著者
遠藤 孝夫 ENDO Takao
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.8, pp.1-16, 2009

本稿は、ナチズム崩壊後ドイツ最初の憲法であるヴユルテンベルク・バーデン州憲法 (1946年) を素材として、学校教育を含むドイツ社会の再建に果たす教会とキリスト教倫理の積極的な位置づけという事態の背景とその意味に迫ろうとするものである。この研究意図は以下のような関連する三つの課題意識 (思い) に基づいている。 第一には、ドイツの公教育の基本的特質の理解には、第二次世界大戦後のドイツの憲法が「神」との関係から国家の再建理念を基礎づけ、公教育の必須要素として宗教教育を明確に位置づけているのは何故か、この論点の州憲法段階での論議を含めた歴史的解明が欠かせないとの思いである。周知のように、ドイツ連邦共和国の憲法である基本法 (1949年) は、その前文において、この憲法が「神および人間に対する責任を自覚して」制定されたことを明記し、宗教教育を公立学校における「正規の教科」と位置づけ(第7条)、さらに教会等の宗教団体には「公法上の団体」の資格と租税徴収権も保障されることを規定している (第140条) 。この基本法第7条および第140条は、確かに文言上はワイマール憲法 (1919年) の当該条項を縮減しつつほぼ踏襲したものであったことも関係して、その意味内容に関する学問的関心は我が国はもとよりドイツにおいても高いとは言えない。 だが、ここで注目すべきは、基本法に先だってドイツ各地で制定されたた州憲法である。そこには、「教会は、人間生活の宗教的・道徳的基礎の確保と強化のために認可された組織」、「公立の国民学校はキリスト教的学校である」といった規定に象徴されるように、ワイマール憲法には見られない規定として、ドイツ社会と国民生活の再建において教会やキリスト教倫理を積極的に位置づける考え方が溢れている事実を確認できるからである。つまり、敗戦間もない1946年から順次制定された各州憲法とそこでの論議からは、多数の州憲法の最大公約数として制定せざるを得なかった基本法以上に、それぞれの州内のドイツ住民が憲法の諸規定に託した直接的な理念を知ることができ、また基本法の諸規定の意味内容は、こうした州憲法と関係づけることによって初めて正確に読み解くことができると言えるだろう。 第二には、州憲法とそこでのキリスト教倫理の復権の局面を、戦後ドイツ最大の課題ともいうべき「過去の克服」 (Vergangenheitsbewaltigung)とMaier, 1889-1971、1930年から33年までヴユルテンベルク州経済相) が、文部大臣と次官には、テオドア・ホイス (Theodor Heuss、後の初代大統領)とテオドア・ポイエレがそれぞれ任命された。当初マイア-は、文相にはカルロ・シュミットを推薦していたが、アメリカ軍政府は、後述のようにフランスを占領するドイツ国防軍に勤務していた経歴が反ナチ化指令 (7月7日付) に抵触することを根拠に、シュミットの文相就任に難色を示した。ただ、これは表向きの理由であって、フランスと対立関係にあったアメリカ軍政府としては、母親がフランス人であったことから「フランス的人物」 (MannderFranzosen) と目されたカルロ・シュミットの起用には同意できなかったのである。そこでマイア-首相は、9月19日付で、カルロ・シュミットを「州政府顧問」 (Staatsratim Staatsministerium) に任命した。このことによりシュミットは、ヴユルテンベルク・バーデン州の閣議に出席する資格を与えられ、後述のように、同州の憲法草案の起草にも従事することになる。 なお、カルロ・シュミットは、10月16日付で、フランス軍占領地区に設置されたヴユルテンベルク・ホ-エンツオルレン州の「政務局」(Staatssekretariat, 事実上の州政府) の局長 (Vorsitzender, 事実上の首相)および教育担当と司法担当の部長(Landesdirektor、事実上の文部大臣と司法大臣) にも任命されている。こうして、カルロ・シュミットは、ヴユルテンベルク・バーデン州とヴユルテンベルク・ホーエンツオルレン州という、南西ドイツの2州の戟後の復興過程で大きな役割を果たすことになった。

1 0 0 0 交通工学

著者
福田正編 遠藤孝夫 [ほか] 著
出版者
朝倉書店
巻号頁・発行日
2011
著者
遠藤 孝夫
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.85, pp.185-199, 2001-03-30

シュタイナー教育の原理とも言うべき「人間認識に基づく教育」は,「学校の自律性」を前提に機能するものであるが,この両者の連関はこれまで十分に理解されてきていない。本稿は,「社会三層化運動」に関する最初の本格的研究であるシュメルツアーの成果に学びつつ,社会三層化運動の一つの結晶として創設されたヴァルドルフ学校とその創設理念を検討することで,従来のシュタイナー教育-の認識不足を補完することを意図するものである。
著者
宮川 洋一 山崎 浩二 名越 利幸 渡瀬 典子 ホール ジェームズ 土屋 明広 田中 吉兵衛 立花 正男 山本 奬 今野 日出晴 川口 明子 田代 高章 藤井 知弘 長澤 由喜子 遠藤 孝夫 MIYAGAWA Yoichi YAMAZAKI Kouji NAGOSHI Toshiyuki WATASE Noriko James M HALL TSUCHIYA Akihiro TANAKA Kichibei TACHIBANA Masao YAMAMOTO Susumu KONNO Hideharu KAWAGUCHI Akiko TASHIRO Takaaki FUJII Tomohiro NAGASAWA Yukiko ENDOU Takao
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.14, pp.219-230, 2015

