著者
小田 隆史 池田 真幸 永田 俊光 木村 玲欧 永松 伸吾
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.199-213, 2023 (Released:2023-07-08)
参考文献数
34

2022年度から必履修化された高等学校「地理総合」の柱となる大項目「GIS」や「持続可能な地域づくり」での学習を通じて,学校教育における防災教育の充実が期待される一方,授業を担う教員の防災に関する知識や授業指導の力量不足が懸念されている.そこで,地理学と防災関連分野の研究者らが討議を重ね,学習指導要領の中で扱われている防災に関連する解説・内容を「知識」「技能」「思考力・判断力・表現力」別に分析し,近年頻発する洪水・土砂災害を事例としたウェブGISを活用した教員向けの防災教育の研修プログラムの開発を目指した.学習指導要領から防災に関わる内容や流れを整理した上で,教員自身が防災の専門的知見を理解し,授業づくりの前提となる力を多忙な教員が短時間で身に付けられる教員研修のためのプログラム案を作成した.具体的な評価の検討は今後の課題だが,試行は時間内に収まり,学習目標に沿った気づきや発言が得られた.
著者
小田 隆史
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.422-441, 2009-09-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
35
被引用文献数
2

本稿は,欧米都市社会における新自由主義的な政治経済政策の転換を背景に,NGO・NPOによる公益サービスが,都市の諸政策遂行に重要な役割を果たすようになった点に着目し,米国ミネソタ州ツインシティに流入した難民集団の定住過程を事例として,ホスト社会側のNPOによる,難民に対する職住斡旋支援とインナーシティ問題解決に向けた諸活動の実態を考察した.まず,統計分析の結果,インナーシティ問題や職住の空間的「ミスマッチ」が確認され,難民が,そうした都市問題に陥っている現状を明らかにした.また,支援活動を「郊外職住支援型」と「インナーシティ再活性化型」に分類して分析したところ,支援主体のNPOは,資金調達の柔軟性,現場との近接性,活動域の広範性等のNPOとしての特性を活かし,難民定住問題を都市貧困問題と読み替え,貧困層一般を対象とした制度や財源を利用しながら難民定住を支援していることが判明した.
著者
杉浦 直 小田 隆史
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.157-177, 2009-09-15
参考文献数
27
被引用文献数
3 3

本論文は,サンフランシスコ・ジャパンタウン(日本町)における一施設「ジャパンタウンボウル」の売却問題(2000年)及びその跡地に建った住・商混合施設「1600ウェブスター」への大手コーヒーショップ・チェイン「スターバックス」店舗進出問題(2005年)の経緯とそこにおける諸活動主体(アクター)間の対立を分析・検討し,それを通じてエスニック都市空間における場所をめぐる葛藤の性質・構造とその意味を考察したものである。このサンフランシスコ日本町における一連の場所をめぐる葛藤の過程のなかで最も強い対立を示したアクター関係は,日本町に進出を企てる外部資本と日本町諸組織との間であり,それは地価にふさわしい経済的開発と地域経済再編を志向する資本主義的都市過程とローカル・エスニック・コミュニティの維持・保全を志向するエスニックに意味付けられた特殊な都市過程との対立として捉えられる。そしてその意味を地理学的に考察するとき,上記の対抗関係はMerrifield (1993) が提示した資本による「想像された空間(conceived space)」とコミュニティの現実の「生きられた場所(lived place)」との対抗関係であり,それらの間の弁証法的調整の過程であると言うことができる。
著者
村山 良之 小田 隆史
