著者
向井 泰二郎 人見 一彦
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.311-315, 2000-12-25

遺産相続を契機として, 被害関係, 被毒, 対話性幻聴, 宗教的実態的意識性, 「霊」あるいは「犬」の憑依状態を主症状とした遅発性精神分裂病の一例を報告した.被害関係, 被毒, 対話性幻聴による不安の中で, 「霊」が乗り移り, さらには被害関係, 被毒, 対話性幻聴による不安状態を救うかのように, 願望充足的に実態的意識性として「氏神」が体験され, この「氏神」によって守られるといった宗教的色彩のある病的体験へと変化した.ついで「犬の憑依」を体験し, 犬に憑依することにより「氏神」に祈りをささげるといった宗教儀式を毎日行うことによって, 妄想世界と現実世界との二重記帳を完成させ, 不安は軽減し精神状態は安定した.本症例を通して, 精神分裂病者の宗教的体験, 実態的意識性, 憑依状態への症状変遷とその精神病理学的意味について考察した.さらに本症例に見られた憑依状態に基づく宗教儀式を精神病理学的および民俗学的に考察することにより, 日本人の無意識に潜む古代の心性に触れた.
著者
佐伯 裕司 大和 宗久 大西 博昭 久保 隆一 田中 順也 中野 敬次 山田 博生 中嶋 一三 北條 敏也 奥野 清隆 岩佐 善二 安富 正幸
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.299-305, 1985-09-25
被引用文献数
4

The breast is one of the most common site of cancer originated primarily. Metastatic neoplasma to the breast, however, has been reported as rare. According to the Annul of the Pathological Autopsy Cases in Japan, seventy six cases who had metastatic neoplasma to the breast out of 219,41 cases were reported in 1981,which included 35 cases of the opposite side breast cancer, 9 of gastric cancer, 9 of malignant lymphoma, 5 of cervical or corpus cancer of the uterus etc. The incidence of the metastatic cancer to the breast is 0.35% in all the malignant neoplasma. In this paper, the authors reported 3 cases with the metastatic neoplasma to the breast experienced during a period of these 10 years. The first case was intrahepatic bile ductal cancer, the second was pancreatic cancer, and the third was descending colon cancer. The intrahepatic bile ductal cancer was the first case of metastatic cancer to the breast in Japan in the literature.
著者
松本 長太
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-17, 1989-03-25
被引用文献数
6

The physiological character of the pericentral visual field near the fixation point is not so well understood as in the central 30° visual field. In this paper a report is made on the influences of stimulus size and background illumination on the sensitivity of this area studied in normal subjects and patients with several eye diseases. According to the SARGON program of the automated perimeter Octopus 201,49 test points on a 2° grid in the pericentral area were tested in normal subjects. These test points were examined under the conditions of stimulus sizes 1,3 and 5 (the visual angles of 0.108°, 0.431° and 1.724°) and under the background luminances of 0.4,4 and 31.5 asb. In the normal subjects the sensitivity curve of this pericentral area was rather flat when large stimulus sizes were used. But within the range from 0.4 to 31.5 asb the background illumination did not affect the sensitivity curve of this area so remarkably as the stimulus size. Differential light sensitivity decreased with age and its decrease was more evident under the condition of smaller stimulus sizes. The influence of stimulus size of this area was then studied in patients with several eye diseases. In many of the patients with optic neuritis, chiasmal syndrome and optic tract diseases, the stimulus size 1 was more sensitive in detecting pericentral scotoma and hemianoptic changes than the standard stimulus size 3. Thus the present results suggested that a small static target such as the stimulus size 1 should be used to examine the pericentral visual field abnormalities in neuro-ophthalmological cases.
著者
古河 恵一 長野 護 重吉 康史
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.171-174, 2007-09

