著者
岡﨑 康司
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.271-277, 2022-03-10 (Released:2022-04-20)
参考文献数
14

臨床の現場においてエキソームや全ゲノムシーケンスを用いた精密医療が指数関数的に成長し、多くのラボでシーケンシングを検査のポートフォリオに入れつつある。全ゲノムシーケンスのコストは1人当たり10万円を切るようになってきたが、その解析を行い、臨床的意義について解釈するためには、膨大なデータを迅速かつ正確に処理する必要があり、ここには、シーケンス自体のコストの数倍のコストがかかる。全ゲノムシーケンスを用いたクリニカルシーケンスなどで、先頭を走る米国の施設を中心に、いくつかの事例を紹介し、Genomics Englandのプロジェクトについても解説する。全ゲノム情報を用いた解析から、最終的に臨床の現場で用いられるレポート作成までを行うツールは種々開発されつつあるが、本稿では、Genomics Englandのプロジェクトにおいて評価を得た、Fabric Genomics社が開発したツールを中心に、クリニカルシーケンスの現状についても紹介する。
著者
堀江 正知 中田 博文 上野 しおん 川波 祥子
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.671-678, 2016 (Released:2017-01-01)
参考文献数
50

健康診断は、19世紀のアメリカ合衆国で、移民の感染症スクリーニングや保険加入者の資格審査として始まり、その後、健康志向のある会社役員の疾病予防対策として発展した。わが国では各種の法令で規定された結核対策として発展し、現在は、事実上、がんや循環器疾病のリスクに対する保健指導の機会となっている。科学論文のレビューによれば、対象疾病を特定せずに多項目の健康診断を行っても総死亡率が下がる確証はない。受診者に有益となる科学的根拠がなくても、一般市民、医療職、行政担当者は健康診断に大きな期待を寄せている。一方、本来の語意である健康度を診断する検査法は普及していない。労働衛生分野の健康診断は、「職場環境による曝露や影響を監視するサーベイランス」又は「職業性疾病を発見するスクリーニング」の機能を果たすべきである。生体試料を用いるサーベイランスは生物学的モニタリングとも呼ばれ、ILOや学術団体が示すガイドラインに準じて、心身への侵襲性がなるべく低い検査法を選択し、その結果は作業環境測定結果とも合わせて総合的に評価する。労働者に症状や所見を認めた場合は、職場や作業の実態を調査して関連性を評価し、職業性疾病を見逃さないように留意する。なお、雇入れ前に採用候補者を選別する健康診断は実施すべきでない。健康診断の関係者は、その企画、実施、結果報告、情報管理の各工程で、バイオエシックスに配慮して、受診者の自律、利益、安全、公平性を侵害しないように努める。特に、法定項目でない検査を行う際は本人の同意を取得する仕組みを確立する。また、安易に過剰な検査を実施しないように配慮し、ミスや誤診の防止対策を徹底する。適切な質を保障するには、健康診断を専門とする医療職が企画する段階から参画して、最新の科学を適用し、検査の精度を維持し、受診者がその結果を疾病予防や健康増進に役立てるよう促すことが望ましい。
著者
岸谷 望加 山本 晃之 熊谷 宗晃 安田 洋二 西村 浩美
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.620-625, 2017 (Released:2017-11-01)
参考文献数
17

