著者
宮本 佳明 中村 勇大 長坂 大 長田 直之 杉山 敦彦
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.85-96, 2003 (Released:2018-05-01)

本研究は,都市計画上一般に障害物あるいは異物とみなされ,近代都市計画の中心的理念であるゾーニング制が志向,誘導する景観に「雑音」や「ほころぴ」をもたらしていると考えられる空間エレメントを,肯定的に「環境ノイズエレメント」と名付けて,住宅地の環境形成におけるその有効性について検証したものである。
著者
江上 徹 三宅 朋博
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.187-200, 1995 (Released:2018-05-01)

イギリスのLiving Roomは18世紀末に,農場労働者のためのCottageに於て成立したと考えられる。18世紀後半から19世紀にかけてCottageは,社会改良主義及びpicturesqueという二つの観点から注目を集めた。前者の主要な論点は,不衛生でプライバシーも保てないワンルーム的段階から,少なくとも就寝機能を分離させて生活の秩序化を図ろうとするものであった。当初この部屋は単にRoomと呼ばれたり,Principal RoomやDwelling Room等とも呼ばれたが,次第にLiving Roomという名称に収束していった。Living Roomとの関連での後者の主要な論点は,旧来のフォーマリズムの否定である。この観点からH.Reptonは上流階級の住居に於てさえ,古いParlourから新しいLiving Roomへの転換を説いたのである。しかし20世紀前半に至るまでこのクラスの住居ではLiving Roomははとんど普及しなかったし,労働者階級や下層中流階級の住居でもParlour的な部屋の設置が志向され,Parlourをオモテに配し,条件の悪いウラにLiving Roomを配するプランが一般化した。これに対し,今世紀初頭にR.Unwinは,いわばこの両者を一体化させた,広く明るい,通風も良い新たなLiving Roomの提案を行なった。しかし,このUnwin等の提案は当時のイギリスですぐに受け入れられた訳ではなく,その後も長くParlourを持つ住戸がつくられた。この背景には,イギリスのLiving Roomはその誕生以来ずっと主たる調理の場でもあったという事情がある。この点ではUnwinのLiving Roomも同様であった。Living Roomからの調理機能の分離は,1918年の「Tudor Walters Report」でも重視され,1944年の「Dudley Report」ではついに調理機能から解放されたLiving Roomが提示され,1961年の「Parker Morris Report」を経て,そのようなプランが普及し今日に至っている。Living Room誕生以来の200年を顧みれば,この空間の特質は多様な行為の場,即ち多目的性であり,又,複数の人間が一緒に時を過ごす場,即ちコミュニケーション空間であることと言えよう。
著者
三村 浩史 安藤 元夫 阿部 成治 北条 蓮英 角谷 弘喜
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.231-242, 1989

インナーシティ地域では,業務・商業用空間利用が優越し居住利用が圧迫排除される傾向が強まっている。そのなかで,居住人口・維持・回復を都市政策の目標とする地域において,居住用空間を確保するために,都市計画上の規制と誘導の諸手段,とりわけ三次元的制御手段=立体ゾーニングの可能性と条件について考察した。まず,報告書の第I部では,都市計画的制御手段のシナリオ構築を行なった。すなわち,①居住用空間の確保を必要とする理由,判断根拠と対象範囲等の設定について,②各種誘導規制手段の活用可能性と立体ゾーニングのシナリオ作成,③確保する空間における住戸と住環境の要素とその保障水準の設定,および④高価格化,投機利用および他用途への転用等の非居住空間化を抑制する方策という4つの検討項目を設定し,これらの項目に関するわが国および海外の都市(再)開発に伴う住宅供給義務や規制緩和等の事例や学説と照合しつつ,シナリオの論理的構築度を高めた。ついで第IIおよびIII部では,個別もしくは小単位敷地ごとに建設されている集合住宅いわゆるマンション群を対象として,居住用空間の設置状況,形状,採光・日照条件,伴用・混用状混の実地分析を行なった。開発当初から居住性の低い住戸が供給されていること,建て詰りによって居住性が低下する住戸が急増する傾向等が把握できた。並行して実施した居住者調査によって,都心マンション選択要因を解析した。第IV部では,第II・III部で把握した実態における問題点に対して,都市計画の規制誘導シナリオを適用する可能性の検討を行なった。すなわち,第1に,低層階が商業地域等であっても,中層階以上で居住系地域並みの住環境水準を保障する立体ゾーニング方式,第2に,相隣する住戸の採光等の条件について,適用の可能性を検討し,都市計画フレームの提案をまとめた。
著者
藤井 明 及川 清昭 槻橋 修 橋本 憲一郎 中山 純一
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.107-116, 1998

