著者
高田 豊司 佐伯 文昭 八木 修司
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-10, 2015-03

一部の先駆的な自治体を除き,スクールソーシャルワーカー活用事業(以下,SSWer 活用事業と略)は2008年(平成20 年)に文部科学省において予算化され,全国的に実施されるようになった.SSWer 活用事業の背景として,学校現場において,いじめや不登校,児童虐待等,児童生徒の問題の背景に,家庭等の環境の問題があり,そのさまざまな環境に働きかけ,学校内や関係機関等と連携しながら,課題解決を図れるコーディネーター的な存在が求められているところから制度化された(文部科学省,2013).現在は導入初期にあたり,事業の拡充がはかられるとともに,今後の実践や理論モデルの構築が期待されているところである.
著者
古瀬 徳雄
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.31-44, 2014-03

16世紀初頭の宗教改革以後,カトリックとプロテスタントにおいて相違点がいくつかあり,その一つに聖母マリアに対する信仰的態度がある.カトリック教会においては,聖母マリアは重要な崇敬の対象となり,祝祭日があり,数多くの音楽作品が生み出されている.プロテスタント教会は,マリアを信仰の対象ではなく,あくまで一人の人間であるという考え方である.従って〈アヴェ・マリア〉はプロテスタント教会では歌われない. しかし,プロテスタントであるバッハには聖母マリアを内容とする作品がある.それらは,いずれも聖書の中でも詳しい記述がされている「ルカ福音書」を基底とする《BWV10》《BWV147》《BWV243 マニフィカト》《マタイ受難曲BWV244》《ヨハネ受難曲BWV245》に出現している. 本論ではこれらの作品から,その受容の変遷を辿った結果,バッハは聖母マリアだけでなく,聖書に登場するマグダラのマリア,ベタニアのマリアなどの他のマリアたちも,芸術の対象としていることが判明した. 次に《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調BWV1004》〈第5楽章シャコンヌ〉の音列が,妻のマリアの突然の死に対する追悼の音楽として成り立っているとする論も検証し,さらに《マタイ受難曲》《ヨハネ受難曲》におけるマリアたちに関連するレチタティーヴォの特性を取り上げて精査した.その結果,バッハの音楽創造の原点には,これらマリアたちに対するまなざしが反映され,その中に二人の妻たちをも刻み込み,彼自ら十字架を背負い作品を作り続けてきたことを証明する.
著者
平田 美千子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.21-28, 2012-09

Mark Twain 著Roughing It(1872)におけるハワイに関する各章のおよそ3分の2は,1866 年にThe Sacramento Union 紙に掲載され,アメリカ西部読者の人気を博した通信文を編集したものである.しかしながら,オリジナルの通信文と比べると,このハワイ編は,Twain という作家独特のユーモアが十分に発揮されているとは思えない.本稿では,そうした結果を招いた原因は,Roughing It の作品構成と語り手であり中心人物でもある「トウェイン」が備える特徴との関わり,通信文と Roughing It のそれぞれが書かれた執筆時期に隔たりがあること,通信文の編集方針から生じた変化,ハワイという題材そのものがもつ特徴と「トウェイン」が担う役割との関わりなどにあることを指摘している.
著者
米倉 裕希子 作田 はるみ 尾ノ井 美由紀
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.77-84, 2013-03

これまでの障害児の家族研究は親の障害受容が中心的課題であり,親は子どもの障害にショックを受けながらも,再起に向かうというプロセスを踏むといわれてきた.しかし,受容の定義が曖昧で,科学的な検証がなされないまま一方的に家族に受容を押し付けてきた.このような問題意識にたち,すでに統合失調症患者の家族研究で確立されている家族の感情表出(Expressed Emotion,以下EE)研究に着目し,科学的かつ客観的手法を用いた家族研究を行ってきた.本研究では,幼児と学齢児の子どもの家族のEEおよびQOL の違いについて比較し,発達段階における家族支援のあり方について示唆を得る.【方法】EE評価には,簡便な質問紙であるFamily Attitude Scale(FAS)を,QOL 評価にはSF-36v2 を使用した.【結果】分析対象者は,幼児の家族8名,学齢児の家族32 名だった.幼児および学齢児の家族の2群で,FASおよびSF-36v2 の下位尺度それぞれにおいて,独立したサンプルのt検定をおこなった.FAS では有意な差はなかったが幼児の家族は学齢児の家族より低い傾向がみられた.一方で,QOL は全般的に学齢児のほうが幼児より高く,下位尺度の「全体的健康感」では有意に低かった.【考察】先行研究では,EE と子どもの行動上の問題との関連が示唆されている.幼児期では,子どもの行動特性や行動上の問題があまり表出されておらず,EE が低い傾向にあると思われる.一方で,QOL の全ての項目で学齢児の家族は幼児の家族より高く,「全体的健康感」では明らかに高かった.これは,幼児期より継続的にサービスを利用してきたことが影響していると推察される.以上の結果から,これまで言われていたようなショックから再起へという一方向的なプロセスを踏むのではないことが示唆された.しかし,対象者数が少ないため,一般化は難しく今後追試調査が必要である.
著者
木浪 冨美子 小川 徳子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.65-70, 2012-03

