著者
篠田 謙一 井ノ上 逸朗 飯塚 勝 斎藤 成也 富崎 松代 安達 登 神澤 秀明
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では縄文人骨43体、弥生人骨4体の合計47体のゲノム解析を行った。ミトコンドリアDNAの全配列を使った系統解析から、縄文人は遺伝的に均一な集団ではなく、地域による違いがあることが判明した。また、弥生人の遺伝的多様性は従来考えられていたより大きなものだった。そして渡来系弥生人もすでに在来の縄文人と混血していることも明らかとなった。これらの事実は従来の日本人起源論を再考する必要があることを示唆している。
著者
山本 敏充 斎藤 成也 徳永 勝士 布施 昇男 (長崎 正朗) 河合 洋介 カラセド アンジェル
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

スペインのコリア・デル・リオ市内及び周辺に住んでいる約800名の「ハポン」姓を名乗る人々のうち、DNA解析希望者男性50名、女性51名から血液試料を採取した。スペインでDNA抽出され、匿名化後、日本で、男性DNA試料について、Y染色体上のSTRsのハプロタイプ解析を行った。また、全てのDNA試料について、ジャポニカ・アレイと呼ばれる日本人に特化された約66万個のゲノムワイドなSNPs解析を行った。その結果、日本人に由来すると考えられるY-STRハプロタイプは観察されず、また、ゲノムワイドなSNP解析からも日本人に由来すると考えられる結果が得られなかった。今後、新しい手法による解析が期待される。
著者
尾本 恵市 袁 乂だ はお 露萍 杜 若甫 針原 伸二 斎藤 成也 平井 百樹 YUAN Yida HAO Luping 袁 いーだ 〓 露萍 三澤 章吾
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

