著者
楢原 義之 金沢 秀典 福田 健 張本 滉智 松下 洋子 城所 秀子 片倉 玲樹 厚川 正則 中塚 雄久 坂本 長逸
出版者
日本門脈圧亢進症学会
雑誌
日本門脈圧亢進症学会雑誌 (ISSN:13448447)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.227-233, 2009-11-30 (Released:2012-12-28)
参考文献数
26

2004年から2009年までに当科に入院したのべ929例の肝硬変患者のうち,入院時あるいは入院中にクレアチニンが1.5 mg/dl以上を呈した腎障害合併肝硬変患者142例を対象とし,International Ascites Clubの診断基準に基づく1型肝腎症候群症例の実態について検討した.対象中急性腎障害を106例に認め,27例が1型肝腎症候群であった.1型肝腎症候群の平均Child-Pugh scoreは12.4点,総ビリルビン平均値は15.1 mg/dl,クレアチニン平均値は3.22 mg/dlであった.誘因は感染症16例,腹水穿刺5例が多く,その他6例であった.治療としてアルブミン投与21例,terlipressin投与11例,ドパミン投与11例,ノルアドレナリン投与1例,血液濾過透析施行1例などが行われた.Terlipressin以外の通常治療を行った16例中15例は死亡し,平均生存期間は12日であった.1型肝腎症候群は急性腎障害合併肝硬変例の25%にみられ,重度な肝不全を基盤としており,通常治療では予後は極めて不良であった.
著者
小原 勝敏
出版者
日本門脈圧亢進症学会
雑誌
日本門脈圧亢進症学会雑誌 (ISSN:13448447)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.43-51, 2011 (Released:2013-12-24)
参考文献数
12
被引用文献数
1

内視鏡的硬化療法(endoscopic injection sclerotherapy:EIS)や内視鏡的静脈瘤結紮術(endoscopic variceal ligation:EVL)の手技の習得は,食道静脈瘤の緊急出血例に対する止血(救命)のみならず,再出血防止あるいは出血再発予防対策として必要不可欠である.とくに,再発の少ない安全なEISの手技は熟練を要するが,十分に習得しておくことが大切である.また,内視鏡治療によって起こりうる合併症とそれらの防止策の知識が必要であり,安全かつ効果的な内視鏡治療を達成するには,患者の病態,とくに基礎疾患の病態や併存病変の重症度の把握と超音波内視鏡や3D-CTによる門脈血行動態の把握が不可欠であり,それぞれの状況に応じた最良の治療法を選択できる.
著者
魚住 祥二郎 馬場 俊之 吉田 仁
出版者
日本門脈圧亢進症学会
雑誌
日本門脈圧亢進症学会雑誌 (ISSN:13448447)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.113-121, 2015 (Released:2017-12-27)
参考文献数
19
被引用文献数
2

食道胃静脈瘤を合併した肝硬変184例に対する内視鏡的治療後の生存に寄与する因子について検討した.全体の累積生存率は1年:84.0%,3年:67.3%,5年:50.7%であり,生存に最も寄与する因子は肝細胞癌の合併であった.経過観察期間における肝細胞癌の合併により「肝細胞癌非合併群」と「肝細胞癌合併群」に分類し,さらに肝細胞癌合併群を進行肝細胞癌(Vp3-4,肝外転移,治療抵抗性肝細胞癌)の合併の有無により「進行肝細胞癌非合併群」と「進行肝細胞癌合併群」に分類した.進行肝細胞癌合併群は,他の2群に比較し有意に予後が不良であった.また,進行肝細胞癌合併群のうち内視鏡的治療時にすでに進行肝細胞癌を合併していた「治療時進行肝細胞癌合併群」は,内視鏡的治療後に進行肝細胞癌を合併した「治療時進行肝細胞癌非合併群」に比較し有意に予後が不良であり,門脈腫瘍塞栓(Vp3-4)を高率に合併していた.食道胃静脈瘤を合併した肝硬変に対する内視鏡的治療後には肝細胞癌のコントロールが重要であり,門脈腫瘍塞栓(Vp3-4)に進展する前に内視鏡的治療を行うような経過観察が必要であると考えられた.
著者
佐藤 孝 舘道 芳徳 菅野 将史 増田 友之
出版者
日本門脈圧亢進症学会
雑誌
日本門脈圧亢進症学会雑誌 (ISSN:13448447)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.344-347, 2009-12-31 (Released:2012-12-28)
参考文献数
12

