著者
飯村 真樹 鈴木 勝也 萩谷 恵二 寺門 正二 清水 秀昭
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.445, 2010

【はじめに】<BR>現在の病院運営は全国的に非常に厳しいものとなっている。思うように医業収益が伸びない状況であれば、それ以外の部分で対策を講ずることも必要である。当院で実際に運用している取り組みを紹介する。<BR>【経過】<BR>当院の所在する行方市でオムツを処分する場合、一般家庭から排出されれば一般ゴミとして処理されるが、病院から排出すると感染性医療廃棄物扱いとなってしまう。平成21年度における感染性医療廃棄物の処理費用 約970万円のうちオムツ処理代は約260万円、27%を占めている。少しでもオムツの処理費用を埋めるような対策が必要と考えた。<BR>【方法】<BR>これまでは入院患者家族にオムツを用意してもらっていたが、家族の了解を得た上で、農協の運営する病院内売店で用意したオムツを使用してもらうこととした。使用したオムツ代は枚数に応じて売店から患者へ直接請求し、入院会計精算時に院内の農協出張所で併せて支払っていただいた。売店には使用前のオムツを保管する倉庫を貸すこととし、払い出したオムツの売り上げ金額の20%を倉庫賃貸料として毎月徴収した。<BR>【結果】<BR>売店からは月平均7~8万円程度の倉庫賃貸料を徴収できている。オムツ処理代が減ったわけではないが賃貸料収入が単純計算で年間100万円程度得られた計算になる。オムツの処理費用を埋める対策として効果は十分であった。<BR>【考察】<BR>これまで患者家族からは「どんなオムツを用意してよいか分からない」「買いに行く暇がない」などの意見があったので導入後は好評のようだ。オムツ交換作業の負担も軽減しスタッフの評価も高く、また経費削減の意味でも効果は十分であったと思われる。ただし、月数千円から数万円にもなる棚卸差損を減らすことが今後の課題である。<BR>【まとめ】<BR>経費削減につながるような対策を今後も検討していきたいと思う。<BR>
著者
山本 愛 林 美恵子 飯田 智子 多田 あゆみ
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.75, 2006 (Released:2006-11-06)

<はじめに>術後の患者は、術前からの絶飲食、手術中の挿管による口腔内の乾燥、副交感神経遮断薬使用による分泌物抑制、また術後の発熱などによる不感蒸泄など、さまざまな要因で口渇が生じやすい。従来、当病棟では口渇時は水による含嗽をすすめている。しかし、術後口渇を訴える患者は多い現状にある。そこで今回、唾液の分泌作用・清涼作用のあるレモン酢に注目し、口渇への効果があるか検討した。<研究方法> 目的:口渇に対するレモン酢の効果を知る。 期間:平成17年12月1日から平成18年2月28日。 対象:全身麻酔下で消化器開腹手術を受けた、術後2から3日目の絶飲食期間の患者11名。 方法:1.患者11名に対し、レモン酢を40倍に希釈したレモン酢水(以下40倍レモン水)・50倍に希釈したレモン酢水(以下50倍レモン水)・水道水の3種類での含嗽を実施。実施後は、患者が口渇緩和になると感じた含嗽を行う。希釈倍数は、無作為に選出した看護師に2種類のレモン水含嗽を行い、40倍をすっぱいと感じ50倍をすっぱいと感じなかった結果から決定した。 2.含嗽後、アンケートに沿って聞き取り調査を行う。<結果>口渇は10名が感じ、口渇のなかった1名はレモン水含嗽を行うことで口渇だったことが分かったと答えている。2種類のレモン水含嗽で3名が口渇は残ると答え、「早く飲みたい」という意見が強かった。全員が50倍レモン水での含嗽を続けていた。水道水は、「味がなくすっきりしない」「口の中がすぐに乾燥する」、50倍レモン水は口腔内の潤いを感じたと全員が答えていた。50倍レモン水は、味覚において不快に感じた人はおらず、「すっきりする」「さっぱりして気持ちが良い」と全員が答えた。しかし、40倍レモン水はレモン特有の酸味が強くなり後味が悪くなると3名が答えた。また2名の患者が氷を入れて含嗽を行っており「すっきりする」「生き返ったようにな」との言葉が聞かれた。<考察>50倍レモン水で全員が口腔内の潤いを感じたことは、レモン酢に含まれるクエン酸や酢酸の唾液分泌効果によるものと考える。一時的とはいえ口渇への緩和につながったのではないか。今回、絶飲食を強いられた患者にとって飲めないというストレスが生じている。レモン水含嗽を行っても口渇が生じたことは「飲みたい」という意識が高まっているからだと考える。術後苦痛が強いなか、患者の言葉からも、口渇という苦痛を緩和させることができ、同時にストレスも緩和できたと考える。今回、すっぱいと感じる40倍レモン水で不快を感じたことから、レモン特有の酸味を強くすることは、術後の患者に刺激を与え不快を生じ逆効果とわかった。術後回復過程をたどる患者に、絶飲食中に爽快感を得る50倍レモン水含嗽は有効であった。また、氷を入れて含嗽を行っていることから、口渇緩和と温度の関係も調べていけたのではないか。<まとめ>1.50倍レモン酢水は、一時的な口渇緩和での効果がみられ、口渇という苦痛の緩和にもつながる。2.術後の患者には、40倍レモン酢水の強い酸味で不快を与える。
著者
加藤 純 伊藤 辰美 工藤 昌子 杉田 暁大 佐藤 義昭 朝倉 健一
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.78, 2005

【はじめに】インフルエンザは冬季感染症のひとつとしてよく知られている。近年、新聞、ニュース、インターネット等で多く報道されており一般市民の関心も高い。当院でもインフルエンザ集計データをホームページで情報公開している。<BR>今回我々は、04/05シーズンに当院で実施したインフルエンザ迅速検査からみた流行状況の報告を行なう。<BR>【対 象】期間:2004年11月1日(45週)から2005年4月3日(14週)、依頼件数:3071件、迅速検査キット:エスプラインインフルエンザA・B-N<BR>【結 果】'05-14週までの集計でインフルエンザ迅速検査結果は、A型(+)281件、B型(+)780件、A+B(+)2件であった。今シーズン最初に検出されたのはA型(53週目)であったが、その後B型の流行が6週目から見られ11週目にピークを迎えた。以後、減少傾向であった。A型の流行はB型流行時の10週目から見られ13週目にピークを迎えた。年齢別は、1-5歳児の陽性率が最も高く(A型:24.4%、B型:26.3%)、また15歳以下の陽性率が全体の過半数を占めた。受診者ワクチン接種率は60歳以上高齢者で54.7%、1-5歳児42.1%であったが、10歳から30歳代は20%以下の低接種率であった。ワクチン接種済みインフルエンザ(+)判定が見られた(A型: 27.8%、B型: 25.4%)が、インフルエンザ(+)のほとんどがワクチン未接種(A型:70.5%、B型:72.3%)であったことからインフルエンザ予防にワクチン接種は有効であると思われた。また、検査時の受診者体温測定結果集計もおこなった。<BR>現在、当地域ではインフルエンザがまだ終息しておらず全て集計できていないためこの詳細は学会当日に発表させていただきます。
著者
長島 忠美
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.374, 2007