本研究の目的は,4年次後期に必修となった教職実践演習における模擬授業のあり方を検討し,評価基準を策定することにある。そのうえで,ICTを活用して,組織的に評価を行うシステムを構築し,試験的運用を行うことである。「教職実践演習」は,「教育職員免許法施行規則の一部を改正する省令」により,平成22年(2010)年度入学生から導入される教員免許必修科目であり,学生が最終的に身につけた資質能力を,大学が自らの養成教員像や到達目標に照らして最終的に確認することを目的としている。中教審による「今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)」(2006)によると,教職実践演習の授業内容は,①使命感や責任感,教育的愛情に関する事項,②社会性や対人関係能力に関する事項,③幼児児童生徒理解や学級経営に関する事項,④教科・保育内容等の指導力に関する事項を含めること,が適当であるとされている。そして,教職実践演習の実施にあたっての留意事項として,授業の方法は演習を中心とすること,役割演技(ロールプレーイング),事例研究,現地調査(フィールドワーク),模擬授業等も積極的に取り入れることが望ましいこと等が示されており1),極めて実践的・実務的色彩の強い内容となっている。
著者
對馬 達雄 今井 康雄 遠藤 孝夫 小玉 亮子 池田 全之 山名 淳
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、戦後ドイツを通底する課題である「過去の克服」という課題に、これまで等閑視されてきた精神史、文化史、広く人間形成の側面からその本質に迫ることを目的としている。本年度は、7名の分担者が交付申請書記載のそれぞれの研究テーマに則して、文献・資料の分析を進め、2回の全体研究会を通じて、共同研究としての統一性を保ちつつ研究を進めた。より具体的には、まず遠藤は、州憲法及び基本法の制定を通して、ナチズム克服の理念としてキリスト教の復権が行われたこと、小玉はナチズムにより解体の危機に瀕していた家族の再建に関する議論と施策が行われたこと、渡邊はナチ教義の注入手段と化していた歴史教育の再建において、ヴェーニガーの「政治的歴史教育」の理念が重要な役割を果たしたことを明らかにした。また、池田は20世紀ドイツを代表する哲学者ハイデガー、リット、ヤスパースの「過去」に対する思想的対応の相違を腑分けし、今井は「政治的成人性」の理念を中核とするアドルノの教育思想の特質を「過去の克服」との関連で明らかにし、對馬は反ナチ運動の復権を司法界において最初に宣明した「レーマー裁判」の意義を検事ブリッツ・バウアーの思想と行動に関連づけて明確にした。そして、山名は「追悼施設教育学」の成立経緯とその今日的意味を「記憶文化」と関連づけて明らかにした。これらの研究成果は、平成23年3月に上梓された對馬達雄編著『ドイツ過去の克服と人間形成』の各論文として収録された。
著者
遠藤 孝夫
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、これまで本格的研究がなされてこなかった、シュタイナー学校の教員養成システムの理念とその実態を解明することを目的とするものである。具体的には、(1)シュタイナー学校発祥の地であるドイツにおけるシュタイナー学校の教員養成の歴史的展開過程を、「補完的」教員養成から、「完結的」教員養成への転換の視点から明らかにし、(2)ドイツにおけるシュタイナー学校の教員養成機関の現状とその内実について、特にボローニャ・プロセスに伴う再編に留意しつつ明らかにし、最後に(3)シュタイナー学校の教員養成システムを支える基本理念、とりわけシュタイナーの教員養成思想を解明した。
著者
山下 美樹 遠藤 孝夫 池田 幸夫 神山 貴弥
出版者
広島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

平成17年度は、東奥義塾における教育の実態を探る為の基本的資料の発掘、並びにその収集という平成16年度の取組みの上に、さらに下記6項目についての資料収集を行った。1.昨年度収集した外人教師ジョン・イング(JHON ING)以外に、東奥義塾草創期からその衰退期にいたる外人教師に関する資料。2.昨年度からの継続として、弘前第二小学(現和徳小学校)の教員の質を裏付ける履歴書、並びに諸資料の発掘。3.弘前第二小学の教員によって組織された「自他楽会」と称する読書会、勉強会にかかわる諸資料の収集。その中には、約600冊に上る「書物」の一覧表、貸出簿等が含まれている。4.地元新聞「東奥日報」における、学校記事を含む明治期の教育関係関連記事に関する全資料。5.明治10年から18年に西津軽郡山田小学校で学んだ成田らくの授業ノート(算数、理科)。6.藤崎村における外人教師ジョン・イング(JHON ING)の動向。特に青年教育(農業指導)に関する資料の発掘。これらの資料は、直接的に、また間接的に東奥義塾における教育の実態を明らかにするものである。なお、本研究成果は平成18年度中に下記8章で構成される図書として広く公に資する予定である。1.福沢諭吉がめざした日本の近代化-窮理に託した福沢の願い-2.藩校「稽古館」から東奥義塾へ-全国にあった文化の原点-3.東奥義塾での革新的な動き-自然科学の授業はかくあるべし-4.天覧授業(授業再現)-明治天皇を仰天させた5人の塾生-5.東奥義塾生海を渡る(留学の記)-私費による留学-6.文学社会(総合学習の精神ここにあり)-これぞ福沢のめざした近代の精神-7.自由民権運動への流れ(東奥義塾党)-東奥義塾の光と陰-8.東奥義塾が果たした役割-地方には地方の意地があり、それが革新的な教育を生む