著者
須藤 信行
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 = Journal of intestinal microbiology (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.25-29, 2005-01-01
参考文献数
24

常在細菌叢は,体表面積の95%以上を占める広大な粘膜面を介して生体と接触しており,その細菌数は成人で10 <sup>14</sup>,重量にして1 kgにも相当するとされている.これら常在細菌は,生後の消化管免疫組織の分化,発達において重要な役割を演じているが,最近では他の様々な生理機能へも関与していることが明らかにされつつある.ストレスにより腸内細菌叢が変化することは,古くから指摘されてきたことであるが,最近の研究により腸内細菌の違いがストレス曝露時の主要経路のひとつである視床下部-下垂体-副腎軸の反応性を変化させることを明らかにした.このように脳と腸内細菌は神経系,内分泌系,免疫系を介して相互に情報伝達していることが明らかとなった.<br>
著者
藤澤 倫彦
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.177-190, 2016 (Released:2016-10-27)
参考文献数
45
被引用文献数
1

現在,細菌(原核生物)では,Archaeaドメインが5つの門(phylum),Bacteriaドメインが30の門に分類されているが,このうちヒトの腸内に見出されるのは,Archaeaドメインの1門とBacteriaドメインの11門であり,なかでもBacteriaドメインのFirmicutes,Bacteroidetes,Actinobacteria,Proteobacteriaの4門だけで菌叢のほとんどを占めるとされている.ところで,ヒトの腸内には1,000種以上にもおよぶ多種多様な細菌が生息・存在しているといわれている. 近年,ヒトの腸管に生息・存在するBacteriaドメインの957菌種およびArchaeaドメインの8菌種が示された.本稿ではこの報告を基にBacteriaドメインの2門,すなわちFirmicutes門およびActinobacteria門を中心に,グラム陽性細菌,とりわけ主な偏性嫌気性グラム陽性細菌について新菌属,新菌種の提案や学名の変更など,分類の現状に触れてみる.
著者
Keith A. GARLEB Maureen K. SNOWDEN Bryan W. WOLF JoMay CHOW
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.43-54, 2002 (Released:2010-06-28)
参考文献数
119

フラクトオリゴ糖は医療用食品に理想的な発酵性食物繊維源である.医療用食品の典型は液体であり, 多くはチューブを介して患者に給与される.チューブから給与される液体医療用食品は粘度が低くなければならない.フラクトオリゴ糖は可溶性であり, 栄養チューブに詰まらず, 製剤の粘度を大きく上昇させることがない.医療用食品にフラクトオリゴ糖を使用する理論的根拠として腸管機能の正常化, 大腸完全性の維持, 腸管定着抵抗性の回復, 窒素排泄経路の変化, カルシウム吸収の改善が挙げられる.腸管機能の正常化とは, 医療用食品を給与されている患者での便秘または下痢の治療もしくは予防を指す.フラクトオリゴ糖は結腸内の細菌による嫌気性発酵と短鎖脂肪酸の産生を介して大腸萎縮の予防や遠位潰瘍性大腸炎の治療に有用と思われる.またビフィドバクテリウム属の増殖を選択的に助ける, またはある種の病原微生物の増殖を促進しない環境 (例: 短鎖脂肪酸濃度の上昇, pHの低下) を作ることから, 腸管定着抵抗性の回復に役立っ.フラクトオリゴ糖の嫌気性発酵では細菌細胞の成長と結腸pHの低下が起こるため, 窒素の排泄経路が尿から糞に移ると考えられる.カルシウム吸収が改善されるのは短鎖脂肪酸吸収と大腸pH低下が関与するメカニズムを介するためと思われる.総合すると, 液体製剤との適合性と患者に対する数多くの生理的利点が, 医療用食品にフラクトオリゴ糖を使用する十分な根拠となる.
著者
瀧口 隆一 望月 英輔 鈴木 豊 中島 一郎 辮野 義己
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.11-17, 1997 (Released:2010-06-28)
参考文献数
18