【はじめに】ブルガダ症候群とは、心電図の右側前胸部誘導に特徴的なST上昇を呈し、突然に心室頻拍・心室細動を生じて、失神や突然死を生じる疾患として知られている。健診時の心電図で異常なしとされていたが、突然の心室細動にて救急搬送されブルガダ症候群が診断された一例を経験したので報告する。【症例】45歳、男性。2014年より継続して当施設の定期健康診断を受診していた。2014年2月初診時、身体所見に異常を認めなかった。また、自覚症状、既往歴とも特記すべき事はなかった。検査結果では、胸部X線所見は正常で、生化学検査ではT-cho: 256mg/dL、LDL-cho: 180mg/dL、TG: 161mg/dLと軽度高値を認める以外に異常を認めなかった。心電図は初回の2014年2月、2014年9月、2015年9月と3度受けていたが、いずれも心電図自動診断にて正常とされていた。2016年4月、夜間就寝時に突然意識消失をきたしているところを家人が発見し救急搬送となった。搬送先の病院にてブルガダ症候群と診断された。専門病院に転院後、植込み型除細動器の手術を受け、無事退院となった。【考察】健診時の心電図自動診断では異常なしとされており、saddle backタイプのブルガダ型心電図の波形が正常と診断されていた。最近の心電図自動診断のソフトはブルガダ型心電図の自動診断基準に対応しているが、そういった心電計においてもしばしばブルガダ型心電図が見逃され、不完全右脚ブロックやRSR’パターン等の判定にされる場合がある。ブルガダ型心電図の健診時の検出率は、0.14%~0.9%との報告があり、決して稀ではない。ブルガダ型心電図が疑われる場合には、実波形を確認すること、V1・V2誘導の一肋間上の誘導の波形を確認すること、以前の心電図とST部分の変化を確認することが、健診でブルガダ型心電図の見落としを防ぐために重要であると考えられた。
著者
岡本 孝信 増原 光彦
出版者
Japan Society of Health Evaluation and Promotion
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.222-226, 2003-03-10 (Released:2010-09-09)
参考文献数
24

女子大学生65名を対象に週2回の定期的な運動を実施し, 体脂肪および有酸素能力に及ぼす影響について検討した。本研究において得られた結果は以下に示すものである。1) 皮下脂肪厚に関しては上腕背側部および肩甲骨下部のいずれにおいても運動実施前に対して運動実施後に有意に低い値を示した。また, 皮下脂肪厚と同様に体脂肪率においても運動実施前に対して運動実施後に有意に低い値を示した。2) ステップテスト終了後の心拍数は1分後, 2分後および3分後のいずれにおいても運動実施前に対して運動実施後に有意に低い値を示した。また, ステップテストの判定指数においても心拍数と同様に運動実施前に対して運動実施後に有意に高い値を示した。3) 運動実施前における体脂肪率とステップテスト終了1分後, 2分後および3分後の心拍数との間には有意な相関関係が認められた。しかし, 運動実施後においては有意な相関関係は認められなかった。以上の結果から, 週2回の定期的な運動によって体脂肪は減少し, 有酸素能力は向上することが明らかになった。これらのことから肥満の改善においては定期的な運動習慣を実践することの重要性が示唆された。
著者
大野 裕
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.359-365, 2018 (Released:2018-05-01)
参考文献数
4

うつ病などの精神疾患が単一の要因による疾患ではなく、複数の要因が関与した症状群だからである。したがって、治療に役立つ診断になるためには、単に症状だけに目を向けるだけではなく、発症に関与した可能性のある社会的、心理的、生物学的な要因を考慮し、一人の人として総合的に判断する“みたて”が極めて重要になってくる。そこで本稿では、世界的に用いられているアメリカ精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)」をもとに、うつ病の診断と治療の新しい考え方を紹介し、さらに職域における予防の可能性についても論じることにしたい。
著者
粟田 有紀 川﨑 エミ 大谷 美幸 酒田 伴子 新城 泰子 長田 三枝 大野 秀樹 大橋 秀一
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.623-628, 2015

【背景】血管迷走神経反応(vasovagal reaction: VVR)は、採血中や採血後に迷走神経興奮によって生じる諸症状を総称する。血圧低下、徐脈、吐き気などを示し、重症の場合には、意識消失、痙攣、失禁にいたる。不安や緊張によって起こりやすいと言われており、採血の副作用としては最も発生頻度が高いとされている。<br>【目的】健保連大阪中央病院健康管理センターにおけるVVRの実態調査を行い、対応策を作成する。<br>【方法】2012年11月から2013年10月までの1年間に、総受診者55,150名中VVRを発症した144名を対象として、発症率・性別・年齢・程度・採血体位・回復時間を調べた。程度の判定基準には厚生労働省の「血管迷走神経反応による症状群の程度別分類」を用いた。さらに看護師20名の意識調査を行い、これらを総合的に検討した。<br>【結果】VVR発症率は0.26%、男女比では女性が、年齢別では若年層が高い傾向となった。程度別では最も軽いⅠ度が128名(88.9%)、Ⅱ度が9名(6.3%)、Ⅲ度が7名(4.9%)となった。採血体位ではベッド上採血が全てⅠ度にとどまり、重症化を防いでいる事が分かった。回復時間は106名(73.6%)が5分以内に回復し、離床上の有用な目安となった。また、看護師の意識調査からⅡ度以上は15分間のベッド上安静が適切であると判断した。<br>【結語】健診での採血時VVRは高頻度ではないが特に若年者、女性に注意することが重要である。また離床上の目安としては5分毎のバイタルサイン測定を織り込んだ「採血によるVVR対応策」を作成することによって、一定の安全対策が確立できた。
著者
桑平 一郎
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.213-219, 2021-03-10 (Released:2021-04-20)
参考文献数
11

