著者
中静 透 井崎 淳平 松井 淳 長池 卓男
出版者
日本林學會
雑誌
日本林學會誌 = Journal of the Japanese Forestry Society (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.171-178, 2000-05-16
参考文献数
13
被引用文献数
2

秋田県象潟町の鳥海山麓にある「あがりこ」樹型をもったブナの優占する森林の成因を,過去の空中写真,森林構造および年輪解析を調べることにより明らかにした。1997年の現地調査から,最高で地上約4mの位置から最大11本の萌芽幹をもつ株が観察されるブナ林で,個体サイズ分布(萌芽幹の胸高断面積の合計から推定)は,かなり発達した森林であることがわかったが,萌芽幹のサイズ分布は小径に偏っていた。1985年の空中写真では閉鎖林であるが,1961年では漸伐林に近い構造をもつ森林として映っていた。年輪の解析からは,森林全体でも,個体の中でも20~40年の周期で萌芽幹が発生していることが示唆された。以上のことから,この「あがりこ」ブナ林は,一度の伐採で個体当り1~数本の萌芽幹を残しながら雪上伐採されることにより形成されたと推定した。この作業は,ブナの萌芽生理からも理にかなっていると考えられた。
著者
楢崎 康二 渡辺 敦史 冨田 啓治 佐々木 義則 白石 進
出版者
日本林學會
雑誌
日本林學會誌 = Journal of the Japanese Forestry Society (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.157-161, 1996-05-16
参考文献数
19
被引用文献数
3

ヒノキとサワラの自然雑種であるヒノキ精英樹の富士2号と, ヒノキおよびサワラの園芸品種を対象として, 核ゲノムのRAPD分析と葉緑体ゲノムのSSCP分析を行った。富士2号のRAPD分析の結果, ヒノキおよびサワラに種特異的なPCR産物(バンド)がともに検出され, このクローンは両樹種間の雑種であることがDNAレベルでも確認された。さらに, 葉緑体ゲノムのSSCP分析の結果, 富士2号の葉緑体ゲノムはヒノキ型を示し, この自然雑種は花粉親をヒノキ, 母親をサワラとする交配組合せによってできたことが明らかとなり, 両樹種間の交雑育種における新しい知見が得られた。また, ヒノキとサワラの園芸品種(5品種)の分析の結果, それぞれの種に特異的なバンドが出現し, これらがヒノキもしくはサワラの突然変異体であることが確認された。以上の結果から, RAPD分析やSSCP分析によって得られるDNA分子マーカーは, 種間雑種における親の交配組合せの決定および突然変異体の由来を調べる上で有用であることが明らかとなった。
著者
伊藤 進一郎 山田 利博
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 = Journal of the Japanese Forestry Society (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.229-232, 1998-08-16
参考文献数
9
被引用文献数
14
著者
生方 正俊 板鼻 直栄 河野 耕蔵
出版者
日本林學會
雑誌
日本林學會誌 = Journal of the Japanese Forestry Society (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.286-290, 1999-11-16
参考文献数
20
被引用文献数
3

ミズナラとカシワの交雑和合性を明らかにするために,カシワ×ミズナラの人工交配を行った。また,すでに作られている約10年生のミズナラ×カシワの人工雑種個体について,繁殖能力,開花時期および両親種との交雑和合性を調査した。カシワ×ミズナラの人工交配で,堅果が得られた。ミズナラ×カシワの種問雑種個体は,樹齢10年生程度でも,花粉や堅果を生産する能力があり,花粉,堅果の発芽率は,ミズナラの種内交配個体と差がなく,当年生苗木の成長は,ミズナラの種内交配個体より良かった。また,この種間雑種は,両親種との戻し交雑によって堅果が得られた。ミズナラとカシワの種間雑種は両親種と開花期が大きく重なることから,自然条件で比較的容易に両親種と交雑できることが示唆された。
著者
井上 昭夫 黒川 泰亨
出版者
日本林學會
雑誌
日本林學會誌 = Journal of the Japanese Forestry Society (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.130-134, 2001-05-16
参考文献数
19
被引用文献数
3

針葉樹における二変数材積式を理論的に誘導した。相対幹曲線式としてKunze式を採用した。既存の研究成果に基づいて, 相対高0.7と0.5における正形数&lambda;<SUB>0.7</SUB>と&lambda;<SUB>0.5</SUB>は, それぞれ0.7と1.0で安定していると仮定した。これらの仮定より, 相対幹曲線式の係数を推定する二つの方法を誘導した。これらの方法によって推定される係数は, 互いに等しいと仮定した。その結果, 次の二変数材積式が得られた;v=&pi;d<SUB>b</SUB><SUP>2</SUP>h/4{2(1-h<SUB>b</SUB>/h)}<SUP>1.060</SUP>。ここで, vは幹材積, d<SUB>b</SUB>は胸高直径, hは樹高, h<SUB>b</SUB>は胸高 (=1.2m) である。この材積式をスギとヒノキの資料に適用した。推定された幹材積の標準誤差はスギで0.028m<SUP>3</SUP>, ヒノキで0.025m<SUP>3</SUP>であった。誘導した材積式の仮定と関数形に基づいて, この材積式の特徴について考察した。
著者
〓田 孝 小竹 利明 竹内 真一 MAXIMOV Trofim C. 吉川 賢
出版者
日本林學會
雑誌
日本林學會誌 = Journal of the Japanese Forestry Society (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.246-254, 2002-11-16
参考文献数
43
被引用文献数
2