Lactobacillus acidophilus SBT2062およびBifidobacterium longum SBT2928の人工消化液耐性試験, および腸内有害細菌 (Escherichia coliおよびClostridium perfringens) との混合培養試験を実施した.人工胃液耐性試験では, pH4, 37℃3時間保持においてB.longum SBT2928の菌数は1/10に低下したが, L.acidophilus SBT2062は初期の菌数を維持した.しかし, 人工腸液耐性試験では両菌とも高い耐性が認められた.また, 腸内有害細菌との混合培養では, L.acidophilus SBT2062およびB.longum SBT2928の初発培養菌数が105cfu/gにおいて有害細菌は完全に抑制され, さらに104cfu/gに低下しても強い抑制効果が認められた.よって, L.acidophilus SBT2062およびB.longum SBT2928は, 摂取後も生菌の状態で腸内に到達し, そこで腸内有害細菌を抑制する可能性が認められた.
著者
内藤 裕二 髙木 智久 鈴木 重德 福家 暢夫
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-11, 2020 (Released:2020-01-31)
参考文献数
45

京都の伝統的な漬物である「すぐき」から分離された乳酸産生菌Lactobacillus brevis KB290が,ビタミンA併用投与によりマウス腸炎モデルの腸炎発症進展を抑制することを明らかにしてきた.この腸炎抑制効果には,大腸粘膜において炎症抑制的に作用するCD11c+マクロファージと炎症促進的に作用するCD103−樹状細胞の比率を増加させることが関与していた.さらに,Lactobacillus brevis KB290とβ-カロテン併用療法による下痢症状に対する有効性を検証するために,下痢型過敏性腸症候群様症状の日本人を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験を実施したところ,排便頻度が低下し,腹部症状による労働生産性の低下を改善した.また,糞便細菌叢の解析でBifidobacterium属が有意に増加し,Clostridium属が有意に減少することが示された.
著者
浅野 敏彦 湯浅 一博 近藤 亮子 伊勢 直躬 竹縄 誠之 飯野 久和
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-9, 1997 (Released:2010-06-28)
参考文献数
20
被引用文献数
2

便秘傾向の成人女性を対象にしてグルコン酸カルシウム (GCA) の便性および菌叢に及ぼす影響について検討した.GCA摂取期間はGCAを含有するオレンジジュースを飲用し, 対照期間にはGCAを含有しない同じ組成のジュースを飲用させた.最初の試験として, GCAを1日6.0g (グルコン酸の重量として) 摂取した場合の糞便内菌叢, 有機酸および腐敗物質の分析を9名で, 排便に関するアンケート調査を107名で実施した.その結果, GCA摂取期間中のBifidobacteriumの菌数および排便回数は有意に増加したが, 水分含量, pH, 有機酸, 腐敗物質では顕著な変化は見られなかった.次に最小有効摂取量を求めるため, 糞便内菌叢については1日の摂取量を1.5g, 2.0g, 3.0gの順に設定して15名で, 排便に関するアンケート調査は1.5gおよび3.0gの順に摂取する群と, 2.0gおよび4.0gの順に摂取する群の各37名の2群に分けて実施した.その結果, 2.0g摂取以上でBifidobacteriumの菌数の有意な増加が見られ, 1.5g以上の摂取で排便回数は有意に増加し, 便の形状, 色でも一部で有意差が見られた.
著者
菅原 宏祐
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.179-185, 2017 (Released:2017-11-03)
参考文献数
24

近年の研究からヒトの腸内には固有の腸内細菌種が生息しており,腸内菌叢として様々な疾病と関連することが示されている.Bifidobacterium属細菌は,ヒト腸内菌叢の主要構成菌属であり,有益な生理機能が多数報告されている.一方,Bifidobacterium属細菌には多くの菌種が知られており,ヒト常在性ビフィズス菌(Human-Residential Bifidobacteria, HRB)とそれ以外のビフィズス菌(non-HRB)に分けることができる.筆者らは HRBの特徴とその生理機能の機序解析に焦点を当てた研究を行った.HRBとnon-HRBの本質的な差異として葉酸産生能を比較した結果,HRBはnon-HRBと比較して葉酸産生能が高いことを見出した.さらに,HRBに属するBifidobacterium longum subsp. longum BB536における生理機能の分子機構をメタボローム, メタトランスクリプトーム,メタゲノム解析からなるマルチオミクス解析を用いて解析した.その結果,B. longum BB536は腸内細菌との相互作用により腸内代謝産物へ影響を及ぼすことが示された.これらの結果から,ヒト常在性ビフィズス菌は直接的に代謝産物を産生するだけではなく,腸内細菌種の構成および活性に作用することで腸内環境を変化させ,宿主の健康状態に影響を与える可能性が考えられた.
著者
山野 俊彦 福島 洋一 高田 麻実子 飯野 久和
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.39-46, 2005 (Released:2005-07-05)
参考文献数
44