平成16年10月23日午後5時56分、新潟県中越地方を襲った強い地震によって私達は生活の場を失い、ふる里を失う事になりました。突き上げられ、投げ出されて、立ち上がる事もできない激しい揺れの中で私達は誰もが死を覚悟する事になりました。強い揺れが納まり、何とか外に出る事が出来ましたが、その時は何が起こったか分かりませんでした。近所の人、皆が集まった頃、一回目の強い余震がありました。月明かりの中で家が揺れる様子が見えて、初めて想像できない強い地震にふる里が襲われた事が分かりました。当時、村長でしたから、とにかく役場で指揮を執ろうと思って、軽トラックで向かう事にしましたが、200メートルも行かないうちに道路が根こそぎない事が分かりました。4つのルートの全てが破壊され尽くしていました。村中、土石流で、歩く事さえ危険な状態でした。何とか救援を求めなければ。それがその時の実感です。電気も電話も道路も全て失っていました。携帯電話の通じる所を何とか探して、電話を掛け続けましたが、通じませんでした。焦る気持ちの中で3時間後やっと私の電話が県庁に繋がりました。そんな状況の中で一夜を過ごし、夜が白み始める頃、再び役場を目指して歩き始めました。目に映るのは変わり果てたふる里の姿です。信じられない光景に何もする術はありませんでした。山を越え、谷を下り、やっと役場が見える山古志中学校に辿り着き、目にしたのは人の力の及ばない世界でした。山が頂から崩れ落ち、住宅を飲み込んでいました。20数戸の集落が全て地すべりでぶら下がっていました。わずか直線で500メートルの役場に行けないのです。中学校のグラウンドを災害対策本部にする事にし、救援のヘリコプターの到着を待つ事になりました。やがて次々に自衛隊・警察・消防のヘリコプターが救援にやって来てくれました。その時はまだ村の状況の全部を私は知りませんでした。まず、ケガ人の救助、情報の収集からです。午前10時までにそれぞれの情報を総合してみました。山古志村は周辺の道路を失い、孤立していたのです。そればかりか14の集落の全ても孤立をしていました。そして住宅の半数が壊れているらしい事、公共施設の全てが被災をした事。その時はまだ村の中で命と財産を守るために何が出来るかを考え続けていました。状況が分かるにつれ、その事が困難に思えました。午後1時、一番したくない「全村避難」を決断する事になりました。それから26時間、信じられない早さで避難を完了し、私は最後の村内点検をし、私も皆の待つ長岡市へ避難する事になりました。避難を指示した村長として、絶望の中ではありましたが、「村を捨てるんじゃない。必ず戻って緑の村を取り戻す。」 と私が私に約束しました。それを成し遂げるのが村民に対して責任を果たす事になるとも思っていました。コミュニティの力と感謝の力に私は勇気をもらいました。皆様を始め多くの方々の御支援に「ありがとうございます」と言う事が出来ました。「帰ろう、山古志へ」これが私達の合言葉になりました。地震から2年6ヶ月。私達は数え切れない支援と温かい思いを頂きながら、最後の戦いをしています。私も最後の一人として今秋、仮設住宅を出るつもりです。一度は失ったふる里で、私達は新しい生活を再び一から歩み始めます。そこには山の暮らしがあり、心温まるふる里がある。そんな村で皆さんをお待ちしたいと思います。今学会が意義あるものになります事を心から祈念して御挨拶に致します。
著者
矢野 裕基 鈴木 悠子 安本 和正 原田 和彦 玉内 登志雄
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.68, 2008

<B>〈緒言〉</B>近年地方の医療を取り巻く問題に患者の医療費負担増・地域間格差の拡大などがある。今回,医療福祉制度面での地域間格差を検証することと医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)や病院が用いる制度改善の最も有効な手段を検討することを目的に,全国の市町村が実施する重度心身障害者医療費助成制度(以下,助成制度)の現状とその改善手段についてのアンケート調査を2007年11月に実施した。その結果,今後検討するべき課題が明確となったので報告する。<BR><B>〈調査方法〉</B>1,対象 全国120の厚生連病院MSW 2,調査方法 郵送によるアンケート調査 設問(1)から(7)助成制度の内容,設問(8)から(13)制度改善の手段<BR><B>〈結果〉</B>76病院(病院所在地14町56市)より回答(回収率63%)<BR>(1)対象障害の範囲<BR> 1)身体障害 「2級まで対象」 23(33%),「3級まで対象」 38(54%),「心臓や肺,腎臓などの内部障害について対象拡大あり」 20(29%) 2)知的障害 「A判定(IQ35以下)」 38(54%) 3)複合障害その他の対象 「対象範囲あり」 23(32%)<BR>(2)助成方法 「現物給付」 45(64%)<BR>(3)所得制限 「あり」 53(76%)<BR>(4)年齢制限 「あり」 6(9%)<BR>(5)自己負担 「あり」 36(52%)<BR>(6)助成の時効 「あり」 40(63%)〈BR> 時効期限 最短6ヶ月 1 最長5年 4 最多2年 9<BR>(7)助成制度の問題 「あり」 40(68%)<BR> 助成制度のどこが問題か(複数回答)<BR> 「対象障害の範囲」 28(34%)<BR> 「所得制限」 18(22%)<BR> 「助成方法」 17(21%)<BR>(8)MSWの問題解決の実践 「実践あり」 26(63%)<BR> 実際にMSWが多く用いた手段(複数回答)<BR> 「行政担当との直接交渉」 18(32%)<BR> 「個別ケース援助」 17(30%)<BR>(9)MSWの採る最も有効と思う手段<BR> 「地域の患者団体との連携」 9(17%)<BR> 「行政担当との直接交渉」 8(15%)<BR> 「地域の福祉関係者との連携」 7(13%)<BR>(10)病院の問題解決の実践 「実践あり」 8(11%)<BR> 実際に病院が行った手段(複数回答)<BR> 「行政機関への直接交渉」 5(41%)<BR>(11)病院の採る最も有効と思う手段<BR> 「地域の医療関係団体との連携」 21(39%)<BR> 「行政機関への直接交渉」 11(20%)<BR>(12)各県MSW協会の実践 「実践あり」 4(6%)<BR>(13)各県MSW協会の採る最も有効と思う手段<BR> 「制度改正の提言」 19(37%)<BR><B>〈考察〉</B>今回の結果から,全国の助成制度に地域間格差が存在することは明らかである。制度に問題があると感じているMSWも多く,何らかの制度改善に向けたアクションが必要である。しかし,実際にはMSWや病院は制度を改善するために最も有効と思う手段を実践できていない。何故なのか,その理由を探る必要がある。実践を難しくしている要素を明らかにし,今後は地域の患者団体や医療・福祉の関係団体と連携を強化し,共に制度改善を図ることが必要である。各県MSW協会には制度改正の提言など目に見える活動が求められている。各地域の制度はそれぞれの地域の病院や団体が行動を起こさなければ改善は実現しないものと考える。<BR>
著者
夏川 周介
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.7, 2008

