著者
伴 和幸 野上 大史 高見 一利
出版者
動物の行動と管理学会
雑誌
動物の行動と管理学会誌 (ISSN:24350397)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.194-203, 2022-12-25 (Released:2023-01-27)
参考文献数
20

動物園動物によるヒトの死傷事故は甚大な被害をもたらすが、正確な事故件数すら把握されていない。そこで本研究は安全対策に資するべく、国内の動物園で発生した動物によるヒトの死傷事故を定量的に評価した。5つの新聞記事データベースを用いて、約72年分の記事から加害動物、発生時の行為などを調査した。その結果、54園で発生した107件122人分(死亡25人、重傷50人、軽傷39人、不明8人)の事故を確認した。飼育員の事故原因はゾウ科の同室内作業やネコ科の扉操作が多く、近年も増加傾向にあった。来園者の事故原因はクマ科などの獣舎への侵入がほぼ全てを占めていたが、2000年代以降0件であった。ゾウ科の飼育管理は直接飼育から準間接飼育へと切り替えが行われており、事故の減少が予想される。以上より、今後動物園動物によるヒトの死傷事故を減少させるには、ネコ科の扉操作による事故の安全管理システムの再構築が必要である。
著者
高見 一利
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.49-57, 2019-07-11 (Released:2019-09-15)
参考文献数
32
被引用文献数
1

近年,生物多様性の喪失が深刻化する中で,動物園・水族館における生息域外保全への期待が高まっている。しかし,動物園・水族館の持つ施設,労力,資金といった資源は限られているため,目的や実現可能性等に基づいて優先的に取り組む種を定めるコレクション計画が策定されている。優先種に対しては,飼育下個体群の個体数や遺伝的多様性を適切に維持するための個体群管理計画が策定されており,この計画に沿って生息域外保全が進められている。さらに,最近では,保全計画の推進にあたって,動物福祉の実践も求められるようになってきている。すなわち,肉体的にも精神的にも健康な個体からなる個体群を確立し,遺伝的多様性を保ちつつ長期にわたって存続させることが求められているということである。こういった取り組みの実効性を担保するために,飼育ガイドラインの策定や動物園・水族館に対する認証制度の導入が進められており,動物園・水族館のレベル向上が図られている。保全対象種に関する普及啓発や調査研究も,動物園・水族館が行う保全活動の一環として重視されている。このように,動物園・水族館における保全活動は多様化,複雑化しつつある。生息域内保全の補完的な取り組みという位置づけではあるが,その必要性は確実に増大している。
著者
高見 一利 渡邊 有希子 坪田 敏男 福井 大祐 大沼 学 山本 麻衣 村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.33-42, 2012-06-29 (Released:2018-07-26)
被引用文献数
1

2010年度に,日本各地で野鳥から高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認され大きな問題となるなか,発生地や調査研究機関など各所で体制作りが進められた。日本野生動物医学会も,野生のツルへの感染が確認された鹿児島県に専門家の派遣を行い現場作業に貢献した。これらの取り組みから一定の成果が得られ,情報収集や体制構築の検討も進んだ一方で,様々な課題や問題点も明らかとなった。一連の活動や検討を踏まえた結果,野生動物感染症対策を効果的に促進するためには,感染症の監視と制御に役立つ体制を構築することが必要であると考えられた。従って,本学会は体制整備として,以下の取り組みを進めることを提言する。1.野生動物感染症に関わる法律の整備2.野生動物感染症に関わる省庁間の連携3.野生動物感染症に関わる国立研究機関の設立4.野生動物感染症に関わる早期警報システムの構築5.野生動物感染症に関わる研究ネットワークの構築6.野生動物感染症に関わる教育環境の整備この提言は,本学会の野生動物感染症に対する方向性が,生態学的健康の維持にあることを示すものである。
著者
吉川 泰弘 長谷川 寿一 赤見 理恵 落合 知美 倉島 治 斎藤 成也 数藤 由美子 高見 一利
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.20, pp.vi, 2004

「大型類人猿情報ネットワーク(GAIN)」は、その前身である「チンパンジー研究利用に関するフィージビリティースタディ(ナショナルバイオリソースプロジェクトの一環)」が培ってきた大型類人猿由来の研究リソース配分ネットワークとその理念を引き継ぎ、動物園などの飼育施設や研究者とのネットワークの拡大、大型類人猿死亡時のリソース分配をおこなってきた。本集会では、GAINがおこなってきた調査(研究リソースのニーズ調査、国内飼育下大型類人猿の飼育状況調査など)の結果や、リソース配分の具体例などについて報告したい。またGAINをとりまく様々な立場(資源の利用者側、飼育施設側など)からの話題提供も予定している。そのうえで、大型類人猿研究の現状と将来展望、資源配布を中心とする研究支援システムの問題点やこれからの展開について検討したい。
著者
高見 一利
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.125-130, 2014-12-22 (Released:2018-05-04)
参考文献数
5
被引用文献数
1

動物園・水族館では多種多様な動物を,生息域外保全や教育普及,調査研究といった様々な目的のために,バラエティに富んだ施設や方法で飼育している。広範な動物種を飼育しているため発生し得る感染症は多様であり,公開施設であるため多くの利用者が出入りすることから,飼育動物を感染症から守ることは容易ではない。一方で,近年,動物が関わる感染症が問題化する中で,動物園・水族館においても感染症対策は重視されており,様々な取り組みが進められている。感染症対策の検討にあたっては,予防策や拡散防止策を組織的かつ計画的に進める方法を考えることが求められる。感染症の予防には,日常の健康管理やワクチン接種などによる免疫力の向上,および環境の消毒や物理的バリアの設置などによる感染経路の遮断といった対策が考えられる。感染症の拡散防止には,健康診断や検疫,死亡時の剖検などによる早期発見,および動物の移動制限や隔離,治療,淘汰などによる封じ込めといった対策が考えられる。また,これらの対策の実効性を高めるために,組織的な対応やマニュアル等の作成,必要物品の備蓄などが求められる。動物を生息域外保全や教育普及といった目的で飼育する以上,病原体との接触を完全に遮断できる飼育環境を整えることはほぼ不可能であり,感染を皆無にすることは困難である。したがって,感染症は発生し得るという前提に立って,リスクを低減させる方法を考えることが重要である。