著者
岩崎 えり奈
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.35-67, 2020-03-15 (Released:2020-04-01)
参考文献数
48

本稿では,チュニジア南部タタウィーン県の村において実施した家族計画実態調査の追跡調査を用いて,過去20年間における同地域の女性の出生行動をミクロな視点から分析した。その結果,同地域における出生率の低下と女性の出生行動に関して,晩婚化による晩産化と,家族計画・避妊手段の普及を直接的な要因として女性の出生数が低下したこと,娘世代が20代前半で結婚し,第1子を結婚後1年以内に産む点は母親世代と同じだが,第1子出産後に間隔をあけて子どもを産む傾向があること,理想子ども数を4人とする家族規模に関する価値観は20年の歳月がたっても変わらなかったことが明らかになった。以上の分析結果は,出生率の低下が一般に想定される近代的な家族観への変容によってもたらされたのではないことを示している。社会経済状況への女性と世帯の対応が「晩婚化」と「晩産化」,観念的には折衷の理想子ども数4人であり,間隔をあけて子どもを産む出生行動を導いていると考えられる。
著者
厳 善平 薛 進軍
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.2-36, 2019-03-15 (Released:2019-03-27)
参考文献数
70

はじめにⅠ人口センサスにみる高等教育の発展状況Ⅱ成人教育の制度と実績Ⅲ成人教育の特徴と規定要因――CGSSに基づいてⅣ成人高等教育の評価――収入関数の推計結果に基づいておわりに
著者
近藤 高史
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.2-31, 2023-12-15 (Released:2023-12-27)
参考文献数
47

パキスタンの水資源確保のためにインダス川に建設が計画されているのがカーラーバーグ・ダムである。小論の目的は同ダムが1960年代に着工が予定されていたにもかかわらず,いまだ計画段階のままとどまっている背景を明らかにすることにある。小論では同ダム建設計画の展開と建設反対派の動向を概観した後,現計画を形作った2000年代のムシャッラフ政権の取り組みと建設反対派への対応,政党の同計画への姿勢,計画をめぐるパキスタン国内の言説も検討した。そのなかで,計画停滞の背景にスィンド・パンジャーブ両州間の水配分争いを中心とした連邦・州,州間の不信感と相互の信頼醸成努力の欠如があり,これらの克服は容易でない点を指摘した。また,政治への介入を繰り返してきたパキスタン軍は水利計画にも利害関係を有しているために同ダム計画を後押ししてきたが,近年同ダム以外の水利計画の選択肢が増えたために優先順位が下がったことも背景として指摘した。
著者
石塚 二葉
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.25-48, 2021-12-15 (Released:2022-01-07)
参考文献数
30

大衆組織は,ベトナムの独立達成の過程において重要な役割を果たし,以後,情勢の変化に応じてさまざまに異なる任務を与えられてきた。しかしながら,いずれの時期においても,大衆組織が社会主義政治システムの基本的な構成要素であり,そのさまざまな活動を通じて共産党一党独裁体制を支えていることに変わりはない。革命や戦争,生産活動などのための大衆動員の必要性が低下したドイモイ期においては,大衆組織は,その構成員の利益を代表したり,構成員の間の相互扶助を促進するなど,一定の民主的ないし開発上の役割を果たすようになっている。このように構成員にとって有用な活動を行うことにより大衆組織は彼らの忠誠心を確保し,党の路線の伝達や当局への情報提供などの伝統的な役割を効果的に果たすことで,政治体制の安定性向上に貢献することが期待されているのである。本稿は,ベトナムで最多の構成員を擁し,最も活動的な大衆組織であるといわれる女性連合に焦点を当てる。その草の根レベルの組織・活動の実態調査を手掛かりとして,女性連合が日常的に多様な任務を遂行していることを示し,ベトナムの社会主義政治体制の安定性に貢献するその能力や直面する課題についての若干の評価を行う。
著者
石灘 早紀
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.33-60, 2022-12-15 (Released:2022-12-26)
参考文献数
43

