著者
和田 精二 大谷 毅
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.37-46, 2005-01-31 (Released:2017-07-19)
参考文献数
26

1951(昭和26)年の松下幸之助の米国視察を機にわが国初の企業内デザイン部門が松下電器産業に設立されたこと, 帰国早々「これからはデザインの時代」と彼が語ったこと, 真野善一が初代課長として採用されたこと等はデザイン界ではよく知られた事実である。しかし, どのような経営的な視点からデザイン部門設立を決定したか等についてはあまり詳しく知られていない。本研究において, 幸之助という希代の経営者の米国視察等に関わる関連情報を調査することで, デザインがビジネスに極めて大きく関わり, 製品の価格をデザインでコントロールできると喝破した, その幸之助の経営的な先見性を確認できた。同時に, 工芸指導所や少数の企業にデザイン活動がすでに始動していた事実も確認できた。
著者
林 品章
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.5_75-5_84, 2002-01-31 (Released:2017-11-08)
参考文献数
39

「台湾戦後の視覚伝達デザイン表現の発展」は、時期により二部に分けられる。前編は1945年から1970年まで、後編は1970年から1970年までである。本論文は前編である。本研究は、台湾の戦後の視覚伝達デザインに関連するさまざまなデザイン活動と表現の様相を系統的に歴史の骨組みとして整理することを目的とする。内容構成としては、台湾のデザイン学界と業界共通の認識に従い「ポスター」「挿画(イラスト)」「商標と標誌(ロゴ)」「パッケージデザイン」「広告デザイン」の五つの項目に分けた。 研究の結果は次のようにまとめられる。(1)台湾の戦後は政治的影響を受け、視覚伝達デザインの表現も保守的な傾向が見られる。(2) 1960年以降、政治経済が安定するに従い、また政府関係機関と民間企業の仲立ちもあって、日本や西欧から現代デザインの理念が大量に持ち込まれた。デザイナーらの積極的活動と相まって、デザイン表現も高度かつ専門的水準に達するようになった。
著者
宮崎 清 青木 弘行 田中 みなみ
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.72, pp.67-74, 1989-03-31 (Released:2017-07-25)

本小論は、「伝統的工芸品・椀の意匠に関する研究(1)」に続いて、日本における椀の発生と歴史的発展過程に注目し、室町時代までの椀の造形的展開について、遺跡資料および絵画史料を手がかりとして、観察と解析を行ったものである。その結果、筆者は次の諸点を明らかにした。(1)日本における漆塗椀の原型は縄文時代に誕生し、弥生時代の轆轤技術、鉄器の導入を経て、挽物としての基本的な椀の制作技術がほぼ完成された。(2)飛鳥・奈良・平安時代には、大陸の食様式の導入ならびに主食副食分離の発展と対応してさまざまな形状の椀が制作され、現代の椀の造形文化がほぼ形成された。(3)鎌倉・室町時代に入ると、漆の塗分けや漆絵などの装飾技術が発達し、椀形状のバリエーションも一層豊かになった。桃山時代には、大陸の造形文化から独立した、日本固有の椀の造形文化が確立された。
著者
内藤 裕子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.61, pp.5-12, 1987-07-31 (Released:2017-07-25)

本稿は,近隣住宅地および周辺街路においての子供の遊び行為をフィールド・サーベイし,遊びに利用される空間およびモノの使われ方の現状を明らかにするものである。ここでは,抽出した空間およびモノを,空間形状,装置,素材,雰囲気の四種の評価項目に分類し,考察を加えた。空間形状においては,多くの遊びが,街路と小広場を複合的に使って,遊びを成り立たせている。装置は,遊びのきっかけとなり,遊び行為を誘発させ,遊び行為を介助する道具的役割を担い,遊び方を変化させる。素材は,遊び行為を助け,内容に魅力を与える。素材そのものがあって初めて成り立つ遊びもある。雰囲気は,想像力を高め遊び全体の内容を盛りたてる。さらに,街路を中心とした上記の要因の複合的使われ方により,遊び行為の活性化が生じることが観察された。よって,子供の遊びにとっては,近隣住宅地および周辺街路が重要な場となっていると言える。
著者
日野 永一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1968, no.7, pp.15-26, 1968-03-25 (Released:2017-07-25)

