著者
山田 知明
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.167-203, 2009-03

本論文では,撲本経済が直面する雇用問題を分析できる理論的フレームワークについて展望する.分析フレームワークに対する要求として,以下の5点に注目する.まず労働市場に対する政策として,(1)雇用保険,(2)解雇規制と退職手当及び日本に固有の事情である(3)新卒採用制度を考慮する.加えて,(4)事業所が作り出す雇用創出・喪失を明示的に扱うことと,(5)家計貯蓄の役割についても分析する必要がある事について言及する.
著者
池田 宗彰
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-114, 2005-09-30

力学的物理現象を統一的に説明するものがシュレーディンガー方程式である.物理現象(連続的時間に関する変化曲線で表わされる:因果性)が粗視化されて跳び跳びに観測されて一時点に重ね合わされると確率分布に変換される.これはシュレーディンガー方程式の波動関数の確率性である.しかしこの確率化は不完全である.この確率分布には系列相関(因果性)が残るからである.これが再度変化曲線を形成して再度粗視化され,跳び跳びの観測を受け確率化する.これが繰返されるプロセスで確率は純化されてゆく.これは,一定の視野への粒子の時空値の参入と粗視化の繰返しを伴いながら,階層を上ってゆくプロセスであり,シュレーディンガー方程式の階層上げである.それが,物理現象→生命現象→心理現象,と派生・移行してゆくプロセスを誘導構成する.何となれば,粒子の因果性が確率に変換されることで,粒子に自発性・任意性が出てくる.分子が"自発的"だということは,分子が"確率的"だということと等価である.因果性が不完全に確率化されるある段階で分子に目的概念が出て来,ここが生命の発生点となる.これはRNAレプリカーゼ分子が発生した時点に対応する.それが更に確率化されると任意性が出てくる.ここが心理の発生点である.これはヒトの大脳新皮質の発生点に対応する.以上の一連を統一的に説明するものがシュレーディンガー方程式を構成する波動関数の確率性の"純化"のプロセスである.(加えて,生命現象を表現する連立差分方程式系が,粒子の確率性を表現するシュレーディンガー方程式と等価となることが証明される.また,シュレーディンガー方程式は階層上げに従い,マクロの"粒子"を説明するニュートン力学とも整合的である.さらにまた,上記生命モデルが,進化学の難問であるダーウィンの自然淘汰説と木村資生の分子進化の中立性との同時説明を可能にすることが示される.)
著者
新井 啓
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.101-167, 2011-11

本稿は新井[2004],[2007],[2009a],[2009b],[2010a],[2010b],[2010c]における一連の研究の続きとして日経平均先物2007年3月限の証券会社別の超過需要関数のパラメータを推定している.これまでの研究により日経平均株価が一方的に上昇するような期間における証券会社別の超過需要関数の計測は比較的容易に行えることが明らかになっている.日経平均先物2007年3月限が取引された期間において日経平均株価は徐々に上昇していく傾向にあった.本稿における証券会社別の超過需要関数の推定結果から,多くの外資系の証券会社の超過需要曲線の傾きを示すパラメータの推定値は理論とは逆の値になり,外資系の証券会社がトレンドを追うような積極的な取引戦略を行っていたと結論することができる.日系の証券会社の中でも野村証券については超過需要関数の計測が非常に困難であった.これは日経平均株価の水準の上昇以外のその他の要因が大きく影響しているためと思われる.
著者
新井 啓
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.129-150, 2010-01

本稿は,日経平均先物市場における個別証券会社の先物契約超過需要関数を計測することを目的としている.時系列データの利用により各証券会社の超過需要関数を計測する場合に問題となるのが系列相関の問題である.計量経済学の技術的な方法によれば解決可能ではあるが,モデルを改良していくと,経済理論とは無縁ではあるが統計的には申し分のない測定結果を得ることができる.これでは経済学的な意味がない.本稿では,計量経済学の技術的な方法を利用するのではなく,経済理論によって時系列のデータを扱った場合の系列相関の問題をいかにして解決していくべきかを述べる.本稿での計測式は各証券会社の先物契約保有量が日経平均先物の絶対水準で説明されるとの回帰式である.しかしこれをそのまま測定すると系列相関の問題が発生する.そのため,ある証券会社が他の証券会社がどれだけ日経平均先物のポジションを増減させるのかを知っているというゲーム理論的な状況を先物の取引者の期待の形成に取り入れる.これは各証券会社の建玉間の共変動を利用するものである.この経済理論によって導かれた計測式は,ある証券会社の先物のポジションを価格の絶対水準と大口の証券会社の建玉で説明するものである.そのため価格の絶対水準を理論的に消すことができるならば寡占市場の分析で用いられる企業者の生産量の決定式に等しい.したがって本稿の理論を発展させることができれば,金融市場におけるゲーム論的状況を分析する際にも役に立つものである.
著者
新井 啓
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.89-121, 2010-09

