著者
庄子 晃子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.59-68, 1997-09-30
被引用文献数
2

ブルーノ・タウト(Bruno Taut、1880-1938)は、仙台の商工省工芸指導所顧問の職を辞して去る最後の日の1934年3月6日の日記に、「指導所の展覧会について更に一つの案を立てる、新しい方向の特徴をはっきりさせるためである」と記している。幸いにその文書"Vorschlag fur Ausstellungen von Kogeishidosho(工芸指導所の展覧会のための提案)"が今日に残る。その中で、タウトは、展覧会場内を三重の同心円状にレイアウトし、中心部に工芸指導所顧問として自ら収集した日本の伝統的優良工芸品を、その周りにタウト指導の照明具と家具の規範原型のための形態研究やデザインスケッチ等と製作が完了しているテストチェア、さらにはタウト設計でやはり製作が終わっているドア・ハンドルを、そして、部屋の周辺の壁沿いには工芸指導所の従来からの試作品を展示することを提案している。それは、工芸指導所が、タウトの指導を受けて、日本の伝統と西洋の近代の統合を基礎として、新しい日本の産業工芸を成立させるための作業を開始したことを示す展覧会の提案であった。
著者
石村 真一
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.37-46, 1997-01-31

木材資源の枯渇化が心配される今日において, 木材を極めて有効に使用した桶・樽の造形文化が再考されることは, 木と人の共生という先進文明社会が直面している問題の解決につながる糸口になると思われる。本論はその第1報として, 我が国における桶の成立時期と初期形態について考察した。その結果次のような内容が明らかになった。従来桶と推定されていた容器の多くは, 縦方向に補強を施した曲物であった可能性が高い。我が国における桶の初見資料は『北野天神縁起弘安本』と推定される。桶は中国から伝来し, 少なくとも鎌倉中期以前に製作技術が成立している。そして畿内においては鎌倉後期に特権階級の間で普及した。桶の初期形態は, 白木で加飾性の少ないタイプであったことが確認された。
著者
増成 和敏 石村 眞一
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.27-36, 2010-01-31

本論は,家具調テレビのデザイン成立過程を明らかにすることを目的として,家具調テレビ「嵯峨」に関し,主として文献史料とヒアリング調査より,以下の内容を明らかにした。1)「嵯峨」は,北欧デザインに影響されたが,同様に影響を受けた米国のテレビ受像機の模倣ではない。2)松下電器デザイン部門は,海外のデザイン情報を取り入れ,日本独自のデザイン開発を推進できる状況にあった。3)「嵯峨」のデザインは,ステレオ「宴」に影響され,「宴」は,ステレオ「飛鳥」に影響されている。4)「飛鳥」は,日本調を狙ってデザインされたのではなく,宣伝によって「校倉造り」の造形イメージが付けられた。5)「嵯峨」の形態特徴3要素を具備した最初の意匠出願は,三洋電機からであった。
著者
文 皓琳
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.55-64, 2008-07-31

本研究は,ユニバーサルデザインの観点から「障害者」の言葉に対するイメージに関して,日本における「障害者」という用語が使われた歴史的背景を調査し,文献調査とインターネット検索を通じて日本と韓国で障害者に対する表記の例を調査した。次に,アンケート調査を通して,日本人と韓国人にとって「障害者」の字に対するイメージを分析した。その結果,日本では「害」の字に対する悪いイメージがあることにより,障害者に対する表記が多様であった。韓国の場合は,障害者を「障碍人」で表記し,「障害者」の言葉に対する抵抗感が強く,その表記は日本のようには多くなかった。また,「障害者」の字に対する悪いイメージ及び抵抗感は日本人と韓国人に認識の差があることが分かった。日本人の47%の人が「障害者」の字に悪いイメージがあると答えたが,「障害」と「障碍」を使う韓国人の場合は92%であった。「害」の語句に対する意識は,両国においては大きな差がみられることが理解できる。
著者
吉田 美穗子
出版者
Japanese Society for the Science of Design
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.101-106, 2012-03-31