終戦前年の昭和19年に創立された佐久総合病院はまさに戦後の歴史と共に歩んできた。設立当時は日本のチベットとも称された人口5千人に満たない貧しい、寒冷の地にあって、医師2人、20床の規模からスタートし、現在は老健までを含む全病床数1,190床、職員総数1,800余名、常勤医師数200余名を数えている。発展の過程を規模だけからみると、まさに戦後の復興から高度成長への道をひた走ってきた我が国の姿と生き写しの感があるのは否めない。しかし、経済復興と高度成長の波に乗り、時流におもねって規模の拡大が図られて来たわけでは断じてない。むしろ、困窮劣悪な農村地域にあって、戦後の工業社会の実現と生産優先の政策から取り残され、そのひずみを様々な形で受けた農村の環境、産業としての農業そして農民の健康を守るため、昭和20年に赴任し、50年間にわたり院長を努めた故若月俊一の指導のもと、地域に根ざした地道な包括的医療活動の結果であると考えている。そして、その過程はまさに農村医学の実践の歴史といえるのではないか。<BR>創立期は有史以来大きく変わることの無かった日本の農村・農民の劣悪な生活環境、作業内容からくる健康障害に医療のみならず、社会環境、行政的視点から問題を浮き彫りにし、医学的・社会的・科学的手法により、その解明と改善をはかった農村医学と予防医学創生の時期であった。経済的、時間的、距離的そして何よりも医学的無知から病院にかかることの出来ない人々に対し出張診療班を編成し、無医村に出かけ、保健・予防活動に力を注いだ。その後の高度経済成長時代は、生産優先政策から生じる農薬中毒、農機具災害などの環境汚染や健康障害から農民の健康を守るたたかいの時期であり、同時に急速に発展する医学、医療の修得と提供をめざして最先端の医療技術の導入、施設・機器の整備を図って来た。そして、近年は急速に進む高齢化社会に対応し、介護・福祉、ことに在宅医療の実践に力を注いでいる。<BR>戦後の日本社会は国際情勢とも連動した急速な発展と未曾有の大変動に見舞われているのに対し、国全体として意識、思想、体制が追いつけない状況が今日の混乱を招いているといわざるを得ない。医療の世界も農村・農業をとりまく状況もまた然りである。<BR>若月はこのような状況を早くから喝破し"食糧自給率を減らし、農業を危機に陥れ、農村の美しい環境を破壊しているのは資本である。それに、政・財・官の癒着が大きく関与している。「協同」の名において、資本との闘いをきちんとやっておかないと、将来はとんでもないことになる。"といみじくも述べている。この言葉の中に重要な農村医学の目的、意義、役割が含まれているものと考える。<BR>現在、地域医療崩壊が現実のものとなる中、医療関連産業は多くの地方の基幹産業としての役割を担っている。このことは人口減少に悩む地方、ことに農村地域における有力な雇用創出につながるとともに、地域社会の維持に欠くべからざる要素である。そのような地域に依拠する医療機関は、地域の継続性とセイフティーネットを守る役割と機能を持つことが社会的使命であり責任であると任じ、健全な経営を守ると同時に地域住民の命と健康を守ることが"農村医学の原点"ではないだろうか。
著者
早川 真紀子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.145, 2007

〈はじめに〉平成14年褥瘡未実施減算が始まり、全国的に褥瘡に対する注目度が高まった。文献検索によると、病院内の褥瘡発生件数の内訳が在宅、施設からの持込が、院内発生率の2倍弱という結果の報告がある。実際、在宅では、ADLがA1、A2の動ける人の中にも褥瘡を有するケースの経験もしている。当事業所における在宅での褥瘡発生率を調査し、在宅においての褥瘡発生の因果関係を知り、今後のケアプラン作成や支援方法に役立て、在宅における褥瘡予防を考える。〈研究方法〉_I_調査研究:当事業所で契約を交わしたケース139件(H17/1~H17/12まで)のうち褥瘡を有した25件の家庭環境・サービス利用状況を調査する。_II_研究期間:H18/5/1~H19/4/30〈結果〉 資料1 グラフ参照〈考察〉サービスの利用により、観察の目が多くなり、褥瘡は早期に発見でき、治癒、改善している。複数の事業所が関わることで、スタッフ間の意識の高まりや緊張感もでてくるのではないか。サービス提供事業所では日々の状況や介護者の心理的な動きを記録している。モニタリングの場面で情報を得ることから考える。独りで過ごす時間が長い人は5人で92%は同居していた。背景として考えられる事とは、老老介護や経済的理由で介護者が自宅に一緒に居る事実がある。旧栃尾市は地場産業の衰退による離職者が多い、若い世代の流出で高齢者世帯が非常に多い地域である。年金暮らしのためサービスの介入が困難でマンパワーが不足したケースが数字として現れた。褥瘡の発生したケースは要介護3以上が92%で、発生のリスクが高い事がわかる。リスクを最小限にしようとすると必然的に介護量が更に増す。病院であれば24時間専門職の対応ができる。在宅では限られた時間でのケアスタッフの対応と家族の介護力に期待するしかない。悪化、不変ケース5人の共通点として、介護歴が5年以上、介護の協力者や相談者がいない、閉鎖的な考えで他人の介入を拒みサービスの介入が困難であった。関わるサービス事業者と普段の情報交換で理解を深め、観察項目の確認をすることで、専門性の目を高め援助できるケアプラン作りが必要である。介護者の思い入れが強かったり、使命感に縛られサービスを介入する事が難しいケースの場合、サービス導入ばかりにとらわれず、話を聞く事に専念し介護者の心の負担をわかりあえたという瞬間を感じたケースもあった。〈結語〉◙サービスが関わっているケースは褥瘡を早期に発見できる◙主介護者が抱え込んでいるケースはサービスが介入しづらい◙サービスを導入するには経済的な理由も考慮する必要がある◙要介護3以上に褥瘡の発生リスクが高い 〈文献、検索〉 1)江原喜八、褥瘡を防ぐシーティング、月間総合ケア、2006.vol.16.no.122)折茂賢一郎、安藤繁、新井健五、廃用症候群とコミュニティケア、別冊総合ケア、2005 医歯薬出版3)市川冽、ケアマネジメントのための福祉用具アセスメント・マニュアル、1998 中央法規4)日総研グループ、褥瘡ハイリスク患者の予防管理が実践できる仕組みづくり、月刊.Nurse.Data 2004資料1 グラフ6票
著者
幕内 忠夫 宇野 則男
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.483, 2011

当院における東日本大震災の被害と対策平成23年3月11日に起きた東北、関東地方を含む「東日本大震災」は、甚大な被害のあった東北三県とは比較にはならないが、茨城県内でも多数の被害が発生し、地域によっては現在も被災が継続している状況である。当院もまた少なからず影響を受けた。今回は震災当日の当院の被害と避難状況、ライフラインの確保への経緯、そして震災後の事後対策について報告する。震災当日は平日であったので午後とはいえ、入院患者のみならず外来診察者も多数院内に滞在していた。発生当時は停電もあり多少パニック気味であったが揺れが収まりしだい、災害対策本部が立ち上がり指令系統により職員各自は冷静に対応していたと思える。本館を含む建物が老朽化しているため患者方は院外へ避難誘導、身体不自由者は人力による車いすあるいはベッド毎の運搬。エレベーターは使用出来ないので階段を使用した。自家発電装置への人力での燃料運搬。停電が長く続くと燃料不足が懸念されたが、土浦消防署を通して、ようやく配達してもらうことが出来た。また非常食の炊事用のプロパンガスの確保も同時に進行した。当日午後10時を過ぎた頃に漸く電気が復旧した。何度か大きな余震が続いたため、非常時に備えて職員の多くは院内に待機宿泊の形となった。その後、被害箇所の確認、通行禁止区域の表示、不足が予想された飲料水、非常食の他施設からの援助による確保等が行なわれ、徐々に修繕作業も進行し現在に至っているが、未だ手つかずの状態の箇所も少なくない。今回の過去に類を見ないほどの震災を経験して、普段からの準備と人のつながりがいかに大切か痛感させられた。今後の対策として、充分な飲料水、非常食の確保、燃料の備蓄、災害時のみではない近隣の施設や業者との連携の強化を進めることが肝要である。
著者
渡 正伸 熊谷 元
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.91, 2006