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p>1 東日本大震災における大川小学校の被災</p><p></p><p> 2004年3月,宮城県第三次地震被害想定報告書が公表された。同報告書内の宮城県沖地震(連動)「津波浸水予測図」(https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/95893.pdf)によれば,石巻市立大川小学校(当時)や付近の集落(釜谷)までは津波浸水が及ばないと予測され,同校は地区の避難所に指定されていた。1933年昭和三陸津波もここには到達せず,1960年チリ地震津波についても不明と,この地図には記されている。しかし,想定地震よりもはるかに大規模な東北地方太平洋沖地震による津波は,大川小校舎2階の屋根に達し,釜谷を壊滅させた。全校児童108名のうち74名(津波襲来時在校の76[MOユ1] 名のうち72名),教職員13名のうち10名(同11名のうち10名)が,死亡または行方不明となった(大川小事故検証報告書,2014による)。東日本大震災では,引き渡し後の児童生徒が多く犠牲になった(115名,毎日新聞2011年8月12日)が,ここは学校管理下で児童生徒が亡くなった(ほぼ唯一の)事例であった。</p><p></p><p>2 大川小学校津波訴訟判決の骨子</p><p></p><p> 2014年,第三者委員会による「大川小学校事故検証報告書」発表の後,一部の児童のご遺族によって国家賠償訴訟が起こされた。2016年の第1審判決では,原告側が勝訴したが,マニュアルの不備等の事前防災の過失は免責された。しかし,第2審判決では事前の備えの不備が厳しく認定され,原告側の全面勝訴となり,2019年最高裁が上告を棄却し,この判決が確定した。</p><p></p><p> 同判決における学校防災上の指摘は,以下の通りである(宮城県学校防災体制在り方検討会議報告書,2020を一部改変)。</p><p></p><p>① 学校が安全確保義務を遺漏なく履行するために必要とされる知識及び経験は,地域住民が有している平均的な知識及び経験よりも,遙かに高いレベルのものでなければならない(校長等は、かかる知見を収集・蓄積できる立場にあった)。</p><p></p><p>② 学校が津波によって被災する可能性があるかどうかを検討するに際しては, 津波浸水域予測を概略の想定結果と捉えた上で, 実際の立地条件に照らしたより詳細な検討をすべき 。</p><p></p><p>③ 学校は,独自の立場から津波ハザードマップ及び地域防災計画の信頼性等について批判的に検討すべき。</p><p></p><p>④ 学校は,危機管理マニュアルに,児童を安全に避難させるのに適した避難場所を定め,かつ避難経路及び避難方法を記載すべき。</p><p></p><p>⑤ 教育委員会は学校に対し, 学校の実情に応じて,危機等発生時に教職員が取るべき措置の具体的内容及び手順を定めた 危機管理マニュアルの作成を指導し,地域の実情や在校児童の実態を踏まえた内容となっているかを確認し,不備がある時にはその是正を指示・指導すべき。</p><p></p><p> 災害のメカニズムの理解と,ハザードマップの想定外を含むリスクを踏まえ,自校化された防災を,学校に求めるものである。</p><p></p><p>3 大川小学校判決と地理学が果たすべき役割</p><p></p><p> 大川小判決確定を受けて,「在り方検討会」は,2020年12月「宮城県学校防災体制在り方検討会議報告書」を発表し,判決の指摘や従前の取組を踏まえて,以下の基本方針を提示した。</p><p></p><p>① 教職員の様々な状況下における災害対応力の強化</p><p></p><p>② 児童生徒等の自らの命を守り他者を助ける力の育成</p><p></p><p>③ 地域の災害特性等を踏まえた実効性のある学校防災体制の整備</p><p></p><p>④ 地域や関係機関等との連携による地域ぐるみの学校防災体制の構築</p><p></p><p> ここにある③だけでなく,4つの全てにおいて,学校や学区の災害特性について学校教員が適切に把握できることが前提となり,専門家や地域住民との連携が求められる。そのためには,災害に対する土地条件として指標性が高い「地形」の理解が有効かつ不可欠である。