- 著者
-
曽田 修司
- 出版者
- 跡見学園女子大学
- 雑誌
- 跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 (ISSN:13481118)
- 巻号頁・発行日
- no.6, pp.1-20, 2008-03
世界中で現代アートの国際展の数が急激に増加している中で,日本においても,近年,横浜,越後妻有,福岡の各都市,地域で,国際展が回を重ね,次第に定着してきた.従来の国際展の目的は,世界の最先端のアートの潮流を見せることや,新しい才能を発見して世界に紹介するきっかけをつくることであったが,最近では,どの国際展でも同じようなアーティストの名前が並ぶ「世界サーキット」化による均質化が指摘されている.「横浜トリエンナーレ」は,当初主催団体や関係者の間で国際展のあり方についての明確な認識がなく,運営体制がはっきりしないまま,開催延期やディレクターの途中交代など迷走を続けたが,第2回展(2005年)では現代美術家川俣正が結合ディレクターに就任し,オープンでフレキシブルな運営方法を採用したため,市民が積極的に展覧会に参加するしくみが多数試みられ,これまでにないユニークな展覧会として成功を収めた.今後,国際展が意味を持ち続けるためには,地域に根ざした独自性が不可欠である.その際,アートの専門家(ディレクター)だけに企画運営をまかせてしまうのではなく,観客(愛好家),市民,行政,マスコミなどが,国内的視野だけでなく,国際的視野からも国際展のあり方について積極的にかかわり,地域全体でアートを楽しむという発想が必要になる.川俣は,今後の国際展の運営上の重要な要素として「ホスピタリティ」を挙げている.流通可能性の高い欧米の基軸文化を一方的に優先するのではなく,地域文化との間で相互にコミュニケーションが起こるような態度が「ホスピタリティ」であり,それによって,それぞれの地域文化の形成と変容に市民が深く関わり,文化の自己決定性が向上することが期待される.