- 著者
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馬 欣欣
- 出版者
- 慶應義塾大学出版会
- 雑誌
- 三田商学研究 (ISSN:0544571X)
- 巻号頁・発行日
- vol.52, no.6, pp.69-87, 2010-02
本稿では,日本と中国における賃金分布からみた男女間賃金格差について,慶應義塾パネルデータ調査(2004~2008年)と中国家計調査(2002年)の個票データを活用し,分位点回帰分析モデルを用いて実証分析を行った。主な結論は以下の通りである。第一に,全体的にみると,日本の場合,低賃金分位点に比べ,高賃金分位点で男女間賃金格差が大きくなる。一方,中国の場合,低賃金分位点に比べ,高賃金分位点で男女間賃金格差が小さくなる。日本ではガラスの天井の現象が存在する一方,中国では粘着の床の現象が存在することが明らかになった。第二に,日中とも企業規模の差異により,賃金分布からみた男女間賃金格差の状況が異なる。具体的にいえば,日本の場合,小企業,中企業,大企業で,いずれもガラスの天井の現象が存在し,またガラスの天井の現象は中企業および大企業が小企業より顕著である。一方,中国の場合,小企業および大企業では粘着の床の現象が存在する傾向にある。これらの計量分析の結果により,賃金分布からみた日本と中国における男女間賃金格差の状況が異なることがわかった。男女間賃金格差の問題を解決するため,日本と中国で取るべき政策が異なり,日本では昇進昇格における男女格差を縮小するため,女性の継続雇用促進政策が必要である。一方,中国の場合,小企業と大企業の低賃金層における男女の差別的取り扱いの問題を重視すべきであることが示唆された。Using Keio Household Panel Survey data for 2004-2008 and Chinese Household Income Project Survey data for 2002, the paper estimated gender wage differentials by wage distribution and made the comparison of glass ceiling effect and sticky floor effect in Japan and China. The main conclusions are as follows. First, there is glass ceiling effect in Japan, on the other hand, there is sticky floor effect in China. Second, there are differences of the glass ceiling effect and sticky floor effect by firm size in Japan and China. Although there is glass ceiling effect in all firms in Japan, the glass ceiling effect is remarkable in large firms than that in small firms and middle-sized firms. On the other hand, the sticky floor effect is observed in small firms and large firms in China.論文