近年,精神保健福祉士が果たすべき役割の中でも,地域生活の維持・継続,生活の質を高めることに,重点が置かれるようになってきている.精神保健福祉士を養成するカリキュラムにも,それが反映されなければならないだろう.本研究は,それを満たすカリキュラム構築に向けた,1つの試みである.木浪・小川(2009,2011)によって報告された参加型学習実践の効果を踏まえ,今回は,ボランティアスタッフとしての活動経験の効果を検討した.その結果,「精神障害者との社会的・心理的距離」の感じ方にも,「精神疾患・精神障害者へのイメージ」にも,精神障害者が抱える「生活のしづらさ」への理解にも,参加型学習実践ほどの変化は認められなかった.その理由として,活動を導入するタイミングの問題と,活動に参加する時の学生の意識の問題が考えられる.
著者
中村 剛
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.83-90, 2012-09

ノーマライゼーションの理念が普及して以来,入所施設で暮らしている知的障害者の地域生活移行は障害者福祉における大きな課題となっている.本報告では,この課題に対して顕著な実績をあげている西駒郷地域生活支援センターを訪問し,そこで得た地域生活移行に関するスキルを,ソーシャルワークのスキルという観点にまとめ報告する.
著者
米倉 裕希子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.71-76, 2012-03

【目的】知的障害や発達障害者の地域生活の実現には,家族および地域住民の理解と支援が必要不可欠であり,地域住民の障害者に対するスティグマ是正への取り組みが必要である.本研究の目的は,知的障害や発達障害者との接触経験および障害に関する知識の伝達を含んだ地域住民を対象にしたスティグマ是正の実践プログラムの開発を目指し,試行的に実践したプログラムの評価である.【方法】対象者は,A町社会福祉協議会で開催された「当事者とともにつくるサポーター講座」の講座参加者で,知的障害や発達障害の知識や対応などについての自信度を講座の前後で比較した.【結果】分析対象者は13 名だった.発達障害の方が知的障害よりも自信度が低い傾向がみられた.また,講座後は,知識や対応,地域での生活において自信度が高まる傾向がみられたが,気持ちの理解においてはあまり変化が見られなかった.【考察】講座に参加することで,知識や対応の自信を高め,その結果,障害者との地域生活への自信につながったと考えられる.講座は,知識の伝達にとどまらず,多様かつ継続的な接触経験をする場を設け,障害当事者や家族など多様な立場の人が参加することが望ましい.また,発達障害は精神障害と同様に見えない,とらえにくい特質上,スティグマを受けやすいかもしれないので,取り組みの強化が必要である.今後は,さらに対象者を増やし,プログラムの効果を検討していくとともに,様々な場所や対象者に応用可能で,より簡便で効果のあるプログラムの検討も必要だろう.また,プログラムの効果を検証するアウトカムの開発が望まれる.
著者
中村 剛
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.37-44, 2012-03

社会福祉は本来,ケアの1 つであるにもかからず,法制度化された社会福祉の思想においては,ケアの倫理ではなく自立,権利(生存権),正義(公正)といった正義の倫理が語られる.しかし,ケアの倫理は正義の倫理の言葉では語られていない福祉思想を補い,福祉思想の明確化と体系化に寄与することができると考える.このような問題意識のもと本稿の目的は,ケアの倫理は正義の倫理の言葉では語られていない福祉思想の重要な側面を言い表していることを示すことである.考察の結果,ケアの倫理は,①自立イデオロギーからの覚醒,②正義の外部の者への眼差し,③〈選びえない〉現実への眼差しといった,正義の倫理に対する批判的機能を有すること,および,ケアの倫理には正義の倫理にはない「傷つき易い人間存在を気づかい,その人の呼びかけ(ニーズ)に応える」といった内容を有していることを明らかにしている.
著者
村上 貴美子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 = The Journal of the Department of Social Welfare (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.23-30, 2014-03-20

1922 年に制定された健康保険制度が,わが国最初の社会保険制度であることは周知の事実である.1868 年,明治維新を迎えた我が国は,西欧諸国の文化・社会経済に直面することとなった.その一側面に「保険」制度との出会いがある.民営保険が発展していく中で,1880 年代から90 年代にかけて各種「国営保険」論が展開された.本論は,各種国営保険論が社会政策的意義を持つ「社会保険」に収斂する過程を検証した.
著者
米倉 裕希子 堤 俊彦 金平 希 岡崎 美里
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.17-22, 2014-03

