著者
寺沢 充夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.840-843, 2002-12-20 (Released:2017-07-11)

空気中ではマイナスイオンとプラスイオンが同時に存在している。生体の中でもマイナスイオンとプラスイオンが生体イオンとして存在し, これをイオンバランスと呼んでいる。これらのイオンの違いや発生量の違いが生体に及ぼす効果に影響を与えている。ラットをコントロールグループ(イオン環境にしない通常の状態)とマイナスイオン環境にしたグループ, プラスイオン環境にしたグループそれぞれ5匹ずつ3群に分け, イオン環境にさらす。コントロールを基準とした場合, プラスイオン環境では多量のピルビン酸が発生し, それを分解するために多量のチアミン(ビタミンの種類ではビタミンB_1と呼ばれる)が消費される。その時, 多量のチアミンが血液によって肝臓から中枢に運ばれる。その結果, 肝臓に含まれるチアミン濃度は低くなった。マイナスイオン環境では乳酸の発生を抑え, チアミンの消耗を少なくし, 生体に良い効果をもたらしていることが示唆された。
著者
平澤 佑啓 東原 和成
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.524-525, 2017-10-20 (Released:2018-04-01)
参考文献数
3

匂いの感覚は,鼻腔内の嗅覚受容体を匂い物質が刺激することにより生じる。ヒトは約400種類の嗅覚受容体を持ち,それらを無数に存在する匂い物質が様々なパターンで活性化させるので,我々は膨大な種類の匂いを区別して感じることができる。また,嗅覚受容体には遺伝子のタイプが多数存在し,その差異が匂いの感受性の個人差を生み出していると近年明らかにされた。
著者
佐治水 弘尚
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.404-407, 2013-08-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
10

水素の安定同位体である重水素(D)で標識された化合物は,安定で長期間の保存に耐えるとともに生体構成成分の構造解析や反応メカニズムの解明に利用できるため,様々な研究分野における有用性が指摘されている。分子内の水素を重水素で置き換えると,原子の質量が変化するため物理的,化学的変化(同位体効果)が生じる。これを利用して薬物の体内動態追跡,食品中残留農薬や環境中の内分泌撹乱物質等の微量定量分析,タンパク質やペプチド等の高次構造解析や,光ファイバーなど様々な機能性物質の材料として利用されている。重水素標識化合物は,入手可能な低分子量の重水素標識された原料から時間,労力,コストをかけて全合成的に合成する方法が一般的であったが,最近になって,水素-重水素(H-D)交換反応を利用して目的化合物に直接重水素を導入する方法が開発されている。本編では,「重水素源はどこにあり,どのように調達するのか」について簡単に説明した後,「重水素をどのようにして目的化合物に導入するのか」といった課題に焦点を当てて,特に「炭素-水素(C-H)」結合を「炭素-重水素(C-D)」に変換する方法について概説する。
著者
石井 菊次郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.202-203, 1999-03-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
8
被引用文献数
1
著者
眞鍋 敬
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.400-401, 2008-08-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
4

酸と塩基(ルイス酸とルイス塩基)の親和性の傾向を理解しやすくする概念として,硬い酸・塩基および軟らかい酸・塩基という考え方が導入されている。一般に,硬い酸は硬い塩基と高い親和性を持ち,逆に軟らかい酸は軟らかい塩基と高い親和性を持つ。この考え方は,酸と塩基の熱力学的な親和性の理解だけでなく,反応速度の理解にも役立つものである。
著者
増田 敏充 平野 秀樹
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.66, no.12, pp.568-571, 2018-12-20 (Released:2019-12-01)
被引用文献数
1

ドラフトチャンバーは実験作業で使用する最も一般的な排気フードの1つである。古くから実験室で一般的に使用されている装置であり,排気と言う目に見えない機能を主とする装置であるがゆえにその進化,進歩があまり理解されていない部分がある。実際の製品を例にそれを説明することで,より良い実験環境の構築の一助としたい。
著者
海老原 充
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.46, no.7, pp.428-431, 1998-07-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
4

クラーク数はアメリカの偉大な地球化学者, F.W. Clarkeの名前を冠した数値で, クラークの死後, ソ連(当時)の地球化学者フェルスマンによって提唱されたものである。本来の定義である「地下10マイルまでの岩石圏, 水圏, 気圏を含めた元素の重量%」という考えは, その後の地球化学の発展に伴って, 科学的意義を失ってきた。本稿ではクラーク数という概念や数値そのものが中学・高校の教科書ではほとんど取り上げられなくなった背景を説明し, それに変わる概念として地殻の元素存在度について解説する。
著者
鈴木 真一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.518-522, 1996-08-20 (Released:2017-07-11)

指紋は個人識別に決定的な結果を与える極めて重要な物件であり, その科学的研究は100余年の歴史を有する。また最近では, 種々の化学物質や特殊な波長を有する光を用いた高度な潜在指紋(紙などに付着した白色光下では観察不可能な指紋)の顕在化についての研究や, 電子計算機を用いた検索の高速化, 自動化が進められている。本報では化学的潜在指紋の検出法を中心に, 化学的指紋研究の歴史や現在の指紋研究を概括する。
著者
鈴木 誠
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.107-110, 2011-02-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
4

フィンランドで大学に進学する場合は,まず日本の大学入試センター試験に該当するフィンランド大学入学資格試験(Matriculation Examination)に合格しなければならない。その後一定期間の兵役を体験し,一定の学資を貯めた後各大学が行う個別試験を経て,希望する大学に入学する。大学の学費は無償であり,医・教育学部の人気は高い。試験科目は多岐に渡り,高等学校で履修すべき到達度を測定する卒業試験の意味合いも兼ねている。心理学や哲学など日本の大学入試センター試験には見られないものも多い。特に語学については3科目必修となる。これは,フィンランドが国家戦略として目指す多言語活用能力(plurilingualism)育成に基づくものである。試験時間は,基本的には1教科当たり6時間にも及び,受験者に考えさせる論述問題がほとんどである。これらのことは,フィンランドがどのような人材を育成しようとしているかを明確に示すと同時に,日本の大学入試に対して多くの知見を提供するものである。