著者
片柳 憲雄
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.121, no.12, pp.665-669, 2007-12

一般病院でもがん治療とともにがん痺痛治療を同時に行う必要があるため,緩和ケア研究会の幹事メンバー(医師,薬剤師,看護師,栄養士)とともに,緩和ケアチームを立ち上げ,全病棟のラウンドを開始した.2007年4月1日から,がん対策基本法が施行され,率先して痺痛治療を行わなければならなくなった.当院はがん診療連携拠点病院であるとともに,研修指定病院にもなっており,若い研修医や看護師,医学生や看護学生への影響が多大である.がん疼痛治療を実践してくれない常勤医に代わって,常に患者の傍にいる研修医などを教育することでよい結果が得られてきた.2007年4月現在,ラウンドは毎週火曜日に医師1名以上,看護師,薬剤師と栄養士は1名ずつで,全病棟を巡回している.これに,研修医,医学生,薬科大学院生などが加わる.ラウンド後に全症例のカンファレンスを開催している.2007年3月までの最近の2年間にラウンドした207例の依頼理由は80%以上が疼痛関連であった.ラウンド回数は平均5回(1回〜75回)であり,ラウンド回数が多くなるほどチームとのかかわりが親密になりよい影響を与えていた.WHOが推奨するがん癒痛治療法は以下の5原則に要約されている.(1)By mouth(経口的に),(2)By the clock(時間ごとに),(3)By the ladder(段階的に),(4)For the individual(個別的な量で),(5)With attention to detail(細かい配慮を)であり,これを熟知し,除痛により延命が可能になることを他の医療者,患者,家族に啓蒙する必要がある.当院での入院患者の徐放性オピオイドの使用状況は,2006年時点でMSコンチン^[○R]4%,オキシコンチン^[○R]58%,デロテップパッチ^[○R]31%,アンペック^[○R]7%となっている.オキシコドン速放製剤がレスキュー使用可能となり,オキシコドン徐放錠がさらに使いやすくなった.経口摂取可能な間はオピオイドも経口でということで,オキシコドン徐放錠をFirst Choiceで使用している.ASCO(米国臨床腫瘍学会)のガイドラインにもあるように,フェンタニル貼付剤は痛みが安定していて経口摂取に問題がある症例に勧めている.医療者はWHO方式がん痺痛治療法を熟知し,癌治療と平行してがん痺痛治療も行っていかなければならない.
著者
渡辺 徹
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.121, no.10, pp.562-564, 2007-10

新潟市民病院では,25年前から,当院で初期研修を終了した医師の希望者に対して,「特別研修医」の名称で1-3年の後期研修を行ってきた.2002年からは(シニア)レジデントに改称し,各科の研修プログラムを公開し全国公募を始めた.いままでに48名が当院で後期研修を終了し,13名が現在研修中である.後期研修として選択した科は小児科,消化器科,呼吸器科,救命科が多かった.後期研修終了後の進路は,大学医局への入局が半数強,当院へスタッフとしての就職が3割であった.当院における後期研修の問題点としては,後期研修終了後の進路について明確に提示していない点と,研修評価が十分なされていない点であり,改善が必要である.今後新潟大学や県内の各臨床研修病院と協力して,より良い後期研修体制が構築できるよう努力していきたい.
著者
酒井 靖夫
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.7-11, 2008-01

