著者
吉川 政夫
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.215-220, 2013-11-01
参考文献数
17
被引用文献数
2

オノマトペとは擬音語・擬態語を意味するフランス語である.擬音語・擬態語は五感による感覚印象を言葉で表現する言語活動である.筆者らは運動・スポーツ領域で活用されている擬音語・擬態語をスポーツオノマトペと名付けた.運動・スポーツ領域でオノマトペが使用される場合,運動の「コツ」を表現する際の言葉として使用されることが多い.具体的には,動きのパワー,スピード,持続性,タイミング,リズムを表現する言葉として使われていることが筆者らの調査結果の分析から明らかになった.本稿では,アスリートを対象とした調査から得られた運動・スポーツ領域で使用されているスポーツオノマトペの特性,発声されたスポーツオノマトペの音響分析結果から得られた特性,アスリートと指導者に対する意識調査結果と実験結果に基づくスポーツオノマトペの導入効果,運動のコツを伝えるスポーツオノマトペの可能性について言及した.
著者
鈴木 博之
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.199-204, 2005-11-01
参考文献数
26
被引用文献数
2

夢が睡眠中のいつ起こっているかという疑問に対し,REM睡眠中に起こるという解答が既に得られていると一般的には考えられている.しかし,NREM睡眠時の夢の存在を主張する研究者も多く,夢発生のメカニズムに関しては未だ議論が続いている.従来の夢研究には,報告された夢が目覚める以前のいつ起こった体験か確認することが出来ないという方法論的問題点があった.そのため,夢とREM・NREM睡眠の明確な対応関係は検討されてこなかった.この問題点を解決するために,我々は20分間の睡眠区間を40分間の間隔をおいて78時間連続して繰り返し,各睡眠区間後に得られた夢と20分間の睡眠状態の関係を検討した.その結果得られたREM・NREM睡眠時それぞれの夢の特徴と,今回初めて明らかになった夢発生の概日変動について解説する.
著者
赤松 友成
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.134-137, 2007-08-01
参考文献数
12

イルカは哺乳類としての制約条件のもと,超音波の送受信で周辺を認知できるソナー能力を進化させてきた.イルカの有するソナーは高い空間分解能と高度な対象判別能力を持っている.これまでの魚群探知機がモノクロテレビであったとしたら,イルカ型ソナーはハイビジョンテレビと言えるだろう.イルカのような広帯域ソナーを漁業資源探査に応用すべく,私たちの研究チームではイルカソナーシミュレータを構築し,実証機開発に向けた準備が進んでいる.
著者
高井 智代
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.190-194, 2008-11-01
参考文献数
17

排泄時の立ち座り動作に苦痛を感じるリウマチ疾患女性を想定した女性用立位小便器を開発した.和風便器と洋風便器を比較すると,後者が圧倒的に楽であるものの,「立ったまま排泄できたら楽だと思う」人は多く,立位による排泄への潜在的なニーズは大きい.立位で排尿した際の尿落下点をふまえた試作便器を作製し,リウマチ女性を被験者とする使用感評価実験を実施した.被験者 13名のうち 1名に若干の尿の飛散があったが,これは使用時に身体が傾いた結果で,直立で排尿すれば尿の飛散の可能性は低い.女性用立位小便器は,従来の和風や洋風の便器に比べ,排尿時の負担を大幅に軽減できる.
著者
大西 明宏 江原 義弘
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.152-159, 2005-08-01
参考文献数
19
被引用文献数
6 2

3段の実験用階段を製作し,若年健常男女20名を対象として室内にて歩行計測をおこなった.モーションキャプチャ装置にて踵に貼付したマーカーの軌跡を計測した.その結果,踵軌跡は緩やかな曲線を描く場合と,直線を描く場合とがあり,後者の場合にはヒールクリアランスが短くなることがわかった.本研究ではその特徴をもとにして,安全及び危険な階段寸法を算出する数式モデルを開発した.本モデルでは適切なパラメータを与えることでヒールクリアランスとよく対応する値を計算により求めることができた.この値が負であれば危険,正であれば安全と判定することで安全な階段寸法を導き出した.長寿社会対応住宅設計指針に則った階段寸法は数式モデルにより算出された安全な階段寸法を満たしており,妥当であることが明らかとなった.
著者
山本 興太朗
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.237-244, 2011-11-01
参考文献数
34
被引用文献数
1

