著者
森 正人 Mori Masato
出版者
日本地理学会
雑誌
地理学評論 = Geographical review of Japan (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.1-27, 2005-01-01

本稿は,「節合」という概念を手掛かりとして,1934年の弘法大師1100年御遠忌で開催された「弘法大師文化展覧会」を中心として,弘法大師が日本文化と節合され,展示を通して人々に広められる過程を追う.この展覧会は,戦時体制に協力する大阪朝日新聞と御遠忌を迎えた真言宗による「弘法大師文化宣揚会」が開催したものであった.この展示には天皇制イデオロギーを表象する国宝や重要文化財が,弘法大師にも関係するとして展示された.また展示会場は近畿圏の会館や百貨店であり,特に百貨店では都市に居住する広い階層の人々に対して,わかりやすい展示が試みられた.このような種別的な場所での諸実践を通して国民国家の維持が図られた.ただし会場を訪れた人々は,イデオロギーの中に完全に取り込まれてしまうのではなく,それを「見物」したり,娯楽としてみなしたりする可能性も胚胎していた.
著者
篠原 秀一
出版者
日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.62, no.11, pp.792-811, 1989
被引用文献数
2

銚子における漁港漁業の発展を,資源基盤,水揚漁船の集中と近代化,漁港整備の各要素から検討した.銚子における漁獲物の水揚地である銚子漁港では, 1973年から1984年まで,マイワシ,マサバ,サンマといった多獲性大衆魚を主要魚種として水揚量が増加した.この水揚量の増加は,回遊魚であるマイワシ、マサバなどを漁獲する近海旋網漁船が全国各地から銚子沖の漁場に集中し,その大量の漁獲物を銚子漁港に水揚げしてきたためである.近海旋網漁船はその近代化により大量漁獲を可能にした.とくに,漁船の大型化,新装備の導入を伴う1そうまき操業の一般化,カラースキャンニングソナーと気象衛星NOAA情報受画装置を中心とする主要装備の体系化は,近海旋網漁船の生産性を向上させた.銚子漁港の本格的整備は,特定第3種漁港に指定された1960年以後で,水揚漁船の安全と大型化を保障し,近海旋網漁船によるマサバとマイワシの水揚量増加に対応していた.
著者
阿部 康久 高木 彰彦
出版者
日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.228-242, 2005-04-01
被引用文献数
1 1

衆議院への新選挙制度の導入によって,個人後援会に代表される国会議員の政治組織が,空間的にどのような変容を遂げつつあるのかを長崎県を事例として検討した.並立制導入以降も,議員の多くは,新選挙区から外れた地区においても政治活動を行い,中選挙区時代の後援会組織を,基本的には維持している.その要因として,選挙区外の支持者であっても,選挙の際には支援を受けられるという点があるが,中選挙区時代の区割りが,現在でも議員や後援者の意識に,強い影響力を有しているという側面も指摘できる.これに対して,現在の選挙区が,交通アクセスが悪い諸地域から成り立っているところでは,中選挙区時代の後援会組織を維持することに消極的である.また,衆院から参院議員や知事に鞍替えした議員は,広大な選挙区をカバーする後援会組織を作ることが難しく,その空間的範囲は,衆院時代のものに限定されている.党派別に見ると,与党系の議員は,自前の後援会組織だけでなく,党所属の地方議員や支持団体からも支援を受けられるのに対して,保守系野党議員は,このような支援を受けにくく,従来の後援会組織に集票活動を依存する傾向が強くなっている.
著者
鈴木 隆介
出版者
日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.211-222, 1970-04
被引用文献数
1