著者
鈴木 理子 白頭 宏美 杉原 由美
出版者
日本教師学学会
雑誌
教師学研究 (ISSN:13497391)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.11-20, 2020 (Released:2020-09-24)
参考文献数
18

大学で行われている自律型日本語学習クラスを初めて担当した教師Aにインタビュー調査を行い,教師にどのような気づきがあったのか,その気づきはどのようなことを契機にして起こったのかについて分析した。自律型クラスでは,学生が自身の日本語の強み,弱みを認識した上で,将来のことも考え,自分にとって必要な日本語学習を主体的に計画,実行し,評価する。教師は,これらの過程に関わりながら学生を支援する立場にあり,教える項目が決まっている授業とは,教師がすべきことが大きく異なる。分析の結果,教師Aの気づきには,「学生に対する認識」「自律型クラスに対する認識」「学生にとっての自律型クラスの意義」「自律型クラス内で教師が学生に対してすべきこと」「教師に必要な知識」「同僚とのやりとりの重要性」の6つがあった。また,これらの気づきの契機は「学生との相互作用」「同僚とのやりとり」であった。
著者
姫野 完治 長谷川 哲也 益子 典文
出版者
日本教師学学会
雑誌
教師学研究 (ISSN:13497391)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.25-35, 2019

本研究は,今後の教員養成・採用・研修を担う教師教育者の在り方を検討する上で基盤となる教師教育者の職務内容や教師発達観等を解明することを目的とする。そのため,国立教員養成系大学・学部および大学院において教員養成に携わっている研究者教員と実務家教員を対象として質問紙調査を行い,学校等における勤務の「経験なし研究者教員」と「経験あり研究者教員」,そして「実務家教員」の3群に分けて比較検討した。その結果,相対的に「実務家教員」は教育にかける時間が多いこと,「実務家教員」は授業や他機関との連絡調整において研究者教員と連携していること,「研究者教員」と比べて「実務家教員」の職務内容や教師発達観には,同僚性やコミュニティとの関わりが反映されていること等が明らかになった。
著者
有井 優太
出版者
日本教師学学会
雑誌
教師学研究 (ISSN:13497391)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.31-41, 2020 (Released:2021-07-16)
参考文献数
35

本研究では,学校の置かれた文脈や組織構造に即して校内授業研究における教師の関係性を検討し,その中で中心的な役割を果たしているリーダーを特定するために公立小学校1 校を対象とした事例研究を行った。具体的には以下2つの研究を行った。まず,研究Ⅰでは,校内授業研究に関する相談を誰にするのかを尋ねる質問紙調査を行った。そして,社会ネットワーク分析の手法を用い,ⅰつながりの多さ,ⅱつながりの強さという観点からネットワーク内で中心的役割を果たしているリーダーを特定した。次に,研究Ⅱでは,研究Ⅰで中心的役割を果たしていると特定されたリーダーを対象としたインタビュー調査を行い,相手による相談内容の相違を検討した。 研究Ⅰ,Ⅱの結果から,学校外から教科の専門知を学校内に循環させている役割を果たしているリーダーとして外部団体に所属する教師と教科部会のリーダーが特定された。また,校内授業研究として教師集団が協働して研鑽することを支える役割を果たしているリーダーとして研究部の教師と在校年数の長い教師が特定された。
著者
姫野 完治 長谷川 哲也 益子 典文
出版者
日本教師学学会
雑誌
教師学研究 (ISSN:13497391)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.25-35, 2019 (Released:2019-07-08)

本研究は,今後の教員養成・採用・研修を担う教師教育者の在り方を検討する上で基盤となる教師教育者の職務内容や教師発達観等を解明することを目的とする。そのため,国立教員養成系大学・学部および大学院において教員養成に携わっている研究者教員と実務家教員を対象として質問紙調査を行い,学校等における勤務の「経験なし研究者教員」と「経験あり研究者教員」,そして「実務家教員」の3群に分けて比較検討した。その結果,相対的に「実務家教員」は教育にかける時間が多いこと,「実務家教員」は授業や他機関との連絡調整において研究者教員と連携していること,「研究者教員」と比べて「実務家教員」の職務内容や教師発達観には,同僚性やコミュニティとの関わりが反映されていること等が明らかになった。
著者
星 裕 越川 茂樹
出版者
日本教師学学会
雑誌
教師学研究 (ISSN:13497391)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.21-31, 2020 (Released:2020-09-24)
参考文献数
35