I Purpose What physical element is man's sensory judgement affected by, on axis of "simplicity-complication" in plane figures?. This study aims to make the functional relation clear and at the same time put the scale to practical use. II Method (1) On a card of 15×15cm, random figures of equal area are made used with table of random numders. (2) Judgement of "simplicity-complication" is made by ranking method used with 26 sheet of card. Subject are 60 students of high school. (3) Rank value "ri" of stimulus "i" is compared with other stimuli when it is calculated. Result and conclusion (1) Sensory judgement of figure's complication is proportioned to logarithm of peripheral length per area of this figure. (2) The following regression equation comes from the experiment. y=1.6 log l/S-0.908 The coefficient of correlation is r=+0.988 (3) The "scale of complication" is made using the upper equation. It has an origin at circle and 1 at square. This unit is named "Comp.". An equation of change is as follows. C=(log li-log 2√<πS_0>)/(log 2-log √<π>) C: Complication li: peripheral length S_0: Standard area of figure (4) 1 Comp. ought to be an interval of unit on this scale judging from man's ability of difference threshold. (5) The "scale of complication" is put to practical use on the basis of this study.
著者
石 磊 張 〓 山中 敏正 原田 昭
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.21-28, 2007-01-31 (Released:2017-07-11)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本研究は快適な運転を実現するため、運転中のドライバーの感性的な評価を脳前頭部α波ゆらぎリズムによって測定し、ドライバーの感じ方と車両運動特性の相関性を解明することを目指した。特に車両曲線運動におけるドライバーの感じ方を考察の中心とした。走行実験としては、被験者に180°コーナリングの設定コースを実車で走行させた。走行中収録した被験者の前頭葉α波をHSK中枢リズムモニタースリムの出力モデルに基づき、ドライバーの快適感を「気分と覚醒感」の二軸に評価し、車両挙動指標との関連性を解析した。本研究は脳波の計測と解析による、人間の製品に対する感情など主観的な体験を客観化して評価するアプローチである。ユーザの心理活動に随伴する生理反応を利用し、人工物を客観的に評価する試みはある程度検証できた。
著者
和田 精二 大谷 毅
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.47-54, 2005-01-31 (Released:2017-07-19)
参考文献数
9

本研究は, インハウスデザイン組織をMOD(Management of Design)の視点から考察することを目的としている。これまでの研究により, 松下電器産業のデザイン部門が, 松下幸之助のデザインに対する強い期待によって超短期間に設立されたこと, 課長としてスカウトされた真野善一による松下幸之助の意志の具現化に向けた努力により組織の強化と拡大が達成されたことが理解できた。本稿においては, 松下電器とは対照的に, 総合電機メー力一である三菱電機のデザイン部門設立が, 代々の経営幹部が時間をかけた基盤づくりを行った後, 20年の時間をかけ, 約15人のデザイナーによる地道な努力の結果として達成されたことが理解できた。
著者
玉垣 庸一 宮崎 紀郎 小原 康裕
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.9-18, 2007-09-30 (Released:2017-07-11)
参考文献数
15

よく知られた伝統的なカラーオーダーシステムの一つであるオストワルトシステムは一般に混色系として分類されている。しかし本稿では、対数変換によって明るさ尺度の等歩度性(知覚的均等性)を獲得していることからオストワルトシステムは混色系と顕色系の両側面を兼ね備えたカラーシステムであると考えた。そして、CG生まれのカラーシステムの1つであるHSVカラーモデルを混色系と見なし、オストワルトシステムとの関連性を究明した。混色系の表色値としてRGB値が測色的に定義されているとき、HSVカラーモデルのSパラメータとVパラメータがそれぞれ対数変換前の混色的なオストワルト等色相三角形における純度、鮮明度に対応することを明らかにし、色ベクトル空間に展開されたHSVカラーモデルの等色相三角形は対数変換前の混色的なオストワルト等色相三角形と構造的に一致することを示した。
著者
王 海冬 宮崎 清 植田 憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.45-54, 2008-09-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
9
被引用文献数
1

