著者
榊原 香代子 村元 雅之 藤田 恭明 上原 恵子 金原 真紀 佐藤 由美子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第60回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.331, 2011 (Released:2012-02-13)

症例は78歳男性。上行結腸癌、十二指腸浸潤に対し平成22年8月16日に結腸右半切除術、十二指腸合併切除術が施行されている。組織学的進行度が_III_bと進行していたため、FOLFIRIによる術後補助化学療法を継続中であった。嘔気嘔吐の副作用はなく食事摂取は良好に保たれていたが徐々に低アルブミン血症が進行し、ついに2.0g/dlとなり下肢浮腫を伴ったため平成23年1月11日に栄養介入目的で入院となった。投与カロリーは軟食1000cal、免疫強化経腸栄養剤750cal、PPNで210cal、脂肪乳剤200calに加え、L-グルタミン製剤2.7gを併用した。1月12日に測定した血清Zn値は17μg/dlと著明に低下しており、亜鉛欠乏症から蛋白合成不全を引き起こしていたと考え、Zn含有胃潰瘍治療剤の投与を1月18日から開始した。血清Zn値の上昇に伴い徐々に血清アルブミン値は上昇し、浮腫も消失して1月29日軽快退院となった。 今回我々は亜鉛欠乏症が原因と思われた低アルブミン血症の1例を経験したので、若干の文献的考察を加え報告する。
著者
沖田 英人 村元 雅之 藤田 恭明 上原 恵子 榊原 香代子 金原 真紀 佐藤 由美子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第60回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.409, 2011 (Released:2012-02-13)

アルブミンとCRPの関係について<BR>知多厚生病院NST<BR>沖田英人・村元雅之・藤田恭明・上原恵子・榊原香代子・金原真紀・佐藤由美子<BR>褥瘡治療の大きな壁は誤嚥性肺炎である。感染症でCRPが増加する際にはアルブミン(以下Alb)も低値を示しやすく、一般には感染により増加したストレス係数の分だけ投与エネルギーを増量する。逆に近年は、AlbとCRPは負の相関にあり、CRPの増加する感染時には宿命的に内因性エネルギーが産生されているため、overfeedingにならないよう外因性エネルギー投与量は控えるべき、との意見がある。そこで我々は、スキンケア委員会(褥瘡委員会)とNSTで半年以上観察した重度褥瘡患者11名を対象にAlb、CRP、投与エネルギー量を検討し相関性を調査した。AlbとCRPの相関関係数はほぼ全例で負となり、うち負の相関が得られたのは1例で、その相関係数は-0.86であった。また投与エネルギー量との相関は、ほぼ全例でAlbよりも希薄であった。<BR>今回の調査では、予想していたほどはAlbとCRPの逆相関は得られなかったが、感染や浸襲時には骨格筋が崩壊して肝はCRPを作るためAlb合成がおろそかとなり、この時外因性にエネルギーを投与しても蛋白異化抑制できず、従って感染の消退までエネルギー量を控える、とする考え方は妥当であると思われた。
著者
竹中 理恵 伊東 尚美 安 邦子 加藤 久美子 峯田 祐次 阿部 菜穂子 岩谷 さゆり 秋野 良子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.71, 2006 (Released:2006-11-06)

