著者
園山 慶
出版者
JAPAN BIFIDUS FOUNDATION
雑誌
腸内細菌学雑誌 = Journal of intestinal microbiology (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.193-201, 2010-07-01
被引用文献数
1

肥満およびそれに関連した糖尿病などのメタボリックシンドロームの増加は世界的な問題となっている.最近の研究により,腸内細菌叢がこれらの疾患に関与する環境要因のひとつであることが明らかになってきた.無菌マウスを用いた研究は,腸内細菌が宿主における食餌からのエネルギー獲得および脂質・エネルギー代謝に影響することにより体脂肪蓄積に重要な役割を果たしていることを示唆した.また,肥満個体と正常体重個体との間で腸内細菌叢が異なることが,実験動物およびヒトにおいて観察された.さらに,腸内のグラム陰性細菌由来のリポ多糖が体内に移行して代謝性エンドトキシン血症を生じ,それが白色脂肪組織における軽度炎症,さらには全身性のインスリン抵抗性に寄与することが示された.これらの知見は腸内細菌叢が肥満およびメタボリックシンドロームの予防・治療の標的となりうることを示唆する.実際,プレバイオティクスおよびプロバイオティクスがこれらの疾患を予防・改善することが報告されている.本総説では,この数年で急速に進展した腸内細菌叢と肥満およびメタボリックシンドロームとの関係に関する研究を紹介する.<br>
著者
福田 真嗣
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.145-155, 2015 (Released:2015-08-01)
参考文献数
46
被引用文献数
1

メタボロゲノミクス(Metabologenomics)とは,代謝物質を網羅的に解析するメタボロミクス(Metabolomics)と,腸内細菌叢遺伝子を網羅的に解析するメタゲノミクス(Metagenomics)とを組み合わせた研究アプローチである.われわれの腸管内には多種多様な腸内細菌が生息しており,それら腸内細菌叢が宿主腸管細胞と相互作用することで異種生物で構成される複雑な腸内生態系,すなわち腸内エコシステムを形成している.腸内エコシステムの恒常性を維持することがヒトの健康維持・増進に大きく寄与していることが近年明らかになりつつあるが,逆に腸内細菌叢のバランスが崩れることで腸内エコシステムが大きく乱れると,大腸がんや炎症性腸疾患といった腸管関連疾患のみならず,自己免疫疾患や代謝疾患といった全身性の疾患につながることも報告されている.したがって,腸内細菌叢を異種生物で構成される一つの臓器として捉え,その機能を理解し制御することが,疾患予防・健康維持における新たなストラテジーとして重要と考えられる.近年,特に腸内細菌叢のメタゲノム解析やメタトランスクリプトーム解析により,個々人の腸内細菌叢遺伝子地図や推定される遺伝子機能に関する研究は盛んに行われている.しかし,腸内細菌叢による宿主への直接的な作用を理解する上で重要なカギを握るのは,腸内細菌叢から産生される種々の代謝物質と考えられる.本稿では,腸内細菌叢由来代謝物質が宿主の健康状態にどのように影響しているのかについて,メタボロミクスによる全容理解に向けた近年の取り組みについて紹介するとともに,腸内細菌叢変動とも組み合わせたメタボロゲノミクスの有用性についても議論する.
著者
新 良一 伊藤 幸惠 片岡 元行 原 宏佳 大橋 雄二 三浦 詩織 三浦 竜介 水谷 武夫 藤澤 倫彦
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.15-24, 2014 (Released:2014-02-11)
参考文献数
39

