著者
安住 文子 北村 勝朗
出版者
日本スポーツ産業学会
雑誌
スポーツ産業学研究 (ISSN:13430688)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.4_421-4_431, 2022-10-01 (Released:2022-10-14)
参考文献数
22

This study aims to qualitatively clarify, through interviews, how a kendo master reads, attacks, and defeats the opponent. Previous studies related to “reading” have been conducted with the concepts of “clinical intuition,” “situational cognition,” and “predictive judgment” in the field of nursing. In addition, the “reading” of Japanese chess is positioned as a predictive judgment, and there are several pieces of research on strategies used during artificial intelligence battles. However, research on “reading” that comprehensively captures contextual, spatial, cognitive, emotional, technical, and proficient perspectives is still scarce. The subject of this study holds the 8th degree in kendo. He is an outstanding kendo player who has won several Japanese championships and is an experienced teacher. Data collection was conducted through two-to-one semi-structured, open-ended, and in-depth interviews by the two authors. The interview duration was two hours. The interview data were transcribed and then analyzed by the qualitative analysis method. As a result of the analysis, the kendo master’s reading was classified into six subcategories, namely, “determine the entirety of the opponent,” “show movement before the opponent does,” “establishment of linked movements,” “invitation to attack,” “creating inevitability,” and “natural reaction of the body.” These were finally divided into three categories, namely, “identifying the opponent,” “identifying movements of self and others,” and “occurrence of attack.” The study concludes that the kendo master, by demonstrating the power of outstanding reading explained by three elements, identifies the opponent’s ability, predicts the movement, and directs the flow of movement between the opponent and himself within the context of an attack. It is evident that an attack is composed of a series of steps. Further research should examine the relationship between reading and actual behavior, and focus on other masters.
著者
齊藤 茂 北村 勝朗 永山 貴洋 Shigeru Saito Katsuro Kitamura Takahiro Nagayama
雑誌
教育情報学研究 = Educational informatics research (ISSN:13481983)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.45-53, 2007-07-01

スポーツ選手の練習の「質」を分けるものは何であろうか。本研究では,ユース年代のエキスパート・サッカー選手9名を対象として,彼らが熟達してきた過程において,どのような意識のもと,能動的に練習活動に取り組んできたのか,対象者が行ってきた練習の「質」の詳細を描写することを目的とした。本研究のデータ収集は,筆者と対象者による1対1の半構造的インタビューにより実施し,定性的データ分析法に基づき分析が進められた。結果として,対象者は,目標を高い基準に保持し,的確な現状把握することにより必要性を検知するといった「モニタリング」を積極的に行っていること,および練習環境の再考し,意味のある環境で練習をする中で練習環境を構築し続けていくこと,さらにはこうした要因が相互に作用して練習の「質」を高めているという対象者の意識の構造が明らかとなった。
著者
伊藤 詩織 佐々木 万丈 北村 勝朗
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集 第67回(2016) (ISSN:24241946)
巻号頁・発行日
pp.127_1, 2016 (Released:2017-02-24)

女性スポーツ競技者にとって、月経期間に痛みや症状があることは、競技力向上を目指す上でストレッサーとなることが予測される。本研究は経血の処置方法に着目し、布ナプキンの使用を女子大学生スポーツ競技者に適用することで、月経症状に対する意識に変容が見られるか検討をおこなった。A大学で部活動やクラブチームに所属している学生7名を対象とした。1か月目の月経期間は市販ナプキンで過ごし、その後3か月の月経期間は、ガーゼとコットンを体調によって組み合わせて使用し、月経期間が終了する毎にアンケート調査をおこなった。分析の結果、市販ナプキンの使用時に自覚された「ムレ」「かゆみ」などの不快感が有意に低減し、また認知的評価では、日常生活における月経随伴症に対するコントロール感の向上が示された。これらの結果から、市販ナプキンよりも通気性や保温性のある布ナプキンを使用することで、月経症状に対する意識が改善したと考えられる。さらに、月経による愁訴の一つである「集中力の低下」が低減したことも示され、布ナプキンを使用することが、より競技に集中することができるなど、競技力向上の一助となる可能性のあることが考えられる。
著者
北村 勝朗 永山 貴洋 齊藤 茂
出版者
近畿大学豊岡短期大学
雑誌
近畿大学豊岡短期大学論集 (ISSN:13498983)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.89-98, 2005-12-20