<緒言>当病棟では、せん妄症状の患者に対し、チューブ類の自己抜去や転倒を防ぐために、やむを得ず睡眠剤の投与や抑制を行い危険行動を抑えているのが現状であった。そこで、アロマテラピーの導入で、せん妄症状の患者に対しても少ない症例ではあるが改善が見られたためここに報告する。<方法>1.対象 夜間せん妄症状が見られた当病棟入院患者で、今回の研究を行うことに家族の了承を得た患者3名2.方法1)開始時期 三瓶氏らのアセスメント表を参考に、せん妄スケール表(以下スケール表とする)を作成し2段階に該当した時点でアロマテラピーを開始する。2)アロマテラピーの施行方法 精油をコットンに垂らし枕元に置く。 (1)開始時:リラックス効果のあるラベンダーを使用 (2)開始4時間後から起床時:鎮静効果と催眠作用のあるカモミールを使用 (3)開始が0時以降の場合は2種類を混合し使用3.データ収集方法 スケールの点数からアロマテラピー使用後のせん妄症状の変化を比較する。4.倫理的配慮 同意書に、知る権利・医療における自己決定権・害を与えないこと・プライバシーの保護について記載し、家族に対して説明する。<結果>スケール点数を比較したところ、全ての症例において開始4時間後に点数の下降が見られた。(資料1参照)また、開始時間に関係なく全員が6時から9時の間に覚醒した。<考察>環境の変化に不安、チューブ類や安静などによる拘束感、苦痛からくる不眠や疲労に関連し、せん妄症状が出現した患者3名に施行した。アロマテラピー使用後、3名とも「いい臭いがする」「落ち着く」と言い入眠につながった。吉田は「香りの刺激は嗅覚によって感覚されるが、その神経ルートは他の感覚以上に情動脳系に直結している。」1)と述べている。このことから、ラベンダー・カモミールの香りはリラックス効果が高く、ストレスに由来する各種障害に有効と言われているように、鎮痛・安眠効果が得られ入眠を促すことができたと考えられる。 また、使用開始時間に関係なく全員が6時から9時の間に覚醒し「すっきり眠れた」と話された。深夜問わず睡眠剤を使用した場合その効果が日中まで遷延するが、アロマテラピーのもたらす効果で自然な入眠が得られ、崩れた入眠パターンを取り戻す機会になったと考える。<結論>せん妄患者にもアロマテラピーは、自然な入眠を促すことができ、睡眠パターンを取り戻す介入方法として効果が期待できる。<引用文献>1)吉田倫幸:香りとリラクセーション,現代のエスプリ,P58,1993<参考文献>1)三瓶智美:クリティカルケアで不穏せん妄をどうアセスメントするか,看護技術,vol 51 No1,2005
著者
長 純一
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第57回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.75, 2008 (Released:2009-02-04)

〈緒言〉 長野県は男性1位、女性3位と長寿ながら、老人医療費が全国平均の約8割と最低であり、見習うべきモデルとされてきた。97年には厚生省が国保中央会に委託し、全国の統計調査と長野の調査がおこなわれ「市町村における医療費の背景要因に関する報告書」にまとめられた。報告書を一般書にした「PPKのすすめ」(水野肇・青山英康編・紀伊国屋書店)でも分析されているが、病床数など医療供給体制以上に医療費が抑制されているのが最大の特徴である。その要因分析では、ベッド数が少ない・平均在院日数が短い・在宅死が多い・保健師の数が多い・などから、地域医療が充実している・医療従事者の専門職としての自立性が高いなどがあげられている。しかしこの報告書は統計上の数値のみに注目し、いわば現象論のみの分析で、長野に特徴的な活動の歴史的社会的分析が科欠けている。またここ数年長野においても、『医療崩壊』とも表現される状況は深刻になっており、上記の報告書で分析された時点から大きく状況が変化している。これらの点をふまえ、新しい『健康長寿・低医療費の長野』の解釈を提示する。 〈方法〉 97年の報告書と書籍を再検証すると共に、そこで取り上げられなかった長野県の医療特性を確認する。現状と医療史をたどると『厚生連農村医療』と『国保地域医療』が長野県医療の特徴と考えられるため、この活動を文献等から検証する。特に報告書等で低医療費の要因とされ『長野県は在宅医療・地域医療が充実しており、在宅死が多く、そのために医療費が低い』との在宅医療・死の神話ついて再検証する。 