著者
菊地 哲朗
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.1141-1145, 2016 (Released:2016-12-01)
参考文献数
14

パーキンソン病は,振戦,無動,筋強剛,姿勢反射障害などの運動症状を起こす神経変性疾患である.原因は不明で,黒質線条体系ドパミン作動性神経が変性脱落し,線条体におけるドパミン濃度が低下することで発症すると考えられている.パーキンソン病治療薬としては,L-ドパおよびドパミン受容体アゴニストなどのドパミン系薬剤が中心的に使用されている.本稿では,それぞれの薬剤の治療方針と,副作用の中でも幻覚・妄想の治療についてどのような措置が取られているかについて解説したい.また,世界で初めて米国において,パーキンソン病の精神病(幻覚・妄想など)を改善する非ドパミン系の新薬ピマバンセリンが最近承認されたので,その情報についても触れたい.
著者
南 正人 菊地 哲也 福江 佑子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.189-196, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
30

ニホンジカ(Cervus nippon)の増加に伴ってくくりわなの設置が全国的に増えている.くくりわなは,捕獲対象を限定できないために錯誤捕獲が発生し,アニマルウエルフェア上も問題が多く,くくりわなの使用の是非や設置法の改善などの検討が行われている.浅間山南麓の長野県軽井沢町で,くくりわなで捕獲されたニホンジカをツキノワグマ(Ursus thibetanus)が摂食する例が多く見つかった.ニホンジカの死体の残渣に執着し攻撃的になるツキノワグマも見られ,ニホンジカの捕獲従事者や山林利用者などにも危険な状態となっている.くくりわなの新たな問題として,その実態を報告する.2017年4月から2019年6月までに,ニホンジカ178頭(雄40頭,雌と幼獣138頭)とイノシシ(Sus scrofa)66頭(雄26頭,雌39頭,幼獣1頭)がくくりわなで捕獲された.そのうち,イノシシの幼獣1頭,ニホンジカの雌と幼獣64頭が,ツキノワグマによって摂食された.ニホンジカの雄やイノシシの成獣は全く摂食されなかった.さらに,摂食された動物のうち,イノシシの幼獣1頭とニホンジカの雌と幼獣39頭については土をかけられた土饅頭となっていた.2019年にはニホンジカを食べているツキノワグマが人間の接近にもかかわらず摂食を続け,時には威嚇することがみられるようになった.ツキノワグマがいる地域でくくりわなを設置する場合は,このような危険性があることを周知するとともに,このような危険性を考慮に入れてくくりわなの使用を検討する必要がある.
著者
夏池 真史 菊地 哲郎 Lee Ying Ping 伊藤 紘晃 藤井 学 吉村 千洋 渡部 徹
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.197-210, 2016 (Released:2016-11-10)
参考文献数
144
被引用文献数
12

食物連鎖の根底を担う藻類を含め生物にとって不可欠な微量元素である鉄は, 陸域から河川や地下水を経て下流に移行し, 沿岸域での基礎生産に貢献していると考えられている。本総説では, このような流域における鉄の生物地球化学動態について既往研究を整理した。鉄の化学的特性として, 中性pHでは無機第二鉄の溶解度はサブナノモーラーであること, 溶存有機物が鉄の溶解度を上昇させること, 種々の熱力学・光化学的反応が鉄の生物利用性と密接に関係することが明らかにされている。また, 微細藻類による鉄の生物利用性は鉄の化学種に強く依存するため, 陸域由来鉄が沿岸域の基礎生産に及ぼす影響を適切に評価するには, 鉄の化学種に着目して研究を進めていく必要がある。森・川・海のつながりにおける鉄と有機物の動態研究では, 陸での有機鉄の溶出から沿岸域生態系への移行までをカバーした総合的な研究が重要と考えられる。
著者
鈴木 幹生 新留 和成 前田 健二 菊地 哲朗 宇佐美 智浩 二村 隆史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.154, no.5, pp.275-287, 2019 (Released:2019-11-15)
参考文献数
54

