著者
柴田 嶺 吉川 湧太 今川 諒 磯田 弦 関根 良平 中谷 友樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.145, 2020 (Released:2020-03-30)

はじめに 到達可能な空間的範囲(Potential Path Area: PPA)は,アクセシビリティ指標を構成する基礎的な概念の1つである.PPAは時間地理学的な枠組みで操作化でき,具体的な交通手段の移動速度に基づいて計算できる.例えばJustenら(2013)は,PPAを用いて,個人が自由意志のもとに活動する場所の選択モデルを開発した.しかし,1日の中でも時間帯によって公共交通機関の運行頻度や道路の混雑具体等が異なり,PPAも変化する.そうした現実的な複雑さを考慮するにあたって,公共交通機関であれば運行スケジュールをデータベース化し,PPAの計算に利用することが考えられる.近年では,公共交通機関等のネットワークと運行スケジュールをあわせたデータ規格としてGTFS (General Transit Feed Specification)が普及しつつあり,GIS環境においてもこれを利用した処理が可能となった.海外ではFarber(2014)等の研究事例が存在するが,国内での利用例は乏しい.そこで本研究では,GTFSデータを用い,PPAの詳細な変化を分析する可能性について,仙台市の公共交通環境の変化を題材に考察する. 仙台市では2015年12月に仙台市地下鉄東西線が新規開業し,あわせてバス路線網の再編がはかられた.2018年に実施した東西線沿線の一部地域での社会調査では,地下鉄の利便性が向上したにも関わらず,バスの利便性が低下したことへの不満を表明する居住者もみられた.本研究では,地下鉄東西線沿線住民が経験した交通環境の変化を,PPAに基づく指標から明らかにする.研究資料と方法 仙台市地下鉄,仙台市営バスの時刻表データからGTFS共通フォーマット形式のデータを作成した.仙台市地下鉄の時刻表データについては東西線・南北線ともに2020年1月16日現在現行のダイヤ用いた.仙台市営バスのダイヤについては,2015年4月1日改正ダイヤと,2019年4月1日改正ダイヤ(現行)を用いた.GTFSデータをArcGIS Pro 2.4(ESRI Inc.)において運用し,到達圏解析によってPPA計算を行った.到達圏解析では,2018年に実施した社会調査の対象地域である仙台市若林区白萩町の代表地点を発地とし,1時間ごとに30分間の移動可能範囲としてPPAを算出した.結果と考察 1日の中でも時間帯ごとにPPAの形状や大きさが異なり,これをGIS環境において可視化・定量化が可能となった. PPAは,開業した地下鉄を反映して2019年では到達可能な範囲が2015年のそれよりも東西方向に大きく拡大した.一方で,2015年に到達圏内であった地域が2019年には圏外となる状況も存在し,着地によってはアクセス性が低下していた.これは,地下鉄開業によるバス路線の再編が大きく影響していると考えられる. このようにGTFSを用いることで,時間帯や交通モードを考慮した交通環境の詳細な評価が可能となる.PPAに着目すると、地下鉄の開業に伴って生じた交通環境の再編が,必ずしも住民の到達可能範囲を改善するばかりではなかったことが可視化される.改善すべき交通環境の特定や、交通行動に関する居住者からの評価や行動実態とPPAの関連性など,GTFSを利用したネットワーク解析のさらなる活用が期待される.文献 Farber, S., Morang, M.Z. and Widener, M.J. 2014. Temporal variability in transit-based accessibility to supermarkets. Applied Geography 53: 149-159 Justen, A., Martínez, F.J. and Cortés, C.E. 2013, The use of space-time constraints for the selection of discretionary activity locations. Journal of Transport Geography 33: 146-152
著者
関根 良平 佐々木 達 小田 隆史 増田 聡
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

報告者らは2013年1~2月に本報告と同じ福島県いわき市の市民を対象に食料品の購買行動と意識に関して調査を実施し、2013年日本地理学会秋季福島大会において佐々木(2013)として報告している。そこでは①野菜の購入先は食品スーパーが主流である。震災前後で購入先に大きな変化は見られない。②野菜を購入する際に重視されているのは産地、鮮度、価格の3要素である。風評と関連する放射性物質の検査はこれに続く結果となっており、原発事故以降に新たな判断材料として加わった。③購入産地は県外産にシフトしている。ただし、産地表示や検査結果を気にする反面、判断に用いる情報ソースは二次情報、三次情報である可能性も否定できない。④購買行動において国の基準値や検査結果に対して認知されているが,信頼度という点においては低い。野菜の購買基準は,「放射性物質の検査」と答える人も多いが,風評とは関連性のない「価格」を挙げる人が多い。しかし、「価格」要因は消費者サイドに起因するのではなく現在の小売主導の流通構システムから発生している可能性がある。といった諸点を指摘した。本報告は、こうした風評被害の特性と構造の変化、もしくはその「変容しにくさ」が働くメカニズムを解明したい。これは、事故より3年を経てもなお、汚染水や除染廃棄物問題が復興の足かせとなっている福島県では、調査研究においても一過性ではない継続的な視点が不可欠と考えるからである。