著者
矢澤 健太郎
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.F54-1-F54-7, 2019

<p>留学生の学科に勤めた経験から,日本における外国人雇用の実態を調べ,自分の問題として考えた。ヒトを管理する人的資源管理論において,外国人労働者の管理という問題は,日本の技能実習制度が国際社会から「強制労働」と非難された歴史が示すように,人的資源として管理することが非常に難しい。2018年12月の現在,日本政府は入管法を改正し,深刻な少子高齢化による労働力不足の解消につながる政策の一つとして,単純労働の外国人雇用を拡大するべきという方向に動きつつあるように思える。労働者は人的資源なのであるから,人的資源として管理することの重要性を考え,人間の一人一人が自由にして責任ある体制として管理するという概念を新しく「人本資本」としてとらえることが理想であると思えるが,実現は難しい。本稿では,外国人労働者の問題を手がかりとして,先行研究を整理・検討し,人間を「人本資本」としてとらえることの難しさを述べた。</p>
著者
鈴木 信貴
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.F32-1-F32-7, 2019

<p>企業,産業の海外シフトが進む中,地域の産業集積はどのようなプロセスのもとで再生が可能になるか。この問いに対し故天野倫文東大准教授は新潟県中越地域を事例として一連の研究を行った。先行研究は,成長している企業は地元業者との分業関係のもとに,自らは開発に特化しニッチ分野で高い競争力を持つ製品を開発し販売を東アジアに広げ受注を伸ばしていることを明らかにし,これらの企業の成長とともに産業集積が再生へ向かっていると論じた。</p><p> 本研究は,先行研究から10年以上が過ぎた今,先行研究どおりに産業集積は再生したのかという問題意識のもとに,その検証を試みた。先行研究の調査後も一連の企業,産業集積はおおむね先行研究の方向で成長していた。しかし,リーマンショックにより,どの企業も壊滅的な打撃を受け,特に東アジア,ニッチ分野に力を入れていた企業は,その影響が大きかった。リーマンショック後,各社はそれぞれ経営体制を大きく変えることにより業績を戻し,そのことにより産業集積が新たな形で再び再生へと向かっていることが明らかになった。</p>
著者
谷 祐児
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.F1-1-F1-8, 2018

<p>昨今の医療機関の経営環境の変化による医療機関間の競争激化の影響をうけ,経営状態の悪化による医療機関の倒産が増加傾向にある。各医療機関には適切な医療の提供のみならず安定した経営が求められている。第90回大会にて4つのアプローチ(内部・外部志向 ×戦略的・組織的)の必要性および重要要素を特定したが,サンプリングバイアスが課題として存在した。本報告では,この課題解消を目的として,アンケート調査対象を,全国の病床数200床未満の医療法人病院4,528施設から無作為に抽出した3,500施設に拡大した。その結果,これからの中小規模医療法人病院の経営改善には,前回報告で提示したフレームワークにおける4つのアプローチが必要であることが確認された。また,これらのアプローチは,4つのアプローチを各病院の置かれている環境や,経営資源や組織規模,弱みや強みに合わせて実施する必要があり,これらのことを病院毎に適切な内容を実行することにより経営改善が望めるであろうと考える。</p>
著者
村田 大学
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
vol.83, pp.G1-1-G1-12, 2013

<p>本研究の目的は,米国内部通報制度の実態と問題点を解明することである。米国の内部通報規制は,従来,匿名性や守秘義務の向上など,主に内部通報者の特定を困難にすることで,報復の防止に努めてきた。だが,現在,内部通報件数の増加とは対照的に,内部通報者の5人に1人は報復を経験しており,報復の改善・防止は大きな課題である。</p><p> そこで,本研究は,①内部通報者の潜在的報復者に対する独立性,権力,匿名性と報復の関係,および②通報先の独立性と報復の関係の解明に取り組む。内部通報者は常に様々な組織構成員と利害が対立しやすく,権力も弱いため報復に会いやすい。匿名性の強化は,内部通報者の特定を困難にすることで報復の防止に貢献するが,調査の進展に伴い低下してしまう。また,通報先の独立性が乏しいと,経営者が関与する不正の通報に対する報復の防止は難しい。以上のような限界の克服には,多様な内部通報経路の整備が重要である。</p>
著者
太田 肇
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第87集 日本の経営学90年の内省と構想【日本経営学会90周年記念特集】 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.82-89, 2017 (Released:2019-09-26)