このことは,地理学界では常識と言えるが,学校現場(および一般)には浸透していない(小田ほか, 2020)。ハザードマップの想定外をも把握できるよう,たとえば「地形を踏まえたハザードマップ3段階読図法」(村山,2019)等の教育が求められよう。</p><p></p><p> 大川小判決は,教員研修や教員養成課程において,地理学や地理教育が果たすべき役割が大きいことを示している。2019年度からの教職課程で必修化された学校安全に関する授業や免許更新講習等において,また,高校で必修化される「地理総合」において,地理学および地理教育は,最低限必要な地形理解や地図読図力の向上に貢献し,もって学校防災を支える担い手を増やしていく必要があると発表者らは考える。</p>
著者
村山 良之 桜井 愛子 佐藤 健 北浦 早苗 小田 隆史 熊谷 誠
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p>1 学校防災の自校化を担う教員のための研修</p><p></p><p> 学校防災の自校化のためには,学校や学区の地形を含む地域の条件を把握してハザードマップの想定外まで含む読図が有効かつ必要である。しかし,このような地理学界の常識は,学校教員を含む一般市民にはまったく浸透していない。元々の専門や経歴が多様な発表者らは,地理学(地形学)の常識を活かして学校防災が向上するよう,この教員研修を提案するものである。</p><p></p><p> 発表者らは,2019年6月石巻市教育委員会防災主任研修会でワークショップの機会を得た(村山,2019)。自校を含むハザードマップ,地形図,地形分類図等を用いて共同作業を行うことで,受講した防災主任は読図力が上昇したとこを自ら認める等,成果をあげることができた(小田ほか,2020)。そこで,同様の研修を広くオンライン等でもできるよう,研修動画,ワークシートとその記入例等含む,プログラムを作成した。</p><p></p><p>2 オンライン研修プログラム</p><p></p><p> 上記ワークショップで得た成果および課題と,学校教員の実状を踏まえて,ガイダンスを含む6つの研修からなる講座「学区の地図を活用した災害リスクの理解」を作成した。</p><p></p><p> 対象ハザードは,土砂災害と洪水とし津波についても言及する。防災のために有益でかつ防災や専門知識を持たない学校教員にも理解を促しやすいことを念頭に,地形要素として,山地・丘陵地については傾斜の大小と崖および谷,低地については微高地(自然堤防,浜堤・砂丘)と後背湿地や旧河道を,取り上げることとした。いずれも土砂災害と水害に対する土地条件として重要な地形要素である。そして,それらの地形把握のために,山地・丘陵地(土砂災害)については地形図,低地(洪水)については地形分類図が有効であること,それぞれの地図の入手・閲覧方法,概要と読図法,さらにハザードマップと関連することを,学ぶ(研修2,3)。ハザードマップについては,有用で利用しやすい情報源であるとしてその不要論を廃し,結果のみではなく「科学的根拠のある目安」として利用すべきこと(研修0),ハザードマップの種類や入手・閲覧方法とその限界(想定外)について(研修1),そして研修2と3で学んだ地形とハザードマップが密接に関連することを踏まえつつ,想定外についても地形から合理的に把握できることを,学ぶ(研修4)。さらに,研修5では,これまでの研修内容を応用して,避難の合理的な方法を学ぶ。</p><p></p><p> </p><p></p><p>講座「学区の地図を活用した災害リスクの理解」の主な内容</p><p></p><p>研修0 ガイダンス</p><p></p><p>講座全体の構成,講座の背景と目的,ハザードマップとは,読図とは,「地形を踏まえたハザードマップ3段階読図法」</p><p></p><p>研修1 学区のハザードマップを読む</p><p></p><p>ハザードマップをインターネットで探す 重ねるハザードマップから読む ハザードマップの想定について(法律,前提) まとめ 演習 おまけ</p><p></p><p>研修2 学区の地形図を読む</p><p></p><p>地形とは 地形図とは(例:岩手県釜石市の一部) 地形図を読むためのポイント(方位,縮尺,地図記号,等高線,崖記号,谷線) 