著者
井口 隆
出版者
The Japan Landslide Society
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.409-420, 2006-01-25 (Released:2010-06-28)
参考文献数
29
被引用文献数
5 8

火山体では多様な斜面変動が多く発生している。中でも岩屑なだれを伴う山体崩壊は最も悲惨な災害を引き起こす。火山体に発生する山体崩壊・岩屑なだれの特徴を明らかにするため, 日本列島における発生状況について可能な限り多くの事例を収集し検討した。その結果, 日本列島の第四紀火山のうち67火山において128件の発生事例が確認できた。これは日本列島に分布する火山のうち約4割に相当する。火山体における大規模崩壊-岩屑なだれの発生頻度は最近500年間では見ると60年に1回程度である。大部分の山体崩壊の規模は0.2km3より大きい。岩屑なだれは横方向へも広く拡散する特徴を有するため, 被災範囲が極めて広い。火山体において発生する山体崩壊-岩屑なだれの規模は他の地質地域と比べると大きく, しかも流動性があり, 発生頻度が高いなど他の地域で起こる大規模崩壊より危険度が大きい。およそ3分の1の岩屑なだれ堆積物において流れ山が確認できた。また65件の岩屑なだれの崩壊源の位置を推定したところ, 山体崩壊は火山体の山頂付近など山体上部で発生する傾向が見られる。約3分の2の岩屑なだれの崩壊源は確認できなかったことから, 山体崩壊の跡地は容易に開析されるか埋積されて不明瞭となる。岩屑なだれの流動性は他の土砂移動現象と比べて高く, その等価摩擦係数は (H/L) は0.2から0.08と極めて小さい。山体崩壊・岩屑なだれは第四紀火山において必ずしも特異な現象ではなく, 火山体の開析過程の1つである。特に円錐形の山体を持つ活火山では, 山体崩壊-岩屑なだれを多く発生させてきた。多数の火山を有する我国では今後も山体崩壊・岩屑なだれが発生する危険性を考慮しておく必要がある。
著者
小野 尚哉 江藤 史哉 島田 徹 笹原 克夫 桜井 亘 鷲尾 洋一
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.179-186, 2014 (Released:2014-11-05)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

平成23年台風第6号に伴う豪雨によって発生した深層崩壊について,その発生場の地形・地質的特徴を整理し考察を行った。まず深層崩壊発生箇所とその周辺の微地形について,航空レーザ測量データを基に地形判読を行い抽出した。この地形判読を行った範囲に対して地表踏査を実施し,地形・地質と変状を記載した。その結果,小島地区の深層崩壊は,山頂緩斜面下方の岩盤クリープ地形が分布し侵食前線が位置するエリアで生じており,付近には褶曲や断層などの劣化帯が分布していることが判った。また,付加帯である四万十南帯の砂岩泥岩互層が分布する小島地区とその周辺においては,深層崩壊跡地などの大規模斜面変動地形が広く,かつ数多く確認され,層理面構造が流れ盤となっていないものの,節理等の亀裂系の発達等により岩盤の緩みが進行した範囲で生じていることが判った。
著者
河野 勝宣 前田 寛之
出版者
The Japan Landslide Society
雑誌
日本地すべり学会誌 : 地すべり = Journal of the Japan Landslide Society : landslides (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.121-129, 2013-05-25
被引用文献数
1

本論文は,北海道黄壁沢-シケレベンベツ川地すべり地域における全斜面の地形,地質,地質構造および熱水変質帯に加えて,岩石の強さを簡便かつ迅速に評価できる不定形点載荷強さ試験に基づく熱水変質岩の力学特性を考慮し,AHP法に基づくランドスライドハザードマップを作成し,ランドスライドハザードアセスメントを試みた。<br>  斜面におけるランドスライド危険度は,素因分析項目からAHP法による評点累計によって評価し,I~Vのハザードランクに分類した。ランクIは安定硬岩盤斜面,ランクIIは安定軟岩盤斜面,ランクIIIは不安定軟岩盤斜面,ランクIVは新規の地すべり発生が懸念される不安定な区域およびランクVは再活動型地すべりが懸念される最も不安定な古期地すべり地である。
著者
八木 浩司 丸井 英明 Allahbuksh Kausar Shablis Sherwali
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.335-340, 2010-11-25 (Released:2011-09-22)
参考文献数
9
被引用文献数
1