本稿の目的は、認知的不協和(cognitive incongruity)の視点から、スポーツ、音楽、および科学等、創造的な活動領域における熟達化過程を再考することにある。データ収集は深層的、自由回答的、半構造的インタビューにより行なわれた。データ分析は、質的分析法(qualitative data analysis)により階層的カテゴリー化が行なわれた。分析の結果、創造的活動領域における熟達化は、「気づき」、「試行と検証」、「わかる」、及び「高度化」の4つのカテゴリーによって構成されていることが明らかとなった。その中で、認知的不協和は、対象者の熟達化の循環に大きな影響を与えていることが示唆された。
著者
北村 勝朗 山内 武巳 高戸 仁郎 安田 俊広
出版者
公益社団法人 全国大学体育連合
雑誌
大学体育学 (ISSN:13491296)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.15-25, 2007

本研究は,スノーボード・カービングターン初習者である大学生が3日間の集中講習の中で,a)動作・技術理解,b)動作イメージ,c)動作結果に対する感覚的理解,が指導によってどのように変化していくのか,実際の雪上での動作前後の感覚情報の内省報告による発話の分析と動作映像の分析,更には,講習前後日の荷重分布の変化の分析による多角的な分析を行うことで,スノーボード学習者を指導する際の客観的かつ理論的裏づけに基づいた有効な指導法を提案することを目的とする.分析の結果,動作習得過程における動作意識は,運動構造の認知,動作感覚の洗練,及び動作イメージの形成の3要素によって構成されている点が明らかとなった.これらの要素は,自身の中の「運動の不感性」を低下させる上で有効に作用しつつ,指導者の意図する動作イメージを共有する方向で機能している点が示唆される.こうした点から,カービングターン初習者に対する短期集中指導内容の構成として,学習初期には目的とする動作全体の理解を促す言語的・非言語的情報を用いた教示と同時に,学習者の感覚に注意が向けられるようなフィードバックによる自身の動作感覚の鋭敏化を促すことが,自身による動作イメージの形成に効果的に作用することが推察される.また,荷重変化からの検討により,講習前はフロントサイドターンの局面において前足かかと親指側に明らかな荷重分布は観察できなかったが,講習後は講習前と比べてフロントサイドターン中の前足かかと親指側に明らかな荷重分布が観察された.
著者
伊藤 詩織 北村 勝朗
出版者
日本スポーツパフォーマンス学会
雑誌
スポーツパフォーマンス研究 (ISSN:21871787)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.9-23, 2023 (Released:2023-03-16)
参考文献数
25

女性競技者の月経に対する支援自体は存在するが,利用につながっていない点,支援を受けていると感じられていない点が課題として挙げられる.女性競技者の月経に対する考え方やその視点から見える環境などを詳細に聞き取り,知ることが重要と考えられるため,本研究では,女性競技者の月経に関わる現象を聞き取り,探求することを目的とする.経験や認知,行動といった現象を探求する目的で半構造化インタビューを実施し,個別性を明らかにするため,1 名を対象に深く考究する.質的データ分析方法に基づいた分析の結果,女性競技者と月経との関係性は,【パフォーマンスに必要な身体感覚】【試合に被って欲しくない月経】【自分に合った月経サポートが見つからない】および【競技における信念】の4 つのカテゴリーによって示された.月経に関するさまざまな経験をすることで,女性競技者の各カテゴリーは循環するように互いに影響を及ぼし合い,信念や対処方法を変化させていく点が推察された.競技者に月経という現象がただ付随しているのではなく,月経があることで生じる競技者特有の問題が生じ,競技生活を送る個人の思考や感覚,人間関係の中全体に月経が存在していることが見出され,困難や葛藤,対処が生じている点が見出された
著者
永山 貴洋 北村 勝朗 齊藤 茂
出版者
東北大学大学院教育情報学研究部
雑誌
教育情報学研究 (ISSN:13481983)
巻号頁・発行日
no.5, pp.91-99, 2007-03

