- 著者
-
高田 洋
- 出版者
- 数理社会学会
- 雑誌
- 理論と方法 (ISSN:09131442)
- 巻号頁・発行日
- vol.23, no.1, pp.19-37, 2008-06-30 (Released:2008-08-11)
- 参考文献数
- 31
民主主義年齢を重ねた国々においては、どの国においても投票率の低下という現象が生じている。投票率の低下は、民主主義の危機のように論じられることがあるが、それはその国がどのような社会的条件にあるかによる。民主主義にとっては、そのときの政治的状況に即座に反応する投票行動ではなく、継続される投票態度の方が重要である。投票態度がどのように備わるかについて、(1)個人の社会経済的背景、(2)個人に内面化された民主的な意識、(3)社会政治的なマクロ状況の3つの要因による因果モデルを分析する。また、積極的な投票態度を持っていない人びとは社会調査に回答しにくいというバイアスを評価するためTobitモデルのHeckman推定法によってこの因果モデルを分析する。日本の2005年のデータを用いた分析の結果、次のことが明らかとなった。(1)学歴や文化資本は、反権威主義的および多元主義的意識を高めるが、この2つの意識は投票態度に直接の影響を持たない。(2)若年期に経験した高度経済成長は、非自己中心的な社会参加を促し、積極的な投票態度を形成させる。(3)若年期の経済成長が大きいほど反功利主義的人間観になるが、これは投票態度に直接の効果を持たない。(4)階層的地位は投票態度に直接の積極的な影響を与える。現代日本においては、反権威主義や多元主義が投票態度と直接には結びつかなくなる一方、経済成長の停滞は、自己中心主義または少ない社会参加を通じて、消極的な投票態度を導く。