【研究背景】家族の感情表出研究(Expressed Emotion, EE)の知見をもとに,家族への心理教育の予後改善効果が明らかになっている.心理教育の一部と考えられるペアレントトレーングは,行動療法理論を背景に行動に焦点を当て具体的な対応方法を学ぶもので,子どもと親の否定的な関係を改善するのに効果があると言われている.本研究の目的は,今後さまざまな臨床現場において実践可能な短縮版プログラムの効果とEE との関連について検討することである.【研究方法】A 大学の相談室に来談しており10歳から12 歳の男児の母親4 名を対象に,全5 回のプログラムを実施.介入前後で家族のEE,母親のストレスおよび知識の獲得,子どもの行動を評価した.【結果】ケース全般において行動療法に関する知識の向上は見られたが,EE,母親のストレス,子どもの行動は変化が見られなかった.また,ケースによって変動が大きく,個別性が見られた.【考察】短縮版プログラムについては,知識の伝達といった点においては効果があるが,子どもの行動全般や親のメンタルヘルスの改善までは期待できない可能性がある.短縮版を実施する場合は,子どもの年齢や家族の状況に合わせプログラムを精査したり,選択可能なプログラムを提供したり,フォローアップの内容を検討したりしていく必要がある.
著者
古瀬 徳雄
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.35-44, 2009-03

幾多の作曲家が〈アヴェ・マリア〉を作曲している.ヴェルディ(1813~1901)もその一人である.彼の《アヴェ・マリア》は高齢期の76歳の作品であり,雑誌に投稿された謎の音階に基づいた定旋律で創られている.その後,オペラの大作《ファルスタッフ》を作曲し,82歳の彼は宗教的作品《スタバート・マーテル》《テ・デウム》を完成させ,《聖歌4篇》として世に発表する.一般的には,超高齢期には枯淡の境地に入る場合も多いが,彼は落日の太陽のごとく燃え続けている.さらに造形・絵画の巨匠達にも,高齢期になって,絶妙な作品を開拓した創作家たちが存在することも判明した.そこで音楽界と美術界の高齢期における作品を抽出し,対比させ,芸術創造の特徴や共通点を考察すると,「滑稽性」「肥満性」「グループ性」「宗教性」を捉えることが考えられた.
著者
村上 貴美子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.39-47, 2013-03

1907(明治40)年3月19 日法律第11 号として公布された癩予防ニ関スル法律は,1996(平成8)年3月31 日法律第28 号をもって廃止されるまでの約1世紀にわたるハンセン病対策の基本政策を形成した.本論は,癩予防ニ関スル法律の制定要因を検証することにより,その後の差別意識醸成の根源の一つが法制定時に内在することを明らかにした.癩予防ニ関スル法律の制定に至る過程は,三段階に分けて考えることができる.第1段階は,ハンセン病を伝染病としての取り扱いを議論する段階であり公衆衛生上の論法である.第2段階は,伝染病対策を急性伝染病対策と慢性伝染病対策に分離する段階である.第3段階は,単独法として癩予防ニ関スル法律の制定を議論する段階である.この間一貫している論調が「国家の体面」であり,伝染病の怖さの強調である.この伝染病癩の怖さの強調がその後の差別意識醸成の根源の一因となった.
著者
佐伯 文昭
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.85-92, 2013-03

現在,多くの保育所・幼稚園において,障害児保育が行われている.障害児保育に携わる保育者の支援の一つとして,巡回相談がある.本稿では障害児保育の歴史を顧みた後,巡回相談の定義,実施概要,コンサルテーションとしての機能,支援モデル(支援の視座)について概観した.特にICF の視座は,子どもの個人的特徴のみならず,環境因子(自然環境,社会環境,物理的環境,人的環境)を視野に入れ,アセスメントや支援を展開していくことを重要視するものであり,医療分野だけではなく,保育や幼児教育の現場においても有効と思われる.ICF は「生物・心理・社会的」アプローチであり,子ども自身やその家族,社会をより広い視野で把握することのできる有効な概念である.今後,保育所・幼稚園における巡回相談の支援モデルのさらなる探究,ICF の視座に基づく保育支援の実践が強く求められる.
著者
佐伯 文昭
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.85-92, 2013-03 (Released:2013-07-02)

現在,多くの保育所・幼稚園において,障害児保育が行われている.障害児保育に携わる保育者の支援の一つとして,巡回相談がある.本稿では障害児保育の歴史を顧みた後,巡回相談の定義,実施概要,コンサルテーションとしての機能,支援モデル(支援の視座)について概観した.特にICF の視座は,子どもの個人的特徴のみならず,環境因子(自然環境,社会環境,物理的環境,人的環境)を視野に入れ,アセスメントや支援を展開していくことを重要視するものであり,医療分野だけではなく,保育や幼児教育の現場においても有効と思われる.ICF は「生物・心理・社会的」アプローチであり,子ども自身やその家族,社会をより広い視野で把握することのできる有効な概念である.今後,保育所・幼稚園における巡回相談の支援モデルのさらなる探究,ICF の視座に基づく保育支援の実践が強く求められる.