ヒトの肺には3億から5億の肺胞があり、肺胞の表面を肺胞上皮細胞が覆う。この中のⅡ型肺胞上皮細胞に、SARS-CoV-2 がドッキングする受容体であるアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)が発現する。ウイルスはここから宿主細胞に侵入、感染が広がり肺炎を発症する。 発熱、全身倦怠感、咽頭痛、咳嗽、筋肉痛など風邪やインフルエンザのような症状が出現するが、下痢などの消化器症状や味覚障害や嗅覚障害もみられる。WHOによれば潜伏期間は1~14日間で、曝露から5日程度で発症することが多い。ヒトへの感染可能期間は、発症前2日から発症後7~14日間程度である。咳嗽やくしゃみなどを介する飛沫感染と接触感染が主体であり、一部エアロゾルも関与する。最近の報告では無症候者からの感染も40%あるいはそれ以上あるのではないかと言われる。厚生労働省による「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」によれば、発症から1週間程度で軽症のまま経過し改善する症例が80%、肺炎が悪化して入院を要する症例が残りの20%、そのうちICUでの加療を要する症例が5%、救命できない症例が2~3%と報告される。 重症化のリスク因子としては、65歳以上の高齢、基礎疾患としての悪性腫瘍、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、固形臓器移植後の免疫不全の存在、そして肥満(BMI 30以上)、喫煙習慣などが挙げられる。性別では、男性の方が女性よりも死亡率が高い。 回復した後も、倦怠感、息切れ、関節痛、胸痛、慢性咳嗽が遷延する場合があり、味覚障害、嗅覚障害、口腔乾燥も認められる。ACE2受容体が全身臓器に分布することを考えれば、多様な症状が出現し、後遺症として残ることも理解できよう。これまでの普通の風邪とは様子が異なることも印象的である。
著者
桑平 一郎
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.213-219, 2021

<p> ヒトの肺には3億から5億の肺胞があり、肺胞の表面を肺胞上皮細胞が覆う。この中のⅡ型肺胞上皮細胞に、SARS-CoV-2 がドッキングする受容体であるアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)が発現する。ウイルスはここから宿主細胞に侵入、感染が広がり肺炎を発症する。</p><p> 発熱、全身倦怠感、咽頭痛、咳嗽、筋肉痛など風邪やインフルエンザのような症状が出現するが、下痢などの消化器症状や味覚障害や嗅覚障害もみられる。WHOによれば潜伏期間は1~14日間で、曝露から5日程度で発症することが多い。ヒトへの感染可能期間は、発症前2日から発症後7~14日間程度である。咳嗽やくしゃみなどを介する飛沫感染と接触感染が主体であり、一部エアロゾルも関与する。最近の報告では無症候者からの感染も40%あるいはそれ以上あるのではないかと言われる。厚生労働省による「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」によれば、発症から1週間程度で軽症のまま経過し改善する症例が80%、肺炎が悪化して入院を要する症例が残りの20%、そのうちICUでの加療を要する症例が5%、救命できない症例が2~3%と報告される。</p><p> 重症化のリスク因子としては、65歳以上の高齢、基礎疾患としての悪性腫瘍、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、固形臓器移植後の免疫不全の存在、そして肥満(BMI 30以上)、喫煙習慣などが挙げられる。性別では、男性の方が女性よりも死亡率が高い。</p><p> 回復した後も、倦怠感、息切れ、関節痛、胸痛、慢性咳嗽が遷延する場合があり、味覚障害、嗅覚障害、口腔乾燥も認められる。ACE2受容体が全身臓器に分布することを考えれば、多様な症状が出現し、後遺症として残ることも理解できよう。これまでの普通の風邪とは様子が異なることも印象的である。</p>
著者
小川 渉 宮崎 滋
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.301-306, 2015 (Released:2015-05-01)
参考文献数
20
被引用文献数
10 16