本稿では証券会社別の日経平均先物の超過需要関数のパラメータを利用して日経平均オプション契約の超過需要関数を数値計算的に求めた.日経平均先物の証券会社別のポジションは週次ベースで日本経済新聞上で知ることができる.しかし日経平均オプションの証券会社別のポジションを知ることはできない.そのため同じ原資産である日経平均先物の超過需要関数のパラメータを利用することで日経平均オプションの証券会社別超過需要関数を推定することになった.経済モデルから直接的に推定するのではなく数値計算とならざるを得なかったのは,日経平均オプションの超過需要関数を計測するためには各証券会社の予想価格分布の標準偏差を求める必要があり,これは日経平均先物の超過需要関数のパラメータになってはいるものの,他のパラメータとの積になっているために,それを分離して日経平均先物の証券会社別超過需要関数のパラメータを推定する場合には,超過需要関数が線形であるために推定すべきパラメータの数が多すぎてしまい,推定が不可能になってしまうからである.このようにして導出された証券会社別の日経平均オプションの超過需要関数によって個別証券会社の日経平均オプションのポジションを逆算できることを示した.
著者
林 康史 刘 振楠
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.139-164, 2015-03

マイクロファイナンスは,ムハマド・ユヌスがグラミン銀行で始めたマイクロクレジットが発展したものである.普通銀行とは,特に審査や担保についての考え方・運用が大きく異なっている.現在の返済能力を審査せず,担保をとらずに融資を行う.これらの仕組みは,わが国の奨学金制度と似たものである.奨学金制度のビジョン再検討のために,グラミン銀行が採用して成功したと考えられる,いわゆるグループローンや連帯責任制等を,また,それらの仕組みの背景にある,コミットメントの効果や心理学の活用,金融教育の意義を考察する.
著者
畠山 久志 林 康史 歌代 哲也
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1-32, 2015-08