パキスタン北部を流れるフンザ川右岸のアッタバードにおいて2010年1月初旬に幅1000m, 比高1000m, 斜面長1500mの規模で地すべりが発生し, 約4000万立方mの移動土塊がフンザ川河谷をせき止めた。移動体は, 青灰色細粒物質をマトリックスとした長軸方向で3-4mから10mに及ぶような岩屑層からなり, この移動体からさらに絞り出された細粒物質が地すべりマウンド上を泥流となって下流側や上流側に流れ下った。本地すべりによる犠牲者は死者19人で, そのすべてはこの泥流に巻き込まれたことによるものである。この地すべりダムは大きな岩屑層からなるため突然決壊の危険性は低いと考えられた。災害4ヶ月前に撮影されたALOS/PRISM画像の実体判読の結果, 谷壁斜面には前兆現象的な変位が認められた。このためヒマラヤなどの高起伏地域での河道閉塞を引き起こす大規模地すべりの事前把握のための衛星画像利用の可能性が示唆された。
著者
海野 寿康 中里 裕臣 井上 敬資 高木 圭介
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.219-226, 2008-09-25 (Released:2009-04-01)
参考文献数
18
被引用文献数
2

近年, 豪雨による斜面災害が多発するようになっている。本研究では, 降雨から地すべり安全率を予測する手法の基礎として, 破砕帯地すべり地における豪雨と地下水位の相関関係の把握を目的に, 農地地すべり地区に設置されている複数のボーリング孔の孔内水位と地区降雨量の観測や地下水位の降雨応答解析を行った。その結果, 地下水位の降雨による変動に基づき実効雨量の半減期を決定することで, 該当地区におけるおおよその降雨~地下水位関係を得ることが可能となった。得られた知見から地下水位の変動挙動のタイプ分けを行うことができ, それらは降雨形態の違いにより生ずると考えられる。
著者
宇次原 雅之 関 晴夫 若井 明彦 畠中 優 江口 喜彦 中野 亮
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.221-232, 2014 (Released:2015-07-30)
参考文献数
17

コンクリート・モルタル吹付工(以下,吹付工)は,のり面保護工として古くより多用されており,現在その老朽化が問題となっている。効率よく維持管理を行うためには,吹付工が適用されたのり面の劣化機構を明らかにし,精度のよい健全度評価や劣化予測を行うことが重要となる。本研究は,これまでに蓄積されてきた維持修繕に関する記録をもとに,吹付のり面の劣化機構を明らかにして,今後,維持管理を行っていく上で有用となる基礎資料を得ることを目的として実施した。吹付のり面の劣化機構は地質や気候条件などにより異なるため,本研究では,群馬県内の中古生層分布地域における道路吹付のり面に研究対象を絞った。その結果をもとに,対象地域の吹付のり面の劣化機構を模式的に示し,劣化予測を含む効率的な維持管理への応用方法について検討を行った。
著者
佐藤 浩 宇根 寛 飛田 幹男
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.132-136, 2008-07-25 (Released:2009-01-30)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

2005年10月8日, パキスタン北部地震 (マグニチュード7. 6) が発生し, 2, 000ヶ所以上の斜面崩壊が引き起こされた。筆者らは既に, 90m解像度数値地形モデル (DEM) を使って, 斜面崩壊の大部分が逆断層の上盤側で, その断層の近くで発生したこと, 多くの規模の大きな斜面崩壊が南及び南西向き斜面で生じたことを報告した。本稿では, 250m2 (約15m× 15m) より広くて, 断層から4kmの範囲にある上盤側の977の斜面崩壊を選んだ。そして, TERRA/Advanced Spaceborne Thermal Emission and Reflection Radiometer (ASTER) データから得られた細かい15m解像度のDEMを用い, その斜面崩壊の方位を計算した。その結果, それぞれ30%以上の斜面崩壊が南と南西に生じていたことを確認した。さらに, その方位がEnvironmental Satellite (ENVISAT) /Synthetic Aperture Radar (SAR) で検出された上盤の地表変位 (地震断層運動による永久的な変位) の卓越方位と一致することを確認した。他の研究者によって記録された住民の証言によると, 変位の大部分は地震発生直後に一気に形成されたという。このことは, 地表変位の異方性が, 斜面崩壊の異方性の主要な要素であることを示唆している。
著者
八木 浩司 山崎 孝成 渥美 賢拓
出版者
The Japan Landslide Society
雑誌
日本地すべり学会誌 : 地すべり = Journal of the Japan Landslide Society : landslides (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.294-306, 2007-01-25
被引用文献数
12 23

