- 著者
-
白木 公康
黒川 昌彦
- 出版者
- 富山医科薬科大学
- 雑誌
- 萌芽的研究
- 巻号頁・発行日
- 1999
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、皮膚・粘膜などのでの急性感染に引き続き脊髄後根神経節や三叉神経節に潜伏感染する。しかし、潜伏感染機構とは対照的に、HSV感染による潜伏感染している感覚細胞機能に関しては知られていない。HSVは、初感染後に感覚神経節神経細胞に潜伏感染し、再活性化により病変を生じる。しかし、このような感覚神経細胞への急性・潜伏HSV感染に伴う感覚異常に関しては知られていない。そこで、この研究の第一歩として、HSV感染に伴う感染部位の痛覚閾値が上昇することを報告した(Neur osci Lett 190:101-104,1995)。そして、この痛覚閾値の上昇と感覚神経節の神経細胞のHSV感染との関係や痛覚閾値の薬剤に関する反応性を検討し、HSV感染に伴う後根神経節の感覚神経細胞の機能に関する評価を行った(Neur osci Res 31:235-240,1998)。そして、本研究ではマウスのHSV皮膚感染モデルを用いて,HSV感染に伴い,感染部位の神経支配領域で,allodyniaとhyper algesiaが認められることを証明した(Pain in press)。このような変化は,後根感覚神経節でHSVゲノムの検出と一致していることから,HSV感染に伴う感覚神経機能の修飾によるものと考えられた。この実験系の開発により,帯状庖疹後に認められる帯状庖疹後神経痛のモデルとして薬効の評価系となりうることが示された。HSVの神経細胞での潜伏感染時にゲノムから特異的に転写されるLatency Associated Transcripts(LAT)のプロモーターを利用して、その下流にβ-ガラクトシダーゼ(β-gal)遺伝子を組込み(Neur osci Lett 245:69-72.1998)、このウイルスの末梢および中枢神経系への急性期と潜伏感染時に、組織破壊を認めずに、神経細胞特異的に、β-galを発現する事を示した。そして,このウイルスをラットの右腓腹筋に接種すると5-7日後に両側の脊髄前角神経細胞にβ-galの発現を認め始め,14日頃まで発現領域が拡大し,それ以降182日以上前角神経細胞中でβ-galの発現が持続し,潜伏感染の持続とともに、発現が増強することを確認した。そして,炎症や,神経細胞の破壊を認めず,導入遺伝子を長期にわたり発現できることを確認した。このことは,前角細胞の変性による筋萎縮性脊髄硬化症の疾患モデル及びその治療モデル動物の作成がこのウイルスベクターによって可能であることを示した(Gene Ther apy in press)。