豆乳の発酵産物が宿主に及ぼす影響を検討した報告は少ない.今回,我々は豆乳の乳酸菌発酵産物(SFP: Soybean milk-Fermented Product)がヒト腸内細菌叢に及ぼす影響を検討し,さらに大腸の発がん予防とその作用機序についても合わせて検討した.SFPは豆乳を複数の乳酸菌と酵母で混合培養後殺菌し,凍結乾燥して調製した.一般的な日本食を食べているボランティアにSFPを摂取させ(450 mg/day/head for 14 days),腸内細菌叢の変化を比較したところ,SFP群はプラセボ群よりBifidobacteriumの占有率が25%以上増加した人数が多かった(P<0.05).さらに,昼食のみを一般的な日本食から肉食中心の欧米食(肉摂取量約300 g,900 kcal)に3日間変えると,Clostridiumの占有率は増加したが(P<0.05),SFPを摂取(900 mg/day/head)すると減少した(P<0.05).また,SFPの摂取でBifidobacteriumの占有率が増加した(P<0.05).このボランティアの糞便中β-glucuronidase活性は,昼食を肉食中心の欧米食にすると一般的な日本食摂取時より5倍以上増加したが(P<0.01),SFP摂取で一般的な日本食時のレベルにまで減少した(P<0.05).以上の結果は,SFPが多くのプロバイオティクスなどで示されている大腸がんの発がんリスクを軽減する可能性を示唆していると考え,以下の検討を試みた.即ち,SFPが大腸がんの発がんに及ぼす影響は大腸がん誘起剤1,2-dimethylhydrazine (DMH)をCF#1マウスに投与する化学発がんモデルを用いて検討した.SFPはDMH投与開始時から飼料中に3%(W/W)混和して与え,大腸に発がんした腫瘤数を検討した結果,有意な抑制が認められた(P<0.05).一方,SFPの抗腫瘍作用機序は,Meth-A腫瘍移植モデルで検討した.SFP(10 mg/0.2 ml/day/head)は化学発がんモデルと同様にMeth-A腫瘍移植前から実験期間中投与し,抗腫瘍効果が得られた脾細胞を用いた Winn assayでその作用機序を検討した.その結果,SFP群のみは移植6日目以降でMeth-A単独移植群に比べ有意な腫瘍増殖抑制が認められ(P<0.05),担癌マウスの脾細胞中に抗腫瘍作用を示す免疫細胞群が誘導された可能性が考えられた.Bifidobacteriumを定着させたノトバイオートマウスは無菌マウスより脾細胞数が増加したが,無菌マウスにSFPや豆乳(10 mg/0.2 ml/day/head)を4週間連日経口投与しても,脾細胞数は生理食塩液を投与した無菌マウスと差が認められなかった.これらのことからSFPの抗腫瘍効果には腸内細菌が宿主免疫に関与した可能性が示唆されたが,その詳しい機序については今後の検討が必要である.
著者
光山 慶一 増田 淳也 山崎 博 桑木 光太郎 北崎 滋彦 古賀 浩徳 内田 勝幸 佐田 通夫
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.143-147, 2007 (Released:2007-05-31)
参考文献数
15

プロピオン酸菌による乳清発酵物は,乳清をエメンタールチーズ由来のプロピオン酸菌で発酵させて製造したプレバイオティクスである.その主要成分である1,4-dihydroxy-2-naphthoic acidはビフィズス菌を特異的に増殖させ,腸内環境を宿主に有益な方向へ導くことが可能である.我々は,本食材が実験大腸炎モデルや潰瘍性大腸炎患者に有用であることを明らかにした.本稿では,これまでに報告されたプロピオン酸菌による乳清発酵物の特性について概説するとともに,潰瘍性大腸炎への治療応用について述べる.
著者
中山 二郎 田中 重光 Prapa Songjinda 立山 敦 坪内 美樹 清原 千香子 白川 太郎 園元 謙二
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.129-142, 2007 (Released:2007-05-31)
参考文献数
26
被引用文献数
4