従来、動作のコツは指導できないとされてきた。果たして、動作のコツを指導することは本当に不可能なのであろうか。そこで本研究では、動作のコツを習得する際に機能するといわれる学習者の形態化身体知に対する優れた指導者の働きかけを明らかにすることを目的とした。調査は、3名の指導者と1名の選手を対象とし、行動再検証により実施した。インタビューデータを分析した結果、優れた指導者の身体知指導方略の要素として、「認知特性の把握」、「動作イメージ形成の促進」の2つのカテゴリーが形成された。最終的に、優れた指導者は選手の身体組成や動きの違いだけではなく、動感に対する気づき方等の認知特性を理解した上で多様なイメージを提示することで選手の形態化身体知を活性化させ、動作のコツを習得させていることが明らかになった。
著者
西田 保 佐々木 万丈 北村 勝朗 磯貝 浩久 齊藤 茂 NISHIDA Tamotsu SASAKI Banjou KITAMURA Katsuro ISOGAI Hirohisa SAITO Shigeru
出版者
名古屋大学総合保健体育科学センター
雑誌
総合保健体育科学 (ISSN:02895412)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.13-21, 2014

Previous studies of motivation have assumed that in general, success breeds positive feelings and motivation while failure generates negative feelings and dampens motivation. However, a closer look at comments made by athletes in interviews reveals that in many cases, regret about losing a game can actually transform itself into a strong desire to win the next competition. In order to promote an academic study of the link between the feeling of not wanting to lose and motivation, this paper summarized the presentations and discussions that got underway at the Round Table Discussion, which was organized as part of the 2013 Japan Annual Congress of Sport Psychology. The authors described actual conditions and research perspectives of the "hating to lose" mentality based on the results of questionnaires, the expertise of elite athletes, and mental training for athletes". It is hoped that the Round Table Discussion will generate further research in this area.
著者
三井 梨紗子 北村 勝朗 水落 文夫
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.70, pp.141_3, 2019

<p> 多くのスポーツ競技で女性エリート選手の競技力は向上しているが、スポーツ競技現場の指導者およびスポーツ組織の意思決定機関において活躍する女性は依然として少ない(山口, 2013)。この課題の背景には、優秀な女性指導者の指導にみられる有利性の存在や、その特徴に対する不十分な認識があると考えられる。とりわけ、スポーツ集団の指導で優秀な競技成績を達成する例が注目されていることから、現状では優れた女性指導者による女性スポーツ集団および選手への指導を理解することが期待される。本研究は、スポーツ採点競技における女性スポーツ集団に対する優れた女性指導者の指導観および指導方略について、定性的な研究法を用いて可視化することを目的とする。この目的を達成するために、女性スポーツ集団および選手に対する女性指導者という関係で、長期にわたり世界トップレベルの競技成績を維持するアーティスティックスイミング競技(採点競技)に着目し、その指導者を調査対象として選定した。インタビューデータから37の標題が得られ、3つのカテゴリーと8つのサブカテゴリーに分類された。その結果、対象女性指導者の指導観および指導の視点が明らかになった。</p>
著者
北村 勝朗 キタムラ カツロウ Kitamura Katsuro
出版者
東北大学大学院教育情報学研究部
雑誌
教育情報学研究 (ISSN:13481983)
巻号頁・発行日
no.1, pp.77-87, 2003-03