1996 年に第二次橋本内閣が発足直後,抜本的な金融制度改革,いわゆる日本版金融ビッグバンを実施した.その金融制度改革の施策の一つに外国為替取引の完全自由化という規制撤廃があった.外国為替管理の自由化によって為銀主義が廃されたために,現在では一般にFX取引と呼ばれる外国為替証拠金取引が誕生した.外国為替証拠金取引に関しては,規制する業法もないため,監督官庁もなく,通常の民法や商法などの一般法によるルールがあるのみといった,ほとんど規制のない状態で取引が自由に行えるようになった.外国為替証拠金取引は,レバレッジを用いて取引が行われ,また,差金決済が可能であるため,取引によっては多額の利得を得ることもあるが,過大な損失を被ることもある金融商品である.法律の不存在の結果,外国為替証拠金取引の商品特性の説明が不十分であったり,顧客も特性を理解しないまま取引が行われたりし,不公正な取引が行われることもあり,社会問題化し,また,訴訟にも発展した.こうした事態を受けて政府は規制を行うこととし,外国為替証拠金取引は先物取引と整理され,改正金融先物取引法で規制が行われることとなった.外国為替証拠金取引業者は金融庁に登録が義務付けられ,参入規制や,商品説明義務や不招請勧誘などの行為規制などが課され,顧客保護に一定の効果があった.しかし,リーマン・ショックが起こり,外国為替証拠金取引業者が破綻し,顧客に損害が及んだケースもあった.そのため,取引証拠金の区分管理を徹底し,ロスカット・ルールを定め,証拠金のレバレッジ規制を導入した.取引証拠金の区分管理やロスカット・ルールは,外国為替証拠金取引に本来的に不可欠なものであり,適切な規則であるものの,商品性の本質にかかわるものではない.一方,レバレッジ規制は,商品の効率性,魅力に係る本質そのものを制限するものであり,単なる業者規制,行為規制に止まらない.こうした商品の本質そのものに係る制限は,日本版ビッグバンが目指した金融制度改革の規制緩和,自由化に逆行するものと評価される.本稿は,外国為替証拠金取引を外国為替制度の規制緩和の流れのなかで位置づけて史的展開を述べ,市場・取引と法が相互依存・経路依存であることを認めたうえで,その取引に係る諸規制,就中,レバレッジ規制について検討するものである.This paper describes the development of foreign exchange margin trading within the history of the Japanese foreign exchange system and discusses regulations concerning foreign exchange margin trading, especially leverage regulation, with the recognition that the market/trading and law have a mutually dependent relationship. Soon after the second Hashimoto Cabinet was formed in 1996, the government carried out a radical financial system reform called the Japanese Big Bang, which was similar to the British Big Bang financial reform 1986. One of the measures taken was the complete liberalization of foreign exchange transactions. Due to the liberalization of Japanese foreign exchange control, which abolished a rule that foreign exchange trading had to be conducted with a registered bank, foreign exchange margin trading (commonly called FX dealings) was then introduced. After the liberalization, there was no law or supervisory authority to directly overlook foreign exchange margin trading. Only general regulations of Japanese Civil Code and the Commercial Law were still applied. Foreign exchange margin trading allows investors to trade large positions, which are many times the size of principles by the leverage of borrowed money. This is how foreign exchange margin trading could generate much larger profits or much larger losses compared to regular trading. The absence of regulation led to insufficient explanation of products by salespersons and many investors did not fully understand the products, resulting in unjust transactions. Many troubles arose and such activities developed into lawsuits and social problems. In response to this situation, the Japanese government decided to regulate foreign exchange margin trading. The new regulation categorized foreign exchange margin trading as futures trading and brought it under control with the revised Financial Futures Trading Act. Under the new rule, foreign exchange margin trading operators were required to register with the Financial Services Agency. The Financial Futures Trading Act also introduced entrance restrictions and behavior regulation, including the obligation of clear product explanation and the prohibition of uninvited solicitation. Those contributed to investor protection to some degree. However, the Lehman shock occurred, resulting in bankruptcy of foreign exchange operators and their clients' losses. Therefore, stricter rules on the classification management of margin, the loss cut rule, and the new leverage regulation were introduced. Although the classification management of margin and a loss cut rule are essentially indispensable to foreign exchange margin trading and appropriate rules, they do not influence the essence of financial products. On the other hand, leverage regulation is not exclusive to regulation of operators and their behavior as it restricts the effi ciency of products and harms the essence and attractiveness of margin trading. Evaluated in this paper are the restrictions concerning the essence of financial products themselves under the deregulation and liberalization of the financial system, which the Japanese Big Bang aimed to achieve. Note: This paper is the first of two parts, the next of which will appear in the autumn issue of this journal.
著者
山田 知明
出版者
立正大学
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.63-95, 2006-12

本稿の目的は,日本における公的年金制度によって引き起こされる「世代間」所得再分配効果と「世代内」所得再分配政策が,消費格差及び社会厚生にどのような影響を与えるかを,動学一般均衡モデルに基づいて,シミュレーションを用いて明らかにすることである.本論文の特徴は以下の4点である.(1) Abe and Yamada (2006)に基づいて恒常的所得ショックを設定し,日本経済の所得格差をカリブレートする.(2)基礎年金と厚生年金保険の二階建て構造を,緩衝在庫貯蓄モデルの下で,モデル化する.(3)政策シミュレーションから,基礎年金及び厚生年金保険が対数消費分散及び社会厚生に与える影響を詳細に分析する.(4)公的年金による世代間所得再分配だけでなく,同一世代内所得再分配政策の効果に関しても分析を行う.厚生年金保険料の変更は年齢・消費プロファイルを大幅に変更しその結果として全世代の対数消費分散を拡大させるが,世代内の消費格差には大きな影響をもたらさない.一方,基礎年金の変更は,全世代の消費格差への影響は非常に限定的であるが,同一世代内の消費格差を大きく低下させる事が明らかになった.また,シンプルな世代内再分配政策は全世代の家計の平均的な効用を高める事を示す.
著者
藤岡 明房
出版者
立正大学
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.79-114, 2007-03