腸内細菌叢とアレルギーとの関連性が多くの研究によって示唆されており,アレルギー罹患幼児と非罹患幼児との間では,生後すぐに始まる腸内細菌による免疫系への刺激に何らかの差があることが想定される.しかし,アレルギー疾患発症には,その他先天的要因や生活要因なども関係し,腸内細菌叢の偏倚とアレルギーとの関連性解明には大規模な疫学調査が必要である.そして,そのためには多数の糞便サンプルの菌叢を迅速・簡便かつ高精度に解析するシステムの確立が必須である.本稿では,一連の分子生物学的手法について,それぞれの長所・短所を再考し,乳幼児を対象としたアレルギーと腸内細菌叢に関する疫学調査研究に相応しい腸内細菌叢解析法を検討した.DGGE法およびT-RFLP法は優勢種の相対的存在比の情報に限られるが,フローラの全体像を迅速に把握することができ,サンプル間の菌叢比較に優れている.定量的PCR(Q-PCR)法は精度・感度において他の方法を凌駕し,DGGEやT-RFLPなどで全体像を把握した後,対象を限定し解析する場合に有効である.ランダムシーケンス法では,菌種レベルでの信頼性の高い細菌叢データを得ることができる.マイクロアレイ解析は網羅的な菌叢解析を可能にしており,今後,本分野における有効利用が期待される.
著者
関 沙織 小野寺 洋子 岩堀 禎廣 難波 利治 海老原 淑子
出版者
The Intestinal Microbiology Society
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.199-208, 2022 (Released:2022-10-28)
参考文献数
16

排便回数が週3~5回の41~61歳の健常成人20名を対象に,16種35株の乳酸菌およびビフィズス菌とその代謝物(乳酸菌生産物質)を含む豆乳発酵食品(商品名 FF16)の腸内細菌叢・排便に対する自覚症状・排便状況など,腸内環境への有用性についてランダム化二重盲検クロスオーバー比較試験により検討した.被験者にFF16(150 mg/日)を含む試験食品を摂取させたところ,日本語版便秘評価尺度(CAS-MT)において「排便回数」「排便時の肛門の痛み」「便の排泄状態」の各項目に加えて「総合評価」においても,開始時と比較して統計学的に有意な改善が確認された.また,試験食品摂取群において便のにおいと関わるなど潜在的有害菌として知られるBacteroidaceae, Sutterellaceae, Oscillospiraceaeがプラセボ食品摂取群と比較して統計学的に有意に減少し,また,感染症の減少に関わるなど潜在的有益菌として知られるDesulfovibrionaceae, Peptostreptococcaceae, Rikenellaceae, Eggerthellaceae, Actinomycetaceaeがプラセボ食品摂取群と比較して統計学的に有意に増加していた.以上の結果より,FF16の摂取により,排便に対する自覚症状の改善および潜在的有益菌の増加が確認されたことから,腸内環境の改善に有効であると考えられた.
著者
中村 康則 大木 浩司
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.259-264, 2010 (Released:2010-11-25)
参考文献数
20

乳酸菌Lactobacillus helveticusは,発酵中に乳蛋白質を分解し,潜在するペプチドvalyl-prolyl-proline,isoleucyl-prolyl-prolineを産生する.両ペプチドは,アンジオテンシン変換酵素阻害活性を有する.この酵素は,アンジオテンシンIに作用し,強力な血圧上昇物質アンジオテンシンIIを産生することで知られる.動物実験および in vitro試験の結果は,経口摂取された両ペプチドの一部が,インタクトな形で消化管より吸収され,組織レニン・アンジオテンシン系に作用し,血圧を降下させることを示唆している.我々が実施したヒト飲用試験では,両ペプチドを含有する発酵乳の摂取により,高血圧者の収縮期および拡張期血圧が有意に降下することを確認した.アンジオテンシン変換酵素は,NO産生を促進するブラジキニンを分解・失活する酵素でもある.従って,両ペプチドには,NOによる血管内皮機能の維持,動脈硬化予防の可能性が期待される.NO合成酵素阻害剤NG-nitro-L-arginine methyl ester hydrochlorideを投与したラットの胸部大動脈を摘出し,アセチルコリンに対する内皮応答性を調べた結果,いずれのペプチドも阻害剤と同時摂取させたとき,阻害剤による応答性低下の改善を認めた.また,我々が実施したヒト試験では,両ペプチドの摂取により,プレスティモグラフィーにおける上腕の駆血解放後の血流量の増大が認められ,このとき,血圧に変化はなかったため,両ペプチドによる,血管内皮機能の改善が示唆された.以上のことから,両ペプチドは,血圧降下という作用のみならず血管内皮機能改善作用によってメタボリックシンドロームの予防,改善に寄与するものと考えられる.
著者
名倉 泰三 八村 敏志 上野川 修一
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.7-14, 2004 (Released:2005-03-04)
参考文献数
35