地形図と土砂災害ハザードマップ(谷と土砂災害,崖や急傾斜地とがけ崩れ,2019年台風19号) まとめ おまけ</p><p></p><p>研修3 学区の地形分類図を読む</p><p></p><p>地形分類図とは(低地内の微地形) 地理院地図で地形分類図を読む(断面図,微地形と起伏,洪水ハザードマップとの対応) まとめ 演習(自校の学区について,地形図と地形分類図から読み取れること) おまけ(低地部で地形分類図がない場合)</p><p></p><p>研修4 学区の地形からハザードマップの想定外も考える</p><p></p><p>ハザードマップと,地形図,地形分類図を読む(例:山形県庄内地方の土砂災害と洪水 2019年台風19号宮城県丸森町の浸水範囲,ハザードマップと地形分類図) まとめ 演習(自校の学区について,ハザードマップの想定外を考えて記述する)</p><p></p><p>研修5 学区内での避難について考える</p><p></p><p>緊急避難場所と避難所 まとめ 演習①(自校が緊急避難場所/避難所に指定されているか確認する) 演習②(大雨時の緊急避難場所までのルートを複数考える おまけ</p><p></p><p> </p><p></p><p> 2021年1月現在,本プログラムのインターネット公開準備中である。宇根寛氏,熊木洋太氏,黒木貴一氏,澤祥氏,鈴木康弘氏から,助言をいただいた。心より感謝申し上げる。</p>
著者
村山 良之 小田 隆史 佐藤 健 桜井 愛子 北浦 早苗 加賀谷 碧
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p>1 はじめに</p><p> 学校防災や地域防災の基盤として,当該地域の「地形」を理解し想定外も含むハザードマップの読図が求められる。防災のための最低限の地形の知識と,伝えるための取組が求められている。</p><p> 発表者らは,先に石巻市教委防災主任研修会で「学校区の地形に基づく災害リスクの理解」のためのワークショップを行い,報告した(村山他,2019)。より短時間のワークショップを,酒田市教委防災教育研修会で実践する機会を得た。本発表は,その内容について報告し,防災のための地形ミニマム・エッセンシャルズとその方法について,さらに検討するものである。ワークショップは石巻での実践を基に,酒田化し,一部簡略化した。</p><p>2 ワークショップの準備:地形と地図群その他</p><p> 洪水と土砂災害を想定し,地形要素として,山地・丘陵地については,傾斜の大小と崖および谷線,低地については微高地(自然堤防,砂丘)と後背湿地や旧河道を選択した。</p><p> 使用した地図群は以下のとおり。①作業用基図として,電子地形図25000に国土数値情報の小中学区境界を重ねた,中学校区の地図。縮尺1/1〜2万。②治水地形分類図(地理院地図)。③酒田市の土砂災害と洪水のハザードマップ(同市ウェブサイト)。他に,緊急避難場所リスト,ポストイット,カラーシール類,個人用ワークシートを使用した。ワークシートは,「酒田市学校防災マニュアル作成ハンドブック」の冒頭頁「学校と学区の現状」に対応しており,その改善を期待して設計された。</p><p> 市内の小中学校全29校のうち1校欠席,各校1名(1校のみ2名)参加(合計29名)で,7つの中学校区ごとにグループワークを行った。与えられた時間は,全体で約60分である。</p><p>3 ワークショップのプロセス</p><p> 目的が明瞭になるよう,タイトルを「防災マニュアルのさらなる改善に向けて−地形に基づく災害リスクの理解−」とした。①地形図を読み取るための</p><p>ポイントを知る:方位,縮尺,地図記号,等高線(混み合ってるところとあまりないところ),崖記号,谷。②微地形の理解を深めるために地形分類図の使用が有効なことを知る:低地部の微高地(自然堤防,砂丘等),後背湿地,旧河道。以上はミニレクチャー。③学区の地形を読み取る(グループワーク):地図記号で小中学校の位置を確認し,シールを貼りながら自己紹介。方位と縮尺(モノサシ),山と低地を確認し,崖,微高地,旧河道等にポストイット。