著者
渡辺 拓 高塚 尚和 Watanabe Hiraku Takatsuka Hisakazu
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 = Niigata medical journal (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.130, no.6, pp.361-373, 2016-06

全国の交通事故発生件数,負傷者数及び死者数は減少しているが,高速道路における交通事故は増加傾向にある. 一般に高速道路では, 事故が発生すると乗員が重篤な外傷を負う可能性が高く, 事故時の救急搬送体制,救急医療体制の整備が求められている.本研究では,新潟県警察本部交通部から提供された新潟県内の関越自動車道において, 2006年1月から2012年12月末までに発生した人身事故292件について,病院への救急車による搬送の状況を中心に調査を行い,救急医療の現状と問題点について検討した.交通事故292件中,救急搬送された件数は182件(搬送率62%)であった. 負傷者数は463人(軽傷者371人, 重傷者81人,死者11人)であり,救急搬送された負傷者は309人(搬送率67%)(軽傷者228人, 重傷者70人,死者11人)であった.事故発生時刻は, 8~17時に比較的多く発生し, 21~23時, 2時~4時は少ない傾向にあった.事故現場から病院に搬送されるまでに要した時間は、平均20分,距離は平均15.4kmであった. また事故発生現場は関越道ほぼ全域に見られ,負傷の程度とも明らかな関連は認められなかった.救急搬送された負傷者309人のうち,重傷者及び死者が81人と約1/4を占めていたが, 関越自動車道が整備されている中越及び魚沼地区では,高度の救命救急医療が可能な医療機関は,長岡赤十字病院,立川綜合病院,長岡中央総合病院と長岡市に偏在している. 重篤な負傷者は,受傷後1時間以内に手術が行われるか否かが生命予後を決定する重要な因子であるが,前述の3病院に搬送された事例において,交通事故の覚知から病院に搬送されるまでに要した時間が1時間を超えたものが64人中19人, 32%存在していた. 2015年6月に開院した魚沼基幹病院が救急搬送にもたらす効果を明らかにするため,関越自動車道の各キロポスト区間における最短搬送時間と距離を算出し,魚沼基幹病院開院前と同院開院後での変化をシミュレーションした.その結果,上り線では平均搬送時間が27分,搬送距離が26.6km短縮され(p<0.05), 下り線では平均搬送時間が24分,搬送距離が25.3km短縮されることが判明した(p<0.05). さらに上り線及び下り線がそれぞれ交差している国道及び県道に,高速自動車道から直線の救急車専用退出路を設置したと仮定して, 1キロポスト毎に搬送時間を検討した.その結果,上り線では平均搬送時間が3分短縮し(p<0.05), 下り線では1分短縮した(p<0.05). 2016年秋頃に2機目のドクターヘリが長岡赤十字病院に導入されることから,前述の長岡市の3病院に搬送された64人についてその効果を検証した.その結果,平均搬送時間が19分短縮されることが、判明した(p<0.05). しかし, ドクターヘリには,夜間巡航や高速道路上に直接着陸できない等の問題があることから,消防防災ヘリとの連携,高速道賂上やサービスエリア離着陸の検討が必要である. さらにドクターカーの適切な運用や高速道路からの救急車専用退出賂の整備等も必要である.救急搬送に関わる諸機関がこれまで以上に連携して,救急搬送を取り巻く環境及びシステムを改善・構築し, さらなる人命救助に繋げる必要があると考える.
著者
渡辺 賢一 井上 幹雄 中野 るりこ 文 娟 国崎 恵 水戸 沙耶佳 馬 梅蕾 TV プニヤコッテイ G ナラシマン PS スレシュ P パラス M ワヘッド KA ファデア AE リヤド H ベナム 平山 匡男 小林 隆司 小山 博史 神田 光雄
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.120, no.5, pp.279-289, 2006-05-10

