著者
十名 直喜
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集. 社会科学篇 = Journal of Nagoya Gakuin University (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.45-78, 2015

ものづくりを担う中小企業の集積において,東大阪は日本屈指のまちとして知られる。中小企業間の多様な水平的ネットワークに加えて,それを支援する行政の政策ネットワーク,住民主導によるものづくりとまちづくりの連携・住み分けなども,注目される。 グローバル化や住工混在化など種々の課題に対応すべく,ひと・まち・ものづくりが三位一体化して創意的に進められているところに,東大阪モデルの特長があるといえよう。小論は,現場での聞き取り調査(2012年3月)をふまえ,上記の視点からまとめたものである。
著者
飯島 滋明
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集. 社会科学篇 = Journal of Nagoya Gakuin University (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.15-24, 2017

2016年12月19日,国連総会で「平和への権利宣言」が採択された。1978年に国連総会で採択された「平和に生きる社会の準備に関する宣言」,1984年に国連総会で採択された「人民の平和への権利宣言」,1985年の「人民の平和への権利宣言」,1986年の「人民の平和への権利宣言」,1988年に採択された「人民の平和への権利宣言」など,国際社会では「平和」を権利とする流れが存在する。2016年の「平和への権利宣言」も平和を希求する国際社会の流れの延長線上にある。 ただ,2016年の「平和への権利宣言」は,「平和への権利」を承認することに反対する国々(アメリカ,EU,日本など)の存在もあって,「平和への権利」を推進してきた国々やNGOにとって必ずしも満足のいく内容ではない。また,国連決議であるために「法的拘束力」があるわけではないと一般的に看做されている。今後は法的拘束力がある「条約化」を目指す動きが存在するが,その際には,国連憲章や世界人権宣言,1997年の「対人地雷禁止条約」や2008年の「クラスター爆弾禁止条約」,2017年の「核兵器禁止条約」でNGOが活躍したように,NGOがきわめて大きい影響力を持つことを認識する必要がある。
著者
江利川 良枝
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.231-244, 2017-03-31

「平成28年度学校基本調査」によると,高校生の2人に1人が大学に進学しており,年々その割合は増加傾向にある。しかし,その割合が増えるほど,目的なく進学する高校生や不本意ながら入学した学生も増える可能性が高い。事実,親や高校の先生のすすめ,周りが進学するから,何となく将来のためになると思ったからといった理由で入学する学生も少なくない。一方,大学におけるキャリア教育には学校から社会への移行として,組織や社会が求める能力を身につけることが求められている。大学での学びや学生生活は高校までのそれとは全く異なる。前述のような大学進学者が多い中で,彼らがまずクリアしていかなければならないのは高校から大学への移行である。学生生活における自己確立や大学生の発達課題でもあるアイデンティティの獲得のために,まずは進学動機や大学生の発達課題に目を向け,本学のキャリア教育がどのように影響したかを検証する。
著者
岡澤 憲一郎
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.19-43, 2015-01-31

本稿は,マックス・ウェーバーの論文「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の『精神』」を,できるだけわかりやすく,しかもできるかぎり正確に概観し,それをふまえてまず,晩年のウェーバーが「近代の経済エートス」の生成過程という視座から旧論文をエートス論として補整し,再構築したことを明らかにしている。ついで,理解社会学の立場からすれば,ウェーバーは現世内的禁欲のパラドックスを強調するあまり,社会的行為の視点から旧論文を補整するのにやや片手落ちになってしまったと指摘している。ゲオルク・ジンメルがウェーバーにあたえた影響についても,その一端を示した。
著者
笠井 雅直
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集. 社会科学篇 = Journal of Nagoya Gakuin University (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.109-126, 2015

トヨタ自動車工業の創業者であった豊田喜一郎は,それまでの豊田の事業が基盤とした綿業中心からの転換を図るべく自動車事業に参入し,挙母町に広大な用地を確保し,自動車の大量生産の体制を構築するのであるが,その一方で,航空機に関する試行も継続していた。トヨタ自動車工業は戦時下,陸軍からの要請により川崎航空機工業と共同で東海飛行機を設立し航空機分野に参入するが,その生産は企業整備の対象となっていた旧中央紡績の工場を活用したものであり,トヨタ自動車工業の挙母工場では自動車生産に集中していた。豊田喜一郎の志向は民需用の航空機にあった。
著者
児島 完二
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSYU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.45-57, 2016-01-31

急速なスマートフォン普及率の上昇からBYOD時代における高等教育機関での情報リテラシーのあり方を論考する。ネット世代の大学生は知的生産のツールであるICTを使いこなせるのかという問題意識で,3年間にわって大学生を対象にパソコンのキーボード操作に関する調査を行った。新入生のタイピング能力を測定し,その結果を示すとともに,アンケート3項目との相関を分析した。たしかに極めて能力の高い学生が増えている反面,ビジネスパーソンとして仕事に不安を抱える下位層が多く存在することを示した。
著者
梶浦 恭子
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集. 社会科学篇 = Journal of Nagoya Gakuin University (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.171-181, 2018