本研究は,大学教育における学生による自己評価へのルーブリックの活用に関する研究動向を概観し,その活用状況と活用した結果にみられた影響と課題について明らかにすることを目的とした。 その結果,ルーブリックを自己評価に用いた影響については,「授業の目標を理解する」,「学習へと動機づける」,「資質・能力の向上」,「教員が学生を理解する」の 4点,課題については,「ルーブリックの改善」,「ルーブリックの活用」,「対象の拡大」の 3点に整理することができた。また,それらを先行研究と比較して検討した結果,ルーブリックを評価の道具としてだけではなく,学習をより効果的なものとするための学習材として活用していく 必要性が示唆された。そのためには日々の授業においてルーブリックを活用し,それ自体とその用い方を検討していくことが,学習材としてのルーブリックの可能性を広げていくことにつながると考えられる。
著者
山口 真美
出版者
日本教師学学会
雑誌
教師学研究 (ISSN:13497391)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.1-10, 2021 (Released:2021-08-11)
参考文献数
30

本稿の目的は,保護者への共感的な教師の認識を成立させる要素を,情緒的地形の概念を援用して明らかにすることにある。保護者とどのような関係性を結ぶかは学校現場において重要な課題のひとつであるが,先行研究では教師は異なる社会経済的背景を持つ保護者に対して特に共感的な姿勢を示しづらいと言われてきた。しかし,対象校においては,学校の置かれた校区背景は厳しいにも関わらずそのような保護者に対しても共感的である語りが大勢を占めていた。ここに注目し,教師の保護者に対する共感的な理解を構成する要素についてインタビュー調査から検討した。その結果を「教師によるこまめで直接的なコミュニケーション」「形式的でないかかわり」「協力を依頼する際の目的の一致の確認」「教師の指導的立場の自覚とそれを緩和する配慮」として整理し,各学校で培われている実践が校区の社会経済的背景という所与の条件を乗り越えうることを示唆した。
著者
竹元 惠子
出版者
日本教師学学会
雑誌
教師学研究 (ISSN:13497391)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.47-57, 2012

本研究では看護系大学に所属する大学教員歴5年未満の看護学教員のロールモデル行動の特徴と特徴に影響を及ぼす要因について検討した。具体的には舟島らが開発した「看護学教員ロールモデル行動自己評価尺度」を用いて、全国の看護系大学の講師、助教、助手を対象として調査を行った。その結果【学生を尊重し、誠実に対応する行動】の下位尺度得点が最も高く、下位尺度項目の<優しさと厳しさをバランスよく保つ>と<看護現象を理解するために理論を活用している>が改善課題として見出された。さらに、職位別では助手に、より多くの改善課題が見出された。また、ロールモデル行動に影響すると思われる要因では、(1)所属大学の教育課程、(2)最終学歴、(3)職位、(4)大学教員歴、(5)科学研究費・助成金受給の有無、(6)看護関係の学会所属の有無、(7)大学教員の主たる役割に関するやりがい感、(8)キャリア意識等が見出された。
著者
町支 大祐
出版者
日本教師学学会
雑誌
教師学研究 (ISSN:13497391)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.37-45, 2019 (Released:2019-07-09)
参考文献数
28

近年,異動が教員にネガティブな影響を与える可能性が指摘されている。本研究は,その要因の一つになっていると考えられる「異動後の困難」の様相を明らかにすることを目的とする。加えて,本研究では初めての異動に着目する。異動の影響はキャリアの長さ等によって異なり,かつ初めての異動が最も大きな影響を与えると言われているが,そこに着目した先行研究はないからである。教員10名を対象にインタビュー調査を行い,定性的コーディングを行なった結果,【ステークホルダーの特徴の違いへの対応困難】【仕事のやり方の違いへの対応困難】【周囲からの視線に関する難しさ】【信念とのズレに関する難しさ】という4つのカテゴリーが生成された。前者2つは先行研究でも指摘されてきたが,本研究を通じて,【周囲からの視線に関する難しさ】【信念とのズレに関する難しさ】という新たな2点を確認することができた。
著者
大前 暁政
出版者
日本教師学学会
雑誌
教師学研究 (ISSN:13497391)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.35-44, 2016 (Released:2017-02-28)
参考文献数
12