アラビア半島を中心とするイスラム圏の伝統的集落には,堅固で閉鎖的な形態をもつものが多い。本研究は,その中でも塔状の高層住居という独特な形態をもつイエメンの集落を対象とし,高密度居住の空間的特性を明らかにすることを目的としている。調査集落・住居の概要は以下の通りである。1.中央高地:首都サヌアの旧市街は5~7階建ての塔状住居が密集しており,住居の周りにはブスタンという菜園が点在している。住居内部の空間構成は様式化されており,1階は玄関ホールと家畜小屋,2階は穀物貯蔵庫,3階より上は居室や厨房,最上階にはルーフテラスとマフラージという男性達の集いの部屋がある。サヌア周辺の山岳集落においても塔状住居が凝集するパターンは同様で,住居形態も類似している。2.ティハマ地方:紅海沿岸の高温多湿地帯の集落は山岳地帯とは全く異なり,対岸のアフリカの影響が見られる。住居はコンパウンド形式で,円筒状の土壁に葦などで葺いた円錐形の屋根を架けている。3.東部砂漠地帯:ハドラマートの谷にあるシバームも塔状住居で構成されており,住居は主に5~7階建ての日干しレンガ造である。サヌアと同様,階層別の用途は明確で,1・2階は家畜小屋や倉庫,3階は男性の居室,4・5階は女性と子供の部屋,6階以上は結婚した子供の家族が使用する。ルーフテラスは2~3層にわたり,隣家と往来する通路や街路を見おろす覗き穴があり,閉鎖的な住居にあって外部とのコミュニケーションを図るための重要な生活空間になっている。サヌアとシバームの地図をデータベース化し,定量的な指標を比較してみると,人口密度は共に高密度であるものの,建物や道路などの土地利用構成や空地の形状と用途,道路網の形態,階数別建物の分布様態などの点において,一見類似しているかのように見える両都市の市街地の空間特性が異なることが明らかになった。
著者
白濱 謙一 菅原 義則 土田 久幸 川崎 圭子
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.71-81, 1991 (Released:2018-05-01)

バルカン半島の中部からトルコにかけて,特異な様式の伝統的住居がある。石造りの下階に木構造の上階が載った,いわば混構造の建築である。この型の住居の歴史はおそらくビザンチンにまで遡ると思われる。また,わずかずつ違いを見せながらもその分布する地域は,アルバニア,ギリシア,ユーゴスラビア,ブルガリア,ルーマニアそしてトルコにまたがっており,周知のようにこれらの国々は先ごろまで複雑な国際関係にあった。これまで伝統的住居について,自国の文化の範囲で研究されてはいたが,全地域にまたがる包括的な研究は少ない。当研究室では,かねてから住文化における異文化の移入とその後の変容について興味をもっており,この視点から上記の特異な型の住居文化の動向を探りたいと考えた。研究の内容と方法(a)マケドニア(ユーゴ領)の伝統的住居の現地集落調査(1989年8~9月)(b)スコピエ大学建築学科の資料分析 (C)ギリシア北部とトルコに分布する同型の住居と比較以上より,マケドニアの伝統的住居の類型とその分布を把握し,その特徴を周辺地域と比較してこの地域における住文化の交流の様相を解明することが目的である。研究の結果 次のことがわかった。(1)マケドニア住居は,“chardak”(チャルダック)と称する家具の無いホールを持つ。(2)チャルダックはOH型(Outer hall type)とIH型(Inner hall type)がある。(3)他の地域と比較するとマケドニア住居の規模は小さい。それはキリスト教の1家族型であるためである。(4)NH型(No hall type)とCH型(Center hall type)を含めて4つの型の広域分布図を作成した。(5)OH型は非常に古い型と考えるが,現在でも広く存在しているのは素朴な機能主義を持っていたからであろう。
著者
多治見 左近 三浦 要一
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.219-230, 2001