【目的】γ-aminobutyric acid (GABA)・リンゴ酢含有飲料水「顆糖熟(かとなーる)^[○!R]」の血圧に及ぼす作用と安全性を検討した.【方法】対象は,正常血圧者(収縮期血圧130mmHg未満かつ拡張期血圧85mmHg未満.N群.8名)と未治療正常高値血圧者(収縮期血圧130-139mmHgまたは拡張期血圧85-89mmHg)・軽症高血圧患者(収縮期血圧140-159mmHgまたは拡張期血圧90-99mmHg)のH群(10名)のボランテア計18名(男/女=13/5.平均46±3歳.)である.1本90mlにGABA70mg含有する飲料水「顆糖熟^[○!R]」を1日1本12週間摂取し,2週間毎に血圧・血液生化学・尿を検査した.【結果】診察所見・自覚所見で有害事象は見られなかった.N群では摂取による血圧の有意な変化は見られなかった(収縮期血圧118±3mmHgから113±4mmHg).H群では,摂取6週目から血圧低下が見られ,開始日(収縮期血圧136±2mmHg)と比較して10・12週目に有意な低下が見られた(収縮期血圧129±3・128±4mmHg,両p<0.05).興味深いことに,摂取中止2週後は更に血圧が低下し(126±3mmHg,p<0.05),中止4過後に血圧が上昇してきて摂取前と差が見られなくなった(130±4mmHg).摂取による血液生化学・尿検査の異常変化は見られなかったが,血糖値・GOT・γ-GTP・LDHの有意な低下と総コレステロール値の低下傾向が見られた.【総括】GABA含有飲料水「顆糖熟^[○!R]」は正常高値血圧者・軽症高血圧患者で緩やかに血圧を降下させ,安全性が高いことが示唆された.
著者
佐久間 真由美 遠藤 直人 Sakuma Mayumi Endo Naoto
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 = Niigata medical journal (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.130, no.10, pp.559-563, 2016-10

ロコモテイブシンドロームは運動器の障害に伴う移動能力の低下として2007年に日本整形外科学会から提唱された.フレイルは高齢期の生理的予備能低下により脆弱性が亢進する.身体的問題のみならず, 精神・心理的問題,社会的問題を含む概念とされ,老年医学の分野から生まれた.サルコペニアは筋肉減少症として1989年Rosenbergが提唱した概念である.それぞれの用語は異なる母体から相次いで提唱されたが, 互いに重複する部分もある.現状での各用語と関連についてまとめた.
著者
日比野 豊 藤岡 洋子 町田 順子 根津 由紀子 貝瀬 千賀子 星 利枝 Hibino Yutaka Hujioka Yoko Machida Junko Netsu Yukiko Kaise Chikako Hoshi Toshie
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.128, no.6, pp.258-263, 2014-06

当院においては, 2011年4月より唯一の骨形成促進剤であるテリパラチドの自己注射指導を含めた骨粗鬆症教育入院を開始した. 毎月第二週目の月曜日~金曜日の4泊5日に定員4名と定め実施している. 実施内容は, 自己注射指導, 骨粗鬆症疾患知識, 栄養, 薬剤の知識を講義形式で習得できるようにしている.
著者
相馬 行男
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.120, no.6, pp.324-328, 2006-06