教員養成課程の学生に,理科指導に関する実践的指導力を身につけるには,理科教育に関する理論と方法に加え,科学の専門的な知識や実験技能を修得させる必要がある。初めて理科の授業づくりについて学ぶ2回生に,これらの内容を習得させるには,理論を講義形式で伝えるだけでは不十分である。理論を伝えることに加えて,実際に大学教員が模範授業を行うことで,理科教育に関する理論と方法を体験的に学ばせることができ,さらに模範授業の中で実験を行わせることで実験技能にも習熟させることができる。また,理科授業を行う上で必要となる背景にある科学的な知識を教授することで,理科教科内容に関する知識の習得を促すことにつながる。
著者
前田 菜摘 浅田 匡
出版者
日本教師学学会
雑誌
教師学研究 (ISSN:13497391)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.13-23, 2019 (Released:2019-07-08)
参考文献数
24

校内研修は,学校研究として共同的な探求機会を提供するが,その参加や学校研究が追求するテーマに対する理解の深まりが個々の教師の変容にもたらす影響についてデータを用いて明らかにした研究はほとんど見られない。そこで本研究では,若手教師2名を対象に1年間の追跡的なインタビューを行い,共同的な探求活動の参加者の1人として校内授業研究に参加することが自身の学びにもたらす影響について明らかにすることを試みた。インタビュー内容をテーマによって分類整理し,その後,それぞれの言及の間の関係性について考察した。結果,両者の学びは異なる特徴を有していたものの,ともに学校の研究テーマへの理解と自身の実践とが関係しあう様相に対する言及が見られた。この結果は,学校研究という探究的な活動に参加することと個々の教師の成長のプロセスが表裏一体であることを実証的に示すものである。
著者
中村 瑛仁
出版者
日本教師学学会
雑誌
教師学研究 (ISSN:13497391)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-11, 2019 (Released:2019-07-08)
参考文献数
26

本研究では、学校環境の一つとして教師が勤務する校区の社会経済的背景(SES)に注目し、社会経済的に困難な家庭環境の子どもが多い学校の学校環境とそこで観察される教師役割の特徴を明らかにすることを目的とする。分析では教師20名へのインタビューデータとTALISの二次データを用いて、SESの厳しい学校の学校環境と教師役割の特徴を吟味した結果、学校環境によって要請される教師役割として、「学級の荒れを統制する役割」「学習意欲の喚起とケアの役割」「保護者との関係を構築する役割」が、他方で教師たちが主体的に獲得する役割として「しんどい子を包摂する役割」「荒れに対向する協働的役割」が観察された。校区のSESによって顕在化する教師役割の内実は異なっており、教師たちは要請される教師役割に対応しつつ、他方で自ら積極的に教師役割を獲得することで、厳しい学校環境に適応しながら勤務校での働きがいを見出していた。
著者
児玉 佳一 笹屋 孝允 川島 哲
出版者
日本教師学学会
雑誌
教師学研究 (ISSN:13497391)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-11, 2016 (Released:2017-02-28)
参考文献数
22

本研究は,都内公立小学校5年生1学級を対象に,教師と児童の“授業ルール”認識におけるズレの特徴について,「重要度」「優先度」「目的」の3点から検討した。「重要度」については授業ルールの重要度認識を測定する尺度,「優先度」については授業ルールが葛藤する場面を記述した場面想定課題,および「目的」については授業ルールの目的を尋ねる自由記述課題をそれぞれ実施した。その結果,「重要度」では,教師および児童とも授業ルールの重要度を高く認識していることが示された。一方で「優先度」および「目的」では,主に“友人を尊重するためのルール”と“秩序を維持するためのルール”においてズレが示された。これらの結果から,教師と児童の授業ルールの認識におけるズレは,児童が授業ルールを重要と認識していないために起きるのではなく,両者の優先する授業ルールや授業ルールの目的の理解が異なっているために起きることが示唆された。
著者
大前 暁政
出版者
日本教師学学会
雑誌
教師学研究 : 日本教師学学会誌 (ISSN:13497391)
巻号頁・発行日
no.16, pp.1-11, 2015-03-31

教員養成課程の学生に教育方法と授業技術を習得させるには,大学教師が模範となる模擬授業を行い,学生に生徒役として授業を体験させることが有効である。模範授業体験後には,学生が気付いた授業の工夫を発表させる。学生の発表や質問に対して,大学教師が授業行為の意味を解説する。これにより,授業方法と授業技術の二つを意識化させることができる。その上で,模範授業で学んだ教育方法や授業技術を参考に,学生に模擬授業づくりに挑戦させ,学んだ方法や技術を活用させることで,習得を促すようにした。