ブレクスピプラゾール(レキサルティ®)は,大塚製薬がアリピプラゾールに続いて創製した,世界で2番目のドパミンD2受容体部分アゴニスト系の新規抗精神病薬である.本剤はセロトニン5-HT1A受容体及びD2受容体に対しては部分アゴニストとして,5-HT2A受容体に対してはアンタゴニストとして作用し,セロトニン・ドパミン神経系伝達を調節することから「セロトニン・ドパミン アクティビティ モジュレーター:SDAM」という新しいカテゴリーに分類される薬剤である.非臨床薬理試験において本剤は他の非定型抗精神病薬と同等の抗精神病様効果を示すとともに,錐体外路症状(カタレプシー),高プロラクチン血症,遅発性ジスキネジア等の副作用発現リスクが低いことが示唆された.また,抗精神病薬でしばしば問題となる過鎮静,体重増加に関連するヒスタミンH1受容体に対する作用は弱い.さらに本剤は,複数の認知機能障害モデルにおいても改善作用を示した.国内外で実施された臨床試験の結果から,本剤は統合失調症の急性増悪期及び長期維持療法に有効であることが示されている.また有害事象については,非臨床薬理試験で示唆されたとおり,錐体外路症状,高プロラクチン血症,体重増加の発現が低いことが示された.さらに非定型抗精神病薬で問題となっている脂質代謝異常の発現も低かった.加えて,アリピプラゾールで問題となっていたアカシジア,不眠,焦燥感の発現頻度が少なかったことは,セロトニン神経系への作用が強力であることや,D2受容体に対する固有活性がアリピプラゾールより小さいという本剤の特徴に基づくものと考えられた.これらのことから,本剤は既存の抗精神病薬の中でも最も合理的な薬理作用を有する薬剤の一つであると考えられ,優れた有効性と安全性・忍容性プロファイルを示す薬剤として統合失調症患者の治療に貢献できることが期待される.
著者
廣瀬 毅 間宮 教之 山田 佐紀子 田口 賢 亀谷 輝親 菊地 哲朗
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.128, no.5, pp.331-345, 2006 (Released:2006-11-14)
参考文献数
59
被引用文献数
2