写真から喚起される時間印象が,境界拡張の生起に及ぼす影響を検討した。実験1では,写真から喚起される時間印象を調査するために,30枚の写真について 20個の形容語による評定が行われた。この結果,無時間・持続・変化の3種類の時間印象が写真によって喚起されることが示唆された。実験2では,実験1の結果に基づいて統制された刺激を 15枚用いて,3つの時間印象を喚起させる写真における境界拡張の程度を評定課題により測定した。その結果,時間印象が境界拡張関連することが示され,無時間の時間印象を喚起させる写真では,持続・変化の時間印象を喚起させる写真よりも境界拡張の程度が少ないという関係性が示唆された。これは,時間的な拡がりの豊富さと大きな空間的拡がりが相関すると解釈された。これらの結果から,写真の喚起する空間的拡がりと時間的拡がりの関係性の一端が実験的に明らかにされた。
著者
吉田 美穗子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.73-78, 2008-01-31
被引用文献数
1

古い時代、人間が創造した建築物に文様を刻むとき、何らかのメッセージを込めたはずである。それは、建築物に住む側の人間にとって、子々孫々に至るまで生命が永遠に続き、さらにその繁栄を約束するような、そのような祈願を反映した呪術的なものを制作したであろうとの確信から、古建築における植物文様の意匠をCADにより対数螺旋を用いて合成し、再現した。古建築の植物文様において、対数螺旋は植物そのものを表現したり、または単純化されたパターンとなって繰り返したり、渦を巻いたり、植物文様の余白を埋めたりと、リズミカルに見え隠れし、永遠の生命を演出していた。それは見るものに華やかさを与え、植物文様を神聖視させ、永遠に見守られているという信念を抱かせるのに効果的なデザイン要素として、現代に至るまで引継がれ使用されているものであった。
著者
大野 森太郎 金田 幸裕 原田 利宣
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.6_61-6_68, 2016

近年のタブレット端末の普及により,様々なアイコンを目にする機会が増えている.しかし,ユーザの認知過程や嗜好性の違いによりアイコンの理解度や魅力度は異なる.そこで,本研究では,ラフ集合理論を用いたアイコンの魅力度および分かりやすさの分析を目的とした.具体的には,まず,既存アイコンの魅力度と分かりやすさについて調査実験を行い,アイコンを構成する形態要素(属性値)を抽出した.次に,その属性値がどのように魅力度や分かりやすさに影響しているかを明らかにするため,ラフ集合理論を用いて各被験者の決定ルールを求めた.また,決定ルールから各被験者間の共起率を算出し,クラスター分析を用いて被験者を分類した.さらに,各クラスターが魅力的,もしくは分かりやすいと感じる属性値を抽出した.さらに,各クラスターに対応したサンプルアイコンを制作し,その属性値の有効性の検証を行った.
著者
伊藤 孝紀 松岡 弘樹 田中 恵
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.6_51-6_60, 2016-03-31 (Released:2016-05-30)
参考文献数
22

本研究は,名古屋テレビ塔を対象として,展望台の空間特性と活用の可能性を明らかとすることを目的とする。 名古屋テレビ塔における展望台と1Fの関係を把握するために来場者数調査をおこない,名古屋テレビ塔に対する来場者の意識を把握するために意識調査をおこなった。さらに,展望台来場者の滞留の特徴を把握するために滞留調査をおこない,意識調査と滞留調査の双方から空間特性の分析をおこなった。 来場者数調査から,展望台および1F外部のイベント実施の有無により,展望台来場者数に変化がみられないことを把握した。意識調査から,展望台来場者が展望台に求める新たな機能やイベントコンテンツに加え,1Fでの展望台情報の必要性や効果的な発信方法,展望台の空間評価を把握した。滞留調査から,景色に加え,設置物の配置や種類が,展望台来場者の滞留位置や滞留時間に影響を与えることを把握した。 以上より,名古屋テレビ塔における展望台の空間特性を把握し,展望台活用における新たな指針を示した。
著者
坂本 久子 川上 秀人 松岡 高弘
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.53-62, 1998-09-30

