著者
山田 晴通
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.9, pp.545-559, 2005-08-01
参考文献数
10

コミュニティ放送は,既存放送制度に対抗する,「コミュニティ」のための放送として,各国で制度化されてきた.コミュニティ放送局が対象とする「コミュニティ」概念の実態的な有効性を,オーストラリアの地方都市アーミデールの事例で検討した.アーミデールでは,大学に基盤を持つ「ラジオ」局としてRUNEが1970年から存在し,その後の制度変更によってHPON(大出力ナローキャスティング)のTUNE! FMとなり,現在に至っている.1970年代半ばに「公共放送」(コミュニティ放送の前身)が注目されると, RUNEを母体に,新たに2ARMが組織され,放送が始まった.やがて, RUNEから独立した2ARMは,安定的に運営された時期を経て,近年では補助金の削減などから経営困難に直面している. 2ARMは,本来,地域社会と同義の「地理的コミュニティ」に根ざすラジオ局として想定されながら, RUNE~TUNE! FMとの競合関係の中で,十分な地域的存立基盤を確保できなかった.一方, RUNE~TUNE! FMは,通常は商業的に利用されるHPONを,非営利目的に活用している.アーミデールの小規模ラジオ局は,地域事情を反映し,役割の棲み分けを行っており,その実態は,「コミュニティ」をめぐるオーストラリアの放送制度の想定に忠実に沿ったかたちとはなっていない.
著者
斎藤 久美
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.11, pp.710-723, 2005

本研究は,韓国の地方中心都市である清州市を対象とし,都市における血縁組織の形成とその変容を,村落から都市への人口移動との関連から明らかにすることを目的とした.韓国の都市における血縁組織の形成は,1960年代以降,首都ソウルに人口が集中するとともに同族集落からの転入者によって,ソウルなどの大都市に形成される動きがみられるようになった.清州市の血縁組織は,清州市への人口集中が著しくなった1970年代以降活発に形成されたという.一方,清州市の血縁組織は,1970年代に忠清北道内の同族集落から清州市に転入した経済的・社会的成功者たちを中心に,同族集落との連絡を補うために形成された.その後,都市の血縁組織は,各同族集落からの転入者を会員に迎え入れ成長したが,その中で,就職の斡旋や住居地の紹介など,転入者の都市定着支援などの役割も補う例もあった.都市の血縁組織は都市居住者が増大するにしたがって,都市住民のニーズに応じ,血縁組織が細分化されるなど,社会状況に応じて変容し続けている.
著者
斎藤 久美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.11, pp.710-723, 2005-10-01
参考文献数
27

本研究は,韓国の地方中心都市である清州市を対象とし,都市における血縁組織の形成とその変容を,村落から都市への人口移動との関連から明らかにすることを目的とした.韓国の都市における血縁組織の形成は,1960年代以降,首都ソウルに人口が集中するとともに同族集落からの転入者によって,ソウルなどの大都市に形成される動きがみられるようになった.清州市の血縁組織は,清州市への人口集中が著しくなった1970年代以降活発に形成されたという.一方,清州市の血縁組織は,1970年代に忠清北道内の同族集落から清州市に転入した経済的・社会的成功者たちを中心に,同族集落との連絡を補うために形成された.その後,都市の血縁組織は,各同族集落からの転入者を会員に迎え入れ成長したが,その中で,就職の斡旋や住居地の紹介など,転入者の都市定着支援などの役割も補う例もあった.都市の血縁組織は都市居住者が増大するにしたがって,都市住民のニーズに応じ,血縁組織が細分化されるなど,社会状況に応じて変容し続けている.
著者
林 琢也
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.11, pp.635-659, 2007
被引用文献数
8