脾臓は門脈系に介在する末梢最大のリンパ装置であるが,血液濾過装置としても機能している.その構造は,細網組織を骨格とする枠組みの中に白脾髄,周辺帯,赤脾髄が形成されている.ヒト脾臓では,周辺帯,赤脾髄で動脈末端は開放性に終わり,その特異な微小循環系は脾臓の持つ血液濾過・浄化作用と密接に関わっている.血管鋳型標本を用いた検討からは,部分的脾動脈塞栓術(PSE)における塞栓部位は内径1 mm 前後の脾柱動脈と考えられる.
著者
安田 宏 与芝 真彰
出版者
日本門脈圧亢進症学会
雑誌
日本門脈圧亢進症学会雑誌 (ISSN:13448447)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.152-155, 2008-11-30 (Released:2012-09-24)
参考文献数
41
被引用文献数
1

胃前庭部にびまん性の血管拡張像を呈する胃前庭部毛細血管拡張症 (gastric antral vascular ectasia; GAVE) は消化管出血の原因疾患として近年注目されている.GAVEは進行肝硬変や慢性腎不全など, 様々な基礎疾患を背景に出現する.治療は, 内視鏡下のargon plasma coagulation (APC) などの焼却術が第一選択となりつつある.estrogen-progesterone (EP) 製剤などによる薬物療法の有用性も報告されている.
著者
吉住 朋晴 伊藤 心二 播本 憲史 原田 昇 長尾 吉泰 赤星 朋比古 前原 喜彦
出版者
日本門脈圧亢進症学会
雑誌
日本門脈圧亢進症学会雑誌 (ISSN:13448447)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.256-261, 2017 (Released:2020-01-11)
参考文献数
16

生体肝移植術中脾臓摘出術の効果と影響について検討した.初回成人間生体肝移植を施行した482例を脾臓摘出併施した302例(摘出群)と併施しなかった180例(非摘出群)に分けた.脾臓摘出群で術後14日目の総ビリルビン値は低値,腹水量は少量,プロトロンビン活性は高値であった.術後敗血症と急性拒絶反応の頻度は,脾臓摘出群で低かった.脾臓摘出に起因する術後膵液瘻を26例(5.4%),術後門脈血栓・脾門部断端からの出血を各々5例(1.0%),脾臓摘出後重症感染症を3例に認めた.6か月・10年グラフト生存率は脾臓摘出群では93.4%・73.7%,非摘出群では84.3%・64.9%と脾臓摘出群で有意に良好であった.多変量解析で脾臓摘出非施行とMELD値22以上が,生体肝移植後6か月以内グラフトロスの独立危険因子であった.生体肝移植術中脾臓摘出術により,生体肝移植後グラフト生存率が改善する可能性が示された.
著者
金沢 秀典
出版者
日本門脈圧亢進症学会
雑誌
日本門脈圧亢進症学会雑誌 (ISSN:13448447)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.171-172, 2012-11-30 (Released:2014-12-26)
参考文献数
6
著者
野口 和典
出版者
日本門脈圧亢進症学会
雑誌
日本門脈圧亢進症学会雑誌 (ISSN:13448447)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.19-24, 2013 (Released:2015-12-22)
参考文献数
11