アレルギー発症と腸内細菌叢に関する疫学的調査から, ヒト腸内に生息するBifidobacterium やLactobacillus などの乳酸菌がアレルギーの予防に寄与することが推測される. 乳酸菌はTh1免疫応答を亢進させることで, アレルギー発症に関わるTh2免疫応答を抑制することが報告されている. 難消化性オリゴ糖の摂取は, 腸内に住み着いている乳酸菌, 特にBifidobacterium を増殖させることがよく知られている. 我々は, オリゴ糖の一種であるラフィノースがTh1/Th2応答に与える影響について, 卵白アルブミン特異的T細胞レセプタートランスジェニックマウスを使って調べた. トランスジェニックマウスへの卵白アルブミン経口投与によって誘導された腸管膜リンパ節細胞のIL-4産生や血中IgE上昇は, ラフィノース添加食によって有意に抑制された. ラフィノース食によって培養可能なマウス盲腸内細菌の菌数変化が認められなかったため, この免疫応答の変化に関係する腸内細菌の種類は不明であるが, ラフィノースの摂取は, 経口抗原によって誘導される不利益なTh2応答を抑制することが示唆された.
著者
鮫島 由規則 鮫島 隆志 平川 あさみ 丹羽 清志 永田 祐一 鮫島 加奈子 松元 淳 渋江 正
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.67-79, 2003 (Released:2010-06-28)
参考文献数
37
被引用文献数
3

ビフィズス菌は腸内腐敗の抑制, 免疫力の増強など宿主の健康維持に大きな役割を果たしている.今回, 筆者らは新しい形態のプロバイオティクスである「ビフィズス菌含有大腸崩壊性カプセル」を臨床応用する機会を得た.このカプセルを潰瘍性大腸炎に用いた場合, 腸内細菌叢に作用して腸内有用菌の増殖を促進するとともに, 腸内有害菌の増殖を抑制して腸内細菌叢のバランスが改善された.この結果, 腸内環境が浄化され, 症状の改善ならびにQOLの向上がもたらされた.
著者
内山 成人 木村 弘之 上野 友美 鈴木 淑水 只野 健太郎 石見 佳子
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.221-225, 2007 (Released:2007-08-17)
参考文献数
13
被引用文献数
1

我々がエクオール産生乳酸菌としてヒト腸内より単離したラクトコッカス20-92株は,Lactococcus garvieae(以下Lc. garvieae)と同定された.ラクトコッカス20-92株の安全性評価のために,Lc. garvieaeの食歴およびヒト腸内常在性について検討した.イタリアの伝統的チーズおよび日本人の健常人女性より採取した糞便からのLc. garvieae検出は,Lc. garvieaeに特異的なPCRプライマーを用いたRT-PCR法あるいはリアルタイムPCR法により行った.イタリアおよび日本で入手したイタリア産の伝統的なチーズ7種類(トーマ・ピエモンテーゼ,ラスケーラ,ブラ・ドゥーロ,ブラ・テネーロ,ムラッツアーノ,カステルマーニョ,ロビオラ・ディ・ロッカヴェラーノ),21検体にLc. garvieaeが検出された.また,ヒト糞便サンプル135検体中,49検体にLc. garvieaeが検出された(検出率36.3%).本研究結果より,Lc. garvieaeが伝統的に食されてきたチーズ中に存在していることが確認できたことから,その食歴を明らかにすることができた.さらに,健常人の腸内に常在していることも明らかとなり,Lc. garvieaeの安全性は高いものと考えられた.したがって,ヒト腸内由来のラクトコッカス20-92株も,同様に安全性の高い菌株であることが示唆され,今後,食品としての利用が可能と考えられた.
著者
光岡 知足
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.211-222, 2012 (Released:2012-12-28)
参考文献数
36