本研究は大阪都市圏を対象とし,明治期以降の住宅地形成過程を巨視的・構造的に明らかにすることを目的としている。都市発展の指標として1905~1930年の人口統計を用い,大阪市,東大阪,阪神間臨海・内陸が住宅地形成上典型的地域であることを確認し,これら地域が職業や職住関係の独特の性質をもつことを明らかにした。また宅地開発が活発な地域で農業事情を背景として地主が開発に果たした役割を明らかにした。さらに明治末期大阪近郊の土地所有を記録する『大阪地籍地図』の分析から宅地化の方面別相違を把握し,土地所有形態について江戸期新田開発の系譜をひく地主の存在や耕地整理,スプロールなどの開発への影響を明らかにした。
著者
平井 ゆか 内田 祥哉
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住総研研究論文集 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.263-274, 2001

本研究は,日本の伝統的な床材である畳と,畳を支える各種のシステムの開発と普及について,文献資料を広く収集し全貌を明らかにする事を目的としている。古代における畳の開発について,現存する最古の畳を区切りとして日本の独自性を記録から検証し,中世以後については形状の変化や床材としての成立を絵巻を中心に探り,畳の普及を日光社参史料をもとに検証している。畳職人の出現を記録から,畳屋の地方への広まりを地名から検証し,メンテナンスシステムの開発と普及を明らかにしている。一方,畳職人の育成システムについては職業訓練校の歴史等を探り,畳の生産・供給システムについては産地や問屋等の現地調査・資料収集を行っている。
著者
田中 淡 周 達生 宮本 長二郎 上野 邦一 浅川 滋男 郭 湖生 楊 昌鳴
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.223-239, 1990 (Released:2018-05-01)

東アジアから東南アジアにかけて集中的に分布する高床住居は,主として近年の発掘成果により,新石器時代の華南にその起源を求められつつある。そして,最近の研究によれば,先奏時代の華南に蟠踞した百越という1群の南方系諸民族が,初期における高床住居の担い手であった。本研究の対象となる貴州のトン族は,この百越の一地方集団であった駱越の末裔と考えられている。たしかにトン族は,雲南のタイ族や海南島のリー族とともに,高床住居を保有する代表的な民族であるが,これまでその高床住居に関する研究はほとんどされていない。したがって,百越の末裔たるトン族の高床住居を研究対象にすること自体に大きな意味があるといえるだろう。しかし,問題はそれだけではない。調査対象地である黔東南苗族とう族自治州には,トン族以外にもミャオ族,プイ族,スイ族,漢族など多数の民族が居住しているからだ。われわれの研究がめざすもう1つの目標は,このような多民族地域における文化の重層性と固有性を,住居という物質文化を媒介にして解明することである。これは,文化人類学における「文化の受容とエスニシティの維持」というテーマに直結する,重要な問題といえるだろう。今年度の調査は,次年度以降,継続的になされるであろう集中的な調査の予備的役割を担うものであり,自治州を広域的に踏査し,できうるかぎり多くの家屋を観察・実測することに主眼をおいた。その結果,トン族,ミヤオ族,プイ族,漢族の家屋を,合わせて50棟実測することができた。本稿では,以上の諸例を民族別・類型別に報告するとともに,民族相互の比較から,平面と架構について,トン族本来の形式と漢文化受容以後の形式の差異を論じ,また住居に現れた「漢化」の諸側面についても指摘している。来年度以隆は,調査対象を1か所に限定し,住み込みによる集中的な調査を行なう予想である。
著者
田中 淡 周 達生 宮本 長二郎 上野 邦一 浅川 滋男 島田 敏男 羅 徳啓 黄 才貴 郭 湖生 楊 昌鳴
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.405-420, 1992 (Released:2018-05-01)

88年度に行なった貴州省黔東南苗族トン族自治州での広域的な調査をふまえ,90年度には対象村落を1か所に限定して,トン族の集落に関する集中的調査を行なった。(天安門事件の影響で調査・研究のプログラムが丸1年延期された)。調査地は,第2次調査で最も斬新な知見をもたらした巨洞と同じ都柳江沿岸に位置する蘇洞上寨(住居散35・世帯数44・人口218)である。蘇洞は,従江県下江区の中心地である下江鎮に近接するため,巨洞などの僻地集落に比べるといくぶん漢化の様相が著しい。しかし,漢化もまた,トン族の文化を理解するうえでの重要なキーワードである。調査は建築班2班と民族学班1班に分かれ,建築班は集落内の主要家屋全戸の平面・断面の実測,民族学班は全世帯の家族構成・血縁および婚姻関係の把握を最低のノルマとし,余裕ができた段階で,村大工からの聞き取り,部材呼称の音声表記,通過儀礼・祭祀・禁忌に関する聞き取り,スケッチ・マップ調査などを相互協力のもとに進めた。本稿では,とくに龍脈に統制された集落の空間構造と,住居の平面・構造に映し出された漢化の様相に焦点をしぼって,蘇洞の住空間を素描してみた。
著者
冨井 正憲 鈴木 信弘 渋谷 猛 川端 貢
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.125-134, 1989 (Released:2018-05-01)