本稿は, 19世紀後半のアメリカでの熱狂的日本流行のはじまりといわれるフィラデルフィア万国博覧会(1876年)の日本の出品物について明らかにするため, 本館における日本の展示を, 今日に残る写真をもとにして考察したものである。その結果, 「米国博覧会報告書 日本出品目録 貮」に付図された「米国費府博覧会本館内日本列品区畫図」は, 写真に見える範囲において, 出品物の配置, 出品物名, 出品人名を, ほぼ正確に伝えていることが分かった。このことにより, 部分的ではあるが, 出品物と会場構成との関係が明らかになり, それとともに, 一部の写真の出品物について類推できた。また, 写真と類似の挿絵を掲載した当時の出版物の記述内容や出品目録の記述内容を考察することにより, アメリカの人々の日本の出品物への受け止め方, アメリカでのアール・ヌーヴォーとの関連, そして, ウィーン万国博覧会(1873年)との関連が明らかになった。
著者
土居 加奈子 足立 啓 田中 千歳
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.65-72, 2007-07-31

本研究は、認知症高齢者グループホームの一般型と言われるリビングを中心に居室がとり囲む「ホール型」平面構成と、共用空間の選択肢が多い「非ホール型」平面構成の違いに着目し、行動観察調査やPEAP評価などを通じた、比較・評価を行った。「ホール型」では、家具などを配置しているが、居場所の選択肢は限定的で、偏りがみられた。また空間内に間仕切りがないため、職員は入居者を見守り易い反面、直接の目線を嫌う入居者への配慮は十分とはいえない傾向がみられた。一方、「非ホール型」では、見え隠れするような平面計画の場合は多様な居場所を提供することができるため、入居者のプライバシーや落ち着きが保たれ、より個別的な対応が可能であった。また、居場所の選択肢が増加するに伴い、そこでの生活行為も多岐にわたることが伺えた。一般に見守りが困難と考えがちな「非ホール型」であっても、見え隠れするような空間づくりをすることによって、個別的空間を提供し、入居者により良いケア環境を提供できる空間デザインの可能性が示唆された。
著者
宮内 [サトシ]
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1991, no.83, pp.43-50, 1991

本稿は,家具の基本形態の一つである櫃を対象に,デザインと技術のかかわりについて検討したものである。その結果,次の諸点を明らかにした。1.時代をさかのぼるほど,選択できる技術の幅が狭く,実現された形態も使い方も限定的で,デザインと技術の結びつきは強い。2.技術の目標とされたものは,大型化,気密化,優美化,堅牢化,防水処理,規格化などである。それらの実現のために板の矧ぎ合わせや接合方法の精妙化,強度の発揮と軽量化,量産性などが追求された。軍用では,化学的・組織的な技術開発が行われた。3.広義のデザインと木工技術とのかかわりは,技術の発展にともなう櫃の普及,生活への浸透があげられる。一方,中国の柩には古い櫃の製作方法が継承されている。4.I960年代の後半から,フォークリフトなどの機械力による荷役を基盤とした陸・海・空一貫の輸送システムが出現する。その結果,人力による運搬を前提とした櫃の開発は終焉する。
著者
佐賀 一郎
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.53-62, 2009-07-31

明治初期に登場した近代的新聞は,1869(明治2)年から1870(明治3)年にかけてに上海美華書館からもたらされた活版印刷技術の技術的発達を牽引した。本稿では,近代的日刊新聞としてはじめて鉛活字を全面的に使用した『東京日日新聞』(1872〔明治5〕年2月21日創刊)を対象にその内容と意義を検討する。『東京日日新聞』の創業者らは,近代的新聞の発行の条件のひとつに活版印刷を数え,上海美華書館から輸入した五号相当の鉛活字を使用したが,必要字種の不足,活字の形状の問題等によって,ごく短期間で頓挫した。本稿では同紙の印刷面を確認し,その内容と,この経験が後にどのような影響を与えたのかを検討する。上海美華書館の印刷技師からもたらされた外来技術である活版印刷技術は,特に草創期においては,これをいかにして実地に利用するかが問題とされていた。短期間に終わったとはいえ,『東京日日新聞』において行われた鉛活字の使用は,競合紙と同様の自家印刷環境の整備を促しただけでなく,後に多くの新聞が追随して使用した五号活字を基準とした紙面体裁の整備を促した。
著者
上西園 武良 薬袋 賢一 岡田 明
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.83-88, 2008-07-31

