著者
長池 卓男
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.103-109, 2016 (Released:2016-10-03)
参考文献数
15

要旨 高山帯・亜高山帯での文化的な生態系サービスの主な享受者である登山者に注目し、ニホンジカの植生への影響の認識を明らかにするために、のべ299人を対象としたアンケート調査を行った。「南アルプスでニホンジカの影響があることについて、ご存じでしたか?」という設問に対しては、「知っていた」が37%、「知らなかった」が62%であった。また、登山歴が長いほど「知っていた」割合が高くなり、各設問での「わからない」という回答が少ない傾向があった。ニホンジカの影響を「知っていた」人の方が、今回登山した際に「見た」割合が高かった。今後、柵の設置などニホンジカ対策を進めるためには、登山者によるニホンジカ問題への理解が重要である。したがって、理解を進めるための普及・広報を広く実施するとともに、登山経験の浅い人をターゲットにすることが有効であることが示唆された。
著者
長池 卓男
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.196-202, 2012-08-01 (Released:2012-09-13)
参考文献数
93
被引用文献数
2 2

単一種植栽人工林に代わるオプションとして注目されている混交植栽人工林について, 利点・不利点, 物質生産機能への影響とそれをもたらすメカニズムや今後の課題などを論じた。混交植栽人工林は, 複数の種が植栽されることで生態的・生産的な便益がもたらされ, 広範な物品や生態系サービスを供給することが多い。これらの利点は, 多様な種へのハビタットや生態的ニッチが供給され林分レベルでの種多様性や生物間相互作用が維持・向上すること, 物質生産機能が高まることが多いこと, 等による。単一種植栽人工林に比較して混交植栽人工林で高い物質生産機能がもたらされるメカニズムとしては, 競争緩和と促進のプロセスが作用している。混交植栽人工林は実験的に造成されていることが多いが, 樹木や種の空間配置が規則的であること, 解析対象の多くが若齢林分であること, 等が問題点として指摘されている。混交植栽人工林をどのような目的を持つ人工林として造成するのかによって管理方法は異なるため, 導入にあたっての整理すべき課題は多い。多様な生態系サービスを供給するようにデザインされた人工林管理においては, 混交植栽人工林の利点が活かされるであろう。
著者
長池 卓男
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.4, pp.297-310, 2021-08-01 (Released:2021-10-01)
参考文献数
224

人工林における針葉樹外来種植栽についての現状や課題をまとめた。自生種よりも成長の良い外来種や,市場で優位的な販売性を持っている外来種などが植栽されており,気候変動に適応できる種として外来種が選択されていることもある。一方,植栽地以外への定着・拡散が確認され,地域の植生や生物相,水文や養分循環などに負の影響を及ぼしている例もある。外来種を植栽した後に侵略性が顕在化した際,その対策にはコストが非常にかかっている。外来種を導入する可否を判定するツールが開発されているが,侵略性の評価に加え,土壌や水文への影響,食植者耐性などを含めた評価が必要とされる。また,外来種は,それ自体に対する考え方やノベル・エコシステムの中での位置づけに議論が起こっている。外来種であるコウヨウザンの日本での植栽が開始されているが,原産地の中国では更新の失敗と生産性低下が課題とされており,それは根などからの他感物質が原因の一つであるとされる。人工林にどのような樹種を植栽するかは木材生産機能のみならず公益的機能に少なからず影響するため,様々な機能の面から事前の検討と影響の予測が必要であろう。
著者
中静 透 井崎 淳平 松井 淳 長池 卓男
出版者
日本林學會
雑誌
日本林學會誌 = Journal of the Japanese Forestry Society (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.171-178, 2000-05-16
参考文献数
13
被引用文献数
2

秋田県象潟町の鳥海山麓にある「あがりこ」樹型をもったブナの優占する森林の成因を,過去の空中写真,森林構造および年輪解析を調べることにより明らかにした。1997年の現地調査から,最高で地上約4mの位置から最大11本の萌芽幹をもつ株が観察されるブナ林で,個体サイズ分布(萌芽幹の胸高断面積の合計から推定)は,かなり発達した森林であることがわかったが,萌芽幹のサイズ分布は小径に偏っていた。1985年の空中写真では閉鎖林であるが,1961年では漸伐林に近い構造をもつ森林として映っていた。年輪の解析からは,森林全体でも,個体の中でも20~40年の周期で萌芽幹が発生していることが示唆された。以上のことから,この「あがりこ」ブナ林は,一度の伐採で個体当り1~数本の萌芽幹を残しながら雪上伐採されることにより形成されたと推定した。この作業は,ブナの萌芽生理からも理にかなっていると考えられた。
著者
長池 卓男
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.35-54, 2002-04-30 (Released:2017-05-25)
参考文献数
265
被引用文献数
2

To examine ecologically sustainable forest management, studies of the effects of forest management on plant species diversity were reviewed. For ecologically sustainable forest management, the harvesting methods must mimic the natural disturbance regime of the corresponding forest type. Clear cutting affects plant species diversity more than partial cutting methods (e.g., shelterwood logging and selection logging), and since forest management eliminates coarse woody debris and snags from stands, this greatly influences any species that favor such a habitat. The distance between patches in a fragmented landscape is an important factor for seed dispersal and establishment in each patch. In addition to using the species diversity index, and indicator, umbrella, and keystone species to evaluate the effects of forest management on plant species diversity, plant functional types and stand structural variables have been proposed. Basic and applied research (e.g., population ecology, landscape ecology, and conservation ecology) is required to achieve ecologically sustainable forest management that conserves natural ecological processes.
著者
飯島 勇人 長池 卓男
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

近年、ニホンジカが個体数を増加させている。それに伴い、ニホンジカによる植生の摂食圧が高まり、植栽木にも深刻な被害が出ている。効率的にニホンジカによる摂食を防止するためには、ニホンジカによる摂食リスクを定量的に評価し、優先度を付けた対策を実施する必要がある。本研究では、広葉樹植栽地を対象とし、ニホンジカ密度、防除方法(防鹿柵とそれ以外)、植栽後経過年数が植栽木の生残に与える影響について検討した。山梨県内の過去6年以内に植栽された広葉樹造林地を対象に、各調査地で100個体の植栽木の生残、樹高を調査した。また、山梨県内で収集されているニホンジカ密度指標に一般化状態空間モデルを適用し、植栽地周辺のニホンジカ密度を推定した。植栽木の生残は、推定したニホンジカ密度が高く、防鹿柵以外の防除方法であり、植栽後年数が経過しているほど低かった。防鹿柵以外の防除方法で平均的な植栽年が経過している場合、ニホンジカ密度が11.2頭/km2での植栽木の生残率は50%と推定され、21.7頭/km2での植栽木の生残率は10%と推定された。今後は、周辺環境や植栽樹種が植栽木の生残に与える影響を明らかにする必要がある。