本研究は,かつて日本の統治下にあった朝鮮半島に建てられた朝鮮住宅営団の住宅がどのようなものであったのか,またそれらの住宅がその後韓国人の住み手によってどのような変容を遂げたかを,史的文献調査と実測調査によって明らかにし,①朝鮮住宅営団の慨要,②朝鮮半島と日本内地の旧営団住宅の比較考察,③旧営団住宅の変容過程の分析,の3つの枠組みをもって住まいの持つ特性を明らかにすることを目的としている。第1章では朝鮮住宅営団の概要を,第2章では現在の旧営団住宅の現存状況,上道洞営団住宅地及び住宅の現況を,文献・現地調査・実測・写真撮影等により明らかにし,伴せて旧営団住宅地の復元を試み住宅の現在の平面図を図化するなど,分析・考察の資料を調えている。また,文献資料より朝鮮住宅営団が建設した住宅には甲・乙・丙・丁・茂の5種の標準設計があったことをつきとめている。そしてソウル上道洞に現存する営団住宅の実態調査の分析とあわせて,その建設当時の営団標準住宅を復元している。第3章では,日本住宅営団・同潤会の標準設計と,朝鮮住宅営団の住宅を比較考察し,オンドルや二重窓その他の気候風土に対する改良が試みられている部分と,外観や平面構成などの日本内地の住様式が踏襲されている部分があり,日本人の気候風土に対する対応のしかたを明らかにしている。そして,それが戦後韓国人によって住まわれてどのような部分が変容し,どのような部分が存続しているかを明らかにし,日本時代に建てた住宅が韓国人の住み手によって韓国の居間中心型の伝統様式に改められてゆく傾向があることを指摘している。
著者
平井 聖 水沼 淑子 磯野 さとみ 加藤 仁美
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.201-211, 1996 (Released:2018-05-01)

明治維新後,東京の旧大名家の屋敷地の多くは官公庁舎用地や軍用地にされたが,有力な旧大名等の屋敷地の内には公収されず宅地化されたものも少なくなかった。明治末期,東京の宅地総面積の約1/4は,1万坪以上の宅地を所有する100人程度の大土地所有者-旧大名などの華族,財閥,豪商,新興富豪等によって支配されていた。この内,旧大名で最大の土地をもっていたのが,旧福山藩主の阿部正桓である。旧福山藩阿部家は,中屋敷のあった本郷西片町(現在の文京区西片1・2丁目)で明治期より賃地貸家経営を行なっていた。本稿では,規模的にも性格的にも東京の宅地形成に影響を与える存在であった大名屋敷跡地の一つである本郷西片町における明治年間の住宅地形成の経緯を阿部家蔵等の史料にもとづき追跡し,基盤整備及び建設家屋の実態,貸地貸家経営のしくみについて解明することを目的とした。その結果,以下の点が明らかとなった。(1)宅地の基盤整備は,従来からの屋敷地内の道路の骨格を基木として道路を開設し宅地割にあわせた街区を形成し,明治後半には下水,水道,瓦斯,電話等が整備されていった。(2)貸地賃家経営の実態として,旧藩士の居住に対し優遇措置を施していたほか,借地人に対し借地上の建設家屋に対し建築費の助成をしたり,借地内の下水や井戸の面積を地代対象面積から差し引いたり,借地上に家屋が末建築である期間の地代を猶予するなど,さまざまな方策を講じていた。(3)建設家屋の実態については,明治10年代の作事関係書類によりその仕様と平面,坪当たり単価等が明らかとなった。(4)宅地及び貸家の維持管理は,家職や差配人,人夫により地主の負担で,道路・下水・井戸・貸家の修繕のほか,防疫から防災や防犯等生活面にいたるまで行なわれていた。今後は,賃地,賃家,建設家屋と居住者の関係,権利移動の実態について解明していく予定である。