肥満は2型糖尿病や脂質代謝異常症、高血圧に代表されるような動脈硬化性疾患のリスク因子に加え、蛋白尿や非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver disease: NAFLD)、高尿酸血症など様々な疾患・病態の発症基盤となることから、肥満をどのように診断し、どのような対象に介入を行うかは重要である。わが国では欧米のような高度の肥満者は少ないにも関わらず、2型糖尿病や脂質異常症、高血圧などの肥満に関連する疾患の有病率は比較的高いことから、欧米より厳しい基準で肥満を診断することは妥当と考えられる。日本肥満学会では、肥満に関連する健康障害の有病率に関する疫学調査などから、BMI18.5以上25未満を普通体重とし、これを超えるものを肥満、下回る者を低体重と定義している。また、肥満の中でも、医学的に減量を必要とする病態を肥満症と呼び一つの疾患単位として捉えることを提唱してきた。肥満症の考え方として、現在健康障害を持つものだけではなく、将来健康障害を発症する可能性が高いものを含む点が重要である。内臓脂肪型肥満が健康障害を伴いやすいハイリスク肥満であることは知られている。内臓脂肪型肥満の診断手順は、ウェスト周囲長によるスクリーニングの後、腹部CT検査により内臓脂肪面積を測定する。一方、日本人間ドック学会・健康保険組合連合会により公表された「新たな検診の基本検査の基準範囲」は、特定の疾患を持たず、特定の疾患の薬物治療を受けていない集団の平均的なBMIの分布範囲を示したものにすぎない。この基準範囲にはハイリスク肥満である内臓脂肪型肥満が含まれており、これらは減量介入が必要な肥満症患者であることを強調したい。健診や人間ドックに従事される方は、これらの診断基準や基準範囲の設定の手法、目的の差異を十分に理解の上、業務にあたられたい。
著者
道場 信孝 久代 登志男 日野原 重明
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.447-454, 2016 (Released:2016-07-01)
参考文献数
21

今日、高齢者の健康評価においてフレイルが主要な関心事になってきている。フレイルは2014年に日本老年医学会がfrailtyの訳語として決めた表現であるが、これはfrailtyのスクリーニングのために以下の単語の頭文字を並べたものと思われる:F(fatigue)、R(resistance: inability to walk up a flight of stairs)、A(ambulation: inability to walk a short distance)、I(Illnesses:5種以上の疾病)、L(Loss of body mass:5%以上の体重減)。今回はfrailtyとsarcopeniaの概略を述べるが、まずフレイルについてはFriedら(2001)が臨床の実在として挙げた5項目(体重の減少、サルコペニア、握力、疲れやすさ、歩行速度の低下)の基準と生存曲線に基づくフレイルの診断基準の正当性、次いで身体・精神・社会的機能と恒常性の維持機能との関わりにおけるフレイルの理解(Langら:2013)、そしてRockwoodら(2005)のCanadian Study for Health and Agingにもとづくフレイルの重症度診断(clinical frailty scale)について述べる。Sarcopeniaについては、European Working Group on Sarcopenia in Oldr People(EWGSOP, 2010)によって示されたコンセプト、研究および臨床における評価基準、そして診断基準について解説する。サルコペニアはフレイルのコンセプトの中で最も重要な位置づけにあり、その評価は量と質の両面からなされなければならないが、特に臨床診断では徒手法が極めて有用であり、その手法の習得は十分な臨床経験を通じて培われる。最後に、近年注目されるようになったsarcopenic obesityは重要な健康障害であり、これは脂肪が筋肉の中に浸潤する現象であって筋肉の機能を著しく障害する。脂肪細胞はそれ自体activeな内分泌器官であり、そこからは炎症性のサイトカインやホルモンが放出され、それらによって筋肉は質・量ともに変化する。フレイルに対する予防と治療の戦略においては食事と運動が主要であり、その他インフルエンザ、肺炎球菌による肺炎、帯状疱疹などに対するワクチン療法が勧められる。同時に諸種の併存病を適切に治療しておかなければならない。
著者
吉永 眞人 池田 裕子 樽井 里佳 松永 朋子 上村 雄一郎 横田 真弓
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.273-275, 2019-03-10 (Released:2019-07-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1

