著者
菅 靖子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.37-46, 2000-07-31

19世紀からポスターの芸術的要素は大衆の趣味向上に役立つことが指摘されてきたが, 両大戦間期イギリスの特徴はこれが実際に教育計画の一端を担ったことである。背景には, モダニズムこそが「良い趣味」, 「良いデサイン」であり, これを解する人が一般大衆の趣味を改善するよう働きかけなければならないとする, 芸術家やエリート層の理想主義的な文化二元論が存在した。当時のポスター芸術のパトロン達も, これと無関係ではなかった。本稿ではまずポスター芸術と趣味論, モダニズム論が当時どのように関連づけられていたかを明らかにし, 次にポスター芸術が児童, 社会を対象に趣味教育の道具として機能した例を具体的に検証する。これを通して, モダンからポストモダンへの過渡期を特徴づけるポスター芸術の存在意義を考察する。
著者
谷 誉志雄
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.41-50, 1999-01-31
被引用文献数
1

Notes on the Synthesis of Form以降のCh.アレグザンダーの形成論には大きな転換が認められる。本稿の考察では, この転換を形態の形成に関わる「言葉のモード」の転換という観点から跡づけることを試みた。Notes以後の実験と思索は, 15年後に刊行されたThe Timeless Way of Buildingの理論に集約されている。Notesでは言葉の合理的, 分析的な能力の最適化が追求された。The Timeless Way of Buildingでは, 空間に生じる諸関係を全体性をもつ関係態(パターン)として捉え, その表現媒体としての言葉の能力が開拓されている。パターンのような「流動性をもつ関係の場」を精確に表現できる言葉の能力は, その後の「ヴィジョン」の考えにも反映されている。「知的で分析的な言葉」と「全体性の媒体としての言葉」の対比に見られる形成言語のモードの多様性は, 形成における客観性の多元化を示唆していると考えられる。形態の形成に不可避的に関わる言葉の問題を研究する「形態論批判」構想に対して, アレグザンダーの研究は重要な課題を提起している。
著者
斎藤 共永
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.37-46, 2002-05-31
被引用文献数
1

本稿は、デジタル機器に求められる製品コンセプトのイノベーションは、どのようなデザインプロセスによって達成されるのかを具体的な開発事例をとおして、探ったものである。製品デザイン開発の担当者などへの取材から以下のような諸点が抽出できた。(1)非モノ特性に焦点をあてたデザイン目標の設定。(2)技術シーズ主導型や市場ニーズ主導型ではない、開発者のビジョン主導のデザインプロセス。(3)プロトタイピングによるデザイン目標の形成プロセス。(4)トップダウンとボトムアップによる双方向的なコンセプト形成過程。(5)開発関係者どうしの組織を超えた知のインタラクション。これらはいずれも公式的な組織構造に依存しているものではなく、関係者どうしの非公式的な相互作用のありかたによるものであり、創発的なデザインプロセスである。デジタルがキーになる機器デザインにおいて、イノベィティブなデザインを実現するためのプロセスとして創発性が重要なキーとなることが明らかになった。
著者
深澤 琴絵 植田 憲 朴 燦一 宮崎 清 樋口 孝之
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.47-56, 2007-11-30

本稿は、「風呂敷」の語が定着するようになる以前の飛鳥時代から平安時代初期にかけての「包み」の文化の様態、すなわち、「包み」の素材・仕立て方・「包むもの」と「包まれるもの」との関連などを、聖徳太子遺品、正倉院御物、古書などを通して調査・解析したものである。その結果、次の諸点が明らかになった。(1)日本における現存する最古の「包み」は、飛鳥時代の仏教合戦に用いられた聖徳太子遺品で、それが今日の「風呂敷」の原初形態といえる。(2)奈良時代には、さまざまな正倉院御物を保護するための「包み」が出現する。御物はまず「包み」に包まれ、その後、袋や櫃に入れられて保存された。租庸調の産物を利用して「包み」に仕立てたものや舶来品の布を用いて「包み」の制作がなされた。(3)奈良時代から平安時代にかけての「包み」の平均寸法は約1mである。また、「包み」の仕立て・寸法・使い方は、「包まれるもの」との関係性によって工夫されていた。(4)「包み」を表す漢字はすでにAD100年頃の『説文解字』にみられ、魂に活力を付与して再生する意味が込められて「包み」が使用されていた。(5)『延喜式』には、渤海国や新羅との交易に「包み」が積極的に用いられたことが記されている。
著者
玉垣 庸一
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.55-62, 2005-05-31