〈結果〉 医療供給体制では民間医療機関が全国45位と少なく、県立や国立も少なく、一方公的医療機関(厚生連が病床数で18%強)が多い。これは厚生連が故若月俊一氏の下、戦後まもなくの時期に殆ど県立などに移管しなかったためと考えられる。また国保医療機関も多く、全国の国保地域医療を牽引してきた。厚生連と国保の活動は、保健活動や生活環境や食生活の改善等、病院の中での治療医学だけではなく、地域活動・予防医学を重視するなどの点で共通点を持つ。このような地域・患者にとって必要な活動は不採算でも積極的に取り組んできた事が、低医療費で健康長寿に貢献した可能性が高い。この姿勢と、それを公的及び公立医療機関が提供してきた事から、長野では高邁な理念のもと医療を『社会的共通資本』として捉え、実践してきた医療者の姿が読み取れる。この結果の一つが、高い在宅死率であったと考えられるが、近年極端に減少している。92年には32.4%と全国平均19.9%を大きく上回って全国一であったが、06年には13.7%と全国の12.2%と大差がないところまで低下した。特に94年以降極端に低下している。これは医療の機能分けが進められ、診療所が在宅医療を担い、一方で特に地方病院を窮地に追いやった医療政策が展開された時期に一致する。長野の在宅医療は実は国の描くような診療所ではなく、地域医療を実践する病院が不採算でも支えていたことが推定される。病院に厳しい医療情勢の上、在宅は診療所という方針により、長野の在宅死は激減した可能性が高い。このように長野を見習えと言ってきた国により、長野の医療神話は崩壊の危機に瀕している可能性が高く、再度長野の医療特性を検証し、歴史を踏まえた上で実情にあった医療政策を提言する必要がある。
著者
邉見 公雄
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.25-25, 2006

今、地域医療は危機的な状況にある。一つは人的資源の欠乏、つまり医療職の地域偏在、都市集中である。また、小児科や産婦人科、麻酔科などの診療科偏在もある。看護師は救急車の来ない、手術のない病院を目指しビル診療所や介護老人保健施設を選ぶ。地域の中核病院に残るのは馬鹿かロマンチストだけ、と揶揄されるほどの状況である。お産や手術の出来ない地域がどんどん増え、まるで明治初期に逆戻りである。医育制度や医療行政の失敗あるいは不作為の結果と言われても仕方あるまい。 もう一つは医療費抑制という誤った政策を、ここ10年とり続けていることである。医療は教育と並んで我が国の二大基幹産業である。明治維新以来、歴代政府はどんなに財政が苦しくとも、これだけは守り続けて来た。何の地下資源にも恵まれず、狭い耕地しかない東洋の島国が欧米列強に互するには優秀な人材を育てるしかない、と暗黙知していたからである。つまり、医療で健康な心身をつくり、教育で道徳や学問を身につけ、優秀な国民「日本株式会社」の社員を育ててきたのである。もし今の医療政策が、あと10年続けば地域医療、特に地域の急性期医療は壊滅するのであろう。今回の診療報酬改定に関わった者として「これ以上、地方の急性期病院を傷めつけないで」と訴えてきた。「急性期は泣かせません。メリハリを付けます」というのが当局の答えであった。しかし当院の試算ではメリメリであり、最悪4%以上もあり得る。DPCへの高等追い込み作戦か?とも疑いたくなる今回の改定について、少し詳しく報告したい。 次に、私達自治体病院と同じ目的で同じ活動をしている日本農村医学会員の皆様方にエールを送りたい。「病院と学校は、朝に自宅を出たら遅い昼御飯が自宅で食べれる距離になければならない」というのが私の持論である。そうでなければ、ハンディキャップのある病気の方は勿論、学童は悪者に襲われる危険性も増える。先日、テレビで旧山越村の仮設住宅の住民が村の診療所の先生に診察を受けている番組が放映された。この先生に会うだけで安心し、血圧も下がる?程とか。これぞ地域医療の真髄であり、都会のビル診療所との違いである。地域で産まれ、地域で育ち、地域で病み、治し、地域で死ぬ。