【はじめに】100種類以上の酵素の構成要因として生体の様々な代謝系の調整に関与し、重要な微量元素の一つとされる亜鉛は、蛋白質合成・代謝などの生命維持に関係し、亜鉛の摂取については肉類・魚類・種実類からが主とされる。特に亜鉛欠乏症においては味覚障害・舌痛・貧血・食欲不振など様々な症状が表れ、近年注目される指標の一つとされるが、各医療機関において、あまり測定されていないのが現状である。今回、我々は当院健診受診者を対象に血中亜鉛濃度を測定し、世代別に有意な差が存在するか検討した。【対象者および対象期間】2017年7月から12月までの当院健診受診者を対象とした。【測定方法】採血は原則空腹時の早朝採血(午前8:30~9:30)。 血清亜鉛値の測定は、生化学自動分析器LABOSPECT008(株式会社日立ハイテクノロジーズ)およびアキュラスオートZn(株式会社シノテスト)を使用。各年代別の血清を用い比較した。【検討方法】 ①年代別および男女別で血清亜鉛値を比較 ②「亜鉛欠乏症の診療指針」に挙げられる血清ALP活性値・血清亜鉛値について比較 ③炎症マーカー(CRP)と血清亜鉛値との比較【結果および考察】各年代別に血清亜鉛値を比較した場合、20代男性が最も高く40代女性が最も低い結果であったが、年代別および男女別で明らかな有意差は認めなかった。 亜鉛欠乏が疑われる血清ALP活性値が 150U/L以下では血清亜鉛値基準値下限 80μg/dLを下回る割合が多く、活性値低下の一つの要因になっているのではないかと推測された。また、女性の20代から40代および60歳以上では約4割近くで、潜在性亜鉛欠乏が疑われた。 炎症マーカー(CRP)と血清亜鉛値は負の相関関係を認めた。 日本人の1日当たりの亜鉛摂取推奨量は、成人男性 10mg女性 8mgとされるが、その摂取量は男女ともに不足ぎみで、症状はなくとも日頃の食生活の偏りで亜鉛欠乏は潜在的に起こりうる。食生活を意識的に改善することが重要であり、それを知る上で血清亜鉛測定の有用性が示唆された。
著者
井部 俊子
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.443-446, 2016

健診事業を受診者の視点で捉え、「健診サービス」の特徴をサービスビジネスとして検討した。<br> サービスの特徴は、①無形性、②生産と消費の同時性、③異質性、④結果と過程、⑤共同生産であり、とりわけ顧客との共同生産は、サービス内容の決定や品質管理、学習、マーケティングの機能があることを述べた。<br> では、健診サービスを受ける顧客(受診者)はどのような経験をしているのかを探るため受診者にインタビューを実施した。4人のナラティブからみえてきたことは、①受診者はそれぞれの思い(受診理由)がある。②受診者は健診結果に関心を集中している。③健診サービス提供者との関係は「ドライな距離感」がよい。④しかし、「今年もお会いできてよかった」と言ってくれるつながりがあると保健指導の価値が高まる。
著者
吉永 眞人 池田 裕子 樽井 里佳 松永 朋子 上村 雄一郎 横田 真弓
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.273-275, 2019
被引用文献数
1