<B><緒言></B>近年、日本はたばこ規制枠組条約を批准し、たばこ規制に対して国際レベルの行動が求められるようになった。喫煙の有害性が認められるようになり、禁煙運動も社会的に大きな流れとなっている。しかしながら我が国においてはタバコ産業の大株主は財務省であり、厚生労働省もたばこが有害と知りながらも縦割り行政の弊害のためか抜本的なたばこ対策が実施しにくい状況と言える。近年、男性の喫煙率が低下する一方で、若い女性における喫煙率が増加している。若い女性、つまり子どもを持つ母親の世代での喫煙率が増加していることは、喫煙行動が子どもにとって身近な事柄となっていることが推察され憂慮すべき状況といえる。このような状況下に置かれた子ども達にたばこの有害性を教えていくことは最重要課題の一つと考えられる。国、政府がたばこの有害性を知りながらも現状維持のたばこ政策を行うかぎり、国民、子どもは被害者でありつづけることになる。人々の健康を守ることは医師の使命の一つであることを考えると、たばこの有害性をまずは医師が率先して訴えなくてはならない。日々の診療をするにとどまらず、もっと積極的に疾病予防の見地に立って第一次予防に目をむけるべきである。<BR><B><方法></B>呼吸器疾患をはじめ循環器疾患など多くの疾病に喫煙の有害性が大きく関与している。喫煙患者の禁煙指導が必要な反面、健康者に対する禁煙教育、さらには防煙教育が重要と考えた。即ち、未だたばこを吸ったことのない小学生時代に喫煙の有害性を知っておくことが重要であり喫煙防止効果も期待できると考えた。最初は校医をしている知り合いの医師をとおして小学校に喫煙防止授業の提案を行った。快諾を得た後、小学6年生に喫煙の有害性について授業を実施した。その後は市の教育課長に依頼し市全域の小学校に働きかけをしてもらい、喫煙防止授業を実施するよう小学校に呼びかけた。授業は院内の診療業務の合間に予定して実施し、診療に重大な支障が生じないよう配慮した。<BR><B><結果、考察></B>2002年度から小学校を中心に喫煙防止教室を行ってきた。2002?2005年度で5、6、9、11校と授業を実施してきた。徐々に開催校は増加している。今後さらに喫煙防止授業を希望する学校が増加した場合、個人ではマンパワー不足となる可能性がある。対策としては協力者を募るか、地区医師会や校医の協力が必要となる可能性もある。若い女性、即ち小学生の子どもを持つような女性の喫煙率が増加している現在、喫煙に対する正しい評価と判断を下すためには、正しい知識を小学生のうちに身に付けてもらうことが重要である。そのためには我々医師が喫煙の有害性を具体的に教えていく必要があると考えられる。喫煙防止授業の活動がどれ程の成果をあげるかは未知であるが医師の大きな役割と考えている
著者
望月 善次
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.2, 2010

先ず、伝統ある「第59回日本農村医学会学術総会」において、「特別講演」の場を与えられたことを感謝致します。<BR> 講演テーマに掲げた「<われらはいっしょにこれから何を論ずるか>」は、いうまでもなく宮澤賢治「農民芸術概論綱要」の「序論」冒頭の文言です。<BR> 「農民芸術概論綱要」は、この文言の後、「おれたちはみな農民である ずゐぶん忙がしく仕事もつらい/もっと明るく生き生きと生活をする道を見付けたい/われらの古い師父たちの中にはさういふ人も応々あった/近代科学の実証と求道者たちの実験とわれらの直観の一致に於て論じたい」と続き、あの有名な一節「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない。」に至ることは御承知の通りであります。<BR> ところで、宮澤賢治は、通常の意味での「文学者」であったのではありません。「文学者でもあった生涯」だというのが私の考えです。〔望月善次「文学者でもあった生涯~ 「挫折からの甦り」が織り成す未完の人生 ~」、福島泰樹・立松和平責任編集『月光』第二号(勉誠出版、2010)pp.93~99.〕<BR> また、その生涯は決して順調なものではなく、「挫折と甦り」を繰り返した生涯でもありました。<BR> 典型的なものを列挙してみても次のようなものを挙げることができます。<BR> 現在的に言えば「落ちこぼれ」であった(旧制)中学校時代とその後の浪人時代〔明治42年~大正3年=13歳~18歳〕、盛岡高等農林学校を優秀な成績で得業(卒業)して、「研究生」として残ったのに、死因となった結核の徴候と考えられる体調の異変を感じ、花巻の家に帰り悶々とした頃〔大正7年=22歳〕、家出して上京し、宗教団体国柱会に賭けようとするが結局は故郷、花巻に帰った頃〔大正10年=25歳〕、「この四ケ年が/わたくしにとってどんなに楽しかったか」というほど充実していた「花巻(稗貫)農学校」の教師をやめ、「本統の百姓」になろうとしたのに〔★「農民芸術概論綱要」は、この時期に相当します。〕、農民と自分との間にある越えられない溝を徹底的に思い知らされる羅須地人協会時代〔大正15年=30歳〕、東北砕石工場技師としての再起と体調の異変〔昭和5年=35歳〕等々です。しかも最後の体調異変は、結局回復することなくこの世を去らなければならなかったのです。<BR> しかし、こうした賢治の生涯は、多くの人の心を揺さぶっています。それは、賢治が精一杯の生を生きたからでありましょう。<BR> 当日は、賢治の写真や作品なども紹介しながら、その生涯を辿り、その生涯の意味を共に考えることができればと考えております。<BR>
著者
垰田 和史
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.11, 2010

