著者
馬 欣欣 岩﨑 一郎
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.2-38, 2019-09-15 (Released:2019-10-08)
参考文献数
93

共産党一党独裁制を維持する中国では,共産党員資格が,その保持者に賃金プレミアムをもたらすと論じられている。しかし,党員資格の賃金効果は,経済理論的に決して明確ではなく,その上,実証研究の成果も,肯定説と否定説が混在している。本稿は,先行研究のエビデンスの統合を介して,党員資格が賃金水準に及ぼす真の効果の特定を試みる。既存研究30点から抽出した332推定結果のメタ統合は,低位の水準ながらも,正の党員資格賃金効果の存在を示した。この結果は,公表バイアス及び真の効果の有無に関する検証結果によっても支持された。さらに文献間異質性のメタ回帰分析は,調査対象企業の所有形態,サーベイデータの種別,賃金変数の補足範囲や定義,推定期間及び推定量や制御変数の選択が,既存研究の実証成果に体系的な差異を生み出している可能性を強く示唆した。
著者
馬 欣欣 岩﨑 一郎
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.2-38, 2019

<p>共産党一党独裁制を維持する中国では,共産党員資格が,その保持者に賃金プレミアムをもたらすと論じられている。しかし,党員資格の賃金効果は,経済理論的に決して明確ではなく,その上,実証研究の成果も,肯定説と否定説が混在している。本稿は,先行研究のエビデンスの統合を介して,党員資格が賃金水準に及ぼす真の効果の特定を試みる。既存研究30点から抽出した332推定結果のメタ統合は,低位の水準ながらも,正の党員資格賃金効果の存在を示した。この結果は,公表バイアス及び真の効果の有無に関する検証結果によっても支持された。さらに文献間異質性のメタ回帰分析は,調査対象企業の所有形態,サーベイデータの種別,賃金変数の補足範囲や定義,推定期間及び推定量や制御変数の選択が,既存研究の実証成果に体系的な差異を生み出している可能性を強く示唆した。</p>
著者
柿原 浩明 馬 欣欣
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

少子高齢化が進んでいる日本社会で、国民医療費が年々上昇している。1990年代以降、政府は患者負担の軽減や医療保険財政の改善の観点から後発薬の使用を促進している。しかしながら、臨床現場では新薬および先発薬が依然として多く使用されている。本研究では、経済学の視点から、独自な調査を行い、ミクロデータを取集したうえで、新薬・先発薬の使用に関する要因を個人属性、情報要因、代理人要因、個人選好要因の4つに分けて分析し、医師が医薬品の選択行動のメカニズムを考察し、新薬・先発薬・後発薬の棲み分けのあり方に関する政策立案を行う際に、科学的根拠の一つとして提供した。
著者
馬 欣欣
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.69-87, 2010-02

本稿では,日本と中国における賃金分布からみた男女間賃金格差について,慶應義塾パネルデータ調査(2004~2008年)と中国家計調査(2002年)の個票データを活用し,分位点回帰分析モデルを用いて実証分析を行った。主な結論は以下の通りである。第一に,全体的にみると,日本の場合,低賃金分位点に比べ,高賃金分位点で男女間賃金格差が大きくなる。一方,中国の場合,低賃金分位点に比べ,高賃金分位点で男女間賃金格差が小さくなる。日本ではガラスの天井の現象が存在する一方,中国では粘着の床の現象が存在することが明らかになった。第二に,日中とも企業規模の差異により,賃金分布からみた男女間賃金格差の状況が異なる。具体的にいえば,日本の場合,小企業,中企業,大企業で,いずれもガラスの天井の現象が存在し,またガラスの天井の現象は中企業および大企業が小企業より顕著である。一方,中国の場合,小企業および大企業では粘着の床の現象が存在する傾向にある。これらの計量分析の結果により,賃金分布からみた日本と中国における男女間賃金格差の状況が異なることがわかった。男女間賃金格差の問題を解決するため,日本と中国で取るべき政策が異なり,日本では昇進昇格における男女格差を縮小するため,女性の継続雇用促進政策が必要である。一方,中国の場合,小企業と大企業の低賃金層における男女の差別的取り扱いの問題を重視すべきであることが示唆された。Using Keio Household Panel Survey data for 2004-2008 and Chinese Household Income Project Survey data for 2002, the paper estimated gender wage differentials by wage distribution and made the comparison of glass ceiling effect and sticky floor effect in Japan and China. The main conclusions are as follows. First, there is glass ceiling effect in Japan, on the other hand, there is sticky floor effect in China. Second, there are differences of the glass ceiling effect and sticky floor effect by firm size in Japan and China. Although there is glass ceiling effect in all firms in Japan, the glass ceiling effect is remarkable in large firms than that in small firms and middle-sized firms. On the other hand, the sticky floor effect is observed in small firms and large firms in China.論文
著者
柿原 浩明 井深 陽子 馬 欣欣
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理學雜誌 = Folia pharmacologica Japonica (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.2, pp.95-99, 2013-02-01
参考文献数
15

薬理学と関係の深い創薬は医薬品産業政策と密接なかかわりを持つ.本稿では,医薬品産業政策の課題を,経済の基盤である市場における主体の行動と経済の関わりをもとに整理する.医薬品産業政策を考える上での問題の1つは,医薬品産業政策において重視される複数の目的が必ずしも両立可能でないということである.たとえば,現在の政策の1つの流れである医療費の抑制は,その目的においてしばしば中・長期的な経済への正の影響とトレードオフの関係にある.中・長期的な経済への正の影響とは,消費者の将来の健康そのもの,または健康に起因する経済への効果のことであり,さらに生産者である医薬品業界における研究開発投資が経済成長を起こす潜在的な機動力となる,ということである.これらの医薬品の使用が健康に及ぼす影響や創薬の経済効果は,長期間にわたり発生するため定量的な評価が著しく困難であるが,医薬品産業政策を考えるうえで重要な要素である.