本研究は、中国東北部の内蒙古自治区および黒竜江省の少数民族であるエヴェンキ族、オロチョン族ならびにダウ-ル族の集団の遺伝標識を調査し、中国の他の集団や日本人集団との間の系統的関係を推定しようとするものである。このため、平成2年度には予備調査として各集団の分布状態や生活の概要、ならびに採血の候補地の選定などを行い、平成3年度に採血および遺伝標識の検査を実施する計画をたてた。平成2年度には、まず内蒙古自治区のハイラル付近にてエヴェンキ族の民族学的調査を実施した。エヴェンキ族は元来シベリアのバイカル湖の東側にいたが南下し、南蒙古自治区に分布するようになったといわれる。本来はトナカイの牧畜と狩猟を生紀テント生活をしていたが、現在では大部分は村落に定住し農耕を行っている。われわれは、さらに北上してソ連との国境に近いマングイ地区にて未だ伝統的な狩猟とトナカイ牧畜の生活をしているエヴェンキ族の民族学的調査をした。次いで、大興安嶺山脈の東側のオロチョン族の村落をたずね、民族学的調査を実施した。オロチョン族は大興安嶺北部および東部に散在して分布し、人口はわずかに約3千2百人(1978年)である。元来は狩猟と漁労を生業としていたが、現在では村落に定住し、農耕を行っている。エヴェンキとオロチョンの身体的特徴としては平坦な丸顔、細い眼、貧毛などの寒冷適応形態をあげることができる。われわれは、さらに、黒竜江省との境界に近いモリダワ地区にてダウ-ル族の民族学的調査を行った。ダウ-ル族はエヴェンキやオロチョンと異なり、それほど頬骨が張っていず、かなり系統の異なる集団であるとの印象を受けた。日本隊の帰国後、中国側の分担研究者により、ダウ-ル族150名の採血が実施され、遺伝標識(血液型9種、赤血球酵素型8種、血清タンパク型4種)の検査もなされた。平成3年度には、ハイラル市の近くの民族学校にてエヴェンキ族の117検体を採血し、またオロチョン族については内蒙古自治区のオロチョン旗(アリホ-)および黒竜江省の黒河の近郊にて81検体を採血した。これらの試料につき、血液型10種、赤血球酵素型6種、血清タンパク型3種の型査を行い、18の遺伝子座に遺伝的多型を認めた。個々の多型の検査結果のうち、特に注目すべき点は次の通りである。Kell血液型では、エヴェンキではK遺伝子は見られなかったが、オロチョンではごく低頻度(0.006)ではあるがK遺伝子が発見された。この遺伝子はコ-カソイドの標識遺伝子であり、モンゴロイドでは一般に欠如している。今回の結果は、オロチョンの集団にかつてコ-カソイド(おそらくロシア人)からの遺伝子流入があったことを示す。同様のことは、赤血球酵素のアデニル酸キナ-ゼのAK*2遺伝子に見られた。この遺伝子もコ-カソイドの標識遺伝子であるが、エヴェンキに低頻度(0.009)ではあるが発見された。また、血清タンパクのGC型のまれな遺伝子1A2がオロチョンで0.012という頻度で発見されたことも興味深い。この遺伝子は始め日本人で発見されGcーJapanと呼ばれていたもので、従来、朝鮮人には見られるが、中国の集団からは発見されなかった。したがって、この遺伝子の分布中心は東北シベリア方面である可能性が示唆された。これらの遺伝子の頻度デ-タにもとづき根井の遺伝距離を算出し、UPGMA法および近隣結合法により類縁図を作成した。比較したのは中国の少数民族6集団および日本の3集団(アイヌ、和人、沖縄人)である。日本人(和人)に最も近縁なのは朝鮮人であり、ついでダウ-ル族およびモンゴル族がこれに続く。このことは、日本人(和人)の形成に際し朝鮮からの渡来人の影響が大であったことを物語る。エヴェンキとオロチョンとはひとつのクラスタ-を形成するので、互いに近い系統関係にあると考えられる。しかし、両集団共日本の3集団とはかなり遠い系統関係にあることが明らかとなった。
著者
竹沢 泰子 斎藤 成也 栗本 英世 貴堂 嘉之 坂元 ひろ子 スチュアート ヘンリー 松田 素二 田中 雅一 高階 絵里加 高木 博志 山室 信一 小牧 幸代
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、京都大学人文科学研究所における定期的な共同研究会と2002年に国際人類学民族学会議において東京と京都において行った国際シンポジウムをもとに、推進してきた。共同研究では年間13日間開催し、毎回5時間以上かけ2人以上が報告を担当した。これまで検討してきた人種の概念に加え、人種の表象と表現に焦点を当てながら、人種の実在性についても、発表や討議を通して研究を発展させた。本研究の最大の成果は、2002年に国際人類学民族学会議において東京と京都において行った国際シンポジウムをもとに、学術研究書をまもなく刊行することである(竹沢泰子編 人文書院 2004)。この英語版も現在アメリカ合衆国大学出版局からの出版にむけて、準備中である。本研究の特色のひとつは、その学術分野と対象地域の多様性にある。さまざまな地域・ディシプリンの人種概念を包括的に理解する装置として、編者(研究代表者)は、小文字のrace、大文字のRace、抵抗としての人種RR(race as resistance)を主張する。それによって部落差別などの意見目に見えない差別の他地域との共通性が見えてくる。さらに、それぞれの三つの位相がいかに連関するかも論じた。また人種概念の構築や発展にとって、近代の植民地主義と国民国家形成がいかに背後に絡んでいるかも考察した。具体的には、まず広告、風刺画、文学作品、芸術作品に見られる人種の表象、アフリカや南米でのアフリカ人の抵抗運動、言説分析、ヒトゲノムや形質(歯や頭骨)からみたヒトの多様性なである。地域的にも、琉球、中国、インド、ドイツ、フランス、アフリカ、アメリカ、南米などにわたった。
著者
斎藤 成也
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.1-9, 2009 (Released:2009-06-20)
参考文献数
31

20世紀末にはじまったゲノム研究は,ヒトゲノム解読をひとつの到達点とした。しかしそれは終わりではなく,始まりだった。ヒトゲノム配列をもとにして膨大なSNPやマイクロサテライト多型の研究が急激に進み,小数の古典多型マーカーを用いた従来の研究成果を追認しつつ,日本列島人の遺伝的多様性についても新しい光が当てられつつある。また個々人のゲノム配列を決定する研究も進展している。これらヒトゲノム研究の新しい地平を紹介した。
著者
斎藤 成也 藤尾 慎一郎 木部 暢子 篠田 謙一 遠藤 光暁 鈴木 仁 長田 直樹
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2018-06-29

リースしているサーバー(すさのを)および国立遺伝学研究所のスーパーコンピュータを用いて、現代人ゲノムの解析環境をととのえた。2018年度に購入したサーバー2台(うみさちとやまさち)を用いて、古代人や公開されている現代人ゲノムや動植物ゲノムデータの格納をおこない、それらデータの解析環境を整えた。季刊誌Yaponesianの2020年はる号、なつ号、あき号、2021年ふゆ号を編集刊行した。新学術領域研究ヤポネシアゲノムのウェブサイトを運営した。特に今年度は英語版を充実させた。2020年6月27-28日に、立川市の国立国語研究所にて総括班会議と全体会議をハイブリッド方式で開催した。2021年2月15-17日に、国立遺伝学研究所と共催で「ゲノム概念誕生百周年記念シンポジウム」をオンラインで開催した。2021年3月2-3日に、 「第2回くにうみミーティング」(若手研究者育成の一環)を開催し、公開講演会もオンラインで実施した。2021年3月19-21日に、佐倉市の国立歴史民俗博物館にて全体会議と総括班会議をハイブリッド方式で開催した。
著者
今村 薫 斎藤 成也 石井 智美 星野 仏方 風戸 真理 Nurtazin Sabir Azim Baibagyssov
出版者
名古屋学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

