著者
安倍 誠
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.2-22, 2023-06-15 (Released:2023-06-29)
参考文献数
36

本稿は,韓国鉄鋼業が急速に発展を遂げた要因の一つとして,韓国最初の銑鋼一貫製鉄所である浦項製鉄所の建設における日本企業からの技術協力の効果的な学習に着目し,韓国企業がどのように製鉄所建設というエンジニアリング・プロジェクトにかかわる技術を学習していったのか,その学習のプロセスを明らかにすることを目的とする。浦項製鉄所の第1期建設では日本企業が製鉄所の基本設計から設備の詳細設計と供給,建設工事,そして操業に至るまで包括的な協力を行った。しかし,あくまでも建設の主体は韓国企業のポスコであり,ポスコの技術担当者が計画段階から建設のすべての過程に主体的に参加して技術学習の機会を得た。とくに同じ技術担当者が計画当初から継続してエンジニアリング・プロジェクトの特定分野を担当することによって,技術を効果的に学習した。このことは,ポスコがその後,独力で製鉄所を建設できるまで技術能力を高める,大きな足がかりになったと考えられる。
著者
青木(岡部) まき
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.23-43, 2023-06-15 (Released:2023-06-29)
参考文献数
89

本稿は,安全保障をめぐり柔軟に協力相手を組み替える「竹の外交」として描かれてきた戦後タイ外交像に対する疑問から,主な先行研究の検討を通じて戦後タイ外交研究の論点を整理し,課題を提示する。タイの対外関係研究,経済史,現代政治研究といった研究群における外交分析の検討を通じ,先行研究が多元的な対外関係に関心をおくなかで,外交については外務省や国軍を中心とする安全保障外交に偏重して研究が蓄積してきたこと,対外経済政策については経済政策の延長として扱われ,経済を通じた国家間の関係調整という側面については十分議論されてこなかったことを指摘した。そして今後の研究上の課題として,イシューの多様性(安保と経済),主体の多様性(外務省・国軍外交の再検討)をふまえ,「竹の外交」に代わる新たな仮説として,多様な外交主体による「多元的外交」の可能性を示して論を結ぶ。