私は,生まれつき内気で.小学校では,絵・ポスター・書の制作,昆虫標本・模型の製作に熱中した.成蹊高校尋常科に入学し,よき師友に出会い,草川信先生により「クラッシック音楽」に開眼,中村草田男先生から「純粋に生きる尊さ」を教わり,これが,私の終生の信条となった.終戦とともに授業が再開され,植物学の前川文夫先生の講義に深い感銘を受けた.高等科に進学した頃,人生に悩んだが,その時,私の心を支えてくれたのは河合栄治郎著『学生に与う』と矢内原忠雄先生の言葉であった.東大に入学し,再びよき師友にめぐり合うことができ,研究者となることを決意した.大学院で,越智勇一先生の指導を受けたことが,私の人生を決定づけた.BL培地を開発し,成人の腸内にビフィズス菌が優勢菌として検出されることを発見,これが今日までの研究の基礎となった.1964年から2年間のベルリン留学により海外のよき研究者と知己を得,その後の研究に計り知れない恩恵を受けた.帰国後,多菌株接種装置および腸内フローラの包括的検索法を開発,腸内フローラの生態学的法則を明らかにし,“腸内細菌学”を開拓し,次いで発酵乳・オリゴ糖の効用を発見し,“バイオジェニックス”を提唱した.創造には,「直観」が重要である.直観は,純粋な心で,強靭な忍耐力をもって真理を探求する過程で突如として現れる.研究者は,清廉潔白に徹せねばならない.私は『創造の成果は,純粋な心で,努力を重ねた結果,授けられるものである』と確信している.
著者
光岡 知足
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 = Journal of intestinal microbiology (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.211-222, 2012-10-01
参考文献数
36

私は,生まれつき内気で.小学校では,絵・ポスター・書の制作,昆虫標本・模型の製作に熱中した.成蹊高校尋常科に入学し,よき師友に出会い,草川信先生により「クラッシック音楽」に開眼,中村草田男先生から「純粋に生きる尊さ」を教わり,これが,私の終生の信条となった.終戦とともに授業が再開され,植物学の前川文夫先生の講義に深い感銘を受けた.高等科に進学した頃,人生に悩んだが,その時,私の心を支えてくれたのは河合栄治郎著『学生に与う』と矢内原忠雄先生の言葉であった.東大に入学し,再びよき師友にめぐり合うことができ,研究者となることを決意した.大学院で,越智勇一先生の指導を受けたことが,私の人生を決定づけた.BL培地を開発し,成人の腸内にビフィズス菌が優勢菌として検出されることを発見,これが今日までの研究の基礎となった.1964年から2年間のベルリン留学により海外のよき研究者と知己を得,その後の研究に計り知れない恩恵を受けた.帰国後,多菌株接種装置および腸内フローラの包括的検索法を開発,腸内フローラの生態学的法則を明らかにし,"腸内細菌学"を開拓し,次いで発酵乳・オリゴ糖の効用を発見し,"バイオジェニックス"を提唱した.創造には,「直観」が重要である.直観は,純粋な心で,強靭な忍耐力をもって真理を探求する過程で突如として現れる.研究者は,清廉潔白に徹せねばならない.私は『創造の成果は,純粋な心で,努力を重ねた結果,授けられるものである』と確信している.<br>
著者
伊藤 善翔 小井戸 薫雄 大草 敏史
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.13-18, 2021 (Released:2021-02-03)
参考文献数
25

膵疾患は急性膵炎といったcommon diseaseから自己免疫性膵炎や癌まで様々である.そのなかで,膵臓癌は我が国においてだけでなく,全世界的に未だ予後不良の疾患であり,その対応には急務が求められている.近年,様々な消化器癌において腸内細菌(Gut microbiota)の関与が報告されているが,膵疾患領域においても細菌叢の解析が蓄積されてきている.膵疾患においても良悪性疾患を問わず細菌が疾患に関係することが示唆されてきており,細菌叢から疾患を考察することは,未だ解明されていない癌化プロセス等の解明に繋がると考える.
著者
飯島 英樹 清野 宏
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.205-214, 2021 (Released:2021-10-29)
参考文献数
77