健康な成人男女27名を対象に,Lactobacillus johnsonii La1株を含む発酵乳の摂取がヒト血中貪食細胞活性に与える影響について検討した.試験食として L. johnsonii La1株(1×109 cfu /120 g)を含む発酵乳を,プラセボ食として L. johnsonii La1株を含まない発酵乳を用い,いずれか一方の発酵乳を1日1カップ120 gを21日間連続摂取させる無作為二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験を実施した.摂取第I期において,試験食を摂取した被験者の摂取21日目における血中貪食細胞活性は,試験食摂取前と比較して有意に上昇し (p<0.001),その活性は,同様に活性の上昇が認められたプラセボ食を摂取した被験者の活性よりも有意に高値となった(p<0.05).29日間のウォッシュアウト期間後においても活性の高い状態は維持された.摂取第II期において,試験食を摂取した被験者の血中貪食細胞活性は,摂取前と比較して有意に上昇したが(p<0.05),プラセボ食を摂取した被験者の活性に有意な上昇は認められなかった.また健康な成人男女10名を対象に, L. johnsonii La1株を含む発酵乳を摂取目安量の3倍量である1日3カップ360 gを14日間連続摂取させたところ,試験食摂取後の血中貪食細胞活性の有意な上昇が認められた(p<0.005).自覚症状,医師による検診,血液検査ならびに尿検査において試験食摂取による健康状態に異常が認められた者はなく,試験食の安全性が確認された.以上の結果から, L. johnsonii La1株を含む発酵乳の摂取は,血中貪食細胞を活性化してヒト自然免疫を賦活する作用が認められ,また過剰量の摂取において安全性に問題のないことが示された.
著者
光岡 知足
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.179-192, 2005 (Released:2005-08-31)
参考文献数
90
被引用文献数
6

皮膚,上気道,口腔,咽頭,胃,腸管,膣,尿道などには,それぞれ部位によって特徴的な常在細菌がすみつき,常在フローラを構成している.多くの常在菌は潜在的の病原性を有し,何らかの原因でこの平衡関係が破れると,いわゆる“日和見感染”を惹き起こす.平衡関係の乱れは,抗菌物質やステロイドホルモンの投与,外科手術,ストレス,糖尿病,過労,老齢などが原因となる.20世紀後半,腸内フローラの研究は飛躍的に進展し,腸内フローラの包括的培養法の開発,腸内嫌気性菌の菌種の分類・同定法,微生物生態学的法則,宿主の健康と疾病における役割などの研究が系統的に行なわれ,腸内細菌学が樹立された.腸内フローラ研究の発展がきっかけとなり,機能性食品(プロバイオティクス,プレバイオティクス,バイオジェニックス)が誕生した.1980年代,分子生物学的手法が腸内フローラの研究にも導入されたが,いまなお検討段階にある.これからの腸内フローラの研究として,以下が重要課題として挙げられる.(1)腸内に少数しか存在しない菌種を含めた腸内フローラの包括的分子生物学的定性定量解析法の一刻も早い開発が望まれる.さらに,分子生物学的手法によって認識される生息しているが培養困難な菌種の培養可能とし,その分類学的位置づけと生化学・病理学的性状の解明.(2)腸内フローラを構成する主要菌種の生化学的性状と細菌・宿主細胞・食餌成分間の相互関係.(3) 免疫刺激,解毒作用などを含む腸内フローラの機能の研究が推進されれば,機能性食品が生活習慣病・免疫低下・炎症性腸疾患などの予防・治療のために栄養補助食品および代替医療としての利用が可能となる.(4)このような研究を達成するには,1958~1992年に私が理化学研究所(理研)で行なったように,産学の共同研究組織をつくり,研究者の差別化を排除し自由かつ協調的に結集し,学界が中心となって研究を推進させることが望まれる.
著者
中山 二郎
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.221-234, 2011 (Released:2011-11-16)
参考文献数
72