1 農作業の危険性は、年々、高まっている?<BR> 農作業による死亡災害者数は過去40年間を振り返って減少しておらず、毎年400人近くが命を失っている。この間に、交通事故死は1/3以下となり、最も危険な職種と言われていた建設業では死亡者数を1/4以下に減少させた。農業従事者数が大きく減少していく中で、農作業により命を失う農民の人数が「減らない」ことは、農業の危険性が、年々、高まっていることを示している。農作業で使用される農器具類の改良や圃場環境の整備が進んでいるとすれば、どうして農作業の危険性が、年々、高まり続けるのか検討する必要がある。<BR><BR>2 農作業災害の発生実態は不明<BR> 死亡災害は災害ピラミッドの頂点に観察される事象であり、底辺は多くの「死に至らなかった」災害が構成する。その構造は医療事故と同様で、重大事故の底辺に多くの軽い事故があり、その底辺により多くの「ヒヤリ・ハット」ケースが位置する。仕事に起因して生じる災害を防ぐためには、発生実態の把握と発生に結びついた要因を明らかにする必要があるが、我が国の農作業災害には、その実態を示す資料がない。災害の発生実態を把握するために農業傷害共済保険加入者を対象とした調査が行われたり、富山県のように地域の医療機関と協力して実態把握を蓄積している地域がある。しかし、それらは我が国全体から見れば、例外的な情報に止まっている。農業を除く他産業では、死亡事故はもとより休業災害や不休業災害についても国によって毎年調査され、災害防止の諸政策に反映されている。<BR><BR>3 農作業災害につながる農民と作業、農器具、農作業環境の関係性<BR> 農作業災害の発生要因を分析する際には、次の3つの関係性、すなわち1)農民と農作業、2)農民と農器具、3)農民と農作業環境に注目する必要がある。例えば「55歳の女性が、草刈り中に脚を滑らせて転倒しそうになり刈払い機の歯で脚を切った」事例では、「夕食の準備があるため休憩を取らないで連続作業をして疲れ、身体のバランスを崩した。しかも、保護具を装着していなかった。」ことは、1)農民と農作業に関わる要因としてあげることができる。刈払い機に安全装置が無く、女性にとっては重く、「歯」の種類が「丸鋸歯」だったことは、2)農民と農器具に関わる問題となる。草を刈っていた場所が急傾斜の法面で、炎天下の作業であったために「熱中症」気味だったとすれば3)農民と農作業環境との関係が問題になる。予防のための教訓が、それぞれの視点から導き出せる。<BR><BR>4 個々の農民に応じたリスクアセスメントが必要<BR> 農作業による心身の負担の大きさにしても、操作者の安全性や快適性を保証する農業器具の性能にしても、農作業環境にしても、農民の特性に応じて異なる。高齢者や女性が農業の主な担い手となりつつある現状では、農民の心身の特性に応じた農作業や器具の設計、また、リスクアセスメントが農作業災害の予防対策として不可欠となる。高齢になれば様々な疾患を持ちながら働き続けることになる。他産業の事業主は、労働者に対する責任として労働者に高血圧があれば夜勤作業を免除したり、心疾患があれば労働負担を軽減することがある。農民は、自分の健康状態と安全に遂行できる農作業負担との関係について「自己責任」で判断することになり、「無理」な働き方が災害につながる可能性がある。農民の主治医が、他産業での「産業医」のように、農民の快適で安全なはたき方について指導助言できればと願っている。
著者
近藤 真里子 鈴江 妃佐子 河合 靖子 鈴木 陽子 大堀 裕子 市川 芳枝 牧野 トモエ 中村 あつ子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.117, 2008

〈緒言〉あつみの郷は老健を中心に、在宅サービスの他、介護予防サービス事業所などからなる福祉複合施設である。看護を中心とした各事業所代表からなる感染防止対策委員会では、感染症対策の基本である手洗いと感染症の基礎知識を中心に毎年勉強会を開催し、その効果として手洗いの意識調査と実態調査をしてきた。認識度と実施率は年々上昇し、勉強会の効果を実感していた。ところが、平成18年秋、あつみの郷の老健内で短期入所利用者から感染性胃腸炎の発症が始まり、関わった職員・利用者へと感染が拡大し、結果として利用者37名、職員10名が感染した。感染拡大の原因として、知識不足から職員が伝播者となり感染が拡大したことが大きな原因と考えられ、感染防止対策委員会の力不足を思い知らされた。終息後、職員にアンケート調査した結果をもとに、19年度の活動計画をたて、その結果感染症の発生をゼロにすることができたので報告する。<BR>〈方法と効果〉活動計画(1)感染症対応時フロー整備。今まで感染対応のフローが統一されていなかったので発症報告から、ケアまでの流れを整備した。これにより、各事業所間の感染情報も共有化されるようになった。(2)勉強会の実施。5月に標準予防策など感染症について、特に手洗い方法の手技についてビデオ学習を取りいれ、11月はノロウイルスの予防と発生時の対応および消毒方法を実技指導した。勉強会の内容と、新聞等の感染症発生情報等を常時掲示板を使って、継続して職員周知した。(3)手洗いの調査。職員が使用するゾーンの手洗い蛇口やドアノブの汚染度を大腸菌群とブドウ球菌群の拭き取り簡易調査を毎月実施し、検査結果を掲示した。検査を始めて3ケ月は、特に大腸菌群が多数検出され、汚染状況に大変驚いたが、2回の勉強会、毎月の検査結果の公表が効果あったか、徐々に菌の検出は減少した。職員が手洗いの必要性と、手洗い実施のタイミングを理解した結果と思われる。(4)外部からのウイルス侵入防止。外部からのウイルス侵入を遮断するため、利用者家族を始め、出入り業者へもノロウイルス感染予防のための協力依頼文書を10月に配布した。施設内においては発生に備え、仮に発生しても混乱したり、拡大しないように消毒マニュアルと消毒セットを各トイレに準備し、利用者および職員から疑いのある症状が発生した場合の対応も掲示した。(5)職員の感染症に関する習熟度調査。年間を通し職員の感染に関する知識変化を把握するため、基礎知識と各感染予防法ごとに理解度を点数化し、5月の勉強会前と一年間の活動後とで習熟度を調査した。介護・看護など職種別に統計学解析に基づきT検定を実施した結果、いずれの職種も習熟度は有意(p<0.05)に上昇し、これは活動による効果と思われる。<BR>以上の様に年間を通し活動を実施した結果、平成19年の利用者発症は0、家族内感染職員は2名あったが、施設内での感染は防止することができた。集団発生しなかった理由として感染疑い利用者への対応が早かったことが57.1%、次に予防と対策の知識が根付いたことが35.7%になった。実際に、突然の熱発者や嘔吐発症者にも迅速に感染症対応するなど職員の危機意識が認められた。<BR>〈結論〉一年間の感染防止活動により、アウトブレイクを防止することができた。これは職員の意識改革による影響が非常に大きい。今後も施設全体で感染に関する情報の共有化を図り、啓蒙活動を継続し職員の意識を高め、引き続き感染防止に努力して行きたい。<BR>
著者
西島 健 高山 義浩 小林 智子 小澤 幸子 岡田 邦彦
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.67, 2007