注意欠陥多動性障害(ADHD)の有病率の研究は多数行われている.しかし,ADHD診断マニュアルDSM-III-Rを使って,就学前の子どもを調査した論文は,著者の知る限りほとんど見当たらない.そこで本研究では,DSM-III-Rを用い,新潟市内の保育園児と幼稚園児を対象に,保育士と幼稚園教諭による自記式調査を行った.その結果,以下のことが明らかになった.1 ADHD有所見者数は,3歳児では3,223人中181人(5.6%),4歳児では3,333人中149人(4.5%),5歳児では3,400人中101人(3.0%)であった.ADHD有所見者数は,女子より男子が有意に多く,3歳児では男子が1,688人中148人(8.8%),女子が1,535人中33人(2.1%)(男子/女子=4.2),4歳児では男子が1,707人中126人(7.4%),女子が1,626人中23人(1.4%)男子/女子=5.3),5歳児では男子が1,719人中84人(4.9%),女子が1,681人中17人(1.0%)(男子/女子=4.9)であった.2 ADHD有所見者数は,保育園児が幼稚園児より有意に多く,3歳児では保育園児が1,950人中138人(7.1%),幼稚園児が1,273人中43人(3.4%)(保育園児/幼稚園児=2.1),4歳児では保育園児が1,971人中125人(6.3%),幼稚園児が1,362人中24人(1.8%)(保育園児/幼稚園児=3.5),5歳児では保育園児が1,959人中75人(3.8%),幼稚園児が1,441人中26人(1.8%)(保育園児/幼稚園児=2.1)であった.
著者
加藤 泰介 阿部 佑一 那波 宏之 木南 凌 廣川 祥子 田中 稔 水野 誠 Kato Taisuke Abe Yuichi Nawa Hiroyuki Kominami Ryo Hirokawa Shoko Tanaka Minoru Mizuno Makoto
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.124, no.12, pp.683-690, 2010-12

ニューレグリン-1 (Neuregulin-1: NRG1) は統合失調症の感受性遺伝子として報告された神経栄養因子である. これまでに様々なNRG1遺伝子の遺伝子改変マウスが作られ, 統合失調症モデル動物としての評価が行われてきた. NRG1は細胞移動・軸策誘導・ミエリン形成等の中枢神経系発達を制御する機能を担っている. また, NRG1は末梢神経系においても栄養因子として働き, 内耳蛸牛神経細胞の生存に関わっている. そして, NRG1と受容体であるErbBシグナルの異常は聴力の低下を引き起こすことが知られている. 従って, NRG1シグナルの障害は異常な神経発達を引き起こすと考えられる. 遺伝的要因に加えて胎児の低酸素障害などの環境因子も統合朱謂症のリスク因子と考えられており, これらはNRG1の発現異常も誘導する. よって遺伝的背景・環境要因は共に異常なNRG1シグナルを引き起こすことによって, 神経発達障害という統合失調症の原因仮説に結びつくことが予想される. 今回私は, 神経発達段階での過剰NRG1シグナルと統合失調症発症リスクとの関係を検討した. 新生仔マウスに対して組換えNRG1ペプチドを投与した後, 認知行動解析による評価を行った. プレパルスインヒビション (prepulse inhibition: PPI) は不必要な情報を取り除く知覚フィルター機能を評価するものであり, 統合失調症で低下が報告されている. 動物モデルを用いたPPIの測定は音驚愕反応を用いて行われ, NRG1遺伝子改変マウスにも障害が報告されている. しかしながら, これまでの遺伝子改変マウスは全身性変異でありながら聴覚機能を調べられた例はない. そこで私はNRG1投与マウスの認知機能に加えて聴覚機能の解析も同時に行った. 認知行動解析の結果, NRG1投与マウスは劇的なPPIの低下と, 音条件付け学習の低下を示した. 加えて, 統合失調症の陰性症状を反映すると考えられている社会性行動にも障害が見られた. しかしながら聴性脳幹反応を用いた聴覚機能解析の結果, このマウスには重度の聴力異常があることが分かった. この結果はこれまでに報告されてきたNRG1ミュータントマウスのPPIの低下には聴覚系への影響が関わっているという重要な懸念を示唆するものである. だが, 聴覚系が関与しない社会性行動試験の結果は遺伝子改変マウスの異常形質を再現するものであり, 神経発達段階でNRG1シグナルの異常がこの疾患に何らかの関わり持っている可能性を示している.
著者
風間 みえ Kazama Mie
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 = Niigata medical journal (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.237-243, 2016-04