2004年新潟県中越地震にともなって発生した地すべり・崩壊の発生場の地形・地質・土質的特徴を地形図, GISならびに土質試験・安定解析を用いて検討した。その結果, 以下のことが明らかとなった。<br>1. 2004年新潟県中越地震による地すべり (深層すべり) は, 芋川や塩谷川流域の梶金向斜沿いの地域に集中して発生した。それらは, 旧期の地すべり地形の一部が再活動したものである。これには, 魚沼丘陵を開析する河谷に沿った30°程度の急な谷壁斜面の発達が関わっていることが示唆された。<br>2. 大規模な地すべりによる地形変位量を地震前後のDEM (数値地形モデル) から算出した。滑落崖付近での陥没, 移動体による旧河道の埋積, 旧地表面に対する乗り上がり・隆起が捉えられたほか, 移動体から受ける側圧で発生した河床の隆起も認められた。特に大日岳北側 (塩谷神沢川最上流部) では, 上下変動量がともに最大で40m以上の規模で発生した。<br>3. 崩壊は, その6割以上が45°以上の急斜面で発生している。<br>4. 地すべりの大半は層すべり型でその発生場での元斜面勾配は, 13-26°の範囲で, そのモードは21-26°である。そのうちモードは, 東北日本内弧・新第三系堆積岩地域のそれに比べ数度程度大きいことから, 地震動なしには地すべりが発生しにくい土質条件下にあった。<br>5. リングせん断試験および原位置一面せん断試験によるすべり面のせん断強度は, 砂岩と泥岩の層界にすべり面が形成されている場合, 完全軟化強度<i>c</i>'=0kPa, φ'=35°, 残留強度は<i>c<sub>r</sub></i>'=0kPa, φ<i>r</i>'=30°の値を示し, 泥岩・シルト岩のすべり面では完全軟化強度<i>c</i>'=0~10kPa, φ'=30°, 残留強度は<i>c<sub>r</sub></i>'=10kPa, φ<i>r</i>'=20°の値が得られた。既報告の第三紀層すべり面の平均残留強度値 (眞弓ほか, 2003) と比較した場合, シルト岩のすべり面は10°程度大きな値である。
著者
海野 寿康 中里 裕臣 井上 敬資 高木 圭介
出版者
The Japan Landslide Society
雑誌
日本地すべり学会誌 : 地すべり = Journal of the Japan Landslide Society : landslides (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.219-226, 2008-09-25
被引用文献数
2 2

近年, 豪雨による斜面災害が多発するようになっている。本研究では, 降雨から地すべり安全率を予測する手法の基礎として, 破砕帯地すべり地における豪雨と地下水位の相関関係の把握を目的に, 農地地すべり地区に設置されている複数のボーリング孔の孔内水位と地区降雨量の観測や地下水位の降雨応答解析を行った。その結果, 地下水位の降雨による変動に基づき実効雨量の半減期を決定することで, 該当地区におけるおおよその降雨~地下水位関係を得ることが可能となった。得られた知見から地下水位の変動挙動のタイプ分けを行うことができ, それらは降雨形態の違いにより生ずると考えられる。
著者
八木 浩司 山崎 孝成 渥美 賢拓
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.294-306, 2007 (Released:2007-08-03)
参考文献数
20
被引用文献数
10 23

2004年新潟県中越地震にともなって発生した地すべり・崩壊の発生場の地形・地質・土質的特徴を地形図, GISならびに土質試験・安定解析を用いて検討した。その結果, 以下のことが明らかとなった。1. 2004年新潟県中越地震による地すべり (深層すべり) は, 芋川や塩谷川流域の梶金向斜沿いの地域に集中して発生した。それらは, 旧期の地すべり地形の一部が再活動したものである。これには, 魚沼丘陵を開析する河谷に沿った30°程度の急な谷壁斜面の発達が関わっていることが示唆された。2. 大規模な地すべりによる地形変位量を地震前後のDEM (数値地形モデル) から算出した。滑落崖付近での陥没, 移動体による旧河道の埋積, 旧地表面に対する乗り上がり・隆起が捉えられたほか, 移動体から受ける側圧で発生した河床の隆起も認められた。特に大日岳北側 (塩谷神沢川最上流部) では, 上下変動量がともに最大で40m以上の規模で発生した。3. 崩壊は, その6割以上が45°以上の急斜面で発生している。4. 地すべりの大半は層すべり型でその発生場での元斜面勾配は, 13-26°の範囲で, そのモードは21-26°である。そのうちモードは, 東北日本内弧・新第三系堆積岩地域のそれに比べ数度程度大きいことから, 地震動なしには地すべりが発生しにくい土質条件下にあった。5. リングせん断試験および原位置一面せん断試験によるすべり面のせん断強度は, 砂岩と泥岩の層界にすべり面が形成されている場合, 完全軟化強度c'=0kPa, φ'=35°, 残留強度はcr'=0kPa, φr'=30°の値を示し, 泥岩・シルト岩のすべり面では完全軟化強度c'=0~10kPa, φ'=30°, 残留強度はcr'=10kPa, φr'=20°の値が得られた。既報告の第三紀層すべり面の平均残留強度値 (眞弓ほか, 2003) と比較した場合, シルト岩のすべり面は10°程度大きな値である。