植物の地上部器官は光の方向に屈曲する屈光性を示す.屈光性の機構としては古くから青色光受容体と植物ホルモンであるオーキシンの重要性が指摘されてきたが,その具体的な分子機構は不明であった.最近,モデル植物シロイヌナズナを利用した分子遺伝学的研究によって,光受容体はフラビンモノヌクレオチドを発色団とするフォトトロピンで,オーキシン極性輸送に関わり深いキナーゼ活性を持っていることと,オーキシン作用にはオーキシン極性輸送を担う排出担体PIN タンパク質の細胞内局在調節が重要であることが明らかになり,フォトトロピンによるオーキシン極性輸送調節機構が明らかになりつつある.
著者
大渕 修一
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.2-5, 2003-02-01
参考文献数
23
被引用文献数
4 4

高齢者の転倒は, 寝たきりを引き起こす主要な原因の一つに上げられ, 要介護率の低下のため, その防止に期待が高まっている. ところが転倒は, 多くの因子が関わり合った現象であるために, そのメカニズムの解明と予防法の確立は困難な状況にある. こうした中で筆者は, 転倒の起因として最も多い, つまずき·すべりに注目し, これらをシミュレートする機器を開発し, つまずき·すべりに起因する転倒の予防法を検討している. また, 大まかに高齢者といっても地域在住高齢者と施設入居の高齢者では身体機能, 環境要因に大きな違いがあることが考えられ, より対象を明確にした特異的な転倒のメカニズムの解明と, 介入方法の開発の必要性を指摘した.
著者
新宮 尚人
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.9-14, 2011-02-01
参考文献数
18

うつ病の治療は,適切な薬物療法と十分な休息を取ることで枯渇したエネルギーを徐々に回復させることが中心となる.リハビリテーションは薬物療法と相補し,趣味や楽しみの回復,うつ病患者に特有の認知や感情的反応などの振り返りと修正,本人をとりまく環境の調整をしながら,もとの生活への復帰や新たな生活環境への適応を促し,再燃・再発を防ぐことを目指す.本稿では,リハビリテーション実践の際に共通理解とする国際生活機能分類(ICF) を踏まえて,作業療法,心理教育,認知行動療法などのリハビリテーションの特徴について述べる.後半では,産業メンタルヘルスにおけるリハビリテーション,近年,若年に多いといわれる新型うつ病にも触れる.
著者
鍛冶 美幸
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.66-70, 2006-05-01
参考文献数
17

宗教儀式や祭事における巫女の舞,集落での集団の踊りなど,"踊り"は古来より人々の生活のなかにあり,人々の心をつなげ,神と通じる重要な活動であった.近代に入り身体と精神を分析的に区別してとらえる視点が広く定着し,精神生活と"踊り"は徐々に切り離されていく傾向があったが,昨今あらためて身体と精神の不可分性を唱え両者の統合を重視する視点が注目されている.本稿で紹介するダンス/ムーブメント・セラピーは,ダンスや動作を用いて統合体としての心身の機能回復・向上を目指す心理療法である.身体活動を通じた直接的な自己表現や心理的体験,人とのふれあいによってぬくもりを体感する機会が乏しくなっている現代において,"踊り"によってもたらされる交流と,芸術的で象徴的な表現/体験の機会の獲得は再び重要な心理社会的役割を担う可能性をもつのであると考えられる.
著者
佐藤 由規 渡邉 高志 吉澤 誠 星宮 望
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.30-35, 2007-02-01
参考文献数
6
被引用文献数
2 1

本論文では,文字や図形のように直感的に理解できるようなパターンを皮膚電気刺激による移動感覚で提示して情報を伝達する方式の実現可能性について検討を行った.最初に,パターン提示用電極を実験的検討に基づいて製作し,次に,基本的な16種類の提示パターンの認識実験を健常被験者で実施した.この結果から,パターン認識における間違いの一因として電気刺激感覚の残存の影響に着目し,移動感覚提示における提示パターン間の時間間隔を,実験的検討を実施して修正した.そして,これらの結果を基に修正した14種類の提示パターンを用いて認識実験を行った結果,6人中4人の健常被験者で70.7~90%の認識率が得られ,4種類の提示パターンだけであった過去の研究結果に対し,より多い提示パターン数に対して同等以上の良い認識率が得られることを示した.また,過去の実験と同様に斜め方向の移動を含まなければ,平均で90%程度の高い認識精度を期待できることも示した.これらの結果から,移動感覚による複数のパターンの識別が十分可能になると期待され,それを用いた情報提示が実現可能であると考えられる.
著者
弓削 類 青景 遵之 中川 慧 波之平 晃一郎 田中 英一郎
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.36-40, 2010-02-01
参考文献数
10