一見孤立無縁に生きているように見える単細胞生物である細菌も,細胞間でコミュニケーションをとりながら,集団として生育し,集団としてのパワーを最大限に発揮していることが分かってきた.細菌の場合は,細胞間コミュニケーションの媒体として化学物質を利用することが多い.中でもよく研究されているのが,クオラムセンシングと呼ばれる現象で,同種菌の生産するシグナル物質“オートインデューサー”の菌体外濃度を感知することで,同種菌の菌密度を感知し,それに合わせて,さまざまな遺伝子の発現をコントロールするというものである.本稿では,このような細菌の細胞間ケミカルコミュニケーションの分子機構について,グラム陰性菌からグラム陽性菌までその知るところを概略し,紹介する.
著者
Francis R. J. BORNET Khaled MEFLAH Jean MENANTEAU
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.55-63, 2002 (Released:2010-06-28)
参考文献数
45

短鎖フラクトオリゴ糖は, チコリー, タマネギ, アスパラガス, 小麦など多くの食用植物に含まれ, また工業的にショ糖から合成されている.これは直鎖フルクトースオリゴマーが重合度1~5で重合した糖グループである (オリゴ糖).短鎖フラクトオリゴ糖は大部分がヒト上部小腸で消化されずに結腸に達し, ここで完全に乳酸, 短鎖脂肪酸 (酢酸, プロピオン酸, 酪酸), ガスに分解される.酪酸は細胞増殖や結腸細胞の分化を調整するため, 最も注目される短鎖脂肪酸 (SCFA) である.このような栄養作用だけでなく, 酪酸には癌細胞の免疫原性を刺激する働きがある.短鎖フラクトオリゴ糖もビフィズス菌増殖を刺激するが, これら結腸内フローラは宿主の免疫系にかなりの影響を与える.小腸粘膜は免疫系で重要な役割を果たす生体内最大の免疫臓器である.消化管関連リンパ系組織 (GALT) は生体で独自の接触状態に従って主要な役割を果たし, 広範な抗原性物質や免疫調整物質に対抗する重要な防衛ラインを構成する.最近の動物モデルを使った所見で, プレバイオティクスやプロバイオティクスが酪酸や乳酸菌による直接または間接的な仲介を経てGALT応答を増進し, 消化管で健康増進効果を発揮することが証明された.またGALTは結腸腫瘍発生を防御する上で中枢的な働きをすると考えられる.腸内フローラはGALT応答を調整するだけでなく, 最近の動物モデルを使った所見によると, プレバイオティクスとプロバイオティクスが酪酸による直接または間接的な仲介を経てGALT応答を促進し, 消化管で健康増進効果を発揮することが明らかになった.現在, ヒト栄養研究の分野ではsc-FOSの結腸癌リスク低下がもたらす潜在的な健康増進効果にっいて活発な研究が行われている.動物モデルでsc-FOSは結腸内の酪酸濃度と局所免疫系エフェクターを増進し, その結果, 結腸腫瘍発生が減少した.本総説の目的は, GALTとそのエフェクターが結腸直腸癌の予防で果たす重要な役割を酪酸との関連において検討することである.これら二っの機能をsc-FOSが増進させることはわかっている.
著者
江崎 孝行
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.237-244, 2006 (Released:2006-08-15)
参考文献数
28
被引用文献数
1
著者
河野 麻実子 吉野 智恵 松浦 洋一 浅田 雅宣 河原 有三
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.87-92, 2004 (Released:2005-03-04)
参考文献数
15
被引用文献数
1