【緒言】第2報では、2002年より2006年までの5年間に佐久総合病院を受診した新規HIV感染者について、AIDS発症者数、国籍、医療保険の有無、初診時受診契機、感染経路、転帰により分析する。そこから対策すべき課題を検討し、とくに佐久総合病院が実施もしくは検討している外国人感染者を対象としたHIV対策を紹介する。<BR>【結果】2002年1月より2006年12月までに39人の新規HIV感染者の受診があり、24人(61.5%)のAIDS発症者の受診があった。その国籍の内訳は、日本人27人(69.2%)、タイ人12人(30.8%)であった。また、タイ人感染者のうち医療保険のない者が6人(15%)を占めていた。これら39人の初診時契機は、AIDS関連疾患の発症 61.5%、その他の疾患による受診 17.9%、パートナー陽性のために検査 12.8%、妊娠時検査 7.7%であり、自主的に検査を受けて陽性が判明したケースは1例もなかった。感染経路は、84.6%が異性間性的接触であり、大多数を占めた。以下、同性間性的接触による感染 7.7%、薬物使用 2.6%、不詳 5.1%と続いた。また、その転帰は当院通院中 71.8%、死亡 10.3%、帰国支援 7.7%、行方不明 5.1%、他院に紹介 5.1%であった。<BR>【考察】農村地域ではHIV感染の拡大が進んでおり、いわゆる「いきなりエイズ」症例が全国と比しても高く、早期発見がすすんでいない状況が継続している。その背景には、自主的に検査を受けて判明するケースが認められないことからも、一般市民への啓発活動の遅れが大きな要因と考えられる。日本人については様々な施策が展開されつつある。しかし、次いで外国人への感染拡大が確認されるものの、無資格滞在外国人であることが少なくないため、自治体行政によるアプローチが困難となっている。よって、医療機関と地域のNGO活動との連携による展開が求められている。無資格滞在外国人の感染が判明した場合に、単に帰国させる対応では単なる感染者のたらい回しにすぎず、国内でもHIV検査を受けるように促すことができない。よって、陽性判明後に彼らが医療面・社会面において安心して受診できるシステムを事前に策定しておく必要がある。<BR>【提言】この地域でエイズ治療拠点病院として活動してきた佐久総合病院は、自治体や保健所などと連携して様々なHIV対策を実施もしくは検討している。しかしながら、外国人向けの対策は途上であり、感染増加の状況からも緊急の課題と考えている。これまでも外国人向けの医療相談会を年に2回程度実施してきたが、本年度より在日タイ国領事館と協力して佐久総合病院内に移動領事館を開設。このとき併せて、佐久総合病院として医療相談会を実施する方針としている。こうして、タイ人らへの社会的・身体的問題へ包括的に対応できる体制を整え、外国人らとの信頼関係を深めてゆきたい。また、無保険の外国人においてHIV感染が判明した場合、何らかの方式による医療費助成制度を策定し、帰国支援まで安定した医療サービスを提供できるようにしたいと考えている。
著者
宮本 涼子 西前 順子 桜井 陽子 辺見 典子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.82, 2006 (Released:2006-11-06)

<緒言>術後患者は、痛みなどの肉体的苦痛のほか、不安・緊張・孤独感などの精神的負担も伴う。その結果、創痛や不安を過大に自覚し、睡眠障害・不穏・せん妄が見られることがある。私達は日頃の多忙な看護業務の中、精神的へのケアが不十分ではないかと自覚している。そこで、術後患者のリラクゼーション効果を得るために癒しの効果がある曲としてモーツァルトを選択し、ヒーリング音楽を流す効果について検討した。<対象・研究方法>病棟に入院され、全身(+硬膜外)麻酔下にて外科的手術を受けた患者23名を対象とし、無作為にコントロール群(音楽を流さない)12名(平均72.0歳)と実験群(平均68.6歳)の2群にわけた。また、両群間共に手術後、ヒーリング音楽を流し、その効果についてのアンケートを施行する旨を術前オリエンテーションで説明し了解を得た。 コントロール群は、従来どおりの環境下において患者の疼痛・睡眠状況を把握した。実験群は、術後30分から翌朝6時まで、癒しの曲として有名なモーツァルトの曲を、音量・スピーカーの位置を統一した上で繰り返し流した。術後、自覚的疼痛の程度を、フェイススケールを用いて術翌朝まで経時的に観察した。鎮痛剤使用の時間と内容を記録し、音楽の感想、睡眠状況、痛みや不安についてのアンケートを術後3日以内に実施した。<結果・考察>今回の研究では、ヒーリング音楽を流すことによる手術後の疼痛軽減、睡眠の確保といった肉体的な苦痛軽減は得られなかった。これらは、ヒーリング音楽は肉体的苦痛への直接的な軽減効果が無い事を示している。しかし、侵襲の大きい手術後においては、実験群で疼痛が軽減されている傾向があり、鎮痛剤の平均使用頻度も実験群のほうが少なかった。看護師側への影響としても、「音楽を流す事により緊張した気持ちが和らぎ、ゆとりを持って患者と接することができた」という意見もあり、より良い看護につながるのではないかと期待される。<まとめ>今回の研究において、ヒーリング音楽を流すことは、肉体的苦痛の軽減が得られるとは言えなかったものの、患者の不安軽減など精神面でのサポートに効果的であることが示唆された。また、看護師側にも、ゆとりをもって患者に接することができるようになった。今後、精神的な苦痛緩和のためには、患者への声かけなど精神面へのケアを充実させることはもちろん、ヒーリング音楽などの聴覚、嗅覚(アロマなど)、視覚(病室の照明など)などの感覚に訴えるような補助的な方法を積極的に導入することも重要であると思われた。
著者
大浦 栄次
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.9, 2010

富山県農村医学研究会では、農作業と健康のテーマで、農作業従事による健康障害に関する調査研究を行ってきた。<BR> 以下に、農作業事故と農薬の生体影響に関する主な研究課題の概要を紹介する。<BR><BR>1.農作業事故に関する研究<BR>(1)事故調査方法<BR> 昭和45年以来、県内の全ての外科、整形外科、皮膚科、眼科、ICUを標榜する診療科、および接骨院約900カ所に、毎年、前期・後期の2度にわたり、往復葉書で農作業事故の臨床例の「有無」を問い、「有り」と回答のあった医療機関に、詳細調査用紙を送付し、臨床例の収集を行ってきた。さらに、併せて、全共連富山県本部の協力にて、生命共済・傷害共済証書の中から事故事案を抽出し事故情報の収集に努めている。<BR> また、実際の事故事例について、受傷者及び事故死された方の遺族に事故時の様子などを事故現場でのケーススタディについても過去40件あまり実施してきた。<BR><BR>(2)富山県における農機事故の実態と対策について<BR> 最も、農業機械事故が最も多かったのは昭和50年の年間399件であった。その後、国の農業機械の安全鑑定制度が出来、むき出しのベルトやチェーンなどにカバーが掛けられるようになり機械事故は減少し、昨年度は65件であった。<BR> 機種では、草刈機、トラクター、耕耘機、コンバインが多く、これらの事故対策を集中的に行う事により、多くの事故の予防に繋がると考えられる。<BR> ところで、年々受傷者の年齢は上昇しており、昭和45年の男の受傷者の平均年齢は、45.8歳、女が40.4歳であつたが、昨年度は、男63.7歳、女64.7歳と約20~25歳上昇しており、今後の農機事故対策は高齢者を中心に行う事が求められる。<BR> 流布されているマニュアルは、極めて詳細であるが、高齢者が読みこなすには余りにも煩雑であり、今後、ポイントを絞ったマニュアルが必要と考えられる。<BR><BR>(3)農業機械以外の農作業事故<BR> 農機事故と同様の方法で、昭和56年より農機以外の農作業事故調査を実施してきた。<BR> 平成21年度は、171件であり、農業機械事故より多い。そのうち用手具が関わった事故は55件であり、はしご20件、脚立11件であり、用手具関係の56%を占めている。<BR> このはしごや脚立の事故は、転落など中心であり、重大事故や死亡事故が多い。今後、これら用手具の科学的な問題点の把握や改善が必要と考えられる。<BR><BR>2.農薬の生体影響に関する調査研究<BR> 富山県農村医学研究会では、農薬中毒臨床例調査を農業災害と同様に県内の関係する医療機関700カ所を対象に昭和56年から平成14年まで実施してきた。<BR> 同様の方法で、1990年代に中国河南省の2つの県で実施し、中国の農薬中毒が日本の約20倍、中国全土では約100万人の中毒が発生している可能性を指摘してきた。<BR> また、農薬の生体内残留が単に農薬散布のみならず、食品由来の可能性があることを農薬の尿中代謝物の測定で明らかにし、ポストハーベスト農薬の問題についても、今後注視する必要性があることを示しつつある。<BR>
著者
貞方 隆史 川澄 明子 河合 智康 川本 珠美
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.196, 2008