<p>【はじめに】100種類以上の酵素の構成要因として生体の様々な代謝系の調整に関与し、重要な微量元素の一つとされる亜鉛は、蛋白質合成・代謝などの生命維持に関係し、亜鉛の摂取については肉類・魚類・種実類からが主とされる。特に亜鉛欠乏症においては味覚障害・舌痛・貧血・食欲不振など様々な症状が表れ、近年注目される指標の一つとされるが、各医療機関において、あまり測定されていないのが現状である。今回、我々は当院健診受診者を対象に血中亜鉛濃度を測定し、世代別に有意な差が存在するか検討した。</p><p>【対象者および対象期間】2017年7月から12月までの当院健診受診者を対象とした。</p><p>【測定方法】採血は原則空腹時の早朝採血(午前8:30~9:30)。</p><p> 血清亜鉛値の測定は、生化学自動分析器LABOSPECT008(株式会社日立ハイテクノロジーズ)およびアキュラスオートZn(株式会社シノテスト)を使用。各年代別の血清を用い比較した。</p><p>【検討方法】</p><p> ①年代別および男女別で血清亜鉛値を比較</p><p> ②「亜鉛欠乏症の診療指針」に挙げられる血清ALP活性値・血清亜鉛値について比較</p><p> ③炎症マーカー(CRP)と血清亜鉛値との比較</p><p>【結果および考察】各年代別に血清亜鉛値を比較した場合、20代男性が最も高く40代女性が最も低い結果であったが、年代別および男女別で明らかな有意差は認めなかった。</p><p> 亜鉛欠乏が疑われる血清ALP活性値が 150U/L以下では血清亜鉛値基準値下限 80μg/dLを下回る割合が多く、活性値低下の一つの要因になっているのではないかと推測された。</p><p>また、女性の20代から40代および60歳以上では約4割近くで、潜在性亜鉛欠乏が疑われた。</p><p> 炎症マーカー(CRP)と血清亜鉛値は負の相関関係を認めた。</p><p> 日本人の1日当たりの亜鉛摂取推奨量は、成人男性 10mg女性 8mgとされるが、その摂取量は男女ともに不足ぎみで、症状はなくとも日頃の食生活の偏りで亜鉛欠乏は潜在的に起こりうる。食生活を意識的に改善することが重要であり、それを知る上で血清亜鉛測定の有用性が示唆された。</p>
著者
森口 次郎
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.447-451, 2012

企業で行われる労働安全衛生法に基づく健康診断は、適正配置の実施など安全配慮義務を果たすことを第一の目的としている。産業医選任の法的義務がない50人未満規模の事業場など中小企業では産業医の関与が乏しいことが多く、その義務が果たされていないことがある。健診実施機関には、中小企業に対して就業措置要否の判断の際に参考となる資料の提出などの支援が期待され、当会では高負荷業務や危険業務に対する就業制限検討の助言を提供することを検討している。<br> 健康診断後の保健指導や受診勧奨は健診を有益なものとする。健診実施機関は、指導スタッフの確保および資質向上に努めることが望まれ、当会においては特定保健指導担当スタッフに対して産業医大産業医実務研修センターと連携して品質管理の取り組みを実践し、一定の成果をあげている。<br> 企業でがん検診を行う場合、集団対策型と考えられるため、エビデンスレベルの高い検診(大腸、胃、子宮頸部、乳房、肺)を中心とすべきである。がん検診などとして実施する法定外の検査については社内の衛生委員会で目的や情報の保管・利用などについて協議し、包括的同意を得た上で行うべきであるため、このような課題に対しても企業健診の実施機関には適切に助言が出来るスタッフが在籍することが望ましい。また上記のエビデンスレベルの高いがん検診の受診率は総じてまだ低率であり、特に女性特有のがんの受診率向上のためにさらなる取り組みが必要と考える。
著者
宮島 江里子 角田 正史 押田 小百合 五十嵐 敬子 三枝 陽一 美原 静香 吉田 宗紀 野田 吉和 大井田 正人
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.378-386, 2017 (Released:2017-05-01)
参考文献数
15

