- 著者
-
今泉 裕美子
- 出版者
- 法政大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2002
日本統治下の南洋群島研究は、国内外に残存する文書史料が少ないと見なされてきたこと、ゆえに実証に裏付けられた研究が少ないだけではなく、海軍占領以来の日本の統治期全般を射程にいれた研究は行われてこなかった。こうした研究状況に加え、戦前、戦時期の日本の南洋群島統治時代を経験した人々が格段に減りっつあるなか、とくに聴き取りや個人が所蔵する史料の調査は緊要な作業であった。本研究では、国内外での文書史料を収集(米国議会図書館、ハワイ大学図書館、北マリアナ諸島歴史保存課、サイパン博物館、韓国政府記録保存所、日本国立公文書館、日本外交史料館、など)し、その内容分析に留まらず、個別分散して所在する各史料の関係を明らかにしようとした点で、南洋群島関係史料の発掘に大きな成果をもたらした。また面接調査、および個人や引揚げ者団体が所蔵する史料の調査を進めたことも、僅少な文書史料を裏づけ、まな文書に残されない諸事実を発掘することになった。これら諸史料に基づき、日本海軍による南洋群島占領(1914)から、第二次世界大戦中および戦後にかけての米軍による占領と日本人引き揚げまで(1946)を射程にいれた日本の南洋群島統治政策、及びそのもとでの植民地社会の形成について分析を進めた。なかでも、在住日本人については、出身地(沖縄、福島、九州、八丈島、朝鮮半島など)別の、あるいは職業別、男女別、そして子どもの生活など植民地社会の形成を多面的に追究した。現地住民については、サイパン、テニアン、パラオおよびアンガウルで聴き取り調査を行い、植民地社会下での彼、らの生活や意識に、ついて分析を進め、現在論文を作成中である。しかし、以下の事態から本計画の取材対象の多くを日本人にせざるをえなかった。それは、研究期間中の2005年が日本の「敗戦60周年」にあたり、これを機に、南洋群島関連の主要な引揚げ者団体や親睦団体がつぎつぎと解散したこ.とである。報告者は、約20年にわたってこれら諸団体や徊人の取材を進めてきたが、この間の活動を踏まえながら、組織の最終段階を取材することができたごとで戦後の南洋群島引揚げ者たちの活動を明らかにするという次の研究課題の準備ともなり、また解散時だからこそ聞きうる貴重な情報を得た。一方、従来、充分に明らかにされていなかった朝鮮半島出身者についても韓国の史料と米国の史料をつき合わせて、その実態の一端を明らかにした。同時に、ミクロネシアの研究者との交流も行い、現地では大きく不足している文書史料調査や分析についても、今後も積極的に協力を続けることとなった。また、これら研究は随時、研究会で報告し方法論や史料分析について示唆を得た。米軍占領下における占領政策とそのもとでの「植民地社会」については、主に日本人の聴き取り調査に終始したが、今後はミクロネシア住民からの聴き取りと、当該時期み公文書史、料の収集をすすめ、本研究課題を発展させ、論文化を進めたい。