日本の10代の性行動や性意識はインターネットの普及や性情報の氾濫に伴い大きく変化しており, 性行動は低年齢傾向を辿っている. 教育現場では, 中学生に「生命と性」に関する授業, すなわち生命教育と性の健康教育に関する授業を行なっているが, その学習効果は十分に解明されてはいない. そこで本研究では公立中学校の3年生205名に対して生命と性についての授業介入前後にアンケートを行い, 介入効果を調査した. 調査項目は, 「自尊感情」, 「性別の受け止め」, 「男女交際をどの程度まで認めるか」, 「性交のイメージ」, 「性交への意識」の5項目とし, それらを授業前, 授業直後, 授業後2ヵ月に調べた. 自尊感情に関しては, 授業直後から上昇し授業後2ヵ月の時点でさらに上昇が見られた. 性別の受け止めについては, 女子において授業直後で有意に上昇したが授業後2ヵ月時点には上昇は有意でなかった. 「男女交際の限度」, 「性交のイメージ」, 「性交への意識」に関しては, 授業介入の効果は見られなかった. 中学生への生命と性の授業介入で, 自尊感情の上昇と自身の性を肯定することを実証した.
著者
安保 徹
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.117, no.3, pp.114-119, 2003-03

We could not properly understand the mechanisms underlying gastroentestinal failure without introduction of the concept of "Regulation of leukocytes by the autonomic nervous system". leukocyles consiste of granulocytes and lymphocytes and they are regulated by the sympathetic nervous system and the parasympathetic nervous system, respectively. Therefore, the number of granulocytes increases by stimulation of sympathetic nerves whereas that of lymphocytes increases by stimulation of parasyrnpathetic nerves. Almost all of these responses are beneficial for our body protection. However, If the autonomic nervous system deviates too much to one direction, our body falls victim to certain diseases, including gastroentestinal failure.
著者
佐藤 昇 柴田 昌弘 安戸 方邦 伊藤 健二朗 Sato Noboru Shibata Masahiro Yasudo Masakuni Ito Kenjiro
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.126, no.5, pp.233-237, 2012-05

外肺葉から分化した神経管において, 中心管近傍の神経上皮細胞から分化した運動ニューロンは前角へと移動しつつ, 標的に向かって軸索を伸長する. 標的と接触した後, 約半数の運動ニューロンは「プログラムされた細胞死」を起こして死ぬ. この過程は, ニューロンがその標的である筋線維からのシグナルによってコントロールされる標的由来因子依存性の生存あるいは死である. さらにアセチルコリン受容体の競合的阻害剤であるクラーレ (d-tubocurarine) の投与によってこの時期の神経筋活動を抑制すると, この細胞死は完全に抑制され, 筋肉の神経分枝が発達し, シナプス (神経筋接合部) が増加する. 従って, 脊髄運動ニューロンの形態形成を考える上で, その標的である筋の形態形成を無視することはできない. すなわち運動ニューロンとその標的である筋は一体として理解することが重要である.
著者
榛沢 和彦 林 純一 大橋 さとみ 本多 忠幸 遠藤 祐 坂井 邦彦 井口 清太郎 中山 秀章 田中 純太 成田 一衛 下条 文武 鈴木 和夫 斉藤 六温 土田 桂蔵 北島 勲
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.120, no.1, pp.14-20, 2006-01-10
被引用文献数
4

新潟中越地震の車中泊では地震による心的ストレス,窮屈な下肢屈曲姿勢,そして脱水により下肢深部静脈に血栓が発生しエコノミークラス症候群(肺塞栓症)が多発した.10/31,11/3,11/7には厚生連佐久総合病院の診療チームと計69名(男性4名)にポータブルエコーで,11/15から12/20までは厚生連魚沼病院に通常のエコー装置を設置しマスコミを通じて呼びかけ82名(男性13名)に下肢静脈エコー検査施行した.2005/2/28から3/31まで再度魚沼病院で検査した方を対象に再度下肢静脈エコーを行った.10/31-11/7に検査した69名中車中泊経験者は60名で,8名にヒラメ静脈浮遊血栓(そのうち1名はCTで肺塞栓症を認めた),14名に壁在血栓を認め,血栓陽性例は全員車中3泊以上であった.11/15-12/20の検査では車中泊は66名(6名は30日以上連泊),そのうち60名が下肢の疼痛や腫脹を訴えヒラメ静脈の充満血栓1名,9名で壁在血栓を含めた血栓を認め,血栓陽性例は全員震災直後から車中4泊以上であった.血栓陽性率は震災後からの経過時間とともに低下し12/20では10%であったが2/28から3/31の診療結果では新たな血栓も認め血栓陽性率は21.9%と上昇を認めた.11/7までの下肢静脈エコーにおける車中泊者のヒラメ筋最大静脈径は8.8±2.5mm(車中泊経験の無いヒラメ筋最大静脈径7.1±2.0mm)より有意に大(n=55,p<0.05),また血栓を認めた被災者のヒラメ静脈最大径10.0±2.6mmで血栓の無い被災者(7.5±4.4mm)より有意に大であった(n=67,p<0.0001).本診療調査により大災害時における車中泊は急性期に肺・静脈血栓塞栓症を起こすだけでなく,静脈の損傷により慢性期に反復性の血栓を生じて血栓後症候群になる危険性も大であることが示唆された.
著者
杉浦 広隆
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.119, no.10, pp.600-610, 2005-10-10

