著者
榊原 一也
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第85集 日本的ものづくり経営パラダイムを超えて (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F55-1-F55-8, 2015 (Released:2019-09-25)

従来の撤退戦略は,主に事業ポートフォリオ理論に依拠し,衰退段階に至った事業のキャッシュを再配分するという点に重きが置かれていた。だが本研究は,経営環境の変化への適応のため,あるいは将来の事業構想のために,積極的に事業ポートフォリオを調整し,断行する「能動的撤退」に注目する。事業売却を除けば,この撤退には,事業撤退が起点となって製品差別化を果たす「適応的撤退(撤退した事業で培った知識を既存事業において活用するもの)」と,新規事業創造を果たす「創造的撤退(撤退した事業で培った知識を事業創造において活用するもの)」の2つが存在する。本研究は,キヤノン株式会社の3つの撤退事例(シンクロリーダー事業,パソコン事業,ディスプレイ事業)から,これらの能動的撤退プロセスを明らかにした。
著者
松嶋 登
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第87集 日本の経営学90年の内省と構想【日本経営学会90周年記念特集】 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.60-69, 2017 (Released:2019-09-26)

「社会の中での組織の機能」を問うには,社会や組織という概念の原点回帰が必要になろう。統一論題報告では,この原点回帰に取り組んできた制度派組織論の論争を振り返り,社会的事物として制度化された組織(制度としての組織)と,社会的環境である制度ロジックスの組織化が意味する理論的含意を再検討した。往々に人々を一意に規定する拘束的存在として捉えられがちな制度は,本来,多様な物質的実践を産出する超越的な言語であり,理念型とも呼ばれてきた。そうした制度は,矛盾を含んだ多元的な社会的価値(制度ロジックス)として存在しており,その中でも有機体として存続を求める価値を有する組織は,矛盾する価値を混合することで二律背反する多様な実践を産出してきた。社会の中での組織の機能は,いずれかの制度ロジックを色濃く反映した道徳的制度の機能として論じられる。例えば,経営戦略論,技術経営論,そして制度派組織論ではアイロニカルに使われた企業家研究もまた,独自の概念(用語)の価値に寄り添うことが理論的なアイデンティとなる。
著者
藤野 義和
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第83集 新しい資本主義と企業経営 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.G3-1-G3-12, 2013 (Released:2019-09-26)

本稿の目的は,武田薬品工業と塩野義製薬,そしてエーザイを事例に取り上げ,経営者交代と戦略の変化の関係性を考察し,同族経営者のあり方を議論することにある。 本研究を通して,まず構造転換を迎えた医薬品産業の実態が明らかとなる。その上で,武田薬品工業と塩野義製薬は同族関与の終焉という企業の歴史な転換を迎えた。特に武田は,同族経営者が積極的にその転換を主導したと解釈された。一方エーザイは,同族経営者が主導し常に時代を先取し自己革新を行ってきたことが明らかとなる。エーザイの同族関与の維持や転換にかんしては,現在進行中の事象であり議論するに留まる。 以上の事例にもとづき,今日でもいわば「チャンドラー・モデル」が有効な組織形態であることが確認される一方,Chandler が同文脈で示唆する経営者の専門性の変化を深く追求することが同族の維持や転換理由をひも解く鍵となることが確認される。
著者
加藤 俊彦
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第83集 新しい資本主義と企業経営 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.77-85, 2013 (Released:2019-09-26)

平成23年度日本経営学会賞の受賞作である『技術システムの構造と革新─方法論的視座に基づく経営学の探究』について,主たる問題意識と各章での議論を中心として,概要を見ていく。
著者
三戸 浩
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第88集 公共性と効率性のマネジメント─これからの経営学─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.65-71, 2018 (Released:2019-06-17)

CSR活動を考慮した経営・企業活動は当然のものとなってきている。また同時に,バブル崩壊後の日本経済が復調せず,「資本主義の行き詰まり」が世界的に見られるようになり,新しい成長分野,新しい事業が要請されている。そのような背景の中でCSVが生まれてきたと理解できよう。CSR(社会的課題)と利潤獲得,すなわち「公共性と効率性」の関係は,相反するものではなくなり,企業は積極的にCSRをわが責務として受け入れ,実行してゆくことが当然となる。「公共性」を「私企業」が担うという動向は,公企業の民営化,そしてsocial enterpriseやsocial businessなどさまざまな領域で見受けられるようになっている。現代社会を健康に維持・繁栄させる役割・機能を持つ「社会的器官」となった現代大企業の目的がCSRであるとするなら,その「社会性(公共性)」をチェック&コントロールするのがコーポレート・ガバナンス,「組織存続=効率性」を担うのがマネジメントであり,両者相まって企業は社会的器官として維持発展が可能になるであろう。
著者
黒川 秀子
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第88集 公共性と効率性のマネジメント─これからの経営学─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F27-1-F27-7, 2018 (Released:2019-06-17)

CSRについては1990年代から活発な議論が展開され,2000年代以降,理論面,実務面ともさらに進化,深化し続けている。第91回日本経営学会大会のキーワードは統一論題とサブテーマに示されている通り,公共性と効率性であり,CSRはまさに現代企業の持つ公共性と効率性の二面性を照射する。ところで,「企業の社会的責任」という問題は,1960年代から70年代にも大きく取り上げられ,そのブームはしばらく続いたとされる。 本稿では,1970年代の「企業の社会的責任」論の展開と2000年代以降の「CSR」論の展開を比較し,CSRに対する意識の変遷を辿るとともに,CSRの本質を探ろうとした。 谷本,宮坂の論考から,前者は「経営者の社会的責任」が,後者はビジネスエシックスとステイクホルダーセオリーを契機として「企業自体の社会的責任」が問われ,そのことが前者がブームで終わった理由であり,前者と後者の相違点であることが理解された。 また,現在のCSRを取り巻く問題点として,制度と実態の乖離,各種機関,機関投資家,アドバイザーの存在とCSRの宣伝広告性,「CSR=社会的責任」における「責任」の理解,の3点が考えられた。