著者
高木 俊輔 永井 達哉 斉藤 聖 坂田 増弘 渡辺 裕貴 渡辺 雅子
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.427-433, 2011 (Released:2011-02-01)
参考文献数
11

進行性ミオクローヌスてんかんの一型であるUnverricht-Lundborg病(ULD)は、他の進行性ミオクローヌスてんかんと比べて認知機能低下の進行が緩徐であり、他のてんかん症候群と見誤られる可能性がある。 今回我々はULDの原因遺伝子であるシスタチンB遺伝子について最も多い形式の異常は確認できなかったが、誘発電位でのgiant SEP所見や光過敏性、早朝覚醒時に目立つミオクローヌスや進行性の認知機能障害などの特徴的な症状に気付かれULDと臨床診断された症例を経験した。当症例は部分てんかんの診断のもとULDの症状、予後に悪影響のあるフェニトイン(PHT)の投与を長期間受けており、ミオクローヌスや認知機能低下が進行していた。PHTをクロナゼパム及びピラセタムに変更したところ症状に改善が得られた。 ULDはまれな疾患で診断には困難が伴うが、臨床的特徴を把握しておくことが重要と考えられた。
著者
村田 佳子 渡邊 修 谷口 豪 梁瀬 まや 高木 俊輔 中村 康子 渡辺 裕貴 渡辺 雅子
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.43-50, 2012 (Released:2012-06-28)
参考文献数
21

高齢発症側頭葉てんかんにおいて、健忘症、気分障害、睡眠障害、排尿障害、唾液分泌過多、低ナトリウム血症を認め、抗電位依存性カリウムチャンネル複合体(voltage-gated potassium channel:VGKC-complex(leucine-rich glioma inactivated1 protein:LGI-1))抗体陽性から、抗VGKC複合体抗体関連辺縁系脳炎(VGKC-LE)と診断した。本例は数秒間こみあげ息がつまる発作が1日100回と頻発し左上肢を強直させることがあった。Iraniらは、VGKC-LEの中で抗LGI-1抗体を有するものは、3~5秒間顔面をしかめ上腕を強直させるfaciobrachial dystonic seizures(FBDS)を報告しており、本発作は診断の一助となると考えられた。本例は、本邦において抗LGI-1抗体とFBDSの関連を指摘した最初の報告である。
著者
皆川 公夫 田辺 千絵
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.13-20, 1989-04-30 (Released:2011-01-25)
参考文献数
33
被引用文献数
2 3

未治療あるいは従来の抗てんかん薬では発作抑制が困難であったLennox症候群を中心とする難治性てんかん患児10例にTRH-tartrateを14日間連日筋注にて投与し, その短期効果を検討した。てんかん発作の抑制に関しては10例中8例に有効で, 5例には完全抑制が得られた。発作抑制効果は4~10日で発現した。脳波所見は10例中6例に改善がみられ, 4例ではてんかん放電が消失した。とくに, Lennox症候群では5例中3例に発作の完全抑制とてんかん放電の消失がみられ, 有効率が高かった。また, 全例に種々の程度の精神活動性の向上が認められたが, 重篤な副作用はみられず, 一部の乳児例に嘔吐, 発熱, irritabilityの増強が一過性に出現したのみであった。
著者
池田 浩子 川脇 寿 富和 清隆
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.185-191, 2003 (Released:2003-09-04)
参考文献数
23
被引用文献数
1 2

ロフラゼプ酸エチル(メイラックス®)が脳波異常と症状の一部に対して有用であったLandau-Kleffner症候群(以下LKS)の9歳、男児例を経験した。患者は3歳2カ月より進行性の発語量低下を示し、脳波で多焦点性棘徐波に加え睡眠時に全般性の棘徐波複合がみられ、検査にて言語性聴覚失認を認めLKSと診断された。ステロイドパルス療法を含め、各種抗てんかん薬治療が無効であったが、ロフラゼプ酸エチルにより、流涎減少、口唇と舌の動きの改善、著明な脳波の改善が得られた。ロフラゼプ酸エチルは、近年難治性小児てんかんに使用されつつあるが詳細な報告例は少ない。我々の症例は副作用、耐性もなく開始後2年経過しており、LKSに対して他の治療で効果がみられないときにはロフラゼプ酸エチルを試みる価値があると考えられた。しかし、言語についての改善がみられておらず、長期に脳波異常が持続した例では回復が困難になる可能性が高いようで、早期の脳波改善策が重要と考えられた。
著者
山内 俊雄
出版者
日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.393-402, 2009-01-31
被引用文献数
1 4