【目的】我が国の喫煙率は最近5年は約20%前後と横ばい状態であり、30~40代の労働年代が他の年代に比べて高い。本研究では、禁煙指導や受動喫煙防止のための参考資料を得ることを目的に、喫煙労働者の禁煙無関心者の特徴、非喫煙者への配慮状況、非喫煙労働者の嫌煙意識を調査した。【対象と方法】某2事業所(A, B)の製造業労働者に質問紙票調査を行い、回答に欠損のない815人分を解析した。調査項目は、基本事項(年齢、性別、事業所)、喫煙状況(現在/過去・非喫煙)、喫煙影響の考え方3項目(喫煙者の健康影響、周囲の健康影響、周囲の迷惑)、喫煙者には1日の喫煙本数、禁煙への関心、非喫煙者への配慮、受動喫煙の害の知識、禁煙・減煙の理由、非喫煙者には嫌煙意識(苦痛・気になる/気にならない)を尋ねた。喫煙者の禁煙関心と配慮の有無について、基本事項、喫煙影響3項目、喫煙本数、受動喫煙の知識の有無との関連を、χ2 検定又はFisherの直接確率法で検討した。【結果】喫煙率は44.3%で、喫煙者の48.5%が禁煙無関心者であり、B事業所、1日21本以上喫煙、喫煙者への健康影響意識が低い群に有意に多かった。禁煙・減煙の理由は「健康に悪い」「お金がかかる」「吸いにくい環境」が多かった。非喫煙者へ無配慮は40.7%であり、受動喫煙の知識無の群に有意に多かった。非喫煙者の嫌煙「気になる・苦痛」は91.4%であった。【考察】喫煙率の高い労働年代が多い製造業職場での喫煙率は高く対策が必要である。禁煙無関心者には健康影響の指導が関心を引き出すために有効である。関心者には、健康指導に加え、金銭的メリットや環境整備及び禁煙外来についての情報提供が禁煙に繋がる可能性がある。非喫煙者の殆どに嫌煙意識があり、喫煙者が配慮するようになるためには受動喫煙の害の啓発が有効と考える。
著者
和田 高士 加藤 智弘
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.671-676, 2017

人間ドック受診者の130万人の飲酒状況を紹介する。次いで、アルコールと健康管理という観点から、総合健診受診者の中で男性4,826名を対象に、自記式質問票から週当たりの摂取エタノール量を算出し、この量と、飲酒内容、生活習慣、検査値との関連を検討した。飲酒量の増加に比例して、より不健康な生活習慣を呈した。喫煙(ブリックマン指数:本数&times;年数)、受動喫煙の増加、1日の仕事時間の増加と月間の休日日数の減少。食事のアンバランス、塩分過多の食事がみられ、1週間での朝食日数の減少、1週間で夕食が外食である日数が増加した。1日当たりの歯磨き回数、生活改善の実行率、保健指導の希望率は減少した。検査値ではBMI、腹囲、収縮期血圧、拡張期血圧、MCV、ALT、GGT、HDLコレステロール、中性脂肪、空腹時血糖、尿酸はそれぞれ増加、膵アミラーゼは減少した。コリンエステラーゼには差異はみられなかった。いずれもJカーブ現象ではなく、比例関係にあった。
著者
久保田 勝
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.687-692, 2017 (Released:2017-11-01)
参考文献数
12

健診でのスパイロメトリーによる気流閉塞(閉塞性換気障害)の検出は慢性閉塞性肺疾患(COPD)早期発見に重要である。スパイロメトリーを含めた呼吸機能検査の解釈は、被験者の測定値と同じ人種・民族の健常人データから性別・年齢・体格などの要素を独立変数として作成された予測式から算出された基準値との比較による相対的評価によって行われる。そのため、スパイロメトリーの評価には使用されている基準値を理解する必要がある。 日本では2001年に日本呼吸器学会(JRS)が公表した重回帰分析による予測式が広く利用されているが、2014年にJRSは年齢回帰をLMS法により解析した日本人成人の新しいスパイロメトリー基準値と正常下限値(LLN)を作成公表した。今回はこの新基準値を紹介するとともに、COPD早期発見のための気流閉塞診断における問題点を検討する。 気流閉塞の指標である1秒率(1秒量/努力性肺活量:FEV1/FVC)を新基準値と2001年基準値とで比較すると、男女とも新基準値で低下しているが、女性の1秒率LLNは新基準値のほうが大きくなっている。 気流閉塞の定義はスパイロメトリーで1秒率70%未満、COPD診断基準は、気管支拡張薬投与後の1秒率70%未満とされ、「70%未満」の固定値が適用されている。1秒率を新基準値に基づくLLNで検討すると、1秒率LLN 70%は男性60歳、女性70歳に相当する。すなわち、1秒率70%未満を気流閉塞の基準とした場合、高齢者以外は過小診断していることになる。高齢者以外は、1秒率70%以上であってもLLN未満の場合にはCOPDの可能性を疑う必要がある。
著者
片山 友子 水野(松本) 由子 稲田 紘
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.283-293, 2014
被引用文献数
1

