化していることを示す最初の実験的証拠を紹介する。具体的には, 最近われわれが発表した機能的磁気共鳴映像法 (fMRI) や経頭蓋的磁気刺激法 (TMS) の研究において, 左下前頭回 (IFG) の背側部が, 短期記憶などのような一般的な認知過程よりも文理解の統語処理に特化していることを証明した。この結果は, 左下前頭回が文法処理において本質的な役割を果たしていることを示唆しており, この領域を「文法中枢」と呼ぶ。第2に, 第2言語 (L2) 習得の初期段階において, 左下前頭回の活動増加が各個人の成績上昇と正の相関を示すことが最近明らかになった。これらの結果により, 第2言語習得が文法中枢の可塑性にもとづいていると考えられる。第3に, 外国語の文字と音声を組み合わせて新たに習得した場合に, 下側頭回後部 (PITG) を含む「文字中枢」の機能が学習途上で選択的に変わることを初めて直接的に示した。システム・ニューロサイエンスにおけるこうした現在の研究の動向は, 言語処理において大脳皮質の特定の領域が人間に特異的な機能を司ることを明らかにしつつある。