インフォーマル経済は多くの国ぐにで,当局から黙認あるいは容認されながら行われてきた。一方,それとは異なるあり方も存在している。本稿では,当局がインフォーマル経済に対して人道的観点から規制を行うことが,従事者にどのような影響を与えるかについて,スペイン領セウタとモロッコの国境地帯で行われていた「密輸」の事例をもとに考察する。「密輸」は,関税を支払わずにセウタからモロッコに商品を持ち込むものであるが,当局が事実上管理し,従事者の労働環境の改善を目指した規制を行ってきた。このような規制が従事者に及ぼす影響を,越境者やジェンダーの視点も取り入れながら論じる。本稿は,人道的観点からなされた規制が従事者の収入を減らし,従事者をより周辺的な経済活動に追いやるという再周辺化を引き起こしたことを明らかにした。そのような再周辺化の深刻度は,越境者や女性といった脆弱な属性をもつことにより増していた。
著者
宮川 慎司
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.28-60, 2020-09-15 (Released:2020-10-14)
参考文献数
50

途上国の貧困層は,生活の上で当局に認められないインフォーマルな活動を行うことが少なくない。本稿は,互いの苦境を理解するマニラ首都圏の貧困層自身が,なぜ2010年代半ばになって反インフォーマリティの規範をもつようになったかについて,スラム地域の「盗電」に関する調査から考察する。盗電を行う住民と行わない住民双方の論理から,盗電を許容しない規範が生じる理由を明らかにする。もとよりスラム住民は火災発生の恐れがある盗電に対して批判的な規範をもつ一方で,電力正規契約を得る障壁の高さから盗電を正当化していた。しかし近年の2つの法執行強化により,盗電は許容されなくなりつつある。第1に,技術的な取締りの導入により,盗電を取締られた住民が金銭的負担の不公平から盗電に対して批判を強めた。第2に,ドゥテルテ政権下における公的機関の行政手続き改善を背景に,正規契約を得る障壁低下の可能性が示され,盗電の正当化が難しくなった。
著者
五十嵐 隆幸
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.2-33, 2021

<p>1979年1月の米華断交後,米国が台湾関係法を制定したことで,国府は台湾の防衛に関して米国から一応の保障を得ることができた。だが同法は米華相互防衛条約と異なり,米国に台湾防衛の義務がなかった。そのため蔣経国は単独で台湾を防衛することを想定し,「大陸反攻」の態勢を保持していた国軍を「台湾防衛」型の軍隊に改編させた。また,同法に依って提供される「防御性」兵器も米国の判断で選択されるため,国府のニーズに合った兵器とは限らなかった。それゆえ国府は,「大陸反攻」のイデオロギーが色濃く残る大規模な陸軍兵力の削減によって経費を捻出し,兵器の自主開発・生産体制の構築と米国以外からの調達で軍近代化を進めた。米華相互防衛条約の失効という安全保障上最大の危機への対応を迫られた蔣経国は,実質的に「大陸反攻」の構想を「放棄」した。そして国軍は「攻守一体」の軍事戦略に基づく「大陸反攻」任務とのジレンマを抱えつつ,「台湾防衛」のための軍隊へと変貌していくのであった。</p>
著者
馬 欣欣 岩﨑 一郎
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.2-38, 2019

<p>共産党一党独裁制を維持する中国では,共産党員資格が,その保持者に賃金プレミアムをもたらすと論じられている。しかし,党員資格の賃金効果は,経済理論的に決して明確ではなく,その上,実証研究の成果も,肯定説と否定説が混在している。本稿は,先行研究のエビデンスの統合を介して,党員資格が賃金水準に及ぼす真の効果の特定を試みる。既存研究30点から抽出した332推定結果のメタ統合は,低位の水準ながらも,正の党員資格賃金効果の存在を示した。この結果は,公表バイアス及び真の効果の有無に関する検証結果によっても支持された。さらに文献間異質性のメタ回帰分析は,調査対象企業の所有形態,サーベイデータの種別,賃金変数の補足範囲や定義,推定期間及び推定量や制御変数の選択が,既存研究の実証成果に体系的な差異を生み出している可能性を強く示唆した。</p>
著者
加納 啓良
出版者
アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.68-92, 1981-05