④ハザードマップを読み取るためのポイントを知る:土砂災害の種類と発生場所,浸水域や浸水深の分布について,ハザードマップと地形(微地形)の関連について,ミニレクチャー。⑤学区のハザードマップと地形図との関係を読み取る(グループワーク):起こりうる災害を確認して,その種類と場所をシール,ポストイット貼り付け。⁶学区の緊急避難場所と地形との関係を理解する(グループ,個人ワーク):緊急避難場所にシールを貼り,地形の特徴を踏まえて,ワークシートに記入。⑦研修のまとめ:地形をふまえたハザードマップ読図法。</p><p>4 おわりに</p><p> 匿名の事後アンケート(下の表)によると,短時間のワークショップながらその成果は認められるが,課題も明瞭である。コメント(自由記入)は,おおむね肯定的ながら,地震や津波への期待も提示された。近く宮城県内での計画等があり,改善を重ねてこの取組を広めたい。</p>
著者
村山 良之 小田 隆史 佐藤 健 桜井 愛子 北浦 早苗 加賀谷 碧
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<p>1 はじめに</p><p> 様々な自然災害の土地条件(物理的素因)として「地形」の指標性が高いことが,地理学界以外にも広く理解されるようになっている。学校防災や地域防災の基盤として,当該地域の地形を理解することが,学校教員と児童・生徒,地域防災のリーダー層と住民に求められている。しかし,地元の地形ひいてはハザードマップの理解は難しいとされてきた。防災のための最低限の地形の知識と,それを伝えるための取組が求められている。</p><p> 発表者らは,石巻市教育委員会が主催する防災主任研修会(宮城県では各学校に防災主任が置かれている)のうち2時間をいただき,「学校区の地形に基づく災害リスクの理解」のためのワークショップを行う機会を得た。参加者には,地形や地図について得意ではない先生方が含まれる想定される。本発表は,その内容について報告し,防災のための地形ミニマム・エッセンシャルズとそれを伝える方法も含めて,検討するものである。</p><p>2 ワークショップの準備:地形と地図群</p><p> 地形や地図に関する基礎知識を有する者と教育を専門とする者を含む発表者らが協議を重ねて,防災のために理解すべき地形要素として,以下を特定した。山地・丘陵地については傾斜の大小と崖および谷線,低地については微高地(自然堤防,浜堤・砂丘)と後背湿地や旧河道である。言うまでもなく,これらは,土砂災害や洪水に関連する。</p><p> 上記の把握のために,以下の地図群を準備した。①作業用基図として,電子地形図25000に国土数値情報の小中学区境界を重ねて中学校区ごとにプリントアウトしたもの。学区によって異なるが,その縮尺はおよそ1/1~2万。②低地部の微地形を把握するための,治水地形分類図または土地条件図(地理院地図からプリントアウト)。③石巻市に関するハザードマップ:土砂災害(石巻市サイトからウェブGISで公開),北上川水系北上川および旧北上川洪水浸水想定区域図(国土交通省サイトからpdfで公開),津波避難地図(東日本大震災時の浸水深と避難場所等を示した地図,石巻市サイトからpdfで公開)。</p><p> 各学校から1名参加で,中学校区ごとにグループワークを行うこととした。上記の地図のうち②と③は中学校区ごとに関連するもののみ,グループに配付した。地図群の他には,中学校区別の避難所(緊急避難場所,避難所)リスト,ポストイット,カラーシール類,個人用ワークシートが配付された。</p><p>3 ワークショップ「学校区の地形に基づく災害リスクの理解」</p><p> ワークショップは以下のとおり進められた。①学区のハザードマップと地形図からわかることを考える(事前アンケート),②地形図を読み取るためのポイントを知る:読図の基礎として,地図記号(学校),等高線(混み合ってるところとあまりないところ),崖記号,等高線形状からわかる谷線等についてミニレクチャー,③微地形の理解を深めるために地形分類図の使用が有効なことを知る:等高線では地形がわからない低地部について地形分類図が有効であること,微高地(自然堤防,浜堤等),後背湿地,旧河道についてミニレクチャー,④学区の地形を読み取る:各グループの地形図上で学校の位置,山地と低地,崖,谷,微地形を確認してポストイット添付等グループ作業,学区の地形の特徴をワークシートに各自記入,⑤ハザードマップを読み取るためのポイントを知る:災害の種類とそれぞれの想定条件を確認した後,ハザードマップと地形(微地形)の関係についてミニレクチャー,⑥学区のハザードマップと地形図との関係を読み取る:起こりうる災害をグループで確認して,その種類と場所をワークシートに記入,⑦学区の緊急避難場所と地形との関係を理解する:災害種別ごとの緊急避難場所にシールを貼り,地形の特徴を踏まえて,ワークシートに記入,⑧研修のまとめ。