ひとの学びに関わる教育情報は、明示的なシグナルとして扱われる情報とは異なり、情報のもつ意味性、作用力を含めた解釈が必要となる。本稿では、教育情報を「教え学ぶ過程で作用する、意味を帯びた知」と定義づけ、スポーツ・音楽・芸術領域における熟達化過程で教育情報がどのように作用しているのかについて定性的分析によるモデル化を試みた。調査はエキスパート指導者9名を対象とし、半構造的・自由回答的調査面接により実施した。その分析枠組みとして、生田(1987)による「わざ」の概念を用いた。考察の結果、スポーツ・音楽・芸術領域における熟達化に及ぼす教育情報の作用は、「スキル」、「意味形成」、「志向性」、及び「身体性」の4つのproperty(特性)によって構成されることが明らかにされ、それぞれのpropertyに注目した教育情報の位置づけが検討された。
著者
渋倉 崇行 西田 保 佐々木 万丈 北村 勝朗 磯貝 浩久
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.563-581, 2018-12-10 (Released:2018-12-20)
参考文献数
47
被引用文献数
1

This study examined the psychosocial skills of high school extracurricular sports activities and their generalization to student daily life. In a preliminary study, we collected a wide range of psychosocial skills related to extracurricular sports activities experienced by members of high school sports clubs, and then selected questionnaire items that would be used in the present study. In Survey 1, a confirmatory factor analysis was conducted using data collected from 376 members of high school extracurricular sports clubs (265 males, 111 females) to develop two scales, one measuring psychosocial skills in extracurricular sports activities, and the other psychosocial skills in daily life. The validity and reliability of these two 9-subscale tools, both of which comprised the same items, were thus confirmed. In Survey 2, the two scales developed in Survey 1 were used to conduct three surveys of the same subjects over an interval of about 3 months, in order to determine the causal relationships between the psychosocial skills used in extracurricular activities and those used in daily life. A cross-lagged effect model was used. The study subjects were 137 high school students who were members of extracurricular sports clubs (73 males, 64 females). The results showed that the psychosocial skills needed for extracurricular sports activities could be generalized to student daily life. Generalization in the reverse direction, i.e. from skills used in everyday life to those used in extracurricular sports activities, was also evident. Furthermore, the results suggested that psychosocial skills used in extracurricular sports activities had a cyclical causal relationship with the skills used in everyday life. Finally, the significance of extracurricular sports activities and methods for actualizing this significance was discussed based on the study results.
著者
北村 勝朗
出版者
東北大学
雑誌
教育情報学研究 (ISSN:13481983)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.77-87, 2003-03

ひとの学びに関わる教育情報は、明示的なシグナルとして扱われる情報とは異なり、情報のもつ意味性、作用力を含めた解釈が必要となる。本稿では、教育情報を「教え学ぶ過程で作用する、意味を帯びた知」と定義づけ、スポーツ・音楽・芸術領域における熟達化過程で教育情報がどのように作用しているのかについて定性的分析によるモデル化を試みた。調査はエキスパート指導者9名を対象とし、半構造的・自由回答的調査面接により実施した。その分析枠組みとして、生田(1987)による「わざ」の概念を用いた。考察の結果、スポーツ・音楽・芸術領域における熟達化に及ぼす教育情報の作用は、「スキル」、「意味形成」、「志向性」、及び「身体性」の4つのproperty(特性)によって構成されることが明らかにされ、それぞれのpropertyに注目した教育情報の位置づけが検討された。
著者
中井 未生 北村 勝朗
出版者
東北大学
雑誌
教育情報学研究 (ISSN:13481983)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.105-108, 2003-03