中国の少数民族のひとつであるオロチョン族は、狩猟を生業とした移住生活のなかで、きわめて特徴的な生活文化を形成してきた。なかでも、白樺の樹皮である「樺皮」を材料としたさまざまな生活用具には、彼らが長い歴史のなかで培ってきた生活の知恵が豊かに内包されている。本稿では、伝統的な樺皮活用品に関する資料の収集に基づき、機能による分類を行い、形状、材料、作り方、内容物の相互関係から、伝統的な「樺皮」を用いたものづくりの意匠特質を考察し、以下の特質を導出した。(1)白樺を不必要に伐採しないことや枯らさないための掟が遵守されており、樺皮活用品にはオロチョン族の自然と人間の「共存」「共生」を願う生活哲学・生活文化が表出している。(2)日常生活用の樺皮活用品は使い方と機能により「住」「行」「遊」「食」「衣」「業(狩猟)」「業(採集)」「神」の8つに分類される。共通する特徴は、「変形しない」「割れない」「防湿性が高い」「軽量である」「耐久性が高い」などである。(3)樺皮活用品は単に日常生活に必要で欠かせないものであるのみならず、それにはオロチョン族の人びとの審美意織や生活理念、信仰などの諸側面における象徴的意味が包含されている。
著者
趙 英玉 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.35-44, 2000-09-30 (Released:2017-07-21)
参考文献数
44
被引用文献数
2

満州族の支配下におかれた清時代には、漢民族の被服文化に大きな変容が生じた。本研究では、清時代に書かれた小説『紅楼夢』にみられる被服の記述を抽出し、清代民族文化の出会いによる新しい文化創生の物語を、被服形態と着衣観念の側面から考察した。1)被服形態における特徴 : 外出服には満州族の被服がそのまま導入されているのに対し、在宅服には満州族の被服をそのまま導入する場合と、丈が短い上衣やほっそりとした仕立ての上衣など満州族の被服特質の一部を取り入れた新しい被服が着装される場合とがある。2)着衣観念における特徴 : 漢民族の古代思想は、陰陽観念をその基本に据え、被服においても陰陽の両面から解釈された。たとえば、上衣は「〓」より高貴な存在とみなされ、貴族は「〓」を露出せず、下着としてのみ着用した。しかし、『紅楼夢』には、「〓」を表に着用する場面が数ヶ所に現われる。このことは、清代中期における漢民族の衣生活にあっては、陰陽の観念に基づいた儒教観念の影響が薄らぎ、新しい被服文化が創生されつつあることを意味している。
著者
庄子 晃子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.55-64, 1998-05-31 (Released:2017-07-21)
参考文献数
12
被引用文献数
1

ブルーノ・タウト(Bruno Taut, 1880-1938) は, 仙台の商工省工芸指導所で, 1933年11月11日から1934年3月6日まで顧問(嘱託)として指導に当たった。この間の1933年12月15日から2か月弱, タウトは, 東京や京阪地区の伝統ある工房で工芸指導所に適切な工芸品を選択するための旅に出た。その旅先の京都から, 所員斎藤信治に宛てた2通の手紙が今日に残る。それは, 1934年1月8日付の"Brief des Herrn Prof. Taut an den Herrn Saito (タウト教授氏から斎藤氏への手紙)"と, 1934年1月12日付の "Brief an den Harrn Saito (斎藤氏への手紙)" である。翻訳を試みたところ, 前者は斎藤からの手紙に対する返書であり, 工芸指導所の金工部と木工部での規範原型の研究についての助言と工房探訪の若干の報告であることがわかった。後者は, 諸工房の訪問についての詳しい報告であり, タウトが選んだ優良工芸品の数々が記されている。彼が, 伝統ある工房で優良工芸品を選択し収集したのは, 現代の新しい規範原型を創出する基礎は伝統にあることを示すためであったといえる。
著者
藤田 伸
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.21-30, 2006-09-30 (Released:2017-07-11)
参考文献数
30

