著者
岡部 貴美子 牧野 俊一 島田 卓哉 古川 拓哉 飯島 勇人 亘 悠哉
出版者
The Acarological Society of Japan
雑誌
日本ダニ学会誌 (ISSN:09181067)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1-11, 2018-05-25 (Released:2018-06-25)
参考文献数
30
被引用文献数
4 4

マダニ類は様々な脊椎動物の寄生者で、重要な害虫でもある吸血生物である.化学防除に対する懸念から,生物防除によるマダニ個体群およびマダニ媒介疾患拡大の制御への期待が高まっている.本研究では,実験室内でオオヤドリカニムシ(Megachernes ryugadensis)によるマダニの捕食を初めて観察した.アカネズミ類に便乗しているカニムシ成虫および第三若虫を採集し,シャーレ内で実験した.これらのカニムシはチマダニ属の幼虫,オオトゲチマダニ若虫および雌雄成虫を捕食した.カニムシは概ね,幼虫を与えられた最初の一日間に,2,3頭を捕食した.カニムシ成虫の雌雄間で,初日の捕食数および与えられた幼虫を食べ尽くすまでの日数には差がなかった.またマダニの若虫,雄成虫の捕食に費やす日数に差はなかったが,カニムシ雄成虫は雌成虫よりも短期間でマダニ雌成虫を捕食した.供試数は少ないが,カニムシ第三若虫もマダニ幼虫および若虫捕食において同様の傾向を示した.オオヤドリカニムシのマダニ天敵としての評価のためには,マダニとカニムシの生活史特性,小型げっ歯類および巣内の生物相への影響に関する更なる研究が必要である.
著者
飯島 勇人 大地 純平
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.145-149, 2016 (Released:2017-02-07)
参考文献数
13

野生ニホンジカ(Cervus nippon)の誘引に適した餌を明らかにするために,山梨県森林総合研究所実験林内にアルファルファ(乾燥牧草),チモシー(乾燥牧草),ヘイキューブ(アルファルファを粉砕圧縮したもの),配合飼料を設置し,自動撮影カメラによって最初に摂食される餌の回数を,季節ごとに調査した.多項ロジットモデルによる解析の結果,季節を問わずアルファルファの摂食回数が最も多く,次いで配合飼料,ヘイキューブ,チモシーの順であった.チモシーは,摂食される回数が特に少なかった.また,配合飼料は他の動物が摂食することがあった.以上の結果から,野生ニホンジカの誘引にはアルファルファが適していると考えられた.
著者
飯島 勇人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.19-28, 2018 (Released:2018-07-23)
参考文献数
21
被引用文献数
1

都道府県におけるニホンジカ管理の方針を記した特定鳥獣管理計画(ニホンジカ)を整理し、現在のニホンジカ管理の問題点を検討した。多くの計画でニホンジカの個体数に関する定量的な目標が設定されており、個体数推定の方法として階層モデルが最も多く採用されていた。しかし、事前分布やモデル構造、事後分布について説明している計画はなく、参照可能な文献も示されていなかったことから、推定の妥当性を評価することができなかった。農林業被害や生態系への影響については定性的な目標が多かった。特に、生態系への影響に関する定量的な目標を設定していたのはわずか2計画であった。モニタリング項目としては天然林の下層植生を挙げていた計画が多かったが、定量的な影響把握はほとんど行われていなかった。また、他の影響についてモニタリングしていた計画は少なかった。計画を審議する会合は多くの計画で明記されていたが、行政などから独立した科学者による評価機関が存在したのは7計画のみであった。このため、現在のニホンジカ管理に関する計画は、個体数については目標の根拠となる推定の妥当性検証に関する記述が十分でないこと、農林業被害や植生への影響については管理による効果を検証する体制となっていないことが明らかとなった。計画の改定時には、記述内容について文献を引用するなどして信頼性を高める ことが重要である。
著者
岡部 貴美子 亘 悠哉 飯島 勇人 大澤 剛士 坂本 佳子 前田 健 五箇 公一
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

見えないウイルスが接近する脅威を、可視化することを目的とする。そのためにマダニが媒介するSFTS等をモデルとし、野生動物の個体群と移動分散、マダニの分散への貢献、マダニの増殖にかかる生物・非生物学的要因、個体群の空間スケールを明らかにし、セル・オートマトンモデルによる予測、フィールド調査による検証、細胞レベルの病理試験等を駆使して精度の高い動物リレーモデルを開発する。これにより、マダニと病原体が野生動物にリレーのバトンのように受け渡され、途上の環境変化によってリレーの方向等に変化が生じ、感染症の溢出・拡大が起こるという仮説を検証し、感染拡大メカニズム解明とそれに基づく対策手法開発に資する。
著者
飯島 勇人 長池 卓男
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

近年、ニホンジカが個体数を増加させている。それに伴い、ニホンジカによる植生の摂食圧が高まり、植栽木にも深刻な被害が出ている。効率的にニホンジカによる摂食を防止するためには、ニホンジカによる摂食リスクを定量的に評価し、優先度を付けた対策を実施する必要がある。本研究では、広葉樹植栽地を対象とし、ニホンジカ密度、防除方法(防鹿柵とそれ以外)、植栽後経過年数が植栽木の生残に与える影響について検討した。山梨県内の過去6年以内に植栽された広葉樹造林地を対象に、各調査地で100個体の植栽木の生残、樹高を調査した。また、山梨県内で収集されているニホンジカ密度指標に一般化状態空間モデルを適用し、植栽地周辺のニホンジカ密度を推定した。植栽木の生残は、推定したニホンジカ密度が高く、防鹿柵以外の防除方法であり、植栽後年数が経過しているほど低かった。防鹿柵以外の防除方法で平均的な植栽年が経過している場合、ニホンジカ密度が11.2頭/km2での植栽木の生残率は50%と推定され、21.7頭/km2での植栽木の生残率は10%と推定された。今後は、周辺環境や植栽樹種が植栽木の生残に与える影響を明らかにする必要がある。