⑨事後アンケート(記名と匿名)。</p><p>4 おわりに</p><p> 参加者の反応等から,複数の改善点が既に明らかになっている。さらに,事前,事後のアンケート結果に基づく詳細な検討を行い,防災のための地形ミニマム・エッセンシャルズの特定とその伝達方法の改善に努めたい。</p>
著者
村山 良之 小田 隆史
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.59, 2021 (Released:2021-03-29)

1 東日本大震災における大川小学校の被災 2004年3月,宮城県第三次地震被害想定報告書が公表された。同報告書内の宮城県沖地震(連動)「津波浸水予測図」(https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/95893.pdf)によれば,石巻市立大川小学校(当時)や付近の集落(釜谷)までは津波浸水が及ばないと予測され,同校は地区の避難所に指定されていた。1933年昭和三陸津波もここには到達せず,1960年チリ地震津波についても不明と,この地図には記されている。しかし,想定地震よりもはるかに大規模な東北地方太平洋沖地震による津波は,大川小校舎2階の屋根に達し,釜谷を壊滅させた。全校児童108名のうち74名(津波襲来時在校の76[MOユ1] 名のうち72名),教職員13名のうち10名(同11名のうち10名)が,死亡または行方不明となった(大川小事故検証報告書,2014による)。東日本大震災では,引き渡し後の児童生徒が多く犠牲になった(115名,毎日新聞2011年8月12日)が,ここは学校管理下で児童生徒が亡くなった(ほぼ唯一の)事例であった。2 大川小学校津波訴訟判決の骨子 2014年,第三者委員会による「大川小学校事故検証報告書」発表の後,一部の児童のご遺族によって国家賠償訴訟が起こされた。2016年の第1審判決では,原告側が勝訴したが,マニュアルの不備等の事前防災の過失は免責された。しかし,第2審判決では事前の備えの不備が厳しく認定され,原告側の全面勝訴となり,2019年最高裁が上告を棄却し,この判決が確定した。 同判決における学校防災上の指摘は,以下の通りである(宮城県学校防災体制在り方検討会議報告書,2020を一部改変)。① 学校が安全確保義務を遺漏なく履行するために必要とされる知識及び経験は,地域住民が有している平均的な知識及び経験よりも,遙かに高いレベルのものでなければならない(校長等は、かかる知見を収集・蓄積できる立場にあった)。② 学校が津波によって被災する可能性があるかどうかを検討するに際しては, 津波浸水域予測を概略の想定結果と捉えた上で, 実際の立地条件に照らしたより詳細な検討をすべき 。③ 学校は,独自の立場から津波ハザードマップ及び地域防災計画の信頼性等について批判的に検討すべき。④ 学校は,危機管理マニュアルに,児童を安全に避難させるのに適した避難場所を定め,かつ避難経路及び避難方法を記載すべき。⑤ 教育委員会は学校に対し, 学校の実情に応じて,危機等発生時に教職員が取るべき措置の具体的内容及び手順を定めた 危機管理マニュアルの作成を指導し,地域の実情や在校児童の実態を踏まえた内容となっているかを確認し,不備がある時にはその是正を指示・指導すべき。 災害のメカニズムの理解と,ハザードマップの想定外を含むリスクを踏まえ,自校化された防災を,学校に求めるものである。3 大川小学校判決と地理学が果たすべき役割 大川小判決確定を受けて,「在り方検討会」は,2020年12月「宮城県学校防災体制在り方検討会議報告書」を発表し,判決の指摘や従前の取組を踏まえて,以下の基本方針を提示した。