健常成人94名 (男性32名, 女性62名, 平均年齢35.4歳) に, 1包中Bifidobacterium longum JBL01を包含したシームレスカプセル0.2g (2.0×109 CFU), Lactobacillus gasseri JLG01およびEnterococcus faecium JEF01を包含したシームレスカプセル0.1g (それぞれ5.0×108 CFU) およびオリゴ糖0.29gを含むビフィズス菌製剤 (商品名 ビフィーナR) を1日に1包, 2週間摂取させた. 供試試料の摂取により, 便秘傾向者 (排便回数が5回以下/週) 群の排便回数が有意に増加し (p <0.01), 排便量も増加の傾向がみられた. 排便回数が週5回を超える非便秘傾向者群においても排便量の増加傾向がみられた. 全群で, 便の形状の改善傾向が認められたが, 特に便秘傾向者群および下痢傾向者群で顕著であった. さらに, 両群で, 便の色の明るい色調への移行傾向が認められた. 以上の結果より, 本製剤の摂取は, 排便回数および便性状の改善に有効であることが示唆された.
著者
松村 敦
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.287-292, 2010 (Released:2010-11-25)
参考文献数
17
被引用文献数
3

当研究所保有乳酸菌293株の膵リパーゼ阻害作用を検討した結果,60株が10%以上の膵リパーゼ阻害作用を示した.また,特に強いリパーゼ阻害作用を示した7菌株について,脂肪負荷ラットにおける中性脂肪濃度の上昇抑制作用を検討した結果, Lactobacillus gasseri NLB367が有意な作用を示した. 膵リパーゼ阻害作用の機能を有し,脂肪負荷ラットの中性脂肪上昇抑制作用を示したことから,乳酸菌はメタボリックシンドロームを予防・解消する可能性が示唆された.
著者
古澤 之裕
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.15-22, 2017 (Released:2017-01-31)
参考文献数
34

腸内細菌は宿主の免疫系の成熟を促進する一方で,腸内細菌に対する過剰な免疫応答は消化管における慢性炎症の発症の原因となる.こうした病理的な炎症を防ぐため,腸管には免疫抑制能をもつ制御性T細胞(以下,Treg細胞と略)が多く存在している.クロストリジウム目細菌をはじめとして,ある種の腸内細菌には炎症やアレルギーを抑えるTreg細胞を誘導する能力があることが報告されていたが,その分子機構については不明であった.腸内細菌は食物繊維を分解し,多種多様な代謝物を産生していることから,代謝産物の中にTreg細胞誘導に寄与するものがあるのではないかと推測した.そこで,メタボローム法により網羅的な代謝産物の解析とスクリーニングを実施したところ,Treg細胞誘導作用を有する代謝産物として酪酸を同定した.さらに,酪酸は,T細胞のDNAのうち,Foxp3遺伝子の発現調節領域におけるヒストンアセチル化を促進し,Treg細胞への分化を促すことを明らかにした.このようなヒストンやDNAの化学修飾を介した遺伝子発現調節機構はエピゲノム修飾と呼ばれている.腸内細菌によって産生される酪酸は,ヘルパーT細胞のエピゲノム修飾状態を変化させることでTreg細胞を分化誘導することが明らかとなった.酪酸をマウスに与えると,大腸におけるTreg細胞の数が顕著に増加し,実験的大腸炎を抑制したことから,酪酸は腸管の免疫恒常性維持に寄与することが明らかとなった.さらに,宿主側において,腸内細菌定着に応答してTreg細胞の誘導と増殖を制御する因子の探索を試みた.まず初めに,Treg細胞の増殖誘導に必要な分子を同定するため,無菌マウスと腸内細菌を定着させたマウスの大腸Treg細胞の遺伝子発現パターンを網羅的に解析した.その結果,腸内細菌の定着により大腸Treg細胞特異的に発現上昇する遺伝子としてDNAメチル化アダプターであるUhrf1を同定した.T細胞特異的にUhrf1を欠損したマウスを作出したところ,大腸Treg細胞の増殖能および免疫抑制機能の顕著な低下が観察され,その結果,全てのマウスがクローン病(炎症性腸疾患の1つ)に類似した慢性炎症を発症することを見出した.Uhrf1は,標的となる遺伝子領域にDNA維持メチル化転移酵素をリクルートすることでDNAメチル化の維持に寄与する.ゲノムワイドなDNAメチル化解析などの結果から,Uhrf1は細胞周期制御因子であるCdkn1aのプロモーター領域のDNAメチル化を促すことで,その発現をエピジェネティックに抑制し,Treg細胞の増殖をサポートしていると考えられる.本研究より,腸内細菌の定着は,宿主ヘルパーT細胞のエピジェネティクス修飾を促し,大腸Treg細胞の分化,増殖および機能成熟をサポートすることで,腸管免疫系の恒常性を維持していると考えられる.
著者
藤澤 倫彦
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.241-252, 2008 (Released:2008-11-06)
参考文献数
46
被引用文献数
1