世界には、おもにモンゴルに分布するフタコブラクダとアラビア半島からサハラ砂漠に分布するヒトコブラクダの2種の家畜ラクダがいる。これらは別種だが、カザフスタンでは昔から目的に応じて2種の交配が行われてきた。近年は、乳量の多いヒトコブラクダと、寒さに強くてカザフスタンの気候に適したフタコブラクダを交配させたハイブリッドの作出が盛んになってきている。そこで、ラクダの動物としての特性をDNA、生態、行動の点から解明すると同時に、ラクダを人間がどのように利用してきたか、その相互交渉の歴史と現状についての研究を進めた。
著者
斎藤 成也 伊藤 元己 田村 浩一郎 今西 規
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は,遺伝子系統樹と種系統樹のデータベースを試作することである。3年のあいだに,以下のものについて,すべての系統樹の図の入力を行った。斎藤が担当したのはMolecular Phylogenetics and Evolutionは1992年(第1巻)〜1997年(第8巻),Molecu1cu Biology and Evolutionは1983年(第1巻)〜1998年(第15巻),Journa1 of Molecular Evolutionは1993年(第36巻)〜1998年(第46巻),田村が担当したのは遺伝学雑誌/Genes and Genetic Systemsが1981年(第56巻)〜1997年(第72巻),Geneticsが1980年(第95巻)〜1997年(第146巻),Zoological Scienceが1984年(第1巻)〜1997年(第14巻),今西が担当したのはNatreが1991年(第349巻)〜1995年(第376巻),Scienceが1991年(第254巻)〜1995年(第267巻),PNASが1991年(第88巻)〜1995年(第92巻),伊藤が担当したしたのはAmerican Journal of Botanyが1988年(第75巻)〜1997年(第84巻),Evolutionが1990年(第44巻)〜19956年(第50巻),Systematic Botanyが1990年(第15巻)〜1995年(第20巻)である。この系統樹データベース"Jung1e"は斎藤が本科研費で購入したワークステーションに移して集中管理しており,WWWですでに公開している(URL=http://smi1er.1ab.nig.ac.jp/jung1e/ungle.htme)。著者名,諭文名,図の題名などのテキストを検索する子システムを現在準備中である。CDROMでも配布する予定である。
著者
斎藤 成也 井ノ上 逸朗 吉浦 孝一郎 Jinam TimothyA 松波 雅俊
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2018-06-29

以下の地域の住民からDNAサンプル入手を試みた:(1)沖縄、(2)九州(なし)、(3)中国(隠岐諸島、鳥取県)、(4)四国(徳島県)、(5)近畿(なし)、(6)中部(なし)、(7)関東(なし), (8)東北(山形県)。具体的には、4人の祖父母がすべてその地域出身者である提供者50名をえらび、本研究について説明してインフォームドコンセントを取得し、DNAサンプルの供与を受ける。既存の全ゲノムSNP多型データを持つ研究機関などの協力も得る。沖縄地域は松波(琉球大学)が、九州地域は吉浦(長崎大学)・井ノ上(遺伝研)・斎藤(遺伝研)が、中国・四国・近畿・中部・関東・東北地域については、斎藤と井ノ上がサンプリングを担当した。全ゲノムSNP多型データが未決定の人間について、ゲノム規模SNPデータを決定する。一部個体についてはゲノム配列決定をおこなった。現代人のゲノムをすでに決定した日本の研究機関および海外の研究機関やゲノムデータの解析を大規模に進めている海外の研究者と連絡をとり、共同研究を継続した。
著者
山本 敏充 斎藤 成也 打樋 利英子
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