温水洗浄便座の洗浄強さ感に関して,目標とすべき範囲をいかに設計値へ変換するかについて検討した。変換に当っては,従来よりも汎用性のある手法となることを目指し,感覚強度を生じさせる物理量を仲介する方法を採用した。具体的には以下のようにして官能値(洗浄強さ感)を設計値に変換した。まず,官能値の定量化のため8名の被験者にて洗浄強さ感の比例尺度を構成した。次に,噴流の衝突力を測定し,洗浄強さ感との間に高い相関を見出し,官能値と物理量を相関付けた。さらに,61名の被験者による強さ感の使用範囲調査により大多数のヒトに適合できる範囲を推定し,物理量の範囲に変換した。最後に衝突力に関する物理モデルによって,物理量を設計値に変換した。
著者
伊藤 恵士 桐谷 佳恵 小原 康裕 玉垣 庸一 宮崎 紀郎
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.19-26, 2007
被引用文献数
6 2

商品購入時のパッケージデザインの重要性をふまえ、ユーザ印象を考慮した日本酒のラベルデザインのあり方を検討するための基礎資料として、日本酒のパッケージの印象評価を行った。まず、13色の瓶の印象評価及び因子分析を行い、ユーザが瓶色に対して何らかのイメージを抱く事を確認した。次に、現行ラベルデザイン14種を6色の瓶と組み合わせ、それらの印象を評価させた。その結果、熟成感、濃淡感、嗜好性の因子が抽出された。ラベル自体の熟成感には色(彩度)、濃淡感には色(色相)と用いられるグラフィックの量、嗜好性には高級感を演出する金などの色や誘目性の高いレイアウトが効果的であることがわかった。そしてラベルの印象は、それが貼られる瓶の色によって大きく変化した。特に嗜好性は、瓶とラベルに使用されている色の統一感、色相差、明度差、色数によって大きく変わった。
著者
永井 由佳里 野口 尚孝
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.185-194, 2001-11-30
被引用文献数
11

デザインの創造的な思考過程を言葉から形への変換過程と考えた場合, デザイン目標として与えられたキーワードによってどのように思考モードが異なるかを知るため, 約80人の被験者に実験をおこなった.まず形への変換の難易度が異なる二種類の言葉からそれらに相応しい花瓶の形を考えさせる課題を課した.その結果, 形に結びつきにくい言葉の場合はキーワードから連想できる具体的な事実や対象を描くことから花瓶の形を考える傾向があることがわかった.次に「悲しい気持ちにさせる」というキーワードに相応しい椅子の形を考えさせた.その結果, 形に結びつきにくい言葉の場合, ドローイングの過程でキーワードから思い浮かべられる人間の姿勢やものの状態などを媒介にして, 言葉の意味を形に近いレベルにまで構造化し, 椅子の形に結びつけていることがわかった.以上から, デザイン思考過程における思考の抽象度をデザイン目標から形としてのデザインの創出までの距離として考えれば, この距離が長いほど思考の努力が必要であり, その過程でのドローイングの役割も大きいことが推測できた.
著者
郭 全生 宮崎 清 植田 憲
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.103-112, 2009-03-31
被引用文献数
1