【背景】MemCalc法により短時間の心拍RR間隔データからの心拍変動解析が可能となったが,その有用性に関する報告は限られている.抗コリン作用のあるdisopyramideは迷走神経活動が関与する心房細動に有用とされているが,心拍変動に与える影響は明らかではない.QT延長症候群の心室性不整脈発生には自律神経の関与が報告されており,QT延長症候群のtype3モデルでは迷走神経刺激中止後の心拍上昇時に心室性不整脈を認めるが,この時相での自律神経バランスの意義も明らかでない.【方法】実験1:開胸麻酔犬(n=8)を用いて,迷走神経刺激中,刺激中止後,及び交感神経刺激時の心拍変動を短時間の体表面心電図RR間隔データをもとにMemCalc法で計算し,disopyramide(1mg/kg)の影響を検討した.実験2:QT延長症候群type3モデルを作成し,迷走神経刺激中止後にみられる心拍変動期の不整脈発症と自律神経活動の関連を検討した.【結果】実験1:心拍変動での低周波成分パワー(LF:ms^2)及び高周波成分パワー(HF:ms^2)は,迷走神経刺激により中央値(25パーセンタイル-75パーセンタイル)で0.67(0.39-2.83)から35.1(5.04-114)(p<0.001),及び0.60(0.44-0.97)から28.4(4.04-63.2)(p<0.001)へ有意に増加した.一方,LF/HFは交感神経刺激により2.47(1.71-3.24)から10.5(7.99-24.6)へ有意に増加したが(p=0.036),迷走神経刺激では有意な変化を認めなかった.DisopyramideによりLF成分は0.48(0.37-1.37)から0.31(0.07-0.55)(p=0.036),HF成分は0.43(0.17-1.27)から0.10(0.06-0.41)(p=0.012)へ,それぞれ減少したがRR間隔とLF/HFは有意な変動を認めなかった.迷走神経刺激中止後の心拍変動期にLF/HFは1.17(0.58-2.28)から45.1(21.9-86.4)へ有意に増加した(p<0.001).実験2:迷走神経刺激中止後の心拍数の上昇期には,体表面心電図のT波交代現象が認められ,心室性不整脈が22%(2/9)で発症した.【結論】DisopyramideによりLF及びHFの減少が認められ,RR間隔に現れない抗コリン作用と考えられた.QT延長症候群type3モデルでは迷走神経刺激中止後にT波交代現象と心室性不整脈が発生するが,この時間帯ではLF/HFがコントロール状態よりも高値であり,本症候群の不整脈の発生背景に交感神経の活動性が関与している可能性がある.MemCalc法を用いた短時間心拍変動解析により,不整脈発生と自律神経活動に関する検討が可能であり,臨床応用が期待できる.
著者
西川 伸道
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.118, no.8, pp.411-420, 2004-08-10