本研究は、"17種のウォールペーパー・パターン"という数学のトピックスを、デザインの課題として取りあつかったものである。このトピックスを説明するにあたり、数学者たちはそれぞれの17図版を提示しているが、それらは数学を学ぶ者を対象に描かれたもので、デザイナーが模様を手がける際の手引きとはなりがたい。"17種のウォールペーパー・パターン"をデザインの世界で役立てるためには、数学者ではなくデザイナーによって描かれた17図版が望ましい。本研究では、デザイナーの創作に直接役立つ17図版の考案をこころみた。図版考案に際しては、今から100年以上前に『パターン・デザイン』をあらわしたルイス・デイより、図版における創作姿勢を見習った。本研究では17図版それぞれに、(1)ひとつのモチーフでの展開例、(2)複数のモチーフでの展開例、さらに(3)アルファベット文字をもちいた展開例をしめすことができた。
著者
朝倉 直巳
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1983, no.43, pp.15-26, 1983-09-20 (Released:2017-07-25)

In contemporary art and design, one of the most important problems is the in-depth study of its fundamentals, along with the unification of various genres within the field. "Kohsei" is the specialized study of the above mentioned problems. To explain the principles and aims of Kohsei, it will be best to compare it with the basic sciences in the field of natural science. In the developing sciences, the special subject of study becomes fractionalized into many independent genres. So, unification is now needed for the contemporary sciences. Recently, we have come to have new specialities included in the unification of sciences such as basic medicine and engineering sciences. Such specialities are for studying common, basic and important problems in each field. In medicine, for example, internal medicine, surgery, otolaryngology, ophthalmology, etc. belong to clinical medicine. Basic medicine is the science which studies common, basic and important problems in each genre of clinical medicine. In the field of basic medicine, there is anatomy, pharmacology, biochemistry, pathology and so forth. Medical science will develop truly by studies of both basic and clinical medicine. Well, what is equivalent to basic sciences (basic medicine, engineering sciences, etc.)? I want to name it "basic art and design". Basic art and design should be the genre dealing with common, basic and important problems in art (painting, sculpture, etc.) and design (visual communication design, industrial design, interior design, etc.). The subject includes color, shape, texture; and still more, composition, structure and mechanism, illusional visual effects, methods of bringing up aesthetic sensation and creativity, etc. That is to say, basic art and design is Kohsei itself, which is being taught widely in my country and is my speciality. The characteristics of Kohsei are as follows: i) It is a genre worth studying as one of the important specialities in art and design just like painting, sculpture, craft, photography, graphic design, product design, etc. ii) It deals with the subjects about common, basic and important problems in art and design. iii) The primary field of Kohsei is useful in basic education in the professional school of art and design. iv) The aim of the basic field of Kohsei corresponds to the aim of raising the basic ability of art and design of the pupils. So, the principles of Kohsei are useful in primary education, too.
著者
李 銀璡
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.57-66, 2010
参考文献数
16

本研究は、ソウル市における屋外広告物のあり方の変化とそれに影響を与える要因を明らかにすることを目的とする。そのために、1995年地方自治制の実施以降、市民によって選ばれたソウル市長の景観施策に関連づけ、屋外広告物のあり方の変化を調査した。結果、1995年以来、4人の市長はそれぞれに屋外広告物のあり方に強く関心を示しており、関連施策は屋外広告物のあり方の変化に影響を与えていることが明らかになった。趙淳市政(1995-1998)では、大型広告物の安全・景観阻害問題に関する審議基準が定められ、高建(1999-2002)市政では、2002FIFAワールドカップなど国際行事の準備として積極的な屋外広告物整備事業が行われた。李明博(2003-2006)市政では、清渓川復元事業とともに大規模な屋外広告物モデル街路が形成され、呉世勳(2007-今日)市政では、'デザイン都市ソウル政策'の一環として、ソウル市屋外広告物ガイドラインが作成され、実行中である。とりわけ、李明博・呉世勳市政では都市景観管理を都市環境の質と価値を高めるための主要課題にしており、関連施策は屋外広告物のあり方の変化に現われている。
著者
崔 乗日 森田 昌嗣
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.55-64, 1999
参考文献数
6
被引用文献数
2

