著者
山田 典一 松田 明正 荻原 義人 辻 明宏 太田 覚史 石倉 健 中村 真潮 伊藤 正明
出版者
日本静脈学会
雑誌
静脈学 (ISSN:09157395)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.233-238, 2012-08-25 (Released:2012-08-30)
参考文献数
9

●要 約:弾性ストッキングは静脈血栓塞栓症の理学的予防法の一つとして汎用されており一定の予防効果が報告されている.他の予防法と比較しても,出血性合併症のリスクがなく,簡便で比較的安価であることより,使用しやすいという利点がある.わが国でも以前より静脈血栓塞栓症予防法の一つとして用いられていたが,2004年の肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドラインの公表と,さらに同時期に肺血栓塞栓症予防管理料が保険診療報酬改定で認定されたことを契機に急速にその使用頻度が増加した.しかしながら,多くの前向き大規模研究が行われている薬物的予防法と比較すると未だ十分なエビデンスがあるとは言い難い.本項では,静脈血栓塞栓症に対する一次予防法としての弾性ストッキングの現時点でのエビデンスをレビューする.
著者
田中 駿 牛山 道雄 郷間 英世 石倉 健二
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.90-97, 2023 (Released:2023-05-26)
参考文献数
12

本研究は,発達がアンバランスな幼児6名と定型発達児32名に対して,年少から年長にかけて身体模倣課題を実施し,身体模倣の獲得過程の違いを明らかにすることを目的とした。身体模倣の正中線交差なしは,アンバランスな児と定型発達児で有意な差は認められなかったが,正中線交差あり,および手指の模倣は,年中および年長で有意な差が認められた。また,身体模倣の発達については,アンバランスな児は,正中線交差なし,および正中線交差ありは,年少から年長にかけて伸びがあり,定型発達児は,年少から年中にかけて伸びがあると考えられた。本研究において,アンバランスな児の対象人数は少なかったが,アンバランスな児と定型発達児は共に年齢による発達がみられるものの,正中線交差ありや手指の複雑な模倣は,年中から差が生じ始めると考えられた。また,個別の検討により,アンバランスな児の模倣の発達には3つのパターンがあることが推測された。
著者
鈴木 圭 岩崎 仁史 渡辺 文亮 大森 教成 石倉 健 畑田 剛 鈴木 秀謙
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.11, pp.756-762, 2007-11-15 (Released:2009-02-27)
参考文献数
16
被引用文献数
1

症例は79歳の男性。受診数時間前からの増悪する嘔気, 腹痛, 左背部痛, 意識障害のために当院搬送となった。来院時ショックの状態で, 血液検査では急性腎不全, 肝機能障害, 血清アミラーゼ値の上昇がみられ, 出血傾向を伴う著しい代謝性アシドーシスが認められた。画像検査では軽度の肺炎像が認められたが, 下大静脈の虚脱がみられた他にはショックの原因となる疾患を指摘できなかった。ショックに対する初期治療の後, 集中治療室へ入室となった。腹痛の病歴と採血検査所見より, 急性膵炎に準じ治療を行った。補液及び人工呼吸管理により利尿がつき始め, 肺炎球菌尿中抗原検査 (NOW Streptococcus pneumoniae, Binax Inc., USA以下尿中抗原検査と略す) を施行したところ陽性を呈した。膵炎に準じ既に抗菌薬投与を行っていたことから同様の治療を継続したが, 多臓器不全が進行, 播種性血管内凝固症候群を併発し, 入院後8時間あまりの激烈な経過で死亡した。血液及び喀痰培養検査では有意細菌を検出できなかったが, 尿中抗原検査は偽陽性がきわめて少なく, 自験例の病態の根本は劇症型肺炎球菌感染症による敗血症性ショックとすることが妥当であると考えられる。劇症型肺炎球菌感染症は, 発症時に必ずしも肺炎像を呈するとは限らず, 原因不明の劇症型感染症の鑑別診断として重要である。このような症例の診断は血液培養の結果に依存せざるを得ないが, 迅速性に欠け, 感度も高いとはいえない。原因不明のショックの症例においては, 肺炎像が明らかでなくとも, 積極的に尿中抗原検査を用いた診断を行うことは, 自験例の如く血液培養が陽性とならない敗血症例ではとくに大きな意義があると考えられ, 今後の症例の蓄積が必要である。また, 尿中抗原検査で陽性を呈するショック症例は, 劇症型の経過をたどることが危惧され, いかに有効な治療手段を講じるかが今後の検討課題となると考えられる。
著者
上林 里絵 池村 健治 若井 恵里 杉本 浩子 平井 利典 加藤 秀雄 向原 里佳 石倉 健 今井 寛 岩本 卓也
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.1-9, 2023-02-28 (Released:2023-02-28)
参考文献数
20