統合失調症は,生涯罹病危険率が人口の0.75~1 %を占める代表的な精神疾患であり,中枢のドパミン作動性神経の過剰活動にその主な原因があると考えられている(ドパミン過剰仮説).過去には,クロルプロマジンを始めとしてハロペリドールなどのドパミンD2受容体アンタゴニスト作用を有する薬剤が数多く開発された.これら定型抗精神病薬は総合失調症の症状の中で,幻覚,妄想および精神運動性興奮などの陽性症状に対しては効果がある反面,情動の平板化,感情的引きこもりおよび運動減退などのいわゆる陰性症状に対しては効果が弱い.安全性の面では,アカシジア,ジストニア,パーキンソン様運動障害などの錐体外路系副作用が多く,高プロラクチン血症が問題になっていた.1990年代に入って,非定型抗精神病薬の概念を確立させたクロザピンに続くオランザピンの開発,リスペリドンを始めとするserotonin-dopamine antagonist(SDA)の開発などで,先述した定型抗精神病薬の欠点の中で特に錐体外路系副作用を軽減することができた.しかし,非定型抗精神病薬の残る副作用として,体重増加,脂質代謝異常,過鎮静作用,心臓QT間隔延長などがクローズアップされ,より安全性と効果の面で優れた,次世代の抗精神病薬の登場が待たれていた.大塚製薬では,1970年代後半より,統合失調症のドパミン過剰仮説にのっとり,シナプス前部位ドパミン自己受容体へのアゴニストの研究を開始した.その後,その研究をシナプス前部位ドパミン自己受容体へはアゴニストそしてシナプス後部位ドパミンD2受容体に対してはアンタゴニストとして作用する新しい化合物の研究へと発展させ,その成果として,ドパミンD2受容体部分アゴニスト,アリピプラゾールを見出した.アリピプラゾールは,ドパミンD2受容体部分アゴニスト作用を有する世界で初めての抗精神病薬であり,既存薬とは異なりドパミン神経伝達に対してdopamine system stabilizer(DSS)として働くことより次世代の抗精神病薬として注目されている.
著者
黒木 玄 長谷川 浩司 菊地 哲也
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目標の一つはBerenstein-Kazhdanの幾何結晶含む離散古典系の量子化であった。その重要な例として梶原・野海・山田が構成したm×n行列全体の空間への2つのA型拡大アフィンWeyl群双有理作用がある。平成17年度までに黒木はm, nの片方が2でもう一方が奇数の場合の量子化を構成していた。黒木はその結果を平成18年度にm, nが互いに素な場合にA型アフィン量子群を用いて拡張した。これによって幾何結晶の重要な例の一つと量子群が関係付けられたことになる。しかし幾何結晶と柏原結晶のLanglands双対性の存在は謎のままであり、課題として残されたままになっている。さらにその研究の副産物として量子群とWeyl群の双有理作用の量子化の関係を明確にすることができた。量子群のChevalley生成元の複素べきの作用によって任意の一般Cartan行列(GCM)に付随するWeyl群双有理作用のq差分版量子化を構成することができる。Weyl群双有理作用はPainleve系の現代的解釈において基本的なので、これによってPainleve系と量子群が関係付けられたことになる。(この構成は本質的に後述する長谷川のq差分量子版のWeyl群双有理作用も含んでいる。)さらにそれに関連してALBL=LCLD型の関係式によって特徴付けられるL作用素の重要性も明らかになった。通常の量子群のL作用素はRLL=LLR型の関係式によって特徴付けられる(FRT構成)。しかしWeyl群双有理作用を持つような量子系のL作用素を扱うためにはより一般的なALBL=LCLD型の関係式が必要になる。ALBL=LCLD型の関係式を満たすL作用素から構成される互いに可換なHamilton作用素たちはWeyl群双有理作用で不変であると予想しているが、まだ証明は付けられていない。量子版のWeyl群双有理作用で不変な作用素の構成は残された基本的問題のひとつである。以上の結果は部分的に研究集会「数理物理における新たな構造と自然な構成の探求」(名古屋大学多元数理、2007年3月5-8日)で発表された。長谷川はGCMに付随するq差分量子版のWeyl群双有理作用の構成と量子Painleve VI系の構成の2つの結果を2007年のプレプリントで発表した。菊地は通常の微分版およびq差分版のPainleve VI系を無限化積分系(ソリトン系)の相似簡約によって構成することができることを示した。
著者
菊地 哲夫 Tetsuo KIKUCHI 東京農業大学生物産業学部産業経営学科 Department of Business Science Faculty of Bio-Industry Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.140-149,

本稿の目的は,仲卸業者の財務状況を把握して,仲卸業者が抱えている経営課題を考察することである。事例として東京都中央卸売市場の仲卸業者を対象とした。財務分析は,収益性,生産性,安定性の3つの視点より行い,さらに総合評価を加えた。その結果,収益性や生産性が他の卸売業(中小企業)に比較して低い点が明らかとなった。現在,仲卸業者の定数制がとられている。経営効率の高い仲卸業者による市場運営を形成してもらうためには,規制を撤廃して参入・脱退を自由にするべきである。また,卸売市場法の改正(2004)により,これまでの業務上の規制が大分緩和された。規制緩和をビジネスチャンスとして,積極的に業務の拡大を図っていくことが望まれる。これらの課題に対処し,経営基盤の強化を図っていくことが重要である。The present paper aims to ascertain the financial situation of intermediate wholesalers and examine business problems that these wholesalers face. As a case study, the present study focuses on intermediate wholesalers in the Tokyo Metropolitan Central Wholesale Market. Financial analysis was performed from the perspectives of profitability, productivity, and stability and an overall assessment was made. The results revealed that the intermediate wholesalers studied had low profitability and productivity compared with other wholesalers (small businesses). Currently, the system for ensuring a constant number of intermediate wholesalers is in place in Tokyo. To ensure high management efficiency in market operations by intermediate wholesalers, the present regulations should be abolished and entry to and withdrawal from the market should be liberalized. In 2004, operating regulations were substantially relaxed following the revision of the Wholesale Market Law. Intermediate Wholesalers should seize the business opportunities liberalized by such deregulation by actively seeking to expand operations. These issues must be addressed and the business framework must be strengthened in order to improve the profitability and productivity of intermediate wholesalers.