著者
飯島 滋明
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集. 社会科学篇 = Journal of Nagoya Gakuin University (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.1-22, 2020

新型コロナウイルス対策として,安倍首相などの自民党政治家たちは憲法改正の必要性を主張する。しかしドイツやフランスなどでは憲法上の緊急事態条項を発動せず,法律などでコロナ感染に対応している。新型コロナウイルス対応のために憲法改正は必要ない。「憲法改正による緊急事態条項の導入が必要」というのであれば,憲法を改正しなければ対応できないことは何なのか,具体例を挙げるべきだ。 また,一部の政治家やメディアは新型インフルエンザ等特別措置法の改正,とりわけ罰則の導入を主張する。その論拠として外国の例が紹介されることが少なくない。ただ,外国では十分な補償がなされていること,政府の行為に対して国会や裁判所の統制が機能している。たとえばフランスでは「コンセイユ・デタ」が政府の対応を違法としたり,「憲法院」が「公衆衛生緊急事態法」(la loi d'état d'urgence sanitaire)を延長する2020年5月11日法の一部を違憲と判示するなど,裁判的統制が機能している。補償もせずに外出禁止や休業要請に罰則をつける法改正は,生存権(憲法25条)の自由権的側面の侵害し,正当な補償(憲法29条3項)をしない等,憲法違反の問題が生じる。
著者
岩出 和也 山口 翔
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.197-210, 2017-10-31

日本のアニメーション産業は,2015年には,市場規模が1兆2,542億円に達するなど,年々拡大を続けている。しかし,市場構造の変化などにより,制作現場には疲弊しており,今後の健全な成長を考える上では課題も多い。 この先,日本的なアニメーション表現の多様性を確保しつつ,世界市場に向けてコンテンツを制作・発信可能な形で制作現場の業務フローを改善していく上では,基本的な制作フローの情報化を業界全体として推し進める必要がある。その上で,課題や改善点についての知見を個別に蓄積するのではなく,業界全体として共有する枠組みも重要になると考えられる。本論文では,アニメーション産業全体の市場構成と整理,制作現場がかかえる課題と情報化による事業効率化の可能性を検討する。
著者
名城 邦夫
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集. 社会科学篇 = Journal of Nagoya Gakuin University (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.1-88, 2015

ヨーロッパ貨幣史を国家貨幣の分裂,計算貨幣の発展の視角から分析する。カール大帝は支配の単位として国家貨幣・銀貨デナリウスを導入した。その後,貨幣高権は分裂し,ヨーロッパに無数の貨幣流通圏が成立する。国王や領邦諸侯さらには都市当局によって支えられた特権的市場経済・指令慣習経済が成立し,その内部経済として北イタリア商人によって貨幣高権を超える商業ネットワークと信用決済システムが形成された。 16世紀を境に,ネーデルランドで商品取引所と為替取引所が設立され,ネーデルランドを中心に北西ヨーロッパで自由な市場経済圏が成立することになった。この市場経済の決済はアムステルダム為替銀行の計算貨幣バンコ・ギルダーによって行われた。こうして,北西ヨーロッパ市場圏の国際商品は銀行貨幣バンコ・ギルッダー建のもと自由に需要と供給によって価格が決定した。同時に,独立によって領土と国民が確定したオランダ共和国において卸売価格が決定し,最終的に共和国の小売価格がバンコ・ギルダーの価値に基づいて決定された。つまり,資本主義世界経済の決済貨幣・バンコ・ギルダーは共和国の国内価格を支配する為替貨幣となる。
著者
玉川 貴子
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSYU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.177-186, 2015-10-31

本論文では,戦後から1964年に東京で開催されたオリンピックまでの時期までを対象とし,首都におけるインフラ整備のなかで問題となったし尿処理に現れる排除の視線と都市空間への取り込みについて社会学的にアプローチする。し尿処理については,その消化槽の建設用地や予算が問題とされたり,下水道未整備について言及されるが,そうした諸問題にはし尿に対する人々の視線,二元行政化による複雑さも関係していると考えられる。
著者
早川 洋行
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集. 社会科学篇 = Journal of Nagoya Gakuin University (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.31-66, 2018

本論文は,戦後期の双六を題材にした知識社会学的研究である。1では,双六を研究する視角と,とくに戦後期を扱ううえでの留意点を説明する。2では,双六のテーマに注目し「モビリティ」と「冒険」を描く双六について,いくつかのタイプに分けて分析するとともに,双六にあらわれた「アメリカニゼーション」,「女性ジェンダー」の問題について考察を行う。そして3では,これまでの分析を踏まえて,戦後期双六がもっていたイデオロギーとそれがその後の日本社会に与えた影響について考える。
著者
早川 洋行
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.31-66, 2018-03-31