コンピュータ生成された様々な色立体を比較、評価する場としての色空間を構築する目的で、三色表色系にユークリッド計量を適用した。よく知られている適用例はマトリックスR--ユークリッド性の色光空間からその三次元部分空間のひとつである基本メタマ空間への正投影行列--であるが、基本メタマ空間に色立体を生成すると、等輝度面と斜めに交わる不自然な無彩色軸ができてしまう。その原因は等エネルギースペクトル単色光をアプリオリに正規直交基底としたことにある。本稿ではまず色光空間でアフィン投影を行う平行投影作用素を提案した。次に色光空間にユークリッド計量を導入し平行投影作用素の正投影行列表示を試みた。等エネルギースペクトル単色光とは別の正規直交基底を導入することによってマトリックスRおよび基本メタマ空間とは異なる新たな正投影行列と部分空間が得られ、無彩色軸と無輝面の直交化を達成することができた。
著者
玉垣 庸一
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.55-62, 2005
参考文献数
9

コンピュータ生成された様々な色立体を比較、評価する場としての色空間を構築する目的で、三色表色系にユークリッド計量を適用した。よく知られている適用例はマトリックスR--ユークリッド性の色光空間からその三次元部分空間のひとつである基本メタマ空間への正投影行列--であるが、基本メタマ空間に色立体を生成すると、等輝度面と斜めに交わる不自然な無彩色軸ができてしまう。その原因は等エネルギースペクトル単色光をアプリオリに正規直交基底としたことにある。本稿ではまず色光空間でアフィン投影を行う平行投影作用素を提案した。次に色光空間にユークリッド計量を導入し平行投影作用素の正投影行列表示を試みた。等エネルギースペクトル単色光とは別の正規直交基底を導入することによってマトリックスRおよび基本メタマ空間とは異なる新たな正投影行列と部分空間が得られ、無彩色軸と無輝面の直交化を達成することができた。
著者
金 明蘭 樋口 孝之 宮崎 清
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.59-68, 2006-05-31

韓国では1990年から地域の象徴通りとして「文化通り」での整備が進んでいる。本研究では、「文化通り」の街路空間特性の考察、ならびに、完工済みである「文化通り」の現地調査と自治体管理者へのインタビュー調査から舗装面の物理的形態と通りの利用特性について解析を行い、「文化通り」のフットスケープデザインについて総合的な考察を行った。現状では、ローリング工法であるアスファルト舗装と経済的なセメントブロック舗装が大部分を占めており、歩車共存、施工の容易性、経済性が優先されている。美的配慮や地域特性の表現、環境親和へ配慮がなされたフットスケープデザインは少ない。一方で、「文化通り」は地域の要所に設定され人通りも多く、半数の箇所でイベントも開かれていることが確認された。「文化通り」のフットスケープデザインおいては地域のアイデンティティの表現が強く求められ、ブロック舗装をはじめとした多様なパターン展開を容易とする舗装を積極的に活用することが有効である。
著者
阿部 眞理
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.35-44, 2005-03-31
被引用文献数
1

これまでの圧縮木材に関する研究では、家具・建具及び内装用部材へ適用する際に必要となるスギ圧縮材の力学的特性および視覚、触覚といった感覚特性について他の木材と比較し、その位置づけを行った。そのいずれにおいても硬い広葉樹材と同等の特性を保有する結果となったことから、本稿では、家具・建具及び内装用部材へのスギ圧縮材の適用方法を検討した。その結果、スギ圧縮材を無垢で使用するだけでなく、その突き板単板による木質材の製作が可能であることを確認した。そこで、これらによる学校用および家庭用家具、室内用ドア、床材、成形合板による家具及びシロフォンの試作を行った。その結果、スギ圧縮材およびその突き板単板による木質材は、従来の木製品に対する製作技術と同等に扱うことが出来、仕上がりも遜色ない製品の製作が可能であるといった結果を得た。このことから、スギ圧縮材は、高品質の新たな木材料として期待できることが明らかとなった。