子宮内膜症は婦人科疾患でも多く見られる疾患の一つであるが,その病因,進展機序などは未だに統一した見解が得られていない.そこで,今回私はDNAマイクロアレイを用いて子宮内膜症組織と正常子宮内膜を比較し,遺伝子の発現レベルがどのように変化しているかを検討した.対象サンプルは患者より同意を得られた子宮内膜症の増殖期5例,分泌期4例,正常子宮内膜の増殖期5例,分泌期4例の手術摘出組織とした.方法は,各組織よりmRNAを抽出・精製し,cDNA合成,cRNA合成を経た後,DNAマイクロアレイにハイブリダイズさせた.そして,マイクロアレイ上の既知の約12000遺伝子について,月経周期別に子宮内膜症と正常子宮内膜間について比較した.統計解析は,T検定で群間差がP<0.05かつ両者の発現レベル比が3倍以上のものを有意とした.解析の結果,正常子宮内膜の月経周期間(増殖期,分泌期)の比較では,月経周期に依存して123遺伝子が有意な発現差を示した.一方子宮内膜症では月経周期に依存して37遺伝子が有意に変化を示し,著明にその数が減少していた.そして正常子宮内膜群と子宮内膜症群に共通して月経周期間で発現差を認めた遺伝子は,そのうち1遺伝子のみであった.さらに,正常子宮内膜と子宮内膜症の比較では,294遺伝子が有意な発現差を示した.これらの遺伝子を機能別に分類すると,細胞増殖因子やアポトーシス関連因子,癌関連因子など癌化に関係する因子の発現が38遺伝子(12.9%)認められていた.今回の結果,子宮内膜症では,月経周期に依存する遺伝子発現変化がほとんどなく,また正常子宮内膜とは全く異なる遺伝子プロファイリングであった.加えて,発現変化した遺伝子には癌関連因子などの遺伝子が多く認められていたので,子宮内膜症は遺伝子レベルで見る限りにおいて腫瘍的変化を伴う組織である可能性が示唆された.
著者
鎌谷 大樹
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.120, no.8, pp.440-450, 2006-08

齧歯類の大脳皮質一次体性感覚野には,ヒゲの一本一本に対応したバレルとよばれる構造がある.齧歯類にとってヒゲからの情報は重要なものであり,神経活動依存的回路発達のモデル系としてバレル構造は注目されている.一般に感覚情報は視床を経て感覚野のIV層へ投射されるが,視床から皮質への情報伝達の特性をスライス標本で選択的に解析することは難しい.今回私はマウスの視床と皮質の両方を含むスライスを調製し,視床を刺激したときの皮質神経活動をフラビン蛋白蛍光イメージング法で可視化した.神経活動が起こると,細胞内Ca^<2+>濃度の上昇に伴いミトコンドリア内でエネルギー代謝が活発になり,電子伝達系に含まれるフラビン蛋白が酸化型になる.フラビン蛋白は,青色励起光を照射すると酸化型のみ緑色蛍光を発するという性質を持つ.従って神経活動亢進に伴う緑色蛍光上昇を記録することで神経活動を可視化することができる.実験は8-10週齢のC57BL/6マウスの雄を用いて行った.まず体性感覚野の皮質だけのスライスを作成し,神経活動がフラビン蛋白蛍光の増強として可視化できることを示した.刺激電極はバレル野のIV層に置き,連発パルス刺激を用いて神経活動を起こした.次に視床と一次体性感覚野を含むスライスを作成し,視床の連発パルス刺激によって亢進させた皮質神経活動をフラビン蛋白蛍光の増強反応として可視化した.1辺がマウスのバレル構造の直径に相当する250μmのウィンドウを設定し,定量的な評価を行った.またフラビン蛋白蛍光応答が見られた部位に記録電極を刺入し,視床刺激による皮質反応の電場電位も記録した.刺激強度を100μAから500μAまで変化させるとフラビン蛋白蛍光応答も電場電位応答も刺激強度に良く相関した変化を示した.さらにグルタミン酸受容体の阻害剤を用いることで,この神経活動が抑えられることを確認した.以上からマウス脳スライス標本を用いると,視床からの感覚入力による皮質応答を選択的に可視化できることが判った.