日本国内の地域集団及び日本周辺諸国の地域集団から採取されたDNA試料について、多数のほぼ均等に常染色上分布する4塩基リピートのSTRs(short tandem repeats)マーカーが型判定された。そのうち、105座位のSTRsが、日本人5地域(秋田・名古屋・大分・沖縄)、中国人(漢民族) 5地域(北京・陝西・湖南・福建・広東)、タイ人(バンコク)、ミャンマー人(ヤンゴン)、モンゴル人2地域(オラーゴン・ダランザドガド)、韓国人(ソウル)及び中国人(朝鮮族)(瀋陽)のDNA試料が型判定され、系統遺伝学的、構造遺伝学的、3次元的分布などの集団遺伝学的解析が行われた。その結果、日本人と中国人とが統計学的に区別できる可能性が示唆された。そこで、各座位のアレルごとの中国人に対する日本人らしさの割合を算出し、その割合を各個人ごとに積算した分布を正規分布に補正したところ、ある程度日本人と中国人とを確率的に区別できる方法が確立できた。また、同様に250以上のSTRs座位を型判定できるマルチプレックスシステムを構築した。このシステムを利用することにより、日本人と韓国人、あるいは日本人国内の地域差を調べることができる可能性が考えられた。
著者
吉川 泰弘 長谷川 寿一 赤見 理恵 落合 知美 倉島 治 斎藤 成也 数藤 由美子 高見 一利
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.20, pp.vi, 2004

「大型類人猿情報ネットワーク(GAIN)」は、その前身である「チンパンジー研究利用に関するフィージビリティースタディ(ナショナルバイオリソースプロジェクトの一環)」が培ってきた大型類人猿由来の研究リソース配分ネットワークとその理念を引き継ぎ、動物園などの飼育施設や研究者とのネットワークの拡大、大型類人猿死亡時のリソース分配をおこなってきた。本集会では、GAINがおこなってきた調査(研究リソースのニーズ調査、国内飼育下大型類人猿の飼育状況調査など)の結果や、リソース配分の具体例などについて報告したい。またGAINをとりまく様々な立場(資源の利用者側、飼育施設側など)からの話題提供も予定している。そのうえで、大型類人猿研究の現状と将来展望、資源配布を中心とする研究支援システムの問題点やこれからの展開について検討したい。
著者
宝来 聰 潘 以宏 斎藤 成也 石田 貴文 PAN I-Hung
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

本研究は、2年間にわたる台湾先住少数民族の人類遺伝学的調査である。これら先住民族は、高山族(現地では山胞)と総称されているが、過去における言語・風俗の違いより、さらに9種族(プユマ族、ルカイ族、パイワン族、ブヌン族、アミ族、ヤミ族、タイヤル族、ツオウ族、サイセット族)に分類されている。この研究では、これら9族すべてを網羅した、各種遺伝マ-カ-を指標とした人類遺伝学的研究により、各種族の遺伝的特徴を明かにすると共に、高山族間の遺伝的関係さらには、他の人類集団との比較分析より高山族の遺伝的位置づけを解明することを目的としている。さらに、中国人や高山族間での混血化の進むいま、リンパ球の株化により人類遺伝学的に貴重な試料の永久保存もひとつの目的としている。平成2年度の調査は予想以上に進展し、台湾本島南部5種族(プユマ族、ルカイ族、パイワン族、ブヌン族、アミ族)および蘭嶼島のヤミ族に関しても調査、採血を終了することができた。従って平成3年度は、本島中北部の3種族(タイヤル族、サイセット族、ツオウ族)の調査・採血を行ない、当初予定した高山族9種族の研究調査が完了することが出来た。さらに、一種族あたり40名ぐらいの採血予定であったが、いずれの種族でもこの数を上回る検体が収集でき、9族で総計661名より血液試料を得ることができた。内訳は、プユマ族・64名、ルカイ族・54名、パイワン族・60名、ブヌン族・88名、アミ族・72名、ヤミ族・78名、タイヤル族・100名、ツオウ族・81名、サイセット族・64名である。2年間の調査研究によって台湾少数民族9種族の試料を分析することが可能になった。既に各種族ごとに血液型の分布を明らかにした。血液型は日赤医療センタ-との共同で、10形質についてすでに分析を終了したが、学術上極めて注目すべき結果が得られた。ミルテンバ-ガ-型は、東南アジア、中国においては約10%の抗原頻度を示し、日本においては1%以下の抗原頻度しかない。しかし、蘭嶼島のヤミ族では50%、本島海岸部のアミ族では90%と今までの人類集団では報告のない高い抗原頻度を示した。さらに、ブヌン族、パイワン族ではこの抗原は全く見いだされず、プユマ族、ルカイ族では10%以下と、高山族の各族で顕著に抗原頻度が異なることが明かとなった。さらに各種族ごとにHTLVー1抗体の陽性の頻度を検索したが、タイヤル族の1個体のみが陽性であった。さらに陽性個体に関してはウイルスゲノムの解析した。ミトコンドリアは、3%(タイヤル族)から46%(ヤミ族、ツオウ族)まで集団によって大きく異なる結果であったが、高山族全体では28%となり、いままで報告のある東アジア集団(日本人、韓国人、中国人)では一番の高値を示した。また、ミトコンドリアDNA・Dル-プの塩基配列を各種族より数個体で決定した。これらの塩基配列のデ-タは、大型コンピュ-タで処理し、種族内および種族間での遺伝的変異を定量化した。さらにミトコンドリアDNAの分子系統樹を日本人、中国人を含む他集団のデ-タを加えて作成し、高山族の遺伝的位置づけを行なった。ミトコンドリアDNAおよび血液型の調査結果からは、高山族全般には南方系モンゴロイド集団の特徴を示すことが明かとなった。しかし、9種族の族間の多様性が顕著に観察されたことより、比較的最近まで種族間において遺伝的隔離があったものと考えられる。また日本側班員のもつ最新のDNA分析技術の台湾への導入も国際学術研究としての大きな目標のひとつであった。さらにセルライン化した試料は先住少数民族の貴重な遺伝子資源として、将来台湾および日本間での様々な共同研究に応用できると考えられる。
著者
野田 令子 斎藤 成也
出版者
Primate Society of Japan
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.157-167, 2000 (Released:2009-09-07)
参考文献数
15

