著者
竹中 雅彦 町田 登 鈴木 基弘 佐藤 れえ子 山根 義久
出版者
動物臨床医学会
雑誌
動物臨床医学 (ISSN:13446991)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.125-134, 2010-12-31 (Released:2012-02-07)
参考文献数
27

猫の肥大型心筋症(HCM)では,局所性のプロスタサイクリン(PGI2)の産生低下あるいはトロンボキサンA2/PGI2比の不均衡が微小循環障害を招来し病態を悪化させるのではないかとの仮説に基づき,PGI2誘導体であるベラプロストナトリウム(BPS)を猫のHCM症例2例に対して長期にわたって投与し,心エコー検査によって心臓の形態および機能について検討した。その結果,BPSの投与により,超音波検査において左室後壁厚(LVPW)および心室中隔厚(IVS)は減少し,左室拡張末期径(LVEDD)および左室収縮末期径(LVESD),拡張末期左室容積(LVEDV)および収縮末期左室容積(LVESV),左室内径短縮率(FS),左室駆出率(EF)などは改善されて心拍出量が増加した。したがって,猫のHCMに対してPGI2誘導体であるBPSが奏効する可能性が示された。
著者
田中 茂喜 佐々木 崇文 石黒 奈央 浦野 孝太郎 小山 秀一 木村 勇介 町田 登
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.162-166, 2019-03-20 (Released:2019-04-20)
参考文献数
14
被引用文献数
1

爪床悪性黒色腫の心臓転移がみられた犬の完全房室ブロック(CAVB)症例について,ブロック発生の形態学的基盤を明らかにすべく,心臓刺激伝導系を中心に詳細な病理学的検索を施した.本例は,死亡する11カ月前に右前肢の第5指に発生した悪性黒色腫の外科的切除術を受けていた.剖検時,心臓の割面では暗褐色〜黒褐色の腫瘍組織が,心筋層内に多発性の増殖病巣を形成していた.病巣部の組織学的検索により,悪性黒色腫の心臓転移と診断された.腫瘍性のメラノサイトは房室接合部領域にも重度に浸潤しており,房室結節は完全に消失していた.この病的機転はヒス束貫通部をも巻き込んでおり,当該部位の伝導系細胞は全長にわたって消失していた.このような房室伝導系病変が,インパルスの房室伝導を遮断したものとみなされた.
著者
佐々木 崇文 中尾 周 木村 勇介 平川 篤 町田 登
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.315-320, 2020-06-20 (Released:2020-07-20)
参考文献数
15
被引用文献数
1

第3度房室ブロックを示した猫22例の心臓について,詳細な病理学的検索を実施した.これら22例の基礎心疾患は,肥大型心筋症10例,拘束型心筋症(心内膜心筋型)3例,不整脈源性右室心筋症2例,陳旧性心筋梗塞1例であり,残り6例の心臓に明らかな病的変化は認められなかった.房室接合部の組織学的検索では,基礎心疾患の有無やその種類に関係なく,全例の中心線維体基部と心室中隔頂上部に重度の線維増生(心臓骨格左側硬化)が認められた.こうした病的変化は同領域を走行する房室伝導系を巻き込み,伝導系細胞の脱落を引き起こしていた.なお,房室伝導系の重度傷害はヒス束分岐部から左脚上部に主座しており,高齢者にみられる特発性ブロックの原因であるLev病に類似していた.
著者
樫田 陽子 町田 登 山本 剛 桐生 啓治
出版者
日本獣医循環器学会
雑誌
動物の循環器 (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.6-11, 1999 (Released:2005-11-11)
参考文献数
18

レースにおいて突然1着馬から大差で遅れて入線し,その直後の心電図(ECG)検査で発作性心房細動(AF)が認められた2例の所見について報告した。症例1ではレース終了10分後にAFが確認され,頻発性多源性心室性期外収縮(VPC)を伴っていた。本例は24時間後には正常洞調律に復帰していたが,その後の調教で状態不良のため競走馬から除籍された。症例2ではAF発症時にVPCは認められず,洞調律復帰後の成績は良好であった。運動直後に発作性AFが起こりVPCが併発した場合,予後は不良となる可能性が示唆された。
著者
佐々木 崇文 平川 篤 福島 隆治 町田 登
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.72, no.10, pp.617-621, 2019-10-20 (Released:2019-11-20)
参考文献数
14

第3度房室ブロック罹患犬36例のうち,死後の病理学的検索により房室伝導系に重度の器質的障害が見いだされた31例について,重度傷害部位と心電図上でのQRS幅及び心室レートとの関連性を検討した.QRS幅に関しては,正常なQRS群(narrow QRS)が4例,幅広いQRS群(wide QRS)が27例であり,重度傷害部位から想定される下位自動中枢(想定下位中枢)とQRS幅とが合致していたのは31例中26例(84%)であった.一方,心室レートは40/分未満が15例,40~60/分が7例,60/分以上が9例であり,想定下位中枢と心室レートが合致していたのは31例中13例(42%)であった.本検索結果から,QRS幅の方が心室レートよりも房室伝導系の重度傷害部位をより的確に映し出しているものとみなされた.
著者
中村 孝 中張 淳平 町田 登 桐生 啓治 町田 昌昭
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獸醫學雜誌 (ISSN:00215295)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.405-408, 1984-06-01