本研究は, 遠隔地農村において農業と地域の振興を図るために進められた観光農業の発展要因を, 青森県南部町名川地域 (旧名川町) を事例に考察した. 旧名川町は青森県最大のサクランボ産地であり, 町は1986年からサクランボ狩りを核とした観光事業を進めてきた. こうした活動の推進に際しては, 観光農業における先駆的農家と周囲の農家の組織化を促すほか, 補助事業を積極的に活用することで, 観光農業の充実を目指した地域リーダーの功績が大きかった. また, 集落レベルでの観光農業の普及においては, 専業的な果樹栽培農家に加え, 農外就業経験を有する帰農者の参加や, 集落内とその近隣地域から供給される労働力の存在も重要であった. このように, 多くの住民の協力体制の確立が, 遠隔地における観光農業の発展にとって不可欠であることが明らかとなった.
著者
吉田 和義
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.8, pp.671-688, 2008
被引用文献数
1 1

子どもの知覚環境は, 成長に伴って野外での遊び行動を通して発達すると考えられる. 本研究はアンケート調査と手描き地図調査を用いて, ニュータウン地区における子どもの知覚環境の発達プロセスを明らかにすることを目指した. 就学前児童から中学校第1学年までに対し調査を行った結果, 次の事実が明らかになった. ニュータウン地区の子どもの遊び行動は制約が多い. 手描き地図の分析によれば, 保育園の年長児ですでにルートマップが形成され始め, 小学校第4学年以降サーベイマップの割合が次第に増加することが明らかになった. また, 建物表現に注目すると, 立面的な表現から位置的な表現へ, 視点が転換され, 相貌的な知覚の傾向が弱まる. それでもサーベイマップを描く子どもは, 中学校第1学年においても約半数にとどまり, 広域の空間を知覚する機会が少ないため, ルートマップからサーベイマップへの移行がハート・ムーア (1976) の研究結果に比較して遅くなる傾向にあることが明らかになった.
著者
三木 理史
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.1-19, 2002

本稿は,第一次・第二次両世界大戦間期の大阪市の交通調整事業が,統制経済の一環にとどまらず,都市計画事業に通じる都市膨張への対応の面を併せ持ったことを,都市交通の領域性に着目して明らかにする.都市交通の領域性とは,都市交通が都市内交通と郊外交通に機能的領域区分を形成することを指す.本稿での検討から,戦間期の大阪市の交通調整は,明治期に都市交通の領域区分を基礎として成立した市内交通機関市営主義を,都市膨張を発端とする都市交通の一体化に対応するものに修正することをねらいとしていたことが明らかになった.そうした理念は同時期の都市計画事業にも通じるものであり,従来注目されてきた市営一元化への企業間調整や合併は,本来その理念実現の中で要請されたものと考えられる.しかし,その実現には戦時体制の活用が不可欠で,それが都市交通調整と経済統制や戦時統制との峻別を困難にしていたことも明らかとなった.

1 0 0 0 OA 書評等

出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.9, pp.601-605,i, 2005-08-01 (Released:2008-12-25)

1 0 0 0 OA 書評等

出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.10, pp.693-694,i_1, 2004-09-01 (Released:2008-12-25)
著者
阿部 康久 高木 彰彦
出版者
日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.228-242, 2005-04-01
被引用文献数
1 1

衆議院への新選挙制度の導入によって,個人後援会に代表される国会議員の政治組織が,空間的にどのような変容を遂げつつあるのかを長崎県を事例として検討した.並立制導入以降も,議員の多くは,新選挙区から外れた地区においても政治活動を行い,中選挙区時代の後援会組織を,基本的には維持している.その要因として,選挙区外の支持者であっても,選挙の際には支援を受けられるという点があるが,中選挙区時代の区割りが,現在でも議員や後援者の意識に,強い影響力を有しているという側面も指摘できる.これに対して,現在の選挙区が,交通アクセスが悪い諸地域から成り立っているところでは,中選挙区時代の後援会組織を維持することに消極的である.また,衆院から参院議員や知事に鞍替えした議員は,広大な選挙区をカバーする後援会組織を作ることが難しく,その空間的範囲は,衆院時代のものに限定されている.党派別に見ると,与党系の議員は,自前の後援会組織だけでなく,党所属の地方議員や支持団体からも支援を受けられるのに対して,保守系野党議員は,このような支援を受けにくく,従来の後援会組織に集票活動を依存する傾向が強くなっている.