There are three common alleles (A, B, and O) at the human ABO blood group locus which codes glycosyltransferase. The polymorphisms of the ABO blood group are also observed in wide variety of primates. The difference of the glycosyltransferase activity between human A and B enzymes is due to the two amino acid differences. The same amino acid differences are observed for A and B alleles in non-human primates. We determined 19 sequences of chimpanzee, 8 sequences of bonobo, and 2 sequences of Japanese macaque ABO blood group gene for exon 3 and intron 6 (ca 1.7kb). We also determined 3 sequences of Japanese macaque ABO for exon 7 (ca. 0.5kb). We compared those data with published sequences of other hominoids and Old World monkeys. It was suggested that the type changes between A and B occurred independently in the both lineages of the hominoids and Old world monkeys. The alleles A and B appeared to be polymorphic in the ancestral species of macaques, while the different B type allele evolved independently in baboon lineage.
著者
針原 伸二 斎藤 成也
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.97, no.4, pp.483-492, 1989

制限酵素を用いたミトコンドリア DNA 多型のデータを文献より収集し,以下の15集団計885名のミトコンドリァ DNA(mtDNA)タイプを分析した:コケィジアン,東洋人(おもに中国人),バンツー,ブッシュマン,アメリンディアン,ユダヤ人,アラブ人,タール人(ネパール),ローマ市住民,サルディニア島住民,日本人,アイヌ人,韓国人,ネグリト(フィリピン),およびヴェッダ(スリランカ).4種類の制限酵素AvaII, BamHI, HpaI, MspI の切断パターンを組み合わせると,全個体は57種類の mtDNA タイプに分類された.これらの mtDNA タイプの系統関係を,最大節約法を用いて無根系統樹として描いたところ, mtDNA タイプは大きくふたつのグループに分かれた.ひとつは,ほとんどがアフリカの2集団(バンツーとブッシュマン)のみに見いだされたタイプによって構成されるグループであり,もうひとつは,主としてアフリカ以外の集団に見いだされたタイプによるグループである.各 mtDNA タイプの集団における出現頻度を考慮して,集団間の遺伝距離を推定し,そこから UPGMA (単純クラスター法)を用いて,15集団の系統樹を作成した.ネグリトを含むアジア•アメリカ大陸の7集団(ヴェッタを除く)は,お互いに遺伝的にきわめて近縁であり,単一のクラスターを形成するが,コーカソイドの5集団は,やや遺伝的に異質であった.一方,アフリカ大陸の2集団は,他集団から大きく離れていた.
著者
斎藤 成也
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
Anthropological science. Japanese series : journal of the Anthropological Society of Nippon : 人類學雜誌 (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.1-9, 2009-06-01
参考文献数
31

20世紀末にはじまったゲノム研究は,ヒトゲノム解読をひとつの到達点とした。しかしそれは終わりではなく,始まりだった。ヒトゲノム配列をもとにして膨大なSNPやマイクロサテライト多型の研究が急激に進み,小数の古典多型マーカーを用いた従来の研究成果を追認しつつ,日本列島人の遺伝的多様性についても新しい光が当てられつつある。また個々人のゲノム配列を決定する研究も進展している。これらヒトゲノム研究の新しい地平を紹介した。<br>