Sloboda等の研究により、音楽表現能力は獲得可能な能力であることが明らかにされている(Sloboda,1996)。本研究の目的は、指導者の表現指導観と指導行動の分析を通じて、表現指導構造を解明することである。2人のフィギュアスケートコーチと、3人のヴァイオリン指導者を対象とし、インタビューと指導場面の観察を行った。彼らの選定基準は次の通りである。1)指導者経験が10年以上、2)専門家集団によって優秀な指導者であると評価されていること、3)優秀な演奏家や選手を育てていること、および4)ヴァイオリンの場合、指導者自身も演奏家であること。深層的インタビューは各指導者がスポーツや音楽の表現についてどのように考えているかを探るために行った。また、組織的行動観察は指導行動を明らかにすることを目的として行われた。その結果、表現指導はFormling(生徒のイメージを形成する段階)、Performing(そのイメージを技術によって表現する段階)、そしてDeveloping(フィードバックによってさらに発展させる段階)の3要素から構成されていることが明らかになった。指導者は特にFormingで生徒が自ら具体的なイメージを持つために、単に自分のイメージを教えるのではなく、自分のイメージに基づいたアドバイスをすることを目指していた。そのために指導者は、比ゆ的な言葉と身振りを多く用いていた。
著者
北村 勝朗 生田 久美子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は, スポーツ指導者の熟達化過程のモデル構築および育成プログラム開発である。日本で優れた指導実績を残しているエキスパート指導者を対象とし, 1対1, 深層的, 半構造的インタビューにより調査を行った。同時に, 調査対象指導者による指導を受けた経験を持つ選手を対象とし, 選手の視点から捉える指導者の思考・行動について調査を行った。得られたデータは質的データ分析法を通して多角的に指導熟達化モデルとして構築された。分析の結果, 最終的に指導熟達化モデルは, 前年度までの研究成果を受け,(1)指導者としての意識変革,(2)関係再構築への認識, および(3)指導役割の取り込み, の3つのカテゴリーから構成されることが明らかとなった。
著者
北村 勝朗 生田 久美子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

スポーツの指導場面で用いられる言葉の中で,動作イメージの形成に有効に作用すると指摘されている比喩的な言語に関しては,それがどのような構造によって成立しているのかに関しては未だ十分に解明されていない,そこで本研究では,修辞的なわざ言語が用いられている指導場面をフィールドとし,修辞的な指導言語が用いられる場面における指導者の伝達意図と選手の認知過程について,インタビューおよび行動再検証によって,動作イメージが形成されていく全体像の分析を行った.初年度の平成14年度は,体操競技,フィギュアスケート競技,および伝統芸能におけるわざ言語の抽出を中心に行い,どのような場面で,どのようなわざ言語が用いられるのかについてのデータ蓄積を進めた.2年目の平成15年度は,体操競技に焦点をしぼり,ビデオ映像を用いたインタビュー(行動再検証)を用いてジュニア体操選手のわざ言語理解とわざ言語によるイメージ形成過程について分析を行った.最終年度の平成16年度は,競技種目をバスケットボールと体操競技に限定し,より詳細なデータ収集・分析を実施した.本研究の主な成果として,下記の点があげられる.「わざ」言語の生起場面では,学習者の動作結果について指導者が提示する婉曲的なフィードバックにより,学習者は自身の持つ動作感覚と運動感覚をもとに,課題とする動作の本質的な理解を手探りで深めつつ,新たな運動図式を組み替えていくという作業を行っている.また,修辞的な言語を用いたいわゆる比喩表現によってスキルに関わるフィードバックを得た選手は,比ゆ表現の中で伝達を意図されている動作の根本原理(例えば,遠心力を利用した姿勢や動作構成のあり方)についてのイメージと大きく関連する感覚を,自身が持つ記憶の中から検索し,再構造化することにより,複雑な動作を1つの動作図式として組みかえるといった作業を行っている.以上のように,修辞的なわざ言語は,選手の動作イメージの活性化につながり,その結果,選手がこつをつかむことに貢献している一連の構造が明らかとなった.
著者
生田 久美子 北村 勝朗 前川 幸子 原田 千鶴 齊藤 茂
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,スポーツ・看護・芸能領域の伝承場面における修辞的な言語(わざ言語)の分析を通して,「わざ」の伝承における「わざ言語」の意義を問い直し,学びの可能性を考究することにある。実際に卓越的技能の指導現場に触れている「わざ言語」実践者を対象とし,「わざ言語」が生起する文脈や役割の分析が行われた。本研究の成果として,行為の発現を促す役割,身体感覚の共有の役割,及び到達した状態の感覚へといざなう役割,を確認した点があげられる。