消化管の内部には,多数の細菌,真菌などの微生物が生体と共生し,生体の機能に重要な役割を果たしている.消化管内の腸内細菌は,直接的に,あるいは代謝物を介して生体の構成細胞に影響を与え,免疫系の発達と機能をサポートする.消化管管腔内のみならず,小腸パイエル板などの粘膜関連リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue: MALT)内にも細菌が共生しており,生体の機能に影響を与える.食事成分も,腸内細菌叢の構成に影響を与え,生体の消化管粘膜バリアに始まり粘膜免疫系だけではなく全身系の免疫学的状態にも影響を及ぼす.共生微生物,生体の免疫系,食事により摂取された成分は相互に関係することにより生体機能に影響し,さまざまな疾患病態にも関連している.特に,分子に付加される糖鎖や細菌から産生される短鎖脂肪酸などの代謝物が免疫シグナルをはじめとする細胞―微生物間のメディエーターとして働くとともに,腸管に共生する微生物叢の構成に影響を与え,生体機能の制御に大きな役割を与えている.
著者
渡辺 幸一
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.129-139, 2016

ビフィズス菌は,主にヒトや動物の腸管から分離されるグラム陽性の多形性桿菌であり,系統分類学的には<i>Actinobacteria</i>門の<i>Bifidobacteriaceae</i>科に属する6属58菌種で構成される.なかでも<i>Bifidobacterium</i>属は,50菌種10亜種で構成され,その中心を占めている.微生物の分類体系は,菌種同定や分類法の技術の進歩と密接な関係にある.DNA-DNA相同性試験(DDH)法は,1960年代から用いられ,現在でも菌種を区別するための最も重要な基準である.一方,16S rRNA遺伝子配列データに基づく系統解析は,煩雑な操作と熟練を必要とするDDHに替わる菌種分類の標準法として位置づけられている.しかしながら,16S rRNA遺伝子単独では菌種の分類同定が不可能である菌種グループが数多く存在する.近年,ハウスキーピング遺伝子の塩基配列に基づく多相解析法[Multilocus Sequence Analysis(MLSA)あるいはTyping(MLST)]および全ゲノム塩基配列の相同性(ANI)など,DDH法を補完・代替する分類方法が開発されている.ここでは,ビフィズス菌の分類法の現状と動向について解説する.<br>
著者
平山 洋佑 遠藤 明仁
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.17-28, 2016 (Released:2016-02-18)
参考文献数
41
被引用文献数
5

乳酸菌はプロバイオティクスのみならず,発酵食品スターター,サイレージのスターター等,産業的に利用される場面が多いため,幅広い研究が行われている.乳酸菌分類は16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく系統解析が利用されて以降,大きな変化を遂げている.新菌種として提案される乳酸菌の数は増え続け,現在は35菌属300菌種以上が乳酸菌として登録されている.これらの菌種の中には従来表現性状により分類されていた時とは異なる菌属に再分類されている菌種も見られる.このような分類の急激な変化は,多くの研究者に少なからぬ混乱を生じている.そこで本総説では,現在の乳酸菌分類状況について概説する.また,2014年に国際細菌分類命名委員会のビフィズス菌・乳酸菌分類小委員会が「Bifidobacterium, Lactobacillus及びその類縁菌の新菌種提唱に推奨される最少基準」を発表したので,これについても本総説で紹介する.
著者
太田 敏子
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.137-143, 2019 (Released:2019-07-29)
参考文献数
24

人間は1 Gで進化した高等生物である.その人間が0 Gの宇宙環境に曝されると,とりわけヒトには大きな生理的変化が生じる.その変化はどのようなものか,その対応はどうしたらよいのか,これまでに蓄積されてきた知見を紹介する.宇宙環境で起きる人体の生理的変化は,加齢と同じような現象(起立性低血圧,骨量減少,筋萎縮,心肺機能低下,免疫低下など)が急速に進むという特徴をもつ.これらのメカニズムの解明は,地上の高齢者の医療に対する新たな治療法の開発に貢献する.さらに,宇宙生活の概略を説明し,各種の宇宙技術は地上の社会生活に大きく寄与していることを紹介する.