ハイテクリサーチ研究の中で,時差症候群がどうして起きるのかを明らかにしました.単純にいえば,体内時計の一部が,環境の明暗サイクルの急激なシフトについて行けないために出発地の時間が体に残っていて時差ぼけが生じるのです.といえば,当たり前のことなのですが,長い間どうしてこういった環境のリズムと体内時計の乖離が生じるのかわかっていませんでした.時差症候群の原因には体内時計中枢の解剖学的な構築が大きく関与しており,そういった観点からの解析技術を我々の教室が有していたために価値のある所見を得ることができました.この総論では哺乳類体内時計の場所である視交叉上核とその中に存在する小領域と,体内時計はどうして変位するか.すなわち,日々の時刻あわせをどのように行うかについて説明して,最後に時差症候群の成り立ちについて述べます.ほとんどの生物には体内時計が存在し,われわれの生理現象(睡眠,体温,行動,ホルモンなど)のリズムが存在します.このリズムの周期は,正確に24時間ではなく24時間より若干長かったり,短かったりすることからこのリズムは概日リズム(サーカディアンリズム)と呼ばれています.体内時計の中枢は,視床下部の視交叉上核という小さな神経核にあり,その視交叉上核の細胞が環境の明暗周期に同調しています.視交叉上核の一側には1万個弱の細胞が存在し,その内の半分以上が神経細胞です.その神経細胞のほとんどが自律的な約24時間のリズムを作り出すことができます.
著者
向井 泰二郎 花田 雅憲
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.213-217, 1992-03-25

Treatment with paradoxical intention for two cases of anthropophobia was discussed. Humour can reveal psychological symptoms of anthropophobia caused by the automatization or mechanization of humanity. Paradoxical intention used the humour of man in the points of automatization or mechanization of humanity. This paradoxical intention may be very useful for treatment of anthropophobia.
著者
中尾 彰
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.89-101, 2007-06

糖尿病患者に網膜光凝固術を施行すると,光ストレスからの回復が遅く,日常生活において明順応状態にある可能性が考えられた.検眼鏡的に網膜症をみとめなくても網膜機能障害を示すか調べるために,暗順応検査,秤体系網膜電図(scotopic electroretinogram,scotopic ERG),錐体系ERGとしてphotopic ERG,長時間光刺激photopic ERGを施行した.暗順応検査では,網膜症をみとめなくても光覚閾値が上昇していた症例があった.明順応20分後のphotopic ERG b波振幅と暗順応30分後の光覚閾値は,網膜症が進行すると相関は強くなる傾向があった.長時間光刺激photopic ERG d波は,網膜症が進行すると明順応開始直後から振幅がみとめられた.暗順応においては自覚的,他覚的に順応の遅れが糖尿病患者においてみとめられた.また,明順応においては,他覚的にそれに対するERGの変化が障害されていることが証明された.糖尿病患者では,網膜に光強度の変化に対する順応に問題があり,ダイナミックレンジが狭くなっていることを示唆しており,網膜症をみとめない糖尿病早期の診断に有用であると考えられた.
著者
山口 健也 向井 泰二郎
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.55-65, 2001-04-25

うつ病の予後に影響を及ぼす因子としては, 発症時の症状, 身体的因子, 心理的因子, 社会的因子などの諸要素が考えられる.このような因子と予後の関連を, 外来で対応可能な軽症から中等症のうつ病患者について調べた.初診時の症状を包括的精神病理学尺度を用いて評価し, 身体的因子, 心理的因子, 社会的因子, 治療経過を説明変数とし, 予後を目的変数として, 多変量解析である林の数量化理論II類を用いて検討した.対象は, 近畿大学医学部付属病院精神神経科外来にて, 1990年11月19日から1995年5月1日までの期間に, DSMIV診断基準(diagnostic and statistical manual of mental disorders fourth edition)にて, うつ病性障害のうち, 大うつ病性障害-単一エピソード(code : 296.2), 大うつ病性障害-反復性(code : 296.3), 気分変調性障害(code : 300.4)と診断されたもので, 1年の経過を追跡しえた, 男性22名, 女性23名, 合計45名, 平均年齢50.9歳±15.3のうつ病患者であった.その結果, 性別, 年齢, 前医の有無はほとんど影響がなく, 身体合併症は難治例と同様に予後の悪さの指標となることがわかった.薬物療法との関連からは, 睡眠薬, 抗うつ剤の使用が良かった.sulpiride, 抗不安薬も弱いながらも効果があった.精神症状と予後の関連では, 患者本人がはっきりと自覚しやすい, あるいは苦しさが前景にでる症状ほど治りやすいと考えられた.対人関係の観点からは, 主治医との関係及び家族関係が良好なほど予後は良いと考えられた.うつ病の治療においては, 薬物療法, ついで精神療法さらには家族による環境的配慮が重要であると考えられた.判別的中点は-0.1417,判別的中率は91.1%であり相関比は0.7463であった.
著者
楠 威志 村田 清高
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.123-127, 1999-06-25
被引用文献数
1