腹腔-静脈シャント(シャント)術は,腹腔内と中心静脈を一方向弁付きのシリコンカテーテルで短絡し,腹水を強制的に大循環に還流し,難治性腹水を減少・消失させる治療法である.多くは非代償性肝硬変の大量腹水が対象となるが,この門脈圧亢進状態下の腹水貯留では,門脈圧>腹腔内圧(腹水圧)>中心静脈圧(CVP)の順で,圧勾配が存在している.シャントによる腹水還流は,術後早期は腹水圧―CVPの圧差に依存し,晩期は呼吸に伴う腹腔圧―胸腔圧差によって形成される.大循環に還流された腹水は,尿として排泄されるため,術後1~2週で腹水圧―CVPとなり,CVPも次第に低下正常化する.晩期のシャント内流量は,門脈内から腹腔内に移動する水のみとなり,量も減少してくる.この圧勾配全般の減少による術後の食道静脈瘤消退例が存在する.以上のことにより,術前の門脈圧亢進状態には,腹水貯留自体が,圧亢進因子として加味している可能性がある.
著者
橋本 直樹
出版者
日本門脈圧亢進症学会
雑誌
日本門脈圧亢進症学会雑誌 (ISSN:13448447)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.114-118, 2011-06-30 (Released:2013-12-24)
参考文献数
13
被引用文献数
1

脾摘後症例は,肺炎球菌を中心とした莢膜保有菌により重症感染症に罹患しやすくoverwhelming postsplenectomy infection(以下OPSI)として知られている.急激な臨床経過と高い死亡率のため治療法よりもむしろ予防に重点がおかれ,肺炎球菌ワクチンの接種,抗菌薬の予防的投与などが臨床的に推奨されている.欧米においては,OPSIの予防のため脾摘後患者に対する肺炎球菌ワクチンのガイドラインは普及している.しかし,我が国では,ITPに対するガイドラインのみであり,また脾摘後患者に対するアンケート調査においても,肺炎球菌ワクチンの投与はほとんどされていなかったのが現状であり,いまだ我が国においては,欧米のように脾摘後患者に対する肺炎球菌ワクチンのガイドラインが普及しておらず,早急に消化器病医,消化器外科医,救急医が中心になり,欧米のようなガイドラインの作成が急務のように思われる.
著者
荒川 正博
出版者
日本門脈圧亢進症学会
雑誌
日本門脈圧亢進症学会雑誌 (ISSN:13448447)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.304-313, 2009

最近では食道静脈瘤の治療の多くが内視鏡を用いた食道静脈瘤硬化療法,静脈瘤結紮療法で,これらの治療の効果か,食道静脈瘤の破綻出血例がかなり減少している.筆者はこれら内視鏡的治療後の100例以上の剖検例を観察し,いくつかの論文として報告してきたので,本論文ではこれらの要約として主に画像を用いて整理してみた.言葉足らずの部分は参考論文を参照して欲しいと考えている.筆者が見てきた硬化療法の待機例,予防例は副作用も少なく,静脈瘤内には血栓形成が4本の静脈瘤に見られ,すだれ様血管走行部には地固めのため,線維化が見られた.筆者は静脈瘤結紮療法が急性期の破綻出血時には優れているが静脈瘤の消失を目的とした場合には硬化療法がより優れていると考えている.
著者
小野寺 誠 加藤 章信 井上 義博 藤野 靖久 鈴木 一幸
出版者
The Japan Society for Portal Hypertension
雑誌
日本門脈圧亢進症学会雑誌 (ISSN:13448447)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.160-164, 2007

食道・胃静脈瘤患者に対する塞栓療法が精神神経機能へ与える影響を, いわゆる「潜在性肝性脳症」の評価に有用であるとされる定量的精神神経機能検査 (Neurophysiological tests : 以下NPテスト) を用いて検討した.対象はNPテストで潜在性肝性脳症と診断した食道・胃静脈瘤患者のうち, 内視鏡的食道静脈瘤硬化療法 (Endoscopic injection sclerotherapy : 以下EIS) 治療群8例, バルーン閉塞下逆行性静脈塞栓術 (Balloon occluded retrograde transvenous obliteration : 以下B-RTO) 治療群5例, 対照群5例.NPテストは治療前日と治療終了約1週間後に, 対照群は1~2週間の間隔で計2度施行しその変動について検討した.EIS治療群は数字追跡試験Aと積木模様試験において治療前と比較し治療後に有意に検査値の改善 (ρ<0.05) を認めた.B-RTO治療群は積木模様試験において治療後に有意に検査値の改善 (ρ<0.05) を認めた.対照群はいずれの検査においても有意差を認めなかった.EISやB-RTOは潜在性肝性脳症を改善する可能性が示唆された.
著者
橋本 直樹
出版者
日本門脈圧亢進症学会
雑誌
日本門脈圧亢進症学会雑誌 (ISSN:13448447)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.16-18, 2014 (Released:2016-12-27)
参考文献数
14
被引用文献数
1