近年における分子生物学の進歩により,細菌分類学の分野においても分子生物学的探求法であるGC mol%,DNA-DNAハイブリダイゼーションならびにリボソームRNA(rRNA)の塩基配列の解析が導入されてきた.このうち,特に菌種レベルでの分類,種の決定に関しては定量的DNA-DNA ハイブリダイゼーションを実施して,菌株間のDNAの類似度を測定しなければならないことが認識されている.このような分類の現状において,「Bergey's Manual of Systematic Bacteriology vol. 2」が1986年に出版されて以来既に20年以上が経過し,その間に多くの新菌種が報告されてきた.本稿ではヒトや動物由来の主なプロバイオティクス細菌(Lactobacillus属,Enterococcus属,Bifidobacterium属ならびに関連細菌)の分類の現状について概略を述べた.
著者
細野 朗
出版者
JAPAN BIFIDUS FOUNDATION
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.203-209, 2013

生体で最大の免疫系組織である腸管には膨大な数と種類の腸内細菌が共生し,宿主の消化吸収はもちろんのこと,免疫系に対しても大きな影響を及ぼしている.<i>Bacteroides</i>はヒトやマウスの腸内細菌叢を構成する細菌の優勢菌のひとつであるが,その菌種としての特性や宿主に及ぼす機能性に注目した研究は,近年注目されてきている.腸内共生菌は摂取した食品由来成分や腸内共生菌の代謝産物などの腸内環境によって強く影響を受けており,<i>Bacteroides</i>はオリゴ糖をはじめとする難消化性糖類を資化することができる.特に,<i>Bacteroides</i>がフラクトオリゴ糖やその構成糖であるGF2およびGF3をいずれも資化することで腸内での<i>Bacteroides</i>の増殖が活性化される.また,<i>Bacteroides</i>は腸管免疫系に対して免疫修飾作用を有し,小腸パイエル板細胞に対するIgA産生誘導能はLactobacillusよりも強い.腸管関連リンパ組織の形成が未熟な無菌マウスに対しては,<i>Bacteroides</i>を投与することによって小腸および盲腸のリンパ節における胚中心の形成を誘導するとともに,腸管粘膜固有層での総IgA産生を活性化することができる.さらに,<i>Bacteroides</i>の菌体成分による免疫修飾作用は抗原提示細胞を介したT細胞応答の活性化や炎症反応の制御などを通して,生体の生理機能にも大きな影響を与えていると考えられる.<br>
著者
峯村 剛 抜井 一貴 朝長 昭仁
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.183-187, 2012 (Released:2012-08-11)
参考文献数
12