本論文は,道路のネットワークの構造が与えられている場合の交通の問題を,混雑現象が生じている場合を中心に検討する.はじめに,道路がネットワーク構造を持つ場合の交通移動の市場均衡の解を求める.その際,混雑現象が生じていることから,市場均衡は最適状態を達成していない.そこで,最適状態を達成させるためには,外部不経済の内部化を行う必要がある.その内部化のために課徴金を用いるとして,その課徴金の額を決定しなければならないという新たな課題が登場する.その課徴金の額の決定のために,社会的限界費用と私的限界費用の差を求める必要がある.従来は,一本の道路しか考えていなかったので,単純に課徴金の額が決定できた.しかし,道路がネットワーク構造を形成している場合は,その影響を受けることになる.そこで,ネットワーク構造を踏まえたうえで,複数道路での課徴金の額の決定というより複雑な問題について検討している.
著者
宮川 幸三 王 在喆
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.69-120, 2013-12-20

本研究の目的は,日中貿易が日本の国内産業に及ぼした影響の大きさを,付加価値誘発額と雇用誘発人数という2 つの視点から明らかにするものである.日中貿易が日本経済に与えた影響としては,以下の2 つを考えることができる.1 つは,中国における最終需要あるいは中国からその他世界への輸出によって,日本国内の生産が誘発される効果であり,これは中国経済が日本経済に及ぼすポジティブな効果であるといえる.もう1 つの効果は,中国からの輸入の増大によって日本国内の生産が減少する効果であり,これはネガティブな効果であると考えられる.本研究では,日中国際産業連関表の分析モデルに企業規模の概念を取り込み,大企業の生産活動と中小企業の生産活動を異なる部門として取り扱った規模別日中国際産業連関表を用いて,上述の2 つの効果を計測している.国際産業連関表において規模別の概念を取り込んだ事例はこれまでにないものであり,このような規模別日中表を試算したこと自体も本研究の成果の1 つである.分析の結果,ポジティブな効果に関して言えば,中国への輸出によって製造業の大企業に誘発された付加価値額が中小企業に比較して大きいこと,雇用面では中小企業に発生した雇用誘発人数が大企業に比較して大きいことなどが明らかとなった.一方でネガティブな効果に関しては,中国からの輸入増加によって国内中小企業が生産・雇用の両面においてより強い減少圧力を受けていたという結果が得られた.また部門別の結果から,受ける影響の大きさは部門によって大きく異なっていることが示された.
著者
小畑 二郎
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.49-77, 2013-03-29

ジョン・ヒックス(John R. Hicks)の貨幣理論と金融政策論とが,ケインズ理論からどのように発展していったかを学説史的に明らかとする.ヒックスの理論を,① 流動性の積極理論,② 貸借対照表の主体的均衡の重視,③ 短期と中期と長期に区分される多時限的金融政策の示唆,④ 金融政策の非対称性,⑤ 時間要素の重視と歴史理論,の5 点に要約する.そして,金融のフロンティア・モデルを設定して,これまでの金融理論と金融政策を歴史的に位置づける.その結果,ヒックスの貨幣理論および金融政策論は,金融資産が多様化した高度な情報化時代に対応したものであり,その点で,ケインズ理論の継承・発展であったこと,しかし金融のグローバル化の時代に対応するためには,さらなる発展が必要であるという結論が下される.
著者
小畑 二郎
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.33-71, 2014-03

この論文は,ケインズからヒックスへの資本理論の発展について,これを「歴史理論」として再評価しようとするものである.「歴史理論」とは,とくに貨幣と資本に関する経済理論は,市場経済のそれぞれの発展段階の問題状況に答えるために変化しなければならない,という後期ヒックスの考え方を採用した理論である.ケインズ経済学には資本理論がない,とハイエクは批判したが,ケインズ独自の資本理論がなかったわけではない.『一般理論』に限定してみても,その中には,投資の決定理論(第11 章)や資本の本質論(第16 章)などに関連する叙述が見出される.一方,ヒックスは,とくにその研究の後半には,貨幣理論とともに資本理論を主要な研究テーマとしていた.初期の頃にはケインズ・ハロッド型のストック・フローモデルを継承し発展させたが,晩年には,独自の新オーストリア理論へと研究を進展させていった.そして最終的には,資源節約型の新技術の開発によって,質の高い労働を雇用する「新産業主義」への経済発展を展望するに至った.このようなヒックスの資本理論の発展そのものが彼自身の経済思想を表現するとともに,また現代資本主義経済にかんする歴史理解をも示すものであった.この論文では,このようなヒックスの展望に基づいて,彼自身の資本理論とケインズ理論とを比較・検討することを通じて,現代の資本理論もしくは成長理論の歴史的発展を再検討する.そして,貨幣理論や金融政策によっては,十分に取り扱うことのできなかった長期の経済分析や経済史理解のために,ケインズ理論からヒックスの資本理論への発展が参考になること,また資本移動のグローバル化の進展した現代の経済分析にとっても,資本理論の発展が示唆を与えることについて論じる.
著者
池田 宗彰
出版者
立正大学
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-114, 2005-09-30