〈はじめに〉当院手術室では、各出版会社からの手術室看護手順書などを参考に各科の手術手順書を作成している。近年手術技法の著しい進歩により、同じ予定術式であっても執刀医により手術手順、使用する鋼製小物や医療材料に違いがあるため手術手順書への追加記載が必要となる。しかし、スタッフ各個人のメモへの追記に止まりがちで、共有の手術手順書の活用は充分とは言えない現状である。そこで術後、器械出し看護師と外回り看護師によるシートに沿ったショートカンファレンスのデータ、スタッフに対する意識調査より、手術手順書の効果を明らかにしようと考えた。〈方法〉シート記載:平成19年6月~9月、腰椎麻酔・全身麻酔の手術260件を対象に担当した看護師がシートに沿って話し合い記載したものを項目毎に結果を単純集計した。それらから、手術に入る看護師すべてのメンバーが手術手順書を活用した群を1群とし、以下メンバー3人のうち2人の活用を2群、メンバー2人のうち1人の活用を3群、メンバー3人のうち1人の活用を4群、メンバー全員が活用しないを5群とした。手順書活用群別に、『医師から助言・指導を受けた』『手術室外に鋼製小物などを取りに出た』の有無。さらに予定通りの手術・途中術式変更の違い、予定手術・緊急手術の条件の違いによる差を解析した。アンケートによる意識調査:平成19年5月と10月に器械出し看護師担当時・外回り看護師担当時に『手順書の活用』は出来ているか、『医師からの伝達の共有』は出来ているかをそれぞれ5段階のスケール選択方法により意識調査を行い比較した。さらに、10月に自由記載法による意識調査を行った。<結果>1)手順書活用群別に、『医師から助言・指導を受けた』は、1群32%、2群36%、3群35%、4群24%、5群18%であった。『手術室外に鋼製小物などを取りに出た』では、1群68%、2群52%、3群71%、4群60%、5群66%であり、それぞれに明らかな差はなかった。さらに、予定通りの手術と途中術式変更の違い。予定手術と緊急手術の条件の違いでも、『医師から助言・指導を受けた』『手術室外に鋼製小物などを取りに出た』の有無にそれぞれ明らかな差はなかった。 2)手順書活用に関する意識の5月と10月の比較では、「器械出し担当時の手順書活用」の意識調査は、やや評価を下げてしまったものの「外回り担当時の手順書活用」「医師からの伝達は共有できている」の意識調査は評価を上げた。10月の自由記載による意識調査では、情報の共有ができる。手術に対し振り返りができる。手順書活用、追記の意識が高まった。などの記載が複数あった。<BR>〈考察〉手術室経験年数や個人の手術看護に対してのスキルの違いから手術手順書の活用方法が違ってくると推測される。手術後話し合うことは、手術を振り返りができ、医師からの伝達の共有ができるに繋がったと考えられる。また共有の手術手順書は最新の情報でなければならない。と言う意識が高くなったと考えられる。今回の研究で使用したシートの項目は手術治療の介助に関することが主であったため、今後はチーム自らの看護を振り返るきっかけにしていきたい。<BR>〈まとめ〉手術手順書を活用した場合と活用しない場合とでは、『医師から助言・指導を受けた』『手術室外に鋼製小物などを取りに出た』の有無のいずれにも関連性はない。<BR>
著者
木田 秀幸 近藤 敬三 飯田 健一
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.121, 2005

【はじめに】<BR>院内感染対策において臨床検査室は様々な役割を担っている。その中でも感染情報の提供は、治療薬剤選択や院内感染への迅速な対応に不可欠でありリアルタイムな情報が必要とされる。しかし日常業務の中で全ての医師にリアルタイムな情報提供を行なうことは困難であるのが現状である。そこで新しい感染情報提供の方法として株式会社富士通北海道システムズの協力の下、細菌Webの構築を行なったので報告する。<BR>【システム構成】<BR>当院オーダシステム及び検査システム更新(2004年3月1日)に伴い、Webサーバとして検査システムサーバを利用し、クライアントとしてLAN接続されている全てのオーダリング用及び検査システム用PCを使用した。<BR>ソフトウエアは、WebサーバInternet Information Server、情報データベースOracle、WebデータベースMicrosoft Access2002を用いた。クライアントの動作環境はInternet Explorer5.0以上、Adobe Acrobat Reader5.0以上とした。また、書類のスキャニングを行なうために当初設置予定であったレーザープリンタ1台をスキャナー付プリンタへ変更した。<BR>セキュリティ対策としては、ログイン情報、患者情報の暗号化や医師以外の閲覧者をある程度制限することとし、パスワード、ログイン名については検査室で管理することとした。<BR>【方法】<BR>月に1度開催される院内感染対策委員会の資料については、スキャニング後PDFファイルとしてアップロードを行ない、夜間の検査システム日時更新処理中に細菌Webへ反映される。<BR>前日-当日間で最終報告された細菌検査結果を毎日午前7時に情報データベースより自動収集しWebデータベースの自動更新を行なう。臨床サイドは各病棟、診察室に設置してあるクライアントから細菌Webへアクセスし必要な情報を検索する。<BR>【結果】<BR>Web導入以前の感染情報は、医師からの問い合わせや検査技師からの連絡、月1度開催される感染対策委員会報告などに限られていたが、細菌検査室よりリアルタイムな情報をWeb上に公開することにより、必要な感染情報を比較的容易に得ることができ、また無線LANを装備したノート型PCも各病棟等に設置されているため病棟内を移動しながらの検索も可能となった。<BR>「感染委員会提出文書一覧」では委員会に提出された文書を月別に、「その他の文書一覧」ではWeb操作手順書などが添付されている。「リアルタイム集計表示」では様々な検索条件での絞込み機能を持つことにより必要なデータを容易に引き出すことが可能となった。また、システム更新の数か月後に検体検査の最終報告書出力の廃止を行なったが細菌検査の報告書出力も同時に廃止することができ、技師・看護師・事務員等の作業軽減につながった。<BR>【まとめ】<BR>当院の細菌Webは、検査システムとLAN回線を利用することにより、新たなソフトウエアやハードウエアを購入することなく構築することができた。また、クライアントにオーダリング用PCを用いているためWeb参照後のオーダが容易であり対象患者の病室は、オーダシステムにある病棟マップにより確認が可能である。<BR>臨床へ提供する情報としては満足できるものが構築できたと思うが、今後は利用状況などを調査し、より利用されるよう啓蒙していかなければならないと考える。<BR>(尚、本研究は北海道農村医学研究会の助成物件によるものである)
著者
宮野 美幸 熊原 比路美 風間 裕子 岡澤 敬彦 金城 浩和 赤塩 恵子 清水 敏夫 外間 政信 木村 薫
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.33, 2011