東シベリアの永久凍土地帯に成立する<I>Larix gmelinii</I>林の水分動態と土壌水分, 飽差との関係について考察するために, 林分の水利用量 (<I>SF</I>) と環境要因の季節変化を測定した。<I>SF</I>は開葉直後から急激に増加し, 6月上中旬の展葉の終了する時期に最大 (2.7mmd<SUP>-1</SUP>) となった。<I>SF</I>はその後, ピーク値の75%の値まで低下したが, その値は7月終わりまで維持されていた。<I>SF</I>には飽差の増大による頭打ちが認められた。土壌体積含水率が気孔コンダクタンスに及ぼす影響を調べた結果, 飽差が20hPa未満の領域では気孔コンダクタンスが土壌体積含水率の減少に対して直線的に低下する傾向が認められた。ただし, 飽差が20hPa以上の領域では, 飽差の影響による蒸散の頭打ちが顕著となるため, 土壌体積含水率と気孔コンダクタンスの関係は不明瞭になった。<I>L. gmelinii</I>は, 当地のような寡雨地帯で生育していくために, 土壌の水分状態に応じて気孔コンダクタンスを調節することで体内水分の損失を防ぎ, 水ストレスを回避していると考えられた。
著者
高橋 康夫 後藤 晋 笠原 久臣 犬飼 雅子 高田 功一 井口 和信 芝野 伸策
出版者
日本林學會
雑誌
日本林學會誌 = Journal of the Japanese Forestry Society (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, 2001
参考文献数
29

東京大学北海道演習林 (富良野市) において, 北海道の渓畔林の主要構成種で雌雄異株性の高木であるヤチダモ (<I>Fraxinus mandshurica</I> var. <I>japonica</I>) の性表現とサイズ構造を調査した。天然林に設定された岩魚沢大型試験地 (18.75ha) に存在する胸高直径5cm以上のヤチダモの場合, 個体数は未開花個体135 (19.6%),雌性個体293 (42.6%), 雄性個体260 (37.8%) であり, 開花個体の性比に1:1からの有意な偏りは認められなかった。未開花個体のサイズは開花個体よりも小さく, 開花個体のサイズ構造に雌雄差は認められなかった。27年生と50年生のヤチダモ人工林では, それぞれ525個体中4個体 (0.8%), 558個体中272個体 (48.7%) が開花していた。50年生人工林における未開花と開花個体あるいは雌雄ごとのサイズ構造は, 天然林と同様の傾向を示した。成長および形質が優れた優良木98個体の性比では, 雄性個体が有意に多いことが明らかとなった。ヤチダモは材質や通直性に優れた有用広葉樹であり,林業において性の取り扱いを検討する必要が示唆された。
著者
藤田 恵美 中田 誠
出版者
日本林學會
雑誌
日本林學會誌 = Journal of the Japanese Forestry Society (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.84-92, 2001-05-16
参考文献数
43
被引用文献数
3

新潟県下越地方において、海岸砂丘地のクロマツ林への広葉樹の混交が林床植生と土壌特性に及ぼす影響について研究を行った。亜高木層に落葉広葉樹が混交した林分では、クロマツのみから構成される林分に比べて低木層の被度がやや低いが、高木・亜高木性の常緑広葉樹の稚幼樹が多く出現した。草本層ではイネ科植物が優占し、クロマツ林では砂地や草原を好む種の被度が高いのに対して、混交林では被度がやや低いが木陰や林内に生育する種の比率が高かった。これらはクロマツ林への広葉樹の混交による林内の光環境と土壌特性の変化が原因と考えられた。土壌はいずれもA0-A-C層からなる砂質未熟土だった。混交林ではクロマツ林に比べてA0層のCa、Mgの含有率が高く、塩基飽和度とpHが上昇していた。また、混交林では表層土壌(0~10cm)へのCa、Mg、Nなどの養分の蓄積が進行していた。海岸砂丘地のクロマツ林における落葉広葉樹との混交林化とそれに続く常緑広葉樹の侵入は、海岸防災林の保全や機能強化にとって重要な役割を担うと考えられる。
著者
柴田 豊太郎 山谷 睦 二階堂 太郎 塚原 初男
出版者
日本林學會
雑誌
日本林學會誌 = Journal of the Japanese Forestry Society (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.34-38, 2000-02-16

多雪・豪雪地における幼齢スギの樹冠形を, 最近2年間の頂枝の優劣勢によって, 2タイプに区分した。頂枝成長がどの側枝よりも優勢ならば, その樹冠形は優勢(A)タイプ, いずれかの側枝よりも劣勢ならば, その樹冠形は劣勢(B)タイプとした。Aタイプ林木の樹高および直径成長量, 胸高位置の雪圧抵抗は, Bタイプ林木よりも大きかった。Aタイプ林木に発達する冠雪荷重は, Bタイプ林木よりも軽量であった。雪圧の強い急傾斜面の林木で, サイズが等しい個体ごとに比較すると, Aタイプの根元曲がり被害は, Bタイプよりも軽度であった。これより最近2年間頂枝の優勢な樹冠形を維持し続ける幼齢スギは, 頂枝の劣勢な樹冠形を維持し続ける林木よりも雪害抵抗性の大きいことが示された。