これこそ我々日本国民の望むライフスタイルであり、基本的な権利である。農村医学会が我々自治体病院協議会や国保診療所協議会と力を併せ、前進していただくことを願っている。 最後に、国や厚生労働省、都道府県が余りアテに出来ない現在、病院自身が自助努力しなければ病院は衰退する。当院のささやかな努力を紹介させていただき、参考になれば幸いである。キーワードは「全員参加」。職員や利用者は勿論、ボランティアなどの地域住民、実習学生や見学者、行政なども巻き込んでの病院づくりである。今、当院のボランティアは犬8頭、鳩2羽を含めて 200人弱である。利用者、見舞い客、職員、業者、その他を加えると1日に約 3,500人の方々が病院を訪れる。18世紀までは大学や協会、寺院が地域のコミュニティセンターであった。19_から_20世紀は市民会館や銀行、生保などのホールが担っていた。「病院こそ今世紀のコミュニティセンター」というのが私の考えである。 "良い医療を効率的に地域住民とともに"皆様方と同じ目線で頑張りましょう!! 震災12年10月13日
著者
小林 祥泰
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.24-24, 2006

いま、全国のへき地医療機関から産婦人科を始めとした医師不足の悲鳴があがっている。この傾向がとみに顕在化したのは平成16年度から施行されたマッチングシステムを取り入れた新卒後臨床研修制度以降であるが、このシステムだけが元凶ではない。へき地の自治体が大学医局に医師派遣を頼り切って医師育成の努力をしてこなかったこと、大学自体も地域医療人育成を念頭に置いていなかったことにも一因がある。マッチング制度は研修医に選択の自由を与え、病院には臨床教育の充実を求めている。大学医学部が本来最も重視されるべき臨床教育を見直さなくてはならない時が来ている。日本の臨床教育は欧米に比して実践的でなく、英国視察団の「卒業時の臨床力不足」指摘が新臨床研修制度のきっかけとも言われている。日本では今まで臨床教育に対する熱意は研究、臨床の次であり、まして臨床医を育成するのに必要な患者や家族とのコミュニケーション教育の機会も乏しかった。このような教育は大学病院だけでは出来ない。大学病院でも実践的な米国式のクリニカルクラークシップ(CC)への移行が必要である。さらに地元の地域医療に熱意を持つ学生を入学させることも重要であり、我々は2006年度から独自の地域枠推薦入試を開始した。これは県内へき地出身者対象で、地域医療機関で体験学習して評価を受け、さらに市町村長等の面接も受けるというものである。文科省特別教育研究経費で専任助手を採用し、地域を巡回して啓蒙した結果、優秀な人材を確保することが出来、来年度定員を倍増した。実践的臨床教育のためCCの実践化、シミュレーター活用、WEB登録評価方式を導入したが、さらに指導医の意識改革のため、2005年度地域医療人育成GPでのべ46名の指導医等を米国医学教育の現場体験視察に派遣した。シアトルのワシントン大学では医学部のない周囲の4州のために約70名の地域医療人育成プログラム(州の頭文字をとって通称WWAMI programと呼ばれる)を30年前から実施し、通算帰州率70%という効果をあげている。我々はWWAMI siteの診療所等まで訪問し、へき地における臨床教育の実際、地域医療人育成にかける彼等の熱意を目の当たりにしてきた。また、コロラド大学とセントルイス大学の家庭医学コースの臨床教育も見学体験してきた。これだけ多くの指導医が早朝からレジデントや学生と一緒に回診やカンファレンスに参加したのも珍しいが、まさに「百聞は一見にしかず」で実践的臨床教育とは何かを全員が実感して帰国した。帰国後、WWAMI program指導者を招いてのFDを兼ねた研修報告会は盛況で他の教員や学生の啓蒙に貢献した。さらに1年生から、現場で活躍している地域医療人の講義を組み込み、6年次には3週間の地域医療実習を開始した。研修担当専任講師も採用し、遠隔医療システムも導入、中長期的な地域医療人育成に取り組んでいる。