本稿は、現地調査・文献調査を通して、洛陽地域南石山村における唐三彩工芸の生成から今日までの変遷を分析するとともに、唐三彩工芸を支えた職人たちの実像を明らかにしたものである。以下が判明した。(1)南石山村の唐三彩は、19世紀末の鉄道敷設工事の際に〓山で出土した唐三彩を、高氏族が瑠璃瓦焼成技術を活かして修復したのが起源である。職人たちは、墳墓から本物の唐三彩を盗掘し、その修繕ならびに複製を手がけるようになった。(2)南石山村の唐三彩職人たちは、唐三彩焼成技術を身につけたばかりか、漢代や北魏時代の出土品をも複製・鑑定した。(3)南石山村における唐三彩職人は、「家族伝授」ならびに「合作社伝授」の形態で、師徒制に基づく技術伝承を行ってきた。(4)「文化大革命」「改革開放」「計画生育」などの時代の潮流の中で、職人に対する歴史的・社会的侮蔑も相まって、村民の都市志向が急速に高まり、今日の南石山村唐三彩工芸文化は質的低下と後継者の激減に遭遇している。
著者
宮崎 紀郎 渡部 良 樋口 孝之
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究
巻号頁・発行日
vol.1988, no.64, pp.37-44, 1988

本稿は,洗濯機購入者に対するアンケート調査から,その買いもの行動におけるコミュニケーション媒体の影響をみたものである。数量化理論III類を用いたアンケート結果の分析から,次のことが明らかになった。1.買いもの行動を類型化する基準の第一は「広告への接触度合い」である。ついで「洗濯に対する考え方」,「買い方の特徴」となっている。2.被験者の買いもの行動のタイプとして,(1)合理派,(2)ひいき派,(3)無関心派,(4)経済派,(5)計画派,(6)デザイン派,(7)シンプル派が認められる。3.コミュニケーション媒体の影響としては,上記(5)計画派におけるカタログと,(6)デザイン派におけるテレビCM,新聞広告などマスコミュニケーション媒体による広告の関連がとりわけ大きい。
著者
西口 真也 三上 訓顯
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.85-94, 2011-05-31

本稿は、社会背景の変化に伴い、ブランドに対する評価が変わってきているのではないかという仮説に基づいている。そこで、ブランドを取り巻く状況の変化が最もよく反映されてきたと思われる「ゆとり世代」に注目し、彼らのブランド評価について調査を実施した。本稿では、特に企業ブランドを取り上げ、42の企業ブランドの統合力について、ゆとり世代の20代の大学生を対象とした質問票調査を実施した。その結果を用いて、加重得点順位を導出し、各世代を対象とした「日経企業イメージ調査2009年調査」の中の企業認知度順位との比較、検討を試みた。この結果から、ゆとり世代で支持の高い企業ブランド群を明らかにできたことから、それらを「ニューエイジで支持の高い企業ブランド」と定義し、これらの企業ブランド群のデザイン開発過程の特徴、ゆとり世代と他の世代との構造的な関係性や特徴に着目していく必要性を指摘している。
著者
宮内 [サトシ]
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
no.80, pp.59-66, 1990-07-31
被引用文献数
1

本稿は,島根半島の突端にある美保神社において各種の祭儀に用いられている特異な屋根型の蓋をそなえた辛櫃について論考したものである。その結果,筆者は次の諸点を明らかにした。(1)四つの形式の辛櫃があり,細部の構造は異なるが,屋根型の蓋,格子組,内箱という構成において一致していることを指摘した。(2)同様な構成をもつ茶弁当,具足櫃,長持など数点の伝世品を提示,近世の絵画・文献資料にも記録されていることを確認した。(3)第1の特徴である屋根型の蓋は,近世の参勤交代などにより発達した全天候型の装置であり,格子組は内箱を保護することはもとより,みだりに手を触れることを拒否する一種の結界であり,きわめて丁寧な運搬方法のための用具であることを指摘した。(4)美保神社の辛櫃の諸特徴は,近世において発達した運搬具類との高い類似性が認められる。切妻型の屋根や格子は高温多湿のわが国の風土の中で生まれた建築的語彙であり,美保神社の辛櫃は,建築が家具に影響を与えた1列であることを指摘した。