わが国のてんかん研究ならびにてんかん医療についての歴史を概観する中で、今後のわが国のてんかん学・医療のあるべき姿について考えた。20世紀の半ばまで、てんかんは精神科の三大精神病の一つとされ、精神医療の対象とされてきた。その背景には、てんかん発作に対する適切な治療法が無いままに、進行性に慢性の経過を辿りながら、精神症状が出現し、精神の荒廃に陥ることが多いという、てんかんの置かれた状況が関係していたものと思われる。20世紀半ばから、てんかん学の進歩により、てんかんの診断ならびに治療が進むにつれ、てんかん発作の抑制が可能になり、それにともない、精神の荒廃にいたらずにすむようになった。そのような状況とあいまって、精神科以外に、小児科、脳神経外科、神経内科などの診療科がてんかん学・医療に参画し、基礎医学なども加えて、学際的な研究組織が生まれ、日本てんかん学会へと発展し、今日に至っている。これらてんかん学・医療の発展を基盤として、今後は、診療科にこだわらない形で、「てんかん学科」「てんかん診療科」の名の下に、学際的・包括的な学問・医療を創設する必要がある。そのためには、現在の日本てんかん学会認定医(臨床専門医)制度を、てんかん学・医療の基本的な能力を有する「てんかん学会認定医」と、さらに専門性が高く、各診療科の専門的能力を発揮する「てんかん学会専門医」(現在の学会認定医に相当)の2層構造にすべきであることを主張した。また、当事者ならびに家族を中心とした組織である日本てんかん協会との連携の重要性を強調した。
著者
秋元 波留夫
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-12, 1989-04-30 (Released:2011-01-25)
参考文献数
26
被引用文献数
1

John Huhlings Jacksonのてんかん研究について, その現代てんかん学にもたらした寄与に視点をおいて考察を加えた。その主要な点は次のように要約される。Jacksonは19世紀神経学の常識であった「ほんとのてんかん」(いわゆる真正てんかん) と「てんかん様けいれん」(Bravais-Jacksonてんかん) とのいわれのない差別を打破した。真正てんかんは唯一のてんかんであるという特権を剥奪され, てんかん群の一つに格下げされ, 新しいてんかん概念が確立された。新しいてんかん概念はJacksonの「てんかんは機会的, 突然, 過度, 急激, そして局所的な灰白質の発射を意味する名称である」という定義に基づいている。その病理学的原因および臨床形態は多様であり, 1985年ILAEてんかん国際分類が提示するようにさまざまなてんかんおよびてんかん症候群が存在する。この意味においててんかんは複数である。しかし, それにもかかわらず, あらゆるてんかんは共通の神経系機能障害-Jacksonの定義した灰白質の過度発射-を有するという意味において単数のてんかんである。てんかん学存立の根拠はここに求められる。
著者
榊 寿右 角田 茂 中瀬 裕之 多田 隆興 内海 庄三郎 岩崎 聖
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.11-21, 1990-04-30 (Released:2011-01-25)
参考文献数
19

外傷性てんかんは比較的良好な経過をとり, 抗けいれん剤の投与にて, コントロールされるのが通常である。しかし時に難治性てんかんへと移行し, そのコントロールに苦慮する場合がある。われわれは, 乳幼児期の外傷後にてんかん発作が生じ, 難治性となって, 現在も多種多剤の抗けいれん剤の投与にもかかわらず, 発作のコントロールが不十分である症例を対象として, そのMRIの所見につきCT所見と対比しつつ検討した。これらの症例ではMRIの施行前にCTが行われ, その所見が判明しており, そして脳波上も患側半球で広範に出現する棘波が認められている。また臨床的に片側けいれんや自動症が主たる発作内容で, 粘着気質, 易怒性などの人格変化, 知能の発育障害も認められている。MRIではCTの変化に加え, さらに広範な萎縮性変化と患側側頭葉の発育障害が存在しているのが認められた。
著者
菅野 秀宣 中島 円 荻野 郁子 新井 一
出版者
日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.16-25, 2008-06-30

目的:海馬歯状回において神経細胞新生が継続していることは動物実験のみならずヒトでの研究でも報告されている。今回、われわれはヒト側頭葉てんかん患者における神経細胞新生と成熟について免疫染色による検討を行った。方法:海馬での神経細胞新生はNeuro D、PSA-NCAM、NeuNの免疫染色により確認した。手術時年齢、海馬硬化の有無、発症から手術までの罹患期間、発作頻度が、新生神経細胞数におよぼす影響を統計学的に解析した。神経細胞の成熟度の指標としてNKCC1、KCC2の免疫染色を追加した。結果:新生神経細胞は、海馬硬化群で有意に少なかった(p=0.0003)。非海馬硬化群での新生細胞の74.0%はNKCC1が陽性であり、36.0%がKCC2に陽性であった。一方、海馬硬化群では各々67.6%と6.3%の陽性率であり、海馬硬化群において有意にKCC2の発現が少なかった(p=0.003)。結論:ヒトてんかん海馬においても神経細胞の新生が継続していることが確かめられた。硬化海馬では非硬化例に比べその数は有意に少なく、かつ未成熟であるといえる。