喉頭全摘出術を受けた退院患者のQOLを検討するため, 近声会26人を対象にアンケート調査を行った.その結果を基にQOLに影響を及ぼす精神的, 身体的要因すなわち呼吸, 食事, 生活行動, 手術の満足度などについて検討した.無喉頭・気管呼吸者の愁訴の1位は嗅覚障害, 2位は「鼻がかみにくい」であった.両者共に鼻機能低下によるものであった.喉頭全摘出術を受けたことに対しての想いは, 回答者22人中21人が満足していた.その約半数以上が術後1年以内に満足を得ていた.現在の健康状態については回答者24人中3人が重複癌であった.喉摘後に胃癌(2人), 肺癌(1人)の手術を行っている.代用発声として食道発声が最も多く利用されていた.しかし, 咽頭全摘時年齢70歳以上の者は食道発声の習得できなかった.食道発声者の大多数は訓練し始めて1〜6ケ月の間に発声が可能となっていた.食道発声の利点については, 大多数が食道発声ができて, 自分自身に自身がもて外向的, 積極的になったと答えている.
著者
人見 一彦
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1-7, 2006-03-25

メンタルヘルス科の臨床は社会の変化と密接に関連している.医学部附属病院の開設以来,30年にわたり,メンタルヘルス科の臨床に携わってきた.その間に,微細脳損傷症状群から行動障害を伴う注意欠陥多動性障害への変化,破壊的行動障害のマーチ,自閉性障害から行動障害を伴う発達障害への変化,高機能自閉症への関心,統合失調症の軽症化,摂食障害の病像の変化,境界性人格障害に代表されるII軸診断における人格障害の登場,解離性同一性障害の増加,登校拒否・不登校などと表現される不適応行動から社会的引きこもりへの変化,うつ病の増加と密接に関係する自殺の増加,性同一性障害の登場などが問題となってきた.これらの変化は,家族内における対人関係の変化,それらと密接に関係するストレス社会,インターネット社会の登場と表裏一体をなしている.
著者
辻井 農亜 岡田 章
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.225-231, 2007-12

本研究は1994年から2003年までの10年間に近畿大学医学部付属病院メンタルヘルス科へ不登校を主訴に受診した6-18歳の患者533人を不登校の病態の変化を調べることを目的として1994〜1998年の前期と1999〜2003年の後期に分け,受診者数,主訴の内訳,不登校に陥った契機,初診時診断(ICD-10),転機について性別,学年別(小学生,中学生,高校生)に比較検討を行った.結果は,10年間の調査期間中の不登校状態にある受診者数に増減はないが前期に比べて後期の男子の受診者数が減少し,不登校に随伴する症状を呈する中高生の女子の受診者数が増加していた.不登校の契機は学校生活によるものが最も多かった.初診時診断はF43(重度ストレス障害および適応障害)の比率が最も大きく,特に女子では男子に比べF44(解離性[転換性]障害),F50(摂食障害)の比率が大きかった.転帰は,中高生に比べ小学生での再登校の比率が大きかった.本調査の結果から,当科では不登校の子どもの受診形態が変化し,特に中高生の女子において不登校に随伴する症状の治療が受診動機となっていることが示唆された.これは不登校に対する理解が浸透し不登校状態にある子どもに対応する各関係機関の役割が明確になり,医療機関は学年別,性別に応じて不登校状態の背景にある症状を把握し治療する役割が求められているためと考えられた.
著者
大友 貴志
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.215-223, 1997-12-25

モルモットの肝臓からRNAを調整し, 既知の他動物のcDNA相同部位よりプライマーを作製し, RT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)法・5'RACE(Rapid Amplification of cDNA End)・3'RACE法, ジデオキシ法によってビクニンおよびカウンタートリピンのcDNA塩基配列を決定した.ビクニンはα1-ミクログロブリンの3'側につながって合成され, 1157塩基から成り352残基のアミノ酸をコードしており, カウンタートリピンは1481塩基から成り358残基のアミノ酸をコードしていた.そして得られたアミノ酸配列を既知の他動物の配列と比較検討したところモルモットではトリプシン阻害活性中心部に特色ある変化が見られた.さらにこの二つの蛋白質の分子系統樹を同義置換率に基づいて作成したところ, モルモットは齧歯類よりヒト, ブタに近い種族であることがわかった.このことは, モルモットが齧歯目には属さず, モルモットを含む天竺鼠目を齧歯目と対等な分類にするべきと提案したLiの仮説を支持するものであった.