① 教職員の様々な状況下における災害対応力の強化② 児童生徒等の自らの命を守り他者を助ける力の育成③ 地域の災害特性等を踏まえた実効性のある学校防災体制の整備④ 地域や関係機関等との連携による地域ぐるみの学校防災体制の構築 ここにある③だけでなく,4つの全てにおいて,学校や学区の災害特性について学校教員が適切に把握できることが前提となり,専門家や地域住民との連携が求められる。そのためには,災害に対する土地条件として指標性が高い「地形」の理解が有効かつ不可欠である。このことは,地理学界では常識と言えるが,学校現場(および一般)には浸透していない(小田ほか, 2020)。ハザードマップの想定外をも把握できるよう,たとえば「地形を踏まえたハザードマップ3段階読図法」(村山,2019)等の教育が求められよう。 大川小判決は,教員研修や教員養成課程において,地理学や地理教育が果たすべき役割が大きいことを示している。2019年度からの教職課程で必修化された学校安全に関する授業や免許更新講習等において,また,高校で必修化される「地理総合」において,地理学および地理教育は,最低限必要な地形理解や地図読図力の向上に貢献し,もって学校防災を支える担い手を増やしていく必要があると発表者らは考える。
著者
関根 良平 佐々木 達 小田 隆史 増田 聡
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

報告者らは2013年1~2月に本報告と同じ福島県いわき市の市民を対象に食料品の購買行動と意識に関して調査を実施し、2013年日本地理学会秋季福島大会において佐々木(2013)として報告している。そこでは①野菜の購入先は食品スーパーが主流である。震災前後で購入先に大きな変化は見られない。②野菜を購入する際に重視されているのは産地、鮮度、価格の3要素である。風評と関連する放射性物質の検査はこれに続く結果となっており、原発事故以降に新たな判断材料として加わった。③購入産地は県外産にシフトしている。ただし、産地表示や検査結果を気にする反面、判断に用いる情報ソースは二次情報、三次情報である可能性も否定できない。④購買行動において国の基準値や検査結果に対して認知されているが,信頼度という点においては低い。野菜の購買基準は,「放射性物質の検査」と答える人も多いが,風評とは関連性のない「価格」を挙げる人が多い。しかし、「価格」要因は消費者サイドに起因するのではなく現在の小売主導の流通構システムから発生している可能性がある。といった諸点を指摘した。本報告は、こうした風評被害の特性と構造の変化、もしくはその「変容しにくさ」が働くメカニズムを解明したい。これは、事故より3年を経てもなお、汚染水や除染廃棄物問題が復興の足かせとなっている福島県では、調査研究においても一過性ではない継続的な視点が不可欠と考えるからである。
著者
小田 隆史
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.12-27, 2010-03-15
被引用文献数
1

諸政策の新自由主義化にともなって,近年の米国都市社会においては,市民や民間企業等が,行政府や立法府と連携して都市社会を協治する「ガバナンス」という新秩序が創出されはじめ,この変化に関する隣接分野での研究が盛んになっている。こうした政策のパラダイムシフトが都市社会にもたらした変化の一端を捉え,新たな都市ガバナンスにおける行政と市民との連携のあり方を考える地理学的研究が求められる。その前提として,本稿は,米国カリフォルニア州サンフランシスコ市における歴史文化資源の保存に関係する法制度及び政策に関与する主体の変化に着目し,新旧制度の変化を整理,提示した。また,サンフランシスコ日本町において市民らがコミュニティ存続を訴えた「日本町保存運動」を取り上げ,この運動によって,旧来の行政による一般的な許認可手続きに加え,文化的遺産を考慮して再開発の許認可を行う特殊な法令・規制が付加された点,及び都市政策に日本町のNPO関係者や商店主等が,より直接的に関与するようになり,都市再開発にかかる主体と制度が変化・多様化した点を明らかにした。