モビルスーツ型自立歩行支援ロボットを使って,免荷時のロボット使用時の歩行と通常歩行の健常者における脳活動を比較し,脳機能の視点から月面歩行のシミュレーションとしての可能性を検討した.月面歩行のシミュレーションを歩行と捉えるか,ジャンプと捉えるかでシミュレーションの方法が変わってくるものと考えられる.月面歩行のシミュレーションの技術開発は,ニューロリハビリテーションやスポーツ医学等の隣接学術領域にも多くの知見を与えるものと思われる.
著者
佐久間 亨 阿江 通良
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.325-332, 2010-11-01
参考文献数
14
被引用文献数
1 9

本研究の目的は,体幹の傾斜が歩行動作に及ぼす影響をバイオメカニクス的に分析することである.健常成人に異なる体幹の傾斜(固有,体幹前傾10°,体幹後傾10°)で歩行させ,3 次元自動動作分析装置を用いて動作を計測するとともに,フォースプラットフォームを用いて地面反力を計測した.体幹前傾および後傾歩行では,姿勢変化による身体重心位置の変化に対応するための下肢の代償運動が見られた.また,固有歩行に比べると,体幹前傾歩行では立脚期前半で体幹の前傾姿勢を保持しながら支持脚を後方へスイングするため,股関節伸展トルクが大きく,体幹後傾歩行では立脚期後半で体幹の後傾姿勢を保持するため,股関節屈曲トルクが大きくなっていた.
著者
真田 樹義
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.98-106, 2011-05-01

一般に体組成の加齢変化としては,体脂肪の増加とともに全身筋量の低下が認められる.すなわち,高齢者は「肥満」と「やせ」の問題を同時に抱えていることになる.現在の生活習慣病対策では,国民の医療費適正化対策の一環として,メタボリックシンドロームの基準値に基づいた特定保健指導が義務付けられているが,介護予防の観点から考えると,加齢による筋量およびそれに伴う筋機能の低下,すなわちサルコペニア対策も重要であると考えられる.本稿では,サルコペニアおよびメタボリックシンドロームと運動・身体活動,体力,遺伝との関連について解説し,生活習慣病予防のためのテーラーメイド運動処方プログラムの可能性について言及する.
著者
森田 寿郎
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.200-204, 2006-11-01
参考文献数
11
被引用文献数
2 4

空間内で姿勢変化する多関節リンク機構について,関節の自重トルクを完全に補償する機構の設計原理および動作支援技術への応用方法を解説した.その要点は,平行リンクを用いた姿勢変化と自重トルクの非干渉化,ばねを用いた正確な自重補償トルクの発生,3軸が直交する関節モジュールの設計方法から成っている.機構の応用事例として,4自由度垂直多関節マニピュレータとトルク補償型肩装具の構成方法と評価結果を紹介した.自重補償を備えたマニピュレータが先端リンク姿勢に依存せずに正確な補償トルクを発生できること,従来型マニピュレータと比較して,可搬重量,最大速度,最大加速度の全てにおいて高い性能が得られることを示した.装具については,日常生活動作に必要な可動域を満たしていること,挙上動作時の三頭筋・僧帽筋の活動が有意に減少すること,肘の自由な運動を損なわずに食事動作を補助できることを示した.
著者
小林 俊恵 岡部 多加志
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.77-84, 2006-05-01
参考文献数
13

昨今,福祉や医療の現場に,治療あるいはリハビリテーションといった様々な目的で音楽療法が導入されている.それは音楽そのものの持つ特性が,人間を身体的・精神的・社会的に健康な方向へと導き整える働きを持っているからである.当院では進行性の神経難病であるパーキンソン患者に音楽療法を実施しその効果を科学的に証明する事ができたのでここに報告する.なお,このプロジェクトは患者の人的環境すべてがチームとなって生涯継続するものである.