本論文は,戦後期の双六を題材にした知識社会学的研究である。1では,双六を研究する視角と,とくに戦後期を扱ううえでの留意点を説明する。2では,双六のテーマに注目し「モビリティ」と「冒険」を描く双六について,いくつかのタイプに分けて分析するとともに,双六にあらわれた「アメリカニゼーション」,「女性ジェンダー」の問題について考察を行う。そして3では,これまでの分析を踏まえて,戦後期双六がもっていたイデオロギーとそれがその後の日本社会に与えた影響について考える。
著者
岩橋 勝
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集. 社会科学篇 = Journal of Nagoya Gakuin University (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.51-63, 2018

近世日本の経済発展を検討する際,貨幣流通量の推移把握は基本的事項のひとつである。これまで幕府発行金銀貨についてはおおむねあきらかであったが,銭貨については鋳造所の分散等による理由から鋳造高総量の動向や,銭貨種別ごとの構成比率などはあきらかでなかった。明治新政府による金銀銭貨在高調査記録はあるが,これまで判明するかぎりの徳川期銭貨在高データとは接合が困難であり,同記録の正確性自体にも疑念が向けられていた。 本稿は,これまで銭貨在高に関連する個別先行研究を検討しつつ,日本銀行調査局が詳細に調査した各地銭座鋳造高の集計化をはかった。ついで金銀貨改鋳時期に対応させつつ,徳川期銭貨在高と新政府記録との接合を試みた。さらに,銭貨種別ごとの鋳造高も推計し,金銀貨との関連で経済発展に銭貨が果たした役割を考察した。
著者
飯島 滋明
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.43-64, 2016-10-31

「最も民主的」「最も進歩的」と言われたヴァイマール憲法だが,わずか14年(1919年~1933年)で幕を閉じた大きな要因としては,48条の「非常事態権限」が濫用されたことが挙げられる。とりわけヒトラー・ナチス政権による「非常事態権限」の行使は基本的人権,民主主義,立憲主義といった近代法の基本原理を蹂躙し,ヒトラー・ナチス独裁政権を強化するために悪用された。 また,ヒトラー・ナチス政権は1933年7月に「国民投票法」を成立させたが,国民意志を問うために「国民投票法」を成立させたのではないことは,ドイツとオーストリアの併合を阻止するためにオーストリア首相シュシュニックが1938年3月に提案した国民投票をヒトラー・ナチスが軍事侵攻という恐喝で中止に追い込んだ歴史的事実からも明らかである。ヒトラー・ナチスによる国民投票の態様をみれば,国民投票は国民意志を問うためではなく,権力者の地位や政策を国民意志の名目で強化するために権力者に利用される「プレビシット」(plébiscite)の危険性があることが明らかになる。 現在,日本では憲法を改正して「緊急事態条項」を導入する政治的動きが存在するが,その問題について判断するに際しては,ヒトラー・ナチス政権下での「非常事態権限」や「国民投票」の態様から学ぶことも必要となろう。
著者
山田 航
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.153-170, 2018-03-31

本稿は,介護人材の需給ギャップが拡大している中,近年軽視され始めている介護保険制度の課題に再度注目し,介護人材の不足が発生する要因を分析するとともに,その解消に向けた適切な政策を検討することを目的としている。具体的には,介護保険制度の導入による制約を反映した簡易な経済モデルを用いて介護報酬改定の影響について分析した。 本研究で得られた主な結果は,第一に,介護報酬改定による賃金の改善は,短期的には雇用の増加や,サービス供給の増加を達成するかもしれないが,長期的には,その効果が維持されないことが示された。第二に,介護市場の需給ギャップ解消のためには,介護サービス供給をシフトさせる政策が必要であることが示された。第三に,需給ギャップの解消に向けた政策として労働生産性の向上,及び労働供給を全体として増加させることの2つのうち,労働供給の増加を進めたほうが,より高い政策効果が得られることが示された。
著者
國井 義郎
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.67-85, 2018-03-31

主要農作物種子法は,稲などの主要農作物の優良な公共種子の開発および普及を公金によって支援する法制度を構築していた。しかし,農薬や化学肥料に強い耐性をもつ遺伝子組換種子が化学企業により開発されたのに伴い,わが国において遺伝子組換種子の普及を目論んで公共種子の開発および普及を支えた主要農作物種子法を廃止することとなった。そこで,本稿では,主要農作物種子法の廃止後,種苗における知的財産保護を目的とする種苗法との整合性を考慮しつつ「優良な種子」を開発し普及させようと試みる制度改革に内在する法制度上の諸問題を考慮した。