戸外の地面や草地の上を散歩するなど,森の自然を体験する遊びに親子で通う乳幼児(0―3歳)は,どのような遊びの世界を展開するのだろうか。 本研究は,乳幼児が,(1)どのように自然の環境(世界)に出会っていくのか,(2)何に触れて関わり,体験し遊び始めるのかを,乳幼児の手(指)や身体の行動(行為・動作)場面の観察から行為・動作の過程を探る。 自然体験に関わる保護者である大人(乳幼児には大切な存在)と乳幼児との関わり,自然物に触れて遊ぶ乳幼児はどのような動きを表すのか,関わるのか,動きに着目して事例を作成した。事例を整理した結果,①大人に抱っこされる行為から,②大人に絡みまとわる行為,③横並びで手つなぎする動作,以上3つの自然の環境に関わる行為・動作について,本研究では言及する。
著者
大林 信治
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.1-49, 2018-10-31

フーコーは若いときからニーチェを読み,戦後のフランスで支配的であった現象学や実存主義の意味付与的な主体の哲学の行き詰まりを打開するために,近代的主体の成立の出発点に遡り,ニーチェやハイデガーの目で「カントの人間学」を解読した。そこから「知の考古学」が展開されたが,1968年の「五月革命」を機に権力と直面したことから,改めてニーチェの系譜学を読み,「知と権力」の系譜学を展開した。さらに1978年フランス哲学協会で「批判とは何か」という講演を行ったとき,カントの「啓蒙とは何か」を取り上げ,ヨーロッパにおける「批判的態度」の成立を「統治」と「司牧的権力」の系譜の中に位置づけた。カントにおける「啓蒙」と「批判」の「ずれ」の問題は,フランクフルト学派によって「啓蒙批判」とか「理性批判」という形で展開されたが,フーコーはその問題を独自の仕方で「現在の存在論」ないし「われわれ自身の歴史的存在論」という形で「西欧近代の系譜学」を展開する。
著者
宍戸 明美
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.105-124, 2010-07-31

本稿ではソーシャルワークは果たして専門職か,という古典的な疑問を軸に専門職ソーシャルワークの成立過程を概観し,その過程で現れる矛盾を捉えながら根本的な課題を提示してみようとするものである。専門職として成立したソーシャルワーカーの養成教育,特にソーシャルワークの定義にある「相談業務」と「連携」業務を担う背景を検証し,袋小路にあるソーシャルワーカーに求められる機能を問い,そしてそのための体系的な教育カリキュラムの必要性を述べている。
著者
皆川 芳輝
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.1-10, 2018-01-31

プロスポーツリーグ・チームの持続的成長には,他の諸プロスポーツリーグ間の観客争奪戦における競争優位構築が決定的に重要になる。そのためには,当該プロスポーツリーグの全試合においてクロスゲームが展開されなければならない。プロスポーツリーグが観客数を増加させるうえで最も重要な要因は,優秀な選手が数少ない特定チームに偏在するのではなく,全チームにおいて優秀な選手がプレーしていることである。しかしながら,優秀な選手のスカウト・雇用には多額の資金を捻出しなければならない。この問題を解決するための方法の1つとしては,収益分与(revenue sharing)があげられる。これは,まず最初にプロスポーツリーグ・チームが自分の収益から一定額をリーグ全体に拠出し,続いてそのプールした資金を各チームに分配する。本論文は,北米プロスポーツリーグにおける収益分与に焦点をあてて,その有用性を考察する。
著者
國原 幸一朗
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集. 社会科学篇 = Journal of Nagoya Gakuin University (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.197-222, 2018

本稿では,名古屋市会会議録に記された議員の質問や執行機関の答弁をもとに,地域の防災まちづくりを考える授業を構想した。一般質問から議員の,代表質問から会派の防災に対する見方や考え方を理解することができる。また,質問・答弁内容を分類し,経年的変化をみることにより,論点がどう変化したか,防災政策として何が進み,何が課題かを読み取ることもできる。本稿の授業では、水害・津波・原発の側面から防災を捉え,住民意識調査の結果,防災計画,GISによる地域分析と照合することにより,議会での発言を意義づけ,防災まちづくりがどのように進められようとしているかを考えさせようとした。
著者
岩出 和也 山口 翔
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集. 社会科学篇 = Journal of Nagoya Gakuin University (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.197-210, 2017

日本のアニメーション産業は,2015年には,市場規模が1兆2,542億円に達するなど,年々拡大を続けている。しかし,市場構造の変化などにより,制作現場には疲弊しており,今後の健全な成長を考える上では課題も多い。 この先,日本的なアニメーション表現の多様性を確保しつつ,世界市場に向けてコンテンツを制作・発信可能な形で制作現場の業務フローを改善していく上では,基本的な制作フローの情報化を業界全体として推し進める必要がある。その上で,課題や改善点についての知見を個別に蓄積するのではなく,業界全体として共有する枠組みも重要になると考えられる。本論文では,アニメーション産業全体の市場構成と整理,制作現場がかかえる課題と情報化による事業効率化の可能性を検討する。
著者
越智 祐子
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.245-253, 2017-03-31

2015年度,ぎふ多胎ネットは多胎妊娠・出産・育児の体験について,当事者やその家族から自由記述テキストを集めた。本稿では,当事者が実施した親和図法による分析から導出されたキーワードである「不安」と「大変」に着目したうえで,テキストデータを計量的に扱い,多胎育児者の妊娠・出産・育児体験についての考察を試みた結果,「不安」「大変」に加えて「上の子」への気遣いやケア資源の割り振りがキーワードとなっていたことを報告する。