著者
竹岡 志朗
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F17-1-F17-7, 2019 (Released:2019-09-26)

本研究は,近年注目されている機械学習技術,これを用いたテキストマイニングの新しい手法に関するものである。具体的には,機械学習技術を用いて商品・サービスの特徴をテキストマイニングによって分析・可視化する手法を提案する。今回提案するテキストマイニングの手法は,現在主流の計量テキスト分析で用いられる集計値に基づくものではなく,機械学習技術によって算出される単語の分散表現に基づいたものである。今回は,水族館のクチコミを分析対象とし,分散表現テキストマイニングの手法に,さらに外形的データ(仕様など)を併用すること,つまり単語の類似度と外形的データを総合的に分析することで,消費者の体験によって構築される意味と仕様などの関係を可視化する手法を提案する。分散表現に基づいたテキストマイニングは,まだまだ未完成の技術であり,定まった手法ではないが,この技術の応用可能性について,実際のデータに基づいて検討する。
著者
嶋根 政充
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F23-1-F23-8, 2019 (Released:2019-09-26)

一般に承継なき承継で行われるファミリー型事業は,組織-個人の軸ではなく,技術―市場の軸がしっかりしている企業である。そこには他社では追随できない技術をもっているか,市場で他社があまり行われていないかの,いずれにせよ,ニッチの事業で成り立っているのであり,いわば持続的イノベーションを不断に行っている企業なのである。これらは,いわゆる“グローバルニッチトップ企業”(国際市場の開拓に取り組んでいる企業のうち,ニッチ分野において高いシェアを確保し,良好な経営を実践している企業)との共通点もあるともいえるわけである。 本稿では,強みのある技術を中心に円滑に事業承継が進み,今なお業績を維持している,森野化工株式会社と株式会社沼澤製作所を対象として取り上げ,半構造化インタビューによる事例研究を行った。その結果,顧客満足度を向上させるために不断の努力を行う点などは共通点として挙げられる一方,特許を取ることは技術のニッチを揺るがすということで,特許を取らない戦略をとる沼澤製作所と,汎用技術を応用する森野化工とは,その戦略が異なったなどの相違点も見られた。
著者
石毛 昭範
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F7-1-F7-6, 2019 (Released:2019-09-26)

企業におけるワークルールの知識普及や遵守については,少なくとも経営学分野からの検討は十分行われてこなかった。本稿では,企業におけるワークルールの知識普及がこれまでどのように行われ,どういった問題があったかについて述べる。これに対して,企業に対するインセンティブとなりうるものとして労務監査・労働条件審査があるが,その広がりに寄与していると思われる「公契約条例」の歴史や意味,役割,さらにはその前提となる ILO第 94号条約の意義について論じる。そして,企業におけるワークルールの知識普及や遵守に対して,公契約条例および労務監査・労働条件審査がどのように関わり,そこにどのような意義や問題点があるか,そして今後どのような方向性が考えられるかについて考察する。
著者
上林 憲雄
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.38-46, 2019 (Released:2019-09-26)
被引用文献数
1

日本的経営はグローバル市場主義によって著しく侵食され,もはや風前の灯火の状態にある。日本的経営の要素として今日まだ辛うじて残っている特徴は「人材の育成志向」くらいである。また,日本的経営として取り上げられる要素では必ずしもないものの,評価基準を自国や自企業(己自身)にではなく諸外国や他企業という「外」に置く点も変わらぬ日本的特徴である。今後,ますますグローバリゼーションが進展する中,日本企業が世界に伍していくためには,外部に基準を求めそれに合わせようとするのではなく,自らで納得する基準を作り,それに沿ってユニークな人材を育成していくことである。加えて,グローバル市場主義が日本企業や社会に対しもたらす負の側面にも十分配慮する必要がある。
著者
黒田 兼一
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.47-56, 2019 (Released:2019-09-26)

本論文は「日本的経営」の現在を人事労務管理の面から考察する。人事労務管理を,労働者の動員システム,「合意」形成システム,労働者の支配システムとして,その現状を問う。敗戦直後からの混乱を経て,日本の人事労務管理は,日本の労働者の意識と感情を管理のなかに取り込んだ「ヒト基準」の「動員システム」であった。一般に「終身雇用と年功制」と理解されているが,各人の「能力」を「平等」に扱い,その能力を相互に発揮させる「競争民主主義的」な支配システムであった。ところがバブル崩壊以降から現在まで続く人事労務管理「改革」は,その「ヒト基準」の特徴を削ぎ落とすものである。「仕事基準」を基本とした「自己責任とフレキシブル化」の支配システムといえる。だが,それは安定的に機能していない。雇用形態にかかわらず「従業員として正当に公平に扱う」ことが極度に後退しているからである。森岡孝二が指摘した「雇用身分社会」の雇用と処遇をめぐる「動員システム」を「ヒト基準」からどのように立て直すか。これからの重要な課題である。
著者
咲川 孝
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.57-66, 2019 (Released:2019-09-26)

本稿では,日本企業,その経営を戦後からバブル経済までの時期,さらにポストバブル,つまり失われた20年を経て今日までの時期に分けて,それがどのようなものであるかを議論する。最後に,これらの議論に基づき,日本の企業,その経営,組織,そしてビジネスシステムの将来を検討してみる。戦後の日本の企業に関して,その内部は氏族型組織(クラン)として特徴付けられ,このような内部組織,企業統治,サプライチェーンからなるビジネスシステムは組織型ないしは協調的である。バブル崩壊後は,組織内部は市場型組織となり,ビジネスシステムは競争的となってきた。日本の経営,企業システムは,欧米にみられる市場型ないしは競争的なものへと収斂(コンバージェンス)しているようであるが,制度的環境に埋め込まれたビジネスシステムの変容は容易ではない。今後,日本の経営の強みを活かしながら,競争的なビジネスシステムの要素を取り込んで,新しいビジネスシステムが創発するという,収拡散(クロスバージェンス)の傾向もありうる。