日本カモシカの剖検例5例の肝臓に槍形吸虫 (Dicrocoelium dendriticum) の寄生をみとめた。吸虫は胆管内に寄生し, 粘膜における上皮細胞の過形成および globule leucocyte の出現, 粘膜下織におけるリンパ球・好酸球の浸潤, 胆管壁における肉芽組織増殖および線維性肥厚がみられた。
著者
樫田 陽子 町田 登 山本 剛 桐生 啓治
出版者
日本獣医循環器学会
雑誌
動物の循環器 (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.6-11, 1999

レースにおいて突然1着馬から大差で遅れて入線し,その直後の心電図(ECG)検査で発作性心房細動(AF)が認められた2例の所見について報告した。症例1ではレース終了10分後にAFが確認され,頻発性多源性心室性期外収縮(VPC)を伴っていた。本例は24時間後には正常洞調律に復帰していたが,その後の調教で状態不良のため競走馬から除籍された。症例2ではAF発症時にVPCは認められず,洞調律復帰後の成績は良好であった。運動直後に発作性AFが起こりVPCが併発した場合,予後は不良となる可能性が示唆された。
著者
関 慶久 樫田 陽子 町田 登 桐生 啓治
出版者
Japanese Society of Veterinary Cardiology
雑誌
動物の循環器 = Advances in animal cardiology (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.74-77, 1998-12-01

うっ血性心不全の症状を呈して死亡したアミメキリン(Giraffa camelopardalis reticulata)の心臓を病理学的に検索した。心臓は拡大して丸みを帯び,両心室腔は著しく拡張していた。左心室内には前乳頭筋と後乳頭筋の位置に2個の硬い灰白色腫瘤病変(それぞれ6×4cm,8×3cm)が認められた。腫瘤は乳頭筋の頂上部.腱索ならびに僧帽弁弁尖の一部を巻き込んでいた。また,左心房の心内膜面には噴流病変が形成されていた。病理組織学的に,これらの腫瘤病変は腱索に主座した心内膜炎の瘢痕化病巣(線維性心内膜炎)とみなされた。
著者
福澤 あぐり 桃井 康行 町田 登 紺野 克彦 岩崎 利郎
出版者
日本獣医皮膚科学会
雑誌
獣医臨床皮膚科 (ISSN:13476416)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.129-131, 2005 (Released:2006-10-27)
参考文献数
5

12歳齢, 未去勢雄のヨークシャー・テリアが, 尿の混濁, 排便障害, 腰背部を中心とした体幹の非そう痒性脱毛を主訴として来院した。身体検査により乳房の腫大, 包皮の下垂, 前立腺肥大を認め, 腹腔内及び鼠経部皮下に腫大した陰睾と思われる腫瘤が認められた。摘出後の病理組織学検査の結果, 摘出した腹腔内腫瘤はセルトリー細胞種, 鼠経部皮下腫瘤はセルトリー細胞種とセミノーマの混合腫瘍であった。腫瘍の摘出後に臨床症状の改善が認められたことから, 非炎症性非そう痒性の脱毛は精巣腫瘍によるエストロジェン過多が原因であると考えられた。
著者
中尾 周 清水 美希 松本 英樹 千村 収一 小林 正行 町田 登
出版者
獣医循環器研究会
雑誌
動物の循環器 = Advances in animal cardiology (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-10, 2007-06-01
被引用文献数
1

犬における心房細動(AF)の発生にかかる形態学的基盤について明らかにする目的で,生前にAFを示した犬5例の心臓について,心房筋および洞結節を中心に組織学的検索を実施した。症例1は雑種,10歳,僧帽弁および三尖弁閉鎖不全症例であり,AFは死亡前の4カ月間持続した。症例2はマルチーズ,14歳,僧帽弁および三尖弁閉鎖不全症例であり,AFは死亡前の10日間認められた。 症例3はゴールデン・レトリーバー,雌,2歳,右室二腔症および三尖弁異形成を有しており,AFは死亡時まで6カ月間持続した。症例4はゴールデン・レトリーバー,5歳,孤立性AFであり,交通事故により死亡するまで4週間持続した。症例5はゴールデン・レトリーバー,10歳,孤立性AFであり,心不全により死亡するまで36カ月間持続した。肉眼的に,症例1および2では左心房の重度拡張ならびに右心房の中等度拡張,症例3では右心房の重度拡張がみられたが,症例4および5の心房に著変は認められなかった。心房の組織学的変化は,顕著な変化が認められなかった症例4を除く4例に見いだされた。心房病変はいずれの例においても間質性心筋線維化に総括されるものであり,種々の程度に心筋線維の伸長・萎縮・脱落を伴っていた。間質性線維化の程度(ごく軽微±~重度+++)は,症例1:左心房(+++)/右心房(++),症例2:左心房(+++)/右心房(++),症例3:左心房(±)/右心房(+++),症例5:左心房(+)/右心房(+)であった。なお,全例において洞結節に著変は認められなかった。以上の検索結果から,小型~中型犬では心房の拡張がAFの発生要因になるが,心房が一定以上の容積を有している大型犬の場合は心房に器質的変化がなくてもAFは発生しうること;AF症例の心房にみられる間質性心筋線維化はAFの結果として生ずるものではないこと;AFの発生に洞結節の器質的変化は必須要件ではないことなどが示された。