当院は19診療科目,病床数427床,平均在院日数13.5日の一般急性期病院で,新潟市の中核病院の一つだが,脳外・皮膚科の常勤医が不在で,一人医長が6科もある.医師総数は49〜51名と減少傾向にある.救外当直は医師平均月1.5回で,一日平均23人が受診し,4-5人が入院した.当直翌日は通常勤務となり,一人診療科では大きな負担である.筆者は週3回の外来,毎朝の術前症例検討会および外来日以外の病棟回診および術後回診を行い,週4日午後から手術日である.診療以外に月1回管理会議,13委員会で4つの委員長を務め,毎週のNST回診を含めてかなりの時間がとられる.平日は朝7時半に家を出て,夜8時〜9時過ぎに帰宅している.手術などの診療内容の量と密度が医療の進歩に伴って増加しているが,それ自体はあまり負担でなく,説明義務・カルテ記載,種々の説明・承諾書類の急増,病院雑用・会議など医療以外の業務が集中して負荷過多になっている.また,患者の過剰な権利意識などに基づく苦情・トラブルよる精神的・体力的疲労に勤務医は悩まされている.改善策としては医師の絶対数を増やし診療報酬を適正化することが必要不可欠であるが,国民の理解を得るための啓蒙・広報活動,勤務医不足の要因となる早期離職グループを増やさない環境つくりの2点が我々に求められる.医師個人の行動は微力であり,発言する医師(会)や政治活動する医師を皆で援護する必要があろう.医師以外の新規専門職の創設・養成による積極的な診療外業務の代替・委任や補助作業の委譲,書類の簡素化・統一化・OA化などによる雑用減量が望まれる.無過失保障制度等の導入による被害患者救済,事故再発防止に向けた第三者・中立機関による検証と警察介入の抑制など医療紛争解決手段の充実も必要であろう.また,医療機関の機能分化(地域中核病院とサテライト病院・診療所)とそれに就労する医師の適正配置を行うことによる体力・気力・年齢に応じた医師の高齢化後の就労先の確保も重要である.勤務医継続に大切なのは仕事をする環境整備である.その経済的負担は,現時点では当該病院がしなければならないので,トップの考え方により病院内環境に格差が生じると推測される.
著者
伊藤 寛晃 畠山 勝義 廣田 正樹 田中 修二 木原 一
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.117, no.6, pp.305-309, 2003-06-10

癒着性腸閉塞症を発症した幽門側胃切除後の73歳男性に対して,イレウス管を挿入し,自然流出による腸内容減圧療法を開始した.イレウス管は順調に進入し,イレウス症状は改善した.しかし第5病日朝に腹痛が出現,イレウス管の固定位置を修正していなかったためにイレウス管が緊張した状態となっていた.イレウス管造影を行うと,小腸がイレウス管を軸としてらせん階段状に収縮していた.完全な腸重積になっていなかったため,イレウス管の固定を解除することによって自然軽快した.本症例は,イレウス管による腸重積発症機序の一端を示すものと考えられた.イレウス管挿入中は慎重な観察が必要であると考えられた.
著者
吉原 博幸
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.112, no.7, pp.390-399, 1998-07

Installation of the order entry system had been done in the college hospital. However, Installation of the order entry system has just begun in middle sized hospitals. On the other hand, at the middle sized hospitals which does not equipped with the order entry system, the administrator is considering to install the electronic health record system rather than to install the order entry system, In case of small hospitals, there is no merit of installing the order entry system. So, many young doctors who are working at these small institution is considering to install the electronic health record system. In this paper, the history of the development of hospital information system and status quo of the development of electronic health record is described.
著者
坂井 貴胤
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.117, no.11, pp.626-635, 2003-11-10
被引用文献数
5

インフルエンザウイルス感染症については,血清疫学,月別・年齢別出現頻度などの研究は多数行われている.一方,流行の地域的展開については本研究で用いた地理情報システム(geographic information system, GIS)により,流行動態を目に見える形で報告しているフランスの例があるが,日本国内では県別・保健所別の報告という断片的な分布の提示にとどまっている.そこで本研究では新潟県内におけるインフルエンザ流行動態を,A型,B型の各型別も含めて,GISを用いた空間的疫学解析を行った.2001-02年インフルエンザシーズンに地理情報システム(geographic information system, GIS)によるインフルエンザの空間的解析を,新潟市内の隣接する3小児科医院という限定した地域と,新潟県全域とに分けて行った.流行は一峰性でA型とB型はほぼ一致し,A型は乳幼児を,B型では小学生を中心とした流行であった.小児科医院におけるA型,B型の型別の患者分布を,時系列に沿って連続したInverse distance weighted (IDW)地図により解析した.A型は多焦点で拡散し,B型では流行の中心が徐々に地理的に移動していく異なった流行伝播様式が明らかとなった.患者相互間距離の時系列的な比較による数学的検討でも,空間的伝播様式の違いが支持された.新潟県内の学級・学校閉鎖実施状況の点の濃淡表示による空間的解析においては,県全体では流行は上越地方から始まり,中・下越地方へ,都市間では大きな市を中心としてその周辺部へと拡散していったことが示唆された.以上,GISによるインフルエンザ感染症の空間的解析は,地域に密着した形での疫学情報を視覚化することが可能であり,今後の予防対策への貢献が十分に期待されるとともに,多くの感染症や他の公衆衛生的活動にも有効と思われた.