当院ではかつてノロウイルスによる院内集団感染が発生した。平成23年春に、再び院内集団感染が発生してしまったが、その経過と対策を集計し、次の流行期に向けて方針を検討したので報告する。<BR><B>経過</B>:H23.3/16にS2病棟で下痢・嘔吐の患者が6人、職員3人が発生、感染元は1日で退院した患者を推定。3/23にH3で発症患者発生、S2スタッフの伝播を疑う。3/26にH4で同様の発症患者発生、H3からの転棟患者から感染を疑う。4/14にS3で集団発生。持込患者の汚物処理が不適切であり広がった可能性。これら4病棟の集団感染は最終的に患者32人、職員26人となった。<BR><B>対策</B>:病棟からの連絡で直ちに感染対策小委員会を開催し、感染制御対策を検討・実施した。具体的には、発症者のゾーンニング、隔離病室の環境整備、次亜塩素酸Naによる病棟の全面消毒、面会制限、入院制限、転棟制限などであり、病棟の全面消毒は、新たな感染者が発生しなくなるまで継続した。<BR><B>考察</B>:今季は地域の保育施設や学校で流行があり、近隣の複数の介護施設で集団感染がおき、幾人かは当院に救急搬送、入院となるケースが続いた。期間中に8人が入院しているが、入院してくる患者の隔離、入院制限、転棟制限のなかで、病室確保に苦慮した。また、本来はある程度の病棟が決められた診療科でも他の病棟に入院が振り分けられ、スタッフから病原体の伝播が起きるなど、更に感染拡大につながってしまった。いかに感染者を特定するかは重要で、今回の感染拡大では疑いの段階からゾーニングをするタイミングが遅れていた。期間中の吐物・便の処理は、常に感染性胃腸炎を念頭に処理する必要があった。多くの職員が感染したことから、個人防護具の適切な使用とともに、手指衛生の重要性を再認識した。<BR><B>方針</B>:流行前に研修会を開催する。下痢・嘔吐の患者は常にゾーニングで対応する。スタッフの手洗いと個人防護具の適切な使用を徹底する。期間中は環境消毒を徹底する。
著者
金澤 淑子 川名 麻依子 勝間田 麻衣
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.297, 2008

手術を受けた婦人科悪性疾患患者の受診に対する抵抗感に関する意識調査<BR>金澤淑子1)川名麻依子1)勝間田麻衣1)<BR>1)神奈川県厚生連伊勢原協同病院<BR>〈緒言〉婦人科には、内診という特有の診察法があり、診察対象が生殖器であることから、患者は強い羞恥心を抱く。苦痛を伴う検査、処置が行われる場合もあり、不安、恐怖心がある。さらに、プライバシーの問題もあり、他科受診に比べ受診への抵抗感が強いと考えられる。私たち病棟看護師が手術を通して患者と関わる中、悪性疾患で手術を受けた患者から術後、「婦人科にかかるのはやはり躊躇した。でも、もう少し早く受診していればこういう結果にならなかったのかもしれないと今は思うようになった。」などの声が何度も聞かれた。そこで、婦人科受診への抵抗感に関する要因を明らかにし、その抵抗感がどのような影響を及ぼすのかを分析することを目的とし調査を実施した。その結果より、今後の看護援助のあり方に示唆を得たので報告する。<BR>〈方法〉2003年1月から2007年6月に当院において婦人科悪性疾患(子宮頸がん、子宮体がん、上皮内がん、卵巣がん)で手術を受けた患者135名を対象に郵送法による質問紙調査を実施した。(調査期間)2007年7月12日~8月10日(調査内容)1)対象の背景・年齢、婚姻、出産、手術後の化学療法、現在の体調 2)症状出現から受診までの期間 3)婦人科受診に対する抵抗感 4)抵抗感に関連した要因「男性医師による診察」「内診」「プライバシー」「検査や処置の内容」「検査や診察に伴う痛み」「施設や設備」の6項目を多肢選択法とした。(倫理的配慮)各対象者に対して質問紙は無記名とし、質問紙前文で調査趣旨、協力の可否は対象者の個人的意思に基づくものであること、個人が特定されないようにデータ管理は厳重に行うことを説明し、回収は郵送法とした。(分析方法)統計ソフトSPSS を用いて、記述統計および独立性の検定を行った。<BR>〈結果〉質問紙の回収率は68.1%であった。対象者の平均年齢は54.6歳であり、術後化学療法を行った患者は32.6%であった。術後、進行度により補助療法として化学療法が行われる。本研究において、術後化学療法を行った患者は対象者全体の約1/3であり、病期が進行していた患者が多いことがうかがわれる。受診への抵抗感について「あった群」は57.6%であった。症状出現から受診までの期間が3ヶ月以上の患者が42.4%と最も多く、1ヶ月以内が32.6%、最も短い1週間以内は25.0%であった。抵抗感と受診までの期間、受診までの期間と化学療法には有意傾向にある差が認められた。(P<0.01 社会学的統計処理による)抵抗感に関連した要因として「内診」がどの年齢層においても最も多く、40.7 %であった。続いて「検査や処置の内容が不明で不安がある。」が24.0%であったが、30歳代でこの項目を選択した患者はいなかった。以上のことから、受診への抵抗感を軽減することが受診までの期間を短くし、受診までの期間を短くすることが病気の進行を遅らせる可能性があると示唆された。そのために私たち看護師に最も求められることは羞恥心を低減させるための身体露出に対する配慮、予期不安を低減させるための婦人科受診についての情報の提供であると考えられる。身体露出部位、露出時間を最小限にするための配慮と患者が安心できるような雰囲気づくりに努め、外来待合室などでの検査、処置内容の表示など患者が手軽に情報を得られるような環境づくり、地域での情報公開活動などを今後検討していきたい。
著者
長岡 里奈 鈴木 理恵子 大瀧 雅文 保前 英希 金元 信子 酒井 利佳 只石 かほり 島田 勝規
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.491, 2011

当院における地域医療連携室での転院調整は、1)療養型病院への転院 2)紹介元への転院 3)地域連携クリニカルパスを利用した転院に分けられる。今回は3)の地域連携クリニカルパスを利用した転院調整に焦点を当て、地域医療連携室の役割について考察する。<BR>十勝圏では、2008年度より『十勝脳卒中地域連携パス(以下脳卒中パス)』の運用を開始した。脳卒中パスは現在、急性期病院3病院と回復期病院4病院間で運用されている。当院(計画管理病院)では、2010年度末までの3年間に計284名が回復期病院へ転院している。<BR>脳卒中パスの運用における地域医療連携室の役割として、1)転院・退院調整看護師による医療・看護アセスメント 2)医療ソーシャルワーカー(以下MSW)による患者・家族との面談 3)パスデータを用いた転院調整業務が挙げられる。看護師とMSWが協働し転院調整窓口となることにより、患者や患者家族が抱える諸問題の早期発見・早期解決、院内外関係職種との連携強化につながっている。<BR>1)転院・退院調整看護師による医療・看護アセスメントとは、患者基礎情報の集約(病態理解および病態予測)、転院先・退院先に向けた医療連携(入院中の医療処置や看護を回復期病院もしくは維持期へ繋げていくための調整)等が挙げられる。2)MSWが行う患者・家族との面談では、各種制度等の情報提供および利用支援(介護保険・傷病手当金・身体障害者手帳申請等)、医療費未払い防止(高額療養費・生活保護申請支援)等についての説明を行っている。3)脳卒中パスデータを用いた転院調整業務としては、院内各職種のデータ集約・データを用いた回復期病院への打診・転院日程調整業務等が挙げられる。<BR>