著者
大類 真嗣 黒田 佑次郎 安村 誠司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.407-416, 2019-08-15 (Released:2019-09-21)
参考文献数
23
被引用文献数
1

目的 2011年の福島第一原子力発電所事故による住民の精神的健康度の指標として,避難区域の自殺死亡率の動向を継続的に把握しており,2015年時点で避難指示が解除された市町村で上昇していることを確認した。そのため,1. 2017年4月までに避難指示が解除された区域の自殺死亡率のモニタリングを行い,2. 避難指示解除後に自殺死亡率の上昇の懸念のある福島県飯舘村を対象に,住民の自殺予防,精神的健康の向上を目的とした対策を展開した。方法 1. 自殺死亡率のモニタリング:人口動態調査を基に,2017年4月までに大部分の地域で避難指示が解除された8市町村を対象に,自殺死亡率の推移を検討した。2. 福島県飯舘村を対象とした避難指示解除後の自殺・メンタルヘルス対策:以下の3つの内容で対策を展開した。1)精神的健康度や自殺念慮に関するスクリーニングおよび個別支援,2)住民リーダーや支援者へのゲートキーパー養成講座を通じた地域づくり,3)被災自治体の職員への技術的支援(スクリーニングおよびハイリスク者支援,地域自殺対策計画策定に向けた住民の健康課題の抽出や事業整理および一般職員向け研修)。活動内容 1. 避難指示解除区域の男性の自殺死亡率は低い状況から一転し,解除開始後の2015年から3年間全国よりも高い状況が続いた。女性では2013年以降全国水準よりも高く,とくに避難指示解除が進んだ2017年は全国よりも有意に高い状況であった。2. およそ4,800人の住民を対象に行ったスクリーニングでは,精神的健康度,ソーシャルサポート,1年以内の自殺念慮などを総合的に判断してハイリスク者を選別し,個別支援を行った。地域自殺対策計画策定に向けた住民の健康課題の抽出では「子ども家族との再同居で気を遣う」,「かつての仲間が村にはおらず孤独」など,仮設住宅からの転居の影響による,避難指示解除後に特徴的な課題が浮き彫りになった。その状況を踏まえ,様々な理由で精神的健康が損なわれている住民と接する機会の多い自治体一般職員向け自殺研修を開催した。結論 避難指示解除区域の自殺死亡率のモニタリングや,コミュニティーの再分離といった避難指示解除後に特徴的な背景を踏まえ,地域づくりを意識したゲートキーパー養成,被災自治体の一般職員に対する研修を行った。解除後の自殺死亡率の上昇を踏まえ,当該地域での対策をより一層強化していく必要がある。
著者
内藤 航 岡 敏弘 小野 恭子 村上 道夫 保高 徹生 石井 秀樹 黒田 佑次郎 作美 明
出版者
国立研究開発法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

福島の地域住民や行政と連携した個人被ばく線量の実態把握、リスク対策に資する個人被ばく推定手法の開発、被ばく線量低減対策の社会経済性評価と国内外におけるリスク対策(食品基準の設定)等を分析・整理を行った。福島の避難解除準備地域における個人被ばく線量の実測値は、ばらつきは大きいものの、当初の推定より低いことが実証された。被ばく線量低減対策の費用はチェルノブイリのそれと比較すると相当高いことがわかった。本研究により得られたエビデンスは、科学的合理性が高く社会に受容されるリスク対策の検討において、貴重な情報を提供すると考えられる。
著者
黒田 佑次郎 岩満 優美 轟 慶子 石黒 理加 延藤 麻子 松原 芽衣 岡崎 賀美 山田 祐司 宮岡 等
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.306-313, 2012 (Released:2012-03-02)
参考文献数
14
被引用文献数
3

【目的】緩和ケア病棟(以下, PCU)入院中の患者とその家族を対象に, 入院前後のPCUに対する認識と印象の変化を質的に検討した. 【方法】PCUの入院患者5名と家族9名に半構造化面接を実施し, 要約的内容分析を行った. 【結果】入院前の印象は, 患者では“想像がつかない”など「特に印象がない」を含む2カテゴリー, 家族では“最期を迎えるところ”や“穏やかに過ごす場所”など「PCUの環境」を含む5カテゴリーが得られた. 入院後の印象は, 患者では“心のケアが重要”など「PCUでのケア」を含む3カテゴリー, 家族では“個室でプライベートがある”など「PCUの環境」を含む7カテゴリーが得られた. 【結論】PCU入転院に際し, 家族は“安心が得られる”と“最期を迎えるところ”という気持ちが併存していることが示された. また, 入転院前に比し入転院後は, 患者と家族ともにPCUに対して好意的な印象をもっている可能性が示唆された.