本研究では, 人々の屋外生活に最も身近な装置類の開発及び計画・設計方法を模索するために, 都市環境装置の一つであり, 街路に数多く設置され種類多様な車止めを研究の対象とする。車止めの製品の特徴と設置上の問題点から車止めのデザインにおいて考慮すべき課題を明らかにすることを目的としている。製品の特徴については, 市販されている車止めの製品調査から整理し, また都市内街路の車止めの実態調査から設置上の考慮すべき事項を整理した。その結果, 製品の特徴と設置上の考慮すべきデザイン課題には, 機能と製造上の解決すべき課題と景観及びメンテナンスにおいて対応すべき課題が関連していることが分かった。その課題解決のための車止めの製品化においては, "標準化"を前提とした"多様化"を踏まえることが, 人々の生活や都市環境との関係を考慮した車止めの製品化を進める一つの方向になり得ることが示唆できた。
著者
杉野 幹人
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.3_85-3_92, 2012

潜在機能とは、人工物を取り巻く場が変化することによって新たに発現する機能であるとされる。これまでに、潜在機能が豊かな人工物の研究などにおいて、発見される潜在機能の評価法の研究が進められてきた。しかし、潜在機能を発見する意義については、潜在機能を発見することが人工物の使用の継続、延いては廃棄抑制に繋がるということ以外は明らかではなかった。<br>本研究では、人工物の潜在機能を発見する意義の一つとして、人工物の潜在機能を発見してその人工物を転用することが、イノベーションの起点となり得ることを明らかにした。<br>潜在機能はこれまでにイノベーションの観点では注目されてこなかった。今後、ユーザーによる潜在機能に対する意図的な着眼や、デザイナーによる潜在機能の分析、そして、研究者による手法やツールの開発によってユーザーやデザイナーに対する支援が進むこと、そしてそれらにより、イノベーションの起点が増えることが期待される。
著者
侯 茉莉 小野 健太 渡邉 誠
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.11-16, 2010-11-30 (Released:2017-06-24)
参考文献数
9

近年、中国では大学数、大学の学生数、及び研究機構、研究者が急速に増加している。大学進学率は、1990年の3.4%から2007年の23%まで成長した。本論では、急成長する中国の大学におけるデザイン関連学科の教育について、主に、カリキュラムや教育内容について、デザイン系学科を有する主な10校に対し、工業デザイン関連学科の調査を行った。これらのデータより、各大学の特徴をグループとして把握した。その結果、グループは4つに分類でき、中央美術学院、同済大学及び江南大学は、主にプロダクトに対しての技術性の実習科目を学ぶ大学、広州美術学院、北京理工大学及び清華大学のように、基礎知識の養成が重視される大学、湖南大学や復旦大学のように商業ベースの授業の多い大学、浙江大学のように感性に関する課程が多い大学というグループが形成された。また、10校中7校で、クリエイティブデザインという科目が設置されているのが特徴的であった。
著者
松井 実 小野 健太 渡邉 誠
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.3_1-3_10, 2016

進化理論の適用範囲は生物にとどまらない.本稿は文化進化の議論を基盤に,設計の進化について論じる.設計は2つに大別される.一方は理念で,機能に関するアイディアや情報である.他方は設計理念に基づいて開発された製品などである.本稿は,前者の設計理念は進化するが,後者の人工物は進化の主体ではないことを示す.設計理念とその発露としての人工物の関係は,生物学における遺伝子型と表現型の関係に似ている.表現型とは,腕や目,行動などをさし,遺伝子型はその原因となる遺伝子の構成をさす.表現型は,生物の製作するものをさすことがある.たとえば鳥の巣やビーバーが製作するダムなどで,「延長された表現型」とよばれる.人工物は設計の表現型ではあるが,人間の延長された表現型ではない.人工物は文化的遺伝子の発露であって,人間の遺伝子の発露ではない.もしそうであれば,人工物の良し悪しによってその製作者の遺伝子が繁栄するか否かが影響されなければならないからだ.進化理論は,とらえがたい複雑な現象である設計を理解するには非常に有用である.