企業の関わる事件や事故などの不祥事が発生するたびに「管理の強化」が唱えられ,対策がとられる。しかし,同種の不祥事が後を絶たないばかりか,同じ組織体のなかで不祥事が繰り返される場合もある。その背景には,日本型組織の特徴が深く関係している現実がある。日本型組織の特徴として,非公式組織と公式組織の二重構造,職務の不明確さ,ならびにそこから生じる圧倒的に組織優位な組織と個人の力関係,集団無責任体制があげられる。それが存在するため,企業不祥事のなかでもとくに組織的性格の強い不祥事の場合,管理強化がプレッシャーと集団的機会主義を生み,不祥事防止に逆効果となるのである。したがって不祥事の防止には,日本型組織の特徴を踏まえた対策をとる必要がある。現実的な対策として,短期,中期,長期の3レベルの提案を行った。
著者
西村 香織
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第86集 株式会社の本質を問う-21世紀の企業像 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F9-1-F9-9, 2016 (Released:2019-10-01)

人々が協働するときには,それぞれの異なる考え方にいかに対応し,それをまとめていくのかが重要な課題となってくる。しかも,組織や社会をとりまく環境は常に変化しており,組織のマネジメントは,その変化に応じていかなければならない。M. P.フォレットは,相異する考えから統一的解決を導き出し,同時に新たな多様性を創発させていく過程を,統合の過程として示した。そして,統合とは思考の統合としてあるのではなく,活動の統合としてあると捉え,関係し合うおのおのの主体的な経験によって統合が実現していくことを明らかにしたのである。フォレットは,経験の本質を,人間の可能性および新しい形態の喚起にあると捉える。すなわち,経験において人々の概念が知覚されたものと統合されて自律的に展開し,そこから新たな可能性や関係性が喚起されていくと捉えるのである。こうしたフォレットの経験と統合の理解は,現代組織のマネジメントに対しても,従来の考え方の行き詰まりを超える新たな活動の枠組みを示唆するものであると考えられる。
著者
吉田 健司
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第84集 経営学の学問性を問う (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F59-1-F59-5, 2014 (Released:2019-09-27)

従来のSWOT分析の問題点を見直し、外部環境要因と社内資源要因となるキーワードを可能な限りロジカルに情報収集し、それを時間軸(「現状・近未来」と「中長期」)と、組織規模軸(「全社要因」と「事業部門要因」)の観点から分類整理することで、どのような会社組織でもS要因(強み)、W要因(弱み)、O要因(機会)、T要因(脅威)を把握できるようなメソドロジー開発を試みた。またこのSWOT分析から的確な戦略策定がしやすいよう、アンゾフの成長戦略の活用と連携手法についても提言した。
著者
谷川 寿郎
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第87集 日本の経営学90年の内省と構想【日本経営学会90周年記念特集】 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.G11-1-G11-10, 2017 (Released:2019-09-26)

本稿は日本の大企業の所有と支配について,伝統的な実証調査の方法である持株比率別分析と所有主体別分析を行い,現在における日本の株式会社の所有と支配について明らかにしようとするものである。会社支配論と経営者支配論については,日本においても,多くの実証研究が行われてきた。それらの研究は,日本の大企業は経営者支配であるという一定の結論をみた。また,日本の株式所有構造の特徴として,大株主の機関化と,それらに対する高い集中度を指摘する。本稿の実証調査の結果においても同様に,それらの特徴が確認された。しかし,大株主の主体の属性は大きく変化した。大株主として君臨した都市銀行や生命保険会社にかわって,現在では,資産管理専門銀行と外国人機関投資家が多くを占める。また,経営者支配の企業は対象200社のうち130社を占める。この約20年間で日本の大企業の所有と支配は大きく変化した。