脾摘および脾機能低下症例は肺炎球菌やインフルエンザ菌を中心とした莢膜保有菌により重症感染症に罹患しやすく終生,脾摘後重症感染症overwhelming postsplenectomy infection(OPSI)に罹患する可能性がある.特に,脾機能低下症例やPSE症例で末梢血にHowell Jolly bodyの出現した症例は脾機能低下からOPSIになる可能性があり,脾摘と同様のOPSIに対する対応をすべきである.本症に対する対策として重要なのが発症早期における治療である.早期治療を行う上で現状において最も不足している要素が医療,患者両方の教育および啓蒙という点である.初診にあたると思われる開業医や救急病院医師が本病態に対して認識を深めることが大切である.医療側の自覚のみならず,患者側にも十分な情報が行き届くように患者用情報資料や携帯用の警告提示物(ブレスレット,ペンダント)の作成なども考慮すべきである.
著者
松下 優美 八木 実 水落 建輝 西浦 博史 牛島 高介 高木 章子 浅桐 公男 田中 芳明 鹿毛 政義 猪口 隆洋
出版者
日本門脈圧亢進症学会
雑誌
日本門脈圧亢進症学会雑誌 (ISSN:13448447)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.41-47, 2010-06-30 (Released:2012-12-28)
参考文献数
37
被引用文献数
1

小児の肝前性門脈圧亢進症(以下,本症)は主に肝外門脈閉塞症(EHO:extra-hepatic portal obstruction)や,肝内presinusoidal blockをきたす先天性肝線維症(CHF:congenital hepatic fibrosis)に大別される.これらは小児領域での突然の消化管出血の原因疾患として重要である.本論文では,自験例2例を紹介し,本症の原因,診断および治療,小児領域における問題点を述べる.CHFの1例は13歳男児,吐血で発症し,その後EVL, EISを繰り返したが,胃静脈瘤の発達と白血球,血小板の低下のため5年後にHassab手術を施行した.EHOの1例は8歳女児.心房中隔欠損症(ASD)を合併しており,吐血で発症.高度食道静脈瘤でありEVL, EISの適応を検討したが,ASDへの影響を考え,Hassab手術を先行して行った.その後EISにて残存する食道静脈瘤の追加治療を施行した.
著者
吉田 寛 田尻 孝 真々田 裕宏 谷合 信彦 平方 敦史 川野 陽一 水口 義昭 清水 哲也 高橋 翼
出版者
日本門脈圧亢進症学会
雑誌
日本門脈圧亢進症学会雑誌 (ISSN:13448447)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.185-188, 2002-12-15 (Released:2012-09-24)
参考文献数
9

内視鏡的静脈瘤結紮術 (EVL) の意義と適応を検討した.対象は, 初回にEVLを施行した80例で, 後日EVL追加した34例 (EVL群) と後日1%ASによる内視鏡的硬化療法 (EIS) を追加した46例 (EVL+EIS群) の2群に分類した. (EVL, EVL+EIS) (mean±SD) (1) 完全消失率 (94.1, 93.5%) (NS), 治療回数 (2.5±0.5, 3.1±1.0回) (p<0.005), 総結紮数 (22.1±8.2, 13.2±4.9) (p<0.0001). (2) 累積初回再発率は有意にEVL群で高率 (p<0.05). (3) 再発例 (30例, 36例) (NS) に対する追加治療再入院回数 (1.8±0.6, 2.9±1.2回) (p<0.0001).うち手術, 塞栓術を追加例 (3例, 12例) (p<0.05) であった.EVL群では再発率は高率だが, 少ない追加治療回数にてコントロール可能であった.-方EVL+EIS群は, 内視鏡治療の限界例が多かった.EVLは, 当初より再発を念頭にいれ, 追加治療も含めて一連の治療法と考えれば, 良好な長期成績が得られ, first choiceの治療法になりうる.