力学的物理現象を統一的に説明するものがシュレーディンガー方程式である.物理現象(連続的時間に関する変化曲線で表わされる:因果性)が粗視化されて跳び跳びに観測されて一時点に重ね合わされると確率分布に変換される.これはシュレーディンガー方程式の波動関数の確率性である.しかしこの確率化は不完全である.この確率分布には系列相関(因果性)が残るからである.これが再度変化曲線を形成して再度粗視化され,跳び跳びの観測を受け確率化する.これが繰返されるプロセスで確率は純化されてゆく.これは,一定の視野への粒子の時空値の参入と粗視化の繰返しを伴いながら,階層を上ってゆくプロセスであり,シュレーディンガー方程式の階層上げである.それが,物理現象→生命現象→心理現象,と派生・移行してゆくプロセスを誘導構成する.何となれば,粒子の因果性が確率に変換されることで,粒子に自発性・任意性が出てくる.分子が"自発的"だということは,分子が"確率的"だということと等価である.因果性が不完全に確率化されるある段階で分子に目的概念が出て来,ここが生命の発生点となる.これはRNAレプリカーゼ分子が発生した時点に対応する.それが更に確率化されると任意性が出てくる.ここが心理の発生点である.これはヒトの大脳新皮質の発生点に対応する.以上の一連を統一的に説明するものがシュレーディンガー方程式を構成する波動関数の確率性の"純化"のプロセスである.(加えて,生命現象を表現する連立差分方程式系が,粒子の確率性を表現するシュレーディンガー方程式と等価となることが証明される.また,シュレーディンガー方程式は階層上げに従い,マクロの"粒子"を説明するニュートン力学とも整合的である.さらにまた,上記生命モデルが,進化学の難問であるダーウィンの自然淘汰説と木村資生の分子進化の中立性との同時説明を可能にすることが示される.)
著者
森山 秀二
出版者
立正大学
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.163-179, 2005-03-20

現存の王安石の詩歌には、詩の冒頭二文字を題辭に當てる作品が110首ほどあって、その多くは晩年の半山退去後の作品である。こうした題辭のあり方は『詩經』以来の伝統を受け継いで、近體詩においては杜甫が始めた作詞の手法であり、それは李商穏に継承され、無題とともに晩唐から宗初にかけて、一世を風靡する作風となった。従ってこうした王安石の詩の冒頭に文字を題辭に當てる作品も、恰も杜甫や李商穏の系譜を受け継いだ結果のように見える。しかしながら、王安石の現存の詩文集(『臨川先生文集』・『王文公文集』・李壁注『王荊公詩注』)における収録の状況をみると、異同甚だしいものがあり、題辭の多くが一致していないのである。殊に、最も版刻の古い「龍舒本」に名で知られる『王文公文集』では、その他二集が冒頭二文字を題辭にあてている作品の多くを連作として扱い、題辭自体を與えていないのである。そこで、本論文では、上記三詩文集の版本流伝状況から、より整備された印象のある四部叢本に代表される『臨川先生文集』(臨川本)や『李壁注本』よりも、未整備な印象の強い『龍舒本』に王安石自身の賓態がより多く反映されていることを論じた。つまり、王安石自身が箇々の作詩に際して、冒頭二文字を必ずしも表題としたわけではなく、むしろ後の王安石の詩文集を編集した人々が、杜甫や李商穏の手法を倣って命名したことが、三種の版本の差異に現れたものと思われ、このことは、王安石の半山退去後の、所謂「半山絶句」における文学的深化や成熟を考える上に、興味深い問題点を示唆しているように思われる。なお、本論文は2002年度の在外研修時に、北京大学において執筆・発表したため、中国語で書かれていることを了承されたい。