ビフィズス菌を胃酸から守り,本来生息している大腸へと直接到達させる事を目的としたキトサンコーティングカプセルを開発した.内容物にβ-カロテンを用いた溶出試験の結果,胃液を模したⅠ液では60分以降で若干の溶出が確認され,続く小腸での環境を模したⅡ液で120分間行うと3%程度が溶出した.その後,キトサン膜が溶解性に変化が無いことを確認のためのpH3.5条件下では,移して60分以内にほぼ100%近い溶出を示したことから,設計どおり大腸で崩壊する可能性が高いことが確認された.そこでカプセルの挙動を確認するため硫酸バリウムを充填したカプセルにキトサンコーティングと耐酸性皮膜処理を行い,ヒトにおける消化管での崩壊部位確認試験を行った.結果,1例はカプセルが十二指腸に留まり観察時間内での崩壊は認められなかった.これは何らかの原因で胃及び十二指腸内部に長時間停滞したためと考えられた.残り5例に関しては大腸または小腸で崩壊し,全てでカプセルの崩壊が始まる時間は摂取後4.0~7.5時間と判断された.そして全体が壊れたと見なされる崩壊時間は5.0~8.5時間と判断された.ヒトの消化プロセスからすれば,摂取後にこの経過時間を経て崩壊することは,耐酸性を有し小腸を通過し大腸付近まで崩壊せずに移動するに十分な時間と推察される.小腸で崩壊した例に関しては,硫酸バリウム充填カプセルの比重が大きいため,胃での滞留時間が通常のカプセルより長くなり,小腸内での滞留も長時間になることによって,蠕動運動などの物理的な刺激によりカプセルが小腸内で崩壊した可能性が考えられた.以上本試験の結果から,本コーティングを施したカプセルは通常の崩壊性を示さず,耐酸性を有し,ビフィズス菌を充填したカプセルでは比重が小さいため,大腸内で崩壊する可能性がより高くなると思われる.
著者
福田 真嗣
出版者
JAPAN BIFIDUS FOUNDATION
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.145-155, 2015

メタボロゲノミクス(Metabologenomics)とは,代謝物質を網羅的に解析するメタボロミクス(Metabolomics)と,腸内細菌叢遺伝子を網羅的に解析するメタゲノミクス(Metagenomics)とを組み合わせた研究アプローチである.われわれの腸管内には多種多様な腸内細菌が生息しており,それら腸内細菌叢が宿主腸管細胞と相互作用することで異種生物で構成される複雑な腸内生態系,すなわち腸内エコシステムを形成している.腸内エコシステムの恒常性を維持することがヒトの健康維持・増進に大きく寄与していることが近年明らかになりつつあるが,逆に腸内細菌叢のバランスが崩れることで腸内エコシステムが大きく乱れると,大腸がんや炎症性腸疾患といった腸管関連疾患のみならず,自己免疫疾患や代謝疾患といった全身性の疾患につながることも報告されている.したがって,腸内細菌叢を異種生物で構成される一つの臓器として捉え,その機能を理解し制御することが,疾患予防・健康維持における新たなストラテジーとして重要と考えられる.近年,特に腸内細菌叢のメタゲノム解析やメタトランスクリプトーム解析により,個々人の腸内細菌叢遺伝子地図や推定される遺伝子機能に関する研究は盛んに行われている.しかし,腸内細菌叢による宿主への直接的な作用を理解する上で重要なカギを握るのは,腸内細菌叢から産生される種々の代謝物質と考えられる.本稿では,腸内細菌叢由来代謝物質が宿主の健康状態にどのように影響しているのかについて,メタボロミクスによる全容理解に向けた近年の取り組みについて紹介するとともに,腸内細菌叢変動とも組み合わせたメタボロゲノミクスの有用性についても議論する.<br>
著者
影山 亜紀子 辮野 義己
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.103-107, 2001 (Released:2010-06-28)
参考文献数
11
被引用文献数
1

抗生物質は各種細菌感染症の治療に用いられているが, 治療の結果, 正常フローラを変化させることが明らかにされている.どのような抗生物質が腸内細菌に影響を与えるのかを調べるためにCollinsella属をはじめとするヒト腸内最優勢菌種について, 9種類の抗生物質に対する感受性試験を行った.Collinsella属は全体的に薬剤感受性だが, セフェム系薬剤の一部やモノバクタム系の薬剤に対して耐性を持っことが明らかとなった.よって治療にはセフェム系やモノバクタム系の薬剤を用いた方が, 腸内のCollinsella属に対する影響は少ないと考えられる.また, Collinsella属3種の分類指標としても薬剤感受性の違いが用いられることも分かった.