厚生労働省は、国の医療対策において特に重点を置いているがん、脳卒中、心臓病、糖尿病の四大疾病に、近年患者数が増えている精神疾患を加え、2011年に、五大疾病とする方針を決めた。健康は身体的、精神的な要因から考慮される必要がある。本研究では、大学生を対象に、食事、睡眠、運動などの基本的生活習慣とストレスなど個人のメンタルヘルスに関する意識調査を実施し、生活習慣とメンタルヘルスの関連性について検討を行った。<br> 健康度・生活習慣のパターンの判定から、充実型、生活習慣要注意型、健康度要注意型をI群、要注意型をII群とする2群に分類した。この2群について、心理検査と質問紙を用いて、気分状態および心身の健康と生活習慣の調査を行った。<br> その結果、I群は、うつ傾向が低値を示し、II群と比較すると、ストレスがあると答えた者は少なく、平均睡眠時間は長く、食生活、栄養バランスなどの生活習慣の良いことがわかった。また生活習慣が望ましい状態にあると、気分状態が安定し、活動性が高いと考えられた。II群は、心理検査では憂うつだと感じている者が多く、さらに不安と不眠が高値を示した。また、I群と比較すると、食生活に問題があり、栄養バランスを考えて食事を摂っていないこと、平均睡眠時間が短いこと、ストレスがあり、さらにストレス対策方法がある者の割合が低いということがわかった。II群は、抑うつが強く、気分状態が悪く、活動性が低いと考えられた。<br> 大学生などの比較的若い世代は、健康問題が出現することは少ない。しかし、生活習慣は長い年月をかけて、徐々に形成されていくものであることから、長年にわたる生活習慣を変えることは困難である。したがって、若い年代から健康を意識した生活をし、健康な生活習慣を身につけることは、将来の生活習慣病への予防にも繋がり、青年期から壮年期、さらに老年期における健康生活を送るために、きわめて重要なことである。
著者
宮島 江里子 角田 正史 押田 小百合 五十嵐 敬子 三枝 陽一 美原 静香 吉田 宗紀 野田 吉和 大井田 正人
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.378-386, 2017

【目的】我が国の喫煙率は最近5年は約20%前後と横ばい状態であり、30~40代の労働年代が他の年代に比べて高い。本研究では、禁煙指導や受動喫煙防止のための参考資料を得ることを目的に、喫煙労働者の禁煙無関心者の特徴、非喫煙者への配慮状況、非喫煙労働者の嫌煙意識を調査した。<br>【対象と方法】某2事業所(A, B)の製造業労働者に質問紙票調査を行い、回答に欠損のない815人分を解析した。調査項目は、基本事項(年齢、性別、事業所)、喫煙状況(現在/過去・非喫煙)、喫煙影響の考え方3項目(喫煙者の健康影響、周囲の健康影響、周囲の迷惑)、喫煙者には1日の喫煙本数、禁煙への関心、非喫煙者への配慮、受動喫煙の害の知識、禁煙・減煙の理由、非喫煙者には嫌煙意識(苦痛・気になる/気にならない)を尋ねた。喫煙者の禁煙関心と配慮の有無について、基本事項、喫煙影響3項目、喫煙本数、受動喫煙の知識の有無との関連を、&chi;<sup>2</sup> 検定又はFisherの直接確率法で検討した。<br>【結果】喫煙率は44.3%で、喫煙者の48.5%が禁煙無関心者であり、B事業所、1日21本以上喫煙、喫煙者への健康影響意識が低い群に有意に多かった。禁煙・減煙の理由は「健康に悪い」「お金がかかる」「吸いにくい環境」が多かった。非喫煙者へ無配慮は40.7%であり、受動喫煙の知識無の群に有意に多かった。非喫煙者の嫌煙「気になる・苦痛」は91.4%であった。<br>【考察】喫煙率の高い労働年代が多い製造業職場での喫煙率は高く対策が必要である。禁煙無関心者には健康影響の指導が関心を引き出すために有効である。関心者には、健康指導に加え、金銭的メリットや環境整備及び禁煙外来についての情報提供が禁煙に繋がる可能性がある。非喫煙者の殆どに嫌煙意識があり、喫煙者が配慮するようになるためには受動喫煙の害の啓発が有効と考える。