集中治療室(intensive care unit,以下,ICU)入室患者の薬物治療は複雑であることが多く,処方の適正化には薬剤師の積極的な参画が求められる。三重大学医学部附属病院では,2019年2月よりICU専任薬剤師による翌日投与予定の注射処方発行前に処方鑑査を行う運用(注射処方発行前鑑査)を開始し,医師の指示や患者の病態に応じた薬物治療の適正化に介入してきた。本研究では,運用前後6カ月間における介入件数やその内容,注射薬の返品率に及ぼす注射処方発行前鑑査の影響について調査した。薬剤部にて注射薬の調剤・払い出しを行う薬剤師の全介入件数は,運用後に有意に減少し(p=0.030),ICU専任薬剤師の全介入件数は有意に増加した(p=0.002)。注射室と比較しICU専任薬剤師の注射オーダー反映率は運用後で有意に上昇し(p<0.001),未使用注射薬の返品率も有意に低下した(p<0.001)。以上より,ICU専任薬剤師による注射処方発行前鑑査の運用は,効率的な薬物治療の適正化に貢献したと考えられた。
著者
金子 唯 池尻 薫 家城 洋平 横山 和人 川本 英嗣 石倉 健 今井 寛
出版者
一般社団法人 日本中毒学会
雑誌
中毒研究 (ISSN:09143777)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.325-328, 2022-12-10 (Released:2023-01-26)
参考文献数
4

Acetaminophen overdose results in acute liver damage. Measurement of the plasma concentration and a nomogram identify patients who require hepatoprotective treatments. The patient was a 28-year-old woman who ingested 100-200 pills of 200-mg acetaminophen and was found unconscious at home. She was brought to the emergency room and subsequently referred to our hospital 4 days later. The plasma concentration of acetaminophen could not be measured. However, she showed signs of acute liver failure and hepatic encephalopathy, and was treated with N-acetylcysteine (NAC) to treat liver failure. She also required plasma exchange with continuous hemodiafiltration. Treatments were successful in improving her consciousness impairment, and she was discharged on day 9. Although the plasma concentration of acetaminophen could not be measured, it was not necessary for determining the diagnosis and treatment plans.
著者
石倉 健二 高島 恭子 原田 奈津子 山岸 利次 Kenji ISHIKURA Kyouko TAKASHIMA Natsuko HARADA Toshitsugu YAMAGISHI
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.167-177, 2008-03

本論は、近年、高等教育学界において注目を集めている「初年次教育」がいかなるものであるかを、国内外の動向をレビューしつつ検討したものである。M・トロウが明らかにしたように、大学入学者数・率の上昇は、大学教育の変質を必然的に伴うものであり、日本やアメリカ等、トロウの言うマス段階からユニバーサル段階に達した高等教育においては、その質的変化に伴う新たな教育が要請されることになる。「初年次教育」とは、そのような新たな教育形態の一つであり、特に、新入生の大学への適応を支援していくためのプログラムである。その背景には、大学教育のユニバーサル化により、必ずしも大学が期待する学習文化を持たない学生が多数入学し、結果として大学にスムースに適応できない学生が多数存在するということがある。高等教育のユニバーサル化を早期に経験したアメリカにおいて、初年次教育の理論・実践には一定の蓄積があるが、日本においては、アメリカの事例を参照しつつ、各大学が試行錯誤を行っている段階であり、初年次教育が十分に深化されているとは言えない状況である。大学全入時代を迎える日本の高等教育において、初年次教育の必要性はますます高まるであろう。このような視角のもと、今後、具体的な初年次教育のあり方を構想することが求められるであろう。
著者
石倉 健二 高島 恭子 高橋 信幸 井手 睦美 Kenji ISHIKURA Kyouko TAKASHIMA Nobuyuki TAKAHASHI Mutsumi IDE
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.159-165, 2008-03

自閉症の大きな特徴の一つである「反復的で常同的な様式」は「同一性保持現象」とも呼ばれ、問題行動とみなされることも多い。本研究はこの「同一性保持現象」について、自閉症児の母親15名に質問紙調査を実施し、以下の結論を得た。一つ目は、「単純反復運動」で特徴づけられる「常同行動」と、「固執」「配列」「質問嗜好」「空想」で特徴づけられる「こだわり行動」はその出現の様相が異なることが示された。このことから、「常同行動」と「こだわり行動」は別々の機能的側面を有することが示唆された。二つ目は、「一週間後の予定の理解」のある者の方がその他の者よりも、「こだわり行動」が多いことが示された。「時間的見通し」が「こだわり行動」に影響を与える独自の要因であるのか、言語